Last Modified : 11 MARCH 2005
ブリタニアの首都・ブリテイン。その西の郊外には、一つの慰霊碑が設けられている。鎮魂の炎が絶えず揺らめくその祭壇には1冊のノートが置かれていて、愛したパートナーへ送る言葉が幾つもそこに書き連ねられている。
それを記した本人すら、この世界にはもういないかも知れない。ここにあるのは、何年も前からの、この世界の「記憶」……。この世界では、記憶をも形として残しておくことが出来るのだ。
UltimaOnlineでは「ペット」を持つことが出来る。NPCから馬やラマを飼うことが出来るし、フィールドにいる動物達を調教スキルで飼い馴らすことも出来る。彼らは騎乗して高速な移動を可能とする足にもなったり、強力な攻撃力を振るって共にモンスターと戦う仲間となったりする。
自分のペットとなってすぐの内は、主人たるプレイヤーと彼らの結び付きは薄い。騎乗せずに「リコール」などの瞬間移動を使うと、主人だけ飛んで彼らはその場に取り残されてしまう。更にもしモンスターに殺されてしまうと、幽霊化する主人と違って彼らはそのまま失われ、二度と生き返ることは無い。
だがある程度の期間を経ると彼らは「親愛化」し、主人との関係がかなり強いものとなる。瞬間移動に付いてくるようになり、死んでも「幽霊化」するようになる。ペットの幽霊は、優れた獣医学スキルを持った者が蘇生することが出来るので、親愛化さえすればそうそうペットを失うことは無くなるのだ。
それでも彼らを失うことはある。そばに居ず長く放置した場合は野生化するし、主人がログアウトしていた場合は消滅すらする。主人もろ共死んでしまった時などに、ペットの幽霊が主人の幽霊に付いて来ないことが稀にある。その場合、主人が別の場所で生き返った後でそこまで救出に戻らないと、主人を見失ったペットの幽霊は1時間ほどで消滅するのだ。そこが危険なダンジョンの奥深くだったりした場合、やむなく、もしくはあっさりと、主人はペットを諦めたりする。
ペットの名前は任意に変更することが出来る。思い入れのある名前、受け狙いの名前、デフォルトのままの「a horse」……そんな名前のような様々な関係が、この世界のペットと主人の間に存在するのだ。
以前のPublish(ゲームプログラムの更新。いわゆるバージョンアップ)以降、それまでには見られなかった現象がブリタニア全土で次々と発生した。ペットの幽霊が、消えないのである。主人を見失った灰色の彼らが、フィールド上に、町中に、そしてダンジョンの中に、何匹も何匹も佇むようになったのだ。
最初こそ物珍しさがあったものの、次第に増えていくその数と、主人を求める彼らの鳴き声は、やはり鬱陶しく思えてきた。巨大な竜の幽霊は視界を妨げて町の景観をも乱すし、よく通る馬のいななきは繰り返されると耳障りだ。自宅の前に「Windy」という名の馬の幽霊が住み着いている友人は、「この幽霊、わざと作れば嫌がらせに使えるな」と笑っていた。
暫く続いたこの霊現象も、近々リリースされる新たなPublishにより解消されるということだ。「終わりのない終わり」に繋がれていた彼らも、ようやくあるべき「終わり」に旅立つことが出来るようだ。そう思うと、鬱陶しいと言っていた癖になんだか寂しく思えてきてしまうのは、ちょいと勝手な話だろうか。
今度久し振りに、慰霊碑に足を運んでみようか。そしてニンジンでも供えてから、今はもう居ない私の最初のパートナー「オムライザー」のことを、少し思い出してみることにしようか。彼は居なくなってしまったけれど、私の中にその記憶は確かに残っているのだから。