1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 12 MARCH 2005


自宅にADSLを導入し、定額でネットに繋ぎ放題となった私は、その環境を活かす使い方としてネットゲームに興味を持った。そして最初にプレイしたのが、MMOではなくMORPGである「Phantasy Star Online」(PC版)だった。画面に表示されるロビーという空間に現れるプレイヤーの数は、MMOとは違いそれ程多くない。だが、初めて「他人と同じ空間に立った」時のあの高揚感は、今でも微かに覚えている。

その後、オンラインの雰囲気にも慣れて来たところで、私は「個性」を持つことを欲した。折角出会うのだ、相手に覚えてもらいたい。そしてそれは、やはり「いい印象」でもって覚えてもらいたい。言葉遣いが丁寧だとか、話が面白いだとか、一緒にプレイしているとうまくハマってゲームが楽しくなるだとか……いい印象の土台にはそういった「雰囲気的なもの」があると思うが、まぁ、それは基本として。それだけなら、他にも同様にそのハードルをクリアする人はいるだろう。それでは「いい人」「面白い人」の中の1人、そこ止まりになってしまう、そう考えた。それにプラスアルファを加えると、きっと私個人を覚えてもらえる。それこそが個性。

考えた末に私が取り入れたのは、「ニヒヒ」と笑う、ということだった。

以前書いた小説の中で、キャラクターに個性を与える為に「ニッヒッヒ」と笑わせた。その工夫をオンライン上でも使ったのだ。女性のキャラクターを使っていて、「ウフフ」と笑うのも何だかむず痒い。いわゆるネカマっぽい。しかし「アハハ」ではなんだか大きく笑い過ぎ。そんな印象も、「ニヒヒ」なら回避することが出来た。特徴的で、使いやすいこの笑い方は一石二鳥だった。

プレイするネットゲームをFFXIに移した後でも、この「ニヒヒ」を使い続けた。パーティで狩りをしている最中に、その日出会ったばかりの人が「いひひ」などと私の口調を真似て笑ってくれたりすると、うまく個性を伝えられたかなと満足を感じることが出来たものだ。


以前にも記した、Ultima Onlineを始めて間もない時の話だ。最初に与えられるクエストを進める為、私は何度もNPC・ウゼラーンの住む館を出入りしていた。ウゼラーンの館は、ヘイブンというブリタニアでも特に人の多い町の中心部にある。初心者を示す「Young」の表示を名前につけた私……ラベンダリスは、その雑踏の中をおっかなびっくりしつつ歩いて渡っていた。

移動しながら銀行前の人たちの会話に耳を傾けていると、そこから「おながいします」という言葉が耳に入ってきた。お「な」がいします……ネットに広まってしまった気持ちの悪い言い回しを、やはりここ、ブリタニアでも耳にしなければならないか。そう思い、少しうんざりした。


ヴァナ・ディール……FFXIの世界でも独特の言い回しは良く見かけた。そこは実に様々な言葉やアスキーアートに溢れていた。それらの言葉の中には少し乱暴な印象を受けるものがあって、それが私の癇に障っていた。そして時が経つにつれて、それへの嫌悪感はどんどん強くなっていった。恐らく私は言葉に対して、少々潔癖気味なのだろう。そういった言い回しを遂には知り合いが使い始めた。それが徐々に頻繁になっていくと、それらの言葉を聞かなくて済むように、私はソロで行動することが増えていった。

私が特に気分を悪くしたのは、「(笑)」を表す「w」の氾濫だった。それを使う者は入力の容易さから頻繁に用いるようになり、やがて無意識に使うようになるようだ。窮地を救ってもらった人に対して「ありがとうw」と言ったり、自分の冒したミスに対して「すみませんw」と笑っているのをみて……そしてそれが親しい知り合いで、注意してもあまり自覚していないようなのを見て、私はその人に対する親しみの感情が薄らいでいくのを感じていた。

「w」や「おながいします」、そして良く使われる顔文字など、広まった言葉やアスキーアートを、多くの人が同じように使っている。それらの不快で画一的な表現の言葉に、時に私は目を覆う。個性の無い、奇怪な流行り言葉たちから逃げるように、私はその場を後にするのだ。


舞台はブリタニアに移る。

ある時私は、3人目のキャラクター「メナンドリア(Menandoria)」を作成した。黒い装束に身を包んだ彼女は、「放浪」を目的に誕生した。それ故ラベンダリス達が住む、私自身が所有する自宅には滅多に戻ることは無い。町の宿屋に泊まることも無い。キャンピング(野営)スキルを使って薪に火を付け、ベッドロールに寝ることで野山の中でログアウトしている。時折起きると隣にモンスターがいて、慌てて逃げ出す羽目になるのだが、それはそれでとても楽しいエピソードになる。

キャラクター誕生後のクエストを終え、メナンドリアで最初に目指したのはとある知り合いの家だった。大体の位置しか聞いていなかったその場所を求めて、徒歩で密林の中を移動する。その周辺はラベンダリスで探索済みであったので、程なくその知り合いの家を見つけ出すことが出来た。しかもその時運良くその友人が在宅中であった。だがその家は、他人が入れない設定になっている。家の外から友人の名を呼んで、自分の存在をアピールする。

「こんにちは〜」「ラベンダリスです〜」

友人が家の扉を開けてくれた。

「さんぽですかー」
「さっき作ったばかりのキャラなんですよ」
「あら」「そうなんですかー」

だが、話を進めていくとどうもおかしい。その友人に関する話題を出すと、「何故それを知ってるの?」という反応が返ってきた。……実は最初の、私の名乗りが相手の耳には届いてなかったのだ。だから彼女にはこの時の私=メナンドリアは彼女の知り合いの「ラベンダリス」の別キャラではなく、正体不明・謎の通りすがりだったのだ。道理でなかなか家に入れてもらえなかった訳だ。

私の正体が判明すると、ことの成り行きを笑い合いながら、改めて家に入れてもらった。

「ずーっと家の前に立ってる人がいるなーって思って……」
「アハハ」
「何か困ってるのかと思っちゃいました」
「不審人物だったのね」
「うんうん」「怪しい人でしたよ」
「ニヒヒ」
「でもその笑い!」「ラベンさんしかいないー」
「でしょう?」
「うんっ」

伝えなければ伝わらない。だがその言葉は、相手に伝える為のものなのか、自分が使いたいだけのものなのか。

今でもヴァナ・ディールで交わした言葉のことを、顧みることが良くある。

  • 初出 : 2005/02/01
  • 改訂 : 2005/03/12

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