Last Modified : 1 NOVEMBER 2005
Ultima Onlineでは、人やモンスター、使えるアイテムにマウスポインタを重ねると、その名を表示することが出来る。それらの後ろにある背景に対しては、重ねた上でクリックすることで、同様にそこにある物の名前を表示することが出来る。背景とは、町にあるNPCの所持品である箱や机といった「使用出来ないアイテム」だったり、建物だったり、地面だったり海だったり山だったり木だったりする。
ある時試しにそれらの背景をクリックしてみると、思いの外細かく名前が付けられていることに気付いた。町から少し離れて、立っている木を次々とマウスポインタで触れてみる。「クルミの木」「オークの木」「ヤナギの木」……同じ木でも、少し形の異なる物をクリックしてみたらちゃんと名前が違うのだ。木の幹ではなく葉をクリックすると、「クルミの葉」「オークの葉」とちゃんとパーツで区別されている。そのまま歩きながら、道沿いに並んでいる家々の壁に触れてみる。「木の壁」「石の壁」「漆喰の壁」「砂岩の壁」……様々な見た目の家の壁は、やはりちゃんと素材毎に名が付いていた。
道端の小さな花にも名は付いている。「オーフラーの花」「ジキタリスの花」「キノコ」。全てが日本語にローカライズされている訳ではなく、よく英語のままの物も見かける。白く小さな、丸い可愛らしい花を見かけて、触れてみた。「snowdrops」という名に、なるほどと微笑んだ。
それらの様々な名前の木は、ただ立っているだけではない。木に斧を振るえば丸太が取れるし、ナイフや剣を使えばキャンプファイア用の薪が取れる。特別な木から、では無い。そこら中に立っているどの木からもだ。町外れの山肌につるはしやスコップを振るえば、そこから鉱石を得ることが出来る。何度か掘り返しているともうそこからは得られなくなるが、数歩分横に歩けばまた掘れる。首都・ブリテイン領内などにある畑からは麦や野菜が収穫出来るし、糸を紡ぐ材料になる綿花を採集出来る畑も別の場所にある。
ブリタニアには何百何千という木が生えているし、山脈が延々と続いている。Ultima Onlineにおいてそれらの「背景」は、必ずしもそこにただ描かれただけの物ではない。それ等はブリタニアという世界を構成する「要素」であり、そしてそこに住む住人にとって確かにそこにある自然の恵みである。
Final Fantasy XIをプレイしている時、その世界「ヴァナ・ディール」に過ごす中で違和感を覚えたことが幾度かある。ウィンダスやバストゥーク、サンドリアといった町の中を歩いていてふと思ったのだ。何故、何処にも「畑がない」のだろうと。
ウィンダスに隣接するサバンナ地帯「サルタバルタ」。その地方の特産品に「サルタオレンジ」がある。ジュースやお菓子の材料となる果物だが、それらが栽培されている場所を私は見たことが無い。ウィンダス国内にも、モンスターがうろつくサルタバルタのエリア内にも、オレンジがなる木を見たことがなかった。「タルタルライス」という穀物は調理ギルドで売られているが、それを栽培している田んぼもウィンダスの何処にも無かった。
一方で、町の外では幾らか自然の恵みを得ることが出来た。「ブブリムグレープ」という葡萄の実はブブリム半島に存在する伐採ポイントで得ることが出来るし、毒消しの材料となる花「ヘンルーダ」はサルタバルタや獣人・ヤグードの居住地であるギデアスで採集することが可能だ。但しそれらは、決まったエリア内に数箇所出現するポイントからしか採集できない。転々と移っていくそのポイントを求めて、あちこちの林や草むらを巡らなければならなかった。エリア内に「目に見える形で」生えている木や草の数に比べて、実際に伐採できるポイントはとても少なく、貴重な鉱石などが採掘出来る洞窟ではしばしば取り合いが行われていた。
それらの収集作業は楽しかったが、しかし時に私は首を捻った。何故モンスターのいる危険な場所でしか手に入れられないのかと。大都市・ジュノに隣接するエリアに「ロランベリー耕地」という耕作地帯が存在するが、そこは非常に強力なモンスターが我が物顔で徘徊する場所だ。何故そんな場所に畑を作るのか。普通に考えて町の中とか治安の行き届いた、安全な場所に作るのが現実的だろう。これは有り得ない世界であると、私は納得出来なかった。
要するに、「ゲーム」であるのかと私は思った。アイテムを得るには、敵に襲われるリスクが必要なのだということ。安全な町の中で容易く資源を得るのは、ゲーム性が無いから認めないということ。そもそもロランベリーの畑には収集ポイントが存在しなかった。「耕地」といっても実際は何も刈り取れない、敵のうろつく冒険の場であるということ。その背景は世界をそれっぽく見せる為の「絵」でしかないのだということ。
ここは……ヴァナ・ディールは、あくまで「冒険ゲームの為の舞台」なのだなと、私は思った。
最近、「mabinogi(マビノギ)」というMMORPGをプレイしている。NPCにバイトとして雇ってもらい、配達や伐採等でお金や経験値を稼ぐことの出来るゲームだ。このゲームを始めてすぐのプレイヤーは、町の中で大抵驚くことになる。多くのキャラクターがそこかしこで木を殴っているからだ。
木を殴ると枝や木の実が落ちてくる。枝はある程度集めると、ある場所でお金や経験値に換えることが出来る。木の実も同様に使えるが、むしろ食事に使うことが多いかもしれない。木の実はダイエットに効果的なのだ。斧を持てば、木から薪を採集出来る。薪を燃やして行うキャンプファイアは、体力回復以外にも様々な使い道が存在するのだ。
自キャラ・Nunih(ヌナイ)で「ティルコネイル」の町の中を歩いていて、薪を切らしていることに気が付いた。歩調はそのままに視線を左右に飛ばし、少し先の穀倉地の傍に立つ1本の木を見つけた。常用している斧を鞄から取り出しながらその木に近づき、横で構えて斧を振るった。
コンッと音を立てて揺れる木の幹を見てふとそのとき、「ああ、これらの木はここにちゃんとあるんだ」と思い……傍の畑で誰かが麦を刈る音を聞きながら、何だか居心地の良さを覚えた私である。