1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 28 SEPTEMBER 2006


MMORPGをプレイする上で、「方法」が必要だと思っている。「その世界にいる」ということを表現する為の方法が。Final Fantasy XIの中では「毒消し屋」と名乗ることがその方法の一つだったが、Ultima Onlineではまた別の方法を用いている。


UOのメインキャラクター「Lavendalis(ラベンダリス)」でログインすると、そこはまず間違いなく私の自宅の2階である。そこで目に入るのはベッドと洋服ダンス、そして炎が揺らめく暖炉。あとは幾つかの観葉植物と壁に掛けた時計くらいで、本当に質素な部屋である。そもそも小さな家である為、それほど物を置くことは出来ない。まぁ元々、ごちゃごちゃした空間は好きではない。このくらいあっさりしている方が、私の好みである。

さて、そこで目を覚ましたラベンダリスはまず最初に、ベッドの枕元に置いてあるノートを開く。そこには自分で記した過去の出来事が書かれてあるが、時折私のいない間に訪問した知り合いが、何かメッセージを書き込んでくれている。それを確認したあとで、家の軒先に座っている娘・Dorothea(ドロシー)にアクセス。彼女は私が雇ったベンダー(NPCの売り子)である。彼女の扱う商品の在庫をチェックし、必要があれば補充する。それが終わると、いよいよ外へ出掛けることになる。

家を出て、近所を少しパトロール。魔法を使う少し強いモンスターがこの周辺には湧くからだ。通りかかった誰かが被害に遭うのは少し悔しい。よって始末しておく。1分にも満たないパトロールを終えると、瞬間移動魔法で町へとジャンプする。

魔法屋などにいる書記や魔法使いのNPCから、白紙の巻物とそれに魔法を書き込む為の秘薬を買い込んだ後で、ヘイブンという町に移動する。そこはUOを始める初心者がほぼ間違いなく最初に足を踏み入れる町で、その後も居着くのか、初心者以外のキャラクターも多くいる。きっとヘイブンという町の利便性の高さにも要因はあるのだろう。そして人がいるところには、人が集まる。そういうことなのだろうと思う。

そんなざわつきを横目に見ながら、町の東の一角にある宿屋へと足を向ける。そして宿屋の前に転がっている一本の倒木に腰を下ろす。そこでペンを取り、書写のスキルによって魔法を巻物に書き込むのが、私の日課だ。いつもその場所で、書写をするのだ。この世界における私の日常生活である。

最初に何気なく座ったその場所が、「宿屋の前」というのは正解だった。宿屋はプレイヤーのログイン、ログアウトに使われる場所。多くの人が出てきては町の中へ、もしくは外へと走っていく。町の外、もしくは中から走ってきた人が、宿屋へと入り消えていく。そんな人の行き来を見ているだけでも、結構楽しめる。

色んな人の名前、様々な服装、時折聞こえてくる彼等の会話。それらは私の生活を彩る。その様な日常を過ごしている時、私は「その世界にいる」ことが出来ている、と感じているのだ。


ある日私がいつもの場所へ向かって、ヘイブンの道をてくてくと歩いていると、一人のキャラがラベンダリスの横を駆け抜けていった。そしてラベンダリスの先を行き、宿屋前のあの倒木にどっかりと座り込んでしまった。

足を止め、これは困ったどうしようと考え始めたとき、唐突にその人は言った。

「ニヤリ」「さあどうする」

その時現実の方で少々疲れていた私は、見知らぬその人の突然の行動に、あいにく良い切り返しを出来なかった。率直にそれを詫びると、その方はこのようなことを語った。『以前から貴方をここに見掛けていて、それに対して「何かやってみたかった」のだ』

その方と二人笑い合い、そして二、三の言葉を交わした後で、その方は去っていった。

空いた倒木に改めて座ると、いつものように書写をしながら、私は一人ほくそ笑んだ。どうやら私の「方法」は、うまく機能したようだ、と。

  • 初出 : 2005/01/02
  • 改訂 : 2005/03/09

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