1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 31 OCTOBER 2005


ヘイブンでスタートし、町とその周辺での活動にすっかり慣れた頃、遂に私は行動範囲を広げる決心をした。楽しみは後に取っておくタイプの私だ。この種の決心に至るまでの勿体付けは相当なものである。

ヘイブンは海に囲まれた、割と大き目の島の中にある。そこから外界に出るには幾つかの手段があるが、私はヘイブン郊外にある光の扉「ムーンゲート」を通って、別の場所にあるムーンゲートに移動する方法を選んだ。ムーンゲートは世界の主要都市近郊に用意されている。そして熟考の末に私が進んだ行き先は、ブリタニア北部にある鉱山の町・ミノックの近くにあるゲートであった。

ゲートをくぐり森を抜け、その町・ミノックに行ってみると、そこには魔法関連の施設が全く無かった。鉱山に隣接したそこはやはり鍛冶の盛んな、言うなれば体育会系の町だったのだ。当時魔法を少しずつ覚えていた私にとって、これはとても厳しかった。そこで私は魔法屋などの施設を求め、ミノックから南東の方角にある別の町・ベスパーにも足を運ぶようになった。

広いブリタニアには珍しく、ミノックとベスパーはさほど離れていない。またその間に広がる森や2つの町を繋ぐ街道には、強力なモンスターも出現しない。まだまだ成長段階にあるラベンダリスにとって、ミノックとベスパー間の徒歩の移動はトレーニングを兼ねた格好の散歩コースとなったのだった。


その日も森の中を歩いていた。夜となり周りが暗くなったので、ランタンを手に持って灯りを点した。火の点く「ぼっ」という音が心地良い。暗い森の中、ラベンダリスの周りだけが明るく浮かび上がった。

暗闇でも昼間のような明るい視界にする、「Night Sight」の効果を持った薬やアイテムはあるけれど、それを使ってしまうと「暗闇の中の光」を楽しむことが出来なくなる。上空から下を見下ろす視点のUltima Onlineでは、空を見上げることが出来ない。この夜の暗さは、風景から昼と夜の時間の流れを感じることの出来る唯一の機会だ。それを捨ててしまうのは惜しい。だから基本的にNight Sightは使わない。

時折鳥の声や熊の唸り声が聞こえてくるだけの静かな夜の森の中を歩いていると、画面左下に天候変化のメッセージが表示されると同時に、画面右上から左下に向けて青い粒状のものが幾つも流れ始めた。

(あ、雨だ)

温暖なヘイブンでは見られない天候の変化。眺めているとそれはやがて白い粒へと変化して、見る見るうちにその数を増やしていった。その白い物……「雪」はラベンダリスの視界全体を覆うように、幾つも幾つも流れていく。闇深い森の中にぽっかりと浮かぶラベンダリスと、降りしきる白い雪。その美しい景色に幻惑されて、私は立ち止まったまま動くことが出来なかった。

美しい……とはいえUOは、1997年にサービスが始まった古いゲームだ。ましてや私は、古いプラットフォームである2D版のUOでプレイしている。最近の美麗な3Dで描画された「Final Fantasy XI」のような他のゲームに比べたら、その絵は相当に貧相なものだ。

だがこの時、私は雪景色に圧倒されながら……その貧相な絵だからこそかも知れないが……その絵の中で流れていた時間を思った。この同じ場所でこの雪景色を、昨日見た人がいるかも知れない。1ヶ月前見た人がいるかも知れない。……何年も前に、見た人がいるかも知れない。

私は今、その人たちが見た景色を受け継いでいる……そう思った。


UOはその長い歴史の中で、様々な変化を遂げている。非常に大きな変化の為に、UOを止めていった人も多くいるようだ。そういった変化の末、「UOは死んだ」「終わった」と表する人も、ネット上ではたまに見かける。

だが私はその「終わった」世界に降り立って、知り合いを作って生活し、そしてこの今も降り続く「夜の雪」を見た。終わったというこの世界は、しかし私にとっては確かにまだここにある。恐らくそう語る人たちはもうこの世界にはいないだろう。だがこの世界は……その人たちの望まない形ではあろうが、今も存在するのだ。

それとは逆に、私の方がいなくなった世界もある。「Phantasy Star Online」のラグオル、そしてFFXIのヴァナ・ディール。それらの世界を私は後にして来た。知り合いと別れ、キャラクターとも別れて去ってきたその世界は、やはりその後も存在していた筈だ。去っていった者たちのいない世界が、いかなる形であれ、そこでは続いていくのだ。

私のパートナーであったそのキャラの姿は、そして彼らが持っていた物は、その世界では消えてしまっただろう。私からもその世界を見ることはもう出来ない。だが、あの馴染み深い世界は続いていて、あの景色の中に親しかった友人がいるに違いないのだ。いや、もしかするとその友人も私と同じように「終わり」を刻んで、あの世界を去って行ったかも知れない。……それでもきっと。


Windows版PSOで最初に出来た友人のハニュエール。彼女にゲームの中で抱きしめられた時は本当に恥ずかしかった……けれど嬉しかった。ゲームキューブ版PSOでも、毎日の様に声を掛けてくれた人がいた。ロビーで椅子に腰掛けて、語り合った人もいた。一度しか出会わなかったが、「貴方を信用して」とその人に貰った未完成の鎧は、私の誇りの宝物だ。

その後に渡り、多くの人と出会って別れたヴァナ・ディール。釣り師の友人との別れを思い出すと、未だに私の目は潤む。その時の情景はもう確かには思い浮かばないのだけれど、多分あの時の感情が蘇るのだろう。去った後に受け取った知り合い数人からのメッセージは、今も大切に保管してある。

ゲームの中で実際に会った人たちだけじゃあない。私のサイトで掲載したプレイ日記を読んで、感想を送ってくれた人もいる。自分のサイトで紹介してくれたり、私のプレイ日記をリンクしてくれた人もいる。彼等の言葉は私に大きな力をくれた。

今、彼等に伝えたいと思う。終わりを刻んで去った私は、居なくなってしまった訳じゃない。私はここに居る。この伝統ある世界で日常を営みながら、そこそこ楽しく暮らしている。そしてヘイブンの宿屋の前で、または現実世界の散歩道で、時折皆のことを思い出しては、皆が楽しく過ごしていることを祈っている。何故なら私がここにいるように、皆も今きっと何処かに居るに違いないのだから。

キャラクターの姿は消えても、データは消えても。私の元には記憶が残っていて、それに対する思いもまた消え去りはしない。

終わっても、続くものがある。この世界で、私はそれを感じている。


1年経った今も、ミノック近辺の森で待っていると「夜の雪」を見ることが出来る。また1年後ここに来て、この雪を見ることが出来るだろうか。

もし見ることが叶わなくても、必要以上に嘆くことはない。私がこの世界にいなくても、この世界さえあれば雪はきっと降り続いているだろうし、私がこの世界にいなくても、私自身は別の何処かできっと生き続けているのだろうから。

  • 初出 : 2005/03/15
  • 改定 : 2005/03/21

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