1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 11 MARCH 2005


私はMMORPGにおいて、強さをそれ程求めない。お金や希少なアイテムを手に入れることも、あまり求めない。私はMMORPGのプレイを通して、「攻略する」ことを楽しもうとはあまり思っていない。私が求めるのは、その世界における生活の形をとること。その世界での日常を作り出すことだ。そしてその日常とは、英雄の冒険譚や成功者のきらびやかなものではなくて、大して刺激的ではない一般人のそれである。


Ultima Onlineを始めるにあたりマイキャラクターであるラベンダリスを作った私は、まずはNPCの「ウゼラーン」が与えるクエストを何とかこなした。高位の魔法使いである彼は初心者プレイヤーに幾つかの依頼をし、ゲームのプレイにおける当座の目標を与える役目を持ったキャラクターだ。そしてその依頼の遂行は、UOの基本的な操作方法を学ぶ機会となるのだ。

もっとも私は、そのクエストで使う為に与えられたアイテムを使う前に紛失してしまったり、使わずに自力で済ませてしまったりして、実に初心者らしい「想定した通りに動かないヤツ」っぷりを発揮した。モンスターが蠢く真っ暗闇の洞窟を、灯りを点すこと無しに手探りで彷徨ったのは、あれが最初で最後である。出口すら見えなかったというのに……やれやれ、よく生還出来たものだ。

かくしてそれらのクエストを終わらせたラベンダリスは、初めて何も目的が無い状態でウゼラーンの館を後にした。自由な世界、ブリタニアに、本格的に足を踏み出したのだった。


その町・ヘイブンは、各種の施設が狭い範囲に建てられた使い勝手のいい町である。それでも始めたばかりのプレイヤーがその位置関係を把握するのには、ある程度の時間は必要だ。のんびりと一人歩き回りながら、町に自分を馴染ませて廻る。銀行、魔法使いの店、鍛冶屋、宿屋、酒場……それらが在る町の中心部を離れていくと、やがて左手に興味を惹かれる建物が現れた。それは1軒のパン屋だった。

パン屋に入り、NPCの売り物を見てみると、そこにはパンやピザの食材や出来合いの食物、そしてこね棒やフライパンなどの調理の道具が売られていた。それらはUOにおいて初めて見る物であるのだが……しかし私は懐かしさをもって見た。

(FFXIでも色々作ったよな……)

Final Fantasy XIでもUOでも、生産には様々なジャンルがある。武器や鎧を作る鍛冶、服を作る裁縫、木材を素材とした木工などなど。そんな中で、FFXIにおいて私が選んだ生産活動は「調理」だった。現実において、食事をしない人間はいない。数ある生産の中で、調理が最も日常を感じさせると思ったのだ。私は調理をすることを、ゲーム世界の中で平凡な日常を過ごしているという「象徴」としたのだ。

とはいえ、FFXIと同じ事をやるのも進歩がないようで少し気が引ける。また私のFFXIの思い出には、苦々しい一面がある。作った料理を送っても、拒絶されるようになったりもした。調理はそれを否応なしに、私の記憶から掘り起こすだろう。

すっきりとしない思いの中、それでも取りあえずの行動として、私はそこでパンを作り始めた。こね棒を使い小麦粉をこねてパン生地を作ると、それをパン屋に設置されているオーブンで焼く。調理のボタンを押して成功さえすれば、ほんの1秒でそれらは出来た。随分と早い。調理をしていても何らかの音や動作は生じない。ラベンダリスは直立不動である。あまり「作っている」という感じはないかなぁ……。上がっていく調理スキルと鞄の中に収まっていくパンを見ながら、調理の感触を確かめていた。

「こんにちは」

その時後ろから、ローブ姿の男に声を掛けられた。生まれて間もない「Young」表示のあるキャラクターが、ぽつんとパン屋に立っているのが気になったのだろうか。実際には調理をしているのだが、本人以外にはそれが分からない。途方に暮れているように見えたのかも知れない。「何をされているんですか?」そう聞いてきた。

私は答えた。「ああ、ちょいとパンを焼いていて……」

かくして調理は、この世界における初めての、私の料理を食べてくれる友人をもたらした。

  • 初出 : 2005/01/07
  • 改訂 : 2005/03/11

Navigation