1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 2 DECEMBER 2005


Ultima Onlineに限らずMMORPGでよく行われるイベントとして、現実世界の季節に即したものがある。Phantasy Star Onlineではハロウィンの時期に、ロビーに巨大なカボチャが出現した。その中に埋まって楽しんだのを思い出す。確か狩場にもハロウィンに関連したモンスターが出現していた筈だ。1年以上を過ごしたFinal Fantasy XIの世界でも多くの季節イベントがあった。正月、バレンタイン、お盆、ハロウィン、そしてクリスマス。後になるほど徐々に凝ったイベントになっていったのは、それだけ運営に余裕が出てきたということだろうか。イベントの発生頻度、そしてその内容の多様さは、そのゲームの成熟度を表していると考えることが出来るかも知れない。

UOでの季節に関連したイベントでも、風景の変化が主である。正月には「知の図書館」と呼ばれる施設「Lycaeum(ライキューム)」に、雪の様に白い神社が設置されていた。賽銭箱も用意され、プレイヤーキャラがお金やアイテムを投げ入れることが出来るようになっていた。クリスマスには例年サンタクロースらしき人物の家が建設されるようである。去年訪問したその家には件の人物こそいなかったものの、人が入れるほど大きな煙突や衣服を赤く染める染料、そして何より大きなツリーが置かれていた。いつものように設置されていたノートには、訪問者が自由に感想を書きこんでいた。

そんなゲームの中の季節に関連して、印象に残っている思い出が一つある。それは去年の、桜の花が咲くある春の日のことである。


UOを始めて1ヶ月余りが過ぎたその日、ラベンダリスは画面の下、南東方面に向かって歩いていた。特に目的地がある訳ではない。道に沿って、また時には道から逸れて森の中に入りながら、時折出くわすモンスターと戦いながら歩いていく。そんな生活がその頃の私の日課だったのだ。

やがて行く手の道の両脇には家が立ち並ぶようになってきた。その道を先に行くと山を渡り、そしてその先で、自分が「ガード圏内」に入ったことを示すシステムメッセージが表示された。それが示すのは、そこは何処かの町の領内であるということだ。ゲームのパッケージに付いてきた紙製の地図を見て、私は恐らくここが首都・ブリテインの領内だろうと考えた。

当時、現実世界で日本列島を桜前線が渡っていたが、それに合わせるようにブリタニアでも桜前線が北上していた。南の都市から桜の木が町の周辺に現れては花を咲かせ、その現象が日々、北の町へと進んでいっていたのだ。数日前にトリンシックを桃色に染めた桜前線は、この日その北にあるブリテインにも既に達していた。

ブリテインは広い。ガード圏内に入ってもまだ町は見えず、郊外の田園地帯が広がっている。町を目指して歩いていくと、徐々に桜の木が目に入って来た。桜の木の周りには、花見用に用意したのだろう敷物が幾つも設置されていた。物珍しげにそれらを眺めながら歩いていたラベンダリスだったが、やがてその目にとんでもなく巨大な桜の木が飛び込んできた。ユーの近辺で「Yew Tree」という巨大なイチイの大樹を見ることが出来るが、まさにそのサイズの、画面いっぱいを埋め尽くしそうな大きさの桜の木が生えていたのだ。

その大樹の傍に立って圧倒されていると、ラベンダリスに投げかけられた幾つもの声があった。

「こんばんはー」
*ヒック*
「こんばんはー」
*ヒック*
「こんばんはー」

しゃっくりと共にやってきたその挨拶群は、桜の大樹の傍らで花見をしていた4、5人の集団だった。用意された敷物の上にいっぱいの食べ物や飲み物を置いて、酔いどれになりながら歓談しているようだ。そちらに歩み寄りながら、こちらも挨拶を返した。

「こんばんはー」「立派な桜の木ですね」
「でかいですよねー」
「ですねー」
「上れる木もありますよ」「この下側に」
「ほほー!」
「イベント帰りですかー?」

その質問に正直に答える。

「いえ、当ても無く」「ユーから来ました」
「おお」
「おお」
「おぉー」
「おお」
「おぉ」

続けざまに返ってきた大きな反応に戸惑っていると、思いがけない言葉が戻ってきた。

「我々も」
「おれたちユー町内会ですよ!」
「私たちもユーからです」
「ユーの町内会です」
「うんうん」
「です」
「ほほー!」「そうだったのですか」
「うんうん」

やたらと返事が被るその一行。面白そうだと思い、そこに置かれていた椅子に座って花見の席に加わった。勧められたお酒を……キャラのイメージ的にいつもはアルコールを摂らないことにしているラベンダリスだが……この機会は有難く頂く。話が進むが、とにかく饒舌な方々だ。するうちお酒だけでなく、錬金術スキルで作られた毒ポーションまで飲み始めた。「キクー」「やっぱ毒に限るぜ」とかいいつつ、時にその効きの良さに死にそうになっていたりする。その様子を見て、またこちらが笑わされる。

「ラベンダリスさん」
「らべんんだりすさんは」
「どのあたりなんですかー」

相変わらず被っているが所在を聞かれて、まだ家を持っていないこと、そしてゲームを始めてまだ1ヶ月と少しであることを答えた。「まだ散歩が楽しい時期だー」と盛り上がる面々。私の様な初心者の体験談は、きっと彼らを楽しませられる筈である。そう考えて、ユーの修道院で爆死したことや、初めて「トレジャーハント」をやってみたこと、料理を始めていることなどを話してみた。その試みはうまく働いていたようだ。私が鞄から出した目玉焼きを元に醤油派ソース派で盛り上がったり、楽器を取り出した人達が合奏して聞かせてくれたりした。

楽しかったがその時、現実時間で2時が過ぎた。ユー町内会の面々に別れを告げることにする。最後にカボチャのパイをお渡しして、花見の席を立った。

「またねー」
「ユーにも」「遊びに来てくださいな」
「また〜」
「また会ったらよろしくねー」
「おやすみなさーい」
「おつかれさまですー」
「どうも有り難うございました」「楽しかったですー」

そう、本当に楽しい花見の夜だった。


この3月にヘイブンの宿屋前で、何度かそこでお会いしているドラゴンアーマーを着込んだ方に、あの前年の花見の一夜のことを話した。

「今年も会えたらいいなぁと」「思っております」
「あえるでしょう」「多分〜」
「そうだといいですなー」「ニヒヒ」

だが私の言葉と同様に、恐らく彼の言葉もそれを本当に信じていたものではないだろう。1年という時間は長い。現実の1年も長いが、ネット上の1年はそれ以上に長い。人が去り行き入れ替わるには、それは充分な時間である。

今年の桜は、徳之島・禅都の銀行とトリンシックの庭園にのみ現れるに留まり、去年のような広範囲に及ぶ開花は見られなかった。その頃あまりログインしなかった私は、禅都の桜を知り合いと一度見に行くだけで、桜と花見の様子をあまり見には行けなかった。そうして5月の連休を前にして、今年のブリタニアの桜はその花を散らしたのだった。

  • 初出 : 2005/05/16
  • 改定 : 2005/12/02

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