1. 番長方面
  2. Dulcet Wind
  3. ドルシネア・ダイアリィ 第四部・目次

Last Modified : 4 AUGUST 2004


おまけの一日

最後のログアウトの後、除夜の鐘を聞きながら外を散歩するなどして、私は気持ちの整理をした。そしてその後、この日記の更新作業をしながら撮り貯めた画面写真を眺め、懐かしく過去を振り返ったりした。そうして夜もだいぶ遅くなった後に布団に潜り込んだ。

だが、どうしても寝付けなかった。FFXIにおける二つの後悔が、それを許さなかったからだ。一つは釣り師の友人・Ccさんへ満足のいく贈り物が残せなかったこと。そしてもう一つ、ドルシネアとの別れを惜しむ時間を取れなかったこと。気持ちを落ち着かせ、まとめようとすればするほど、その二つに対するやり切れなさが強くなっていった。

……そっと目を開けると、そこは見慣れた草原だった。すぐそばにあの大樹が立っていて、その向こう側には川が流れているのが見えた。そよぐ風が草木の匂いを運ぶのを感じる。それらが何故だかもう懐かしくすら思える。

ここは母なる地、サルタバルタ。そして自分はミスラのシーフ、ドルシネア。2004年1月1日、7時前。数時間前に去った筈のこの場所に、私はドルシネアと共に戻って来ていた。

画像・戻って来たサルタバルタ。
今再び、ドルシネアとヴァナ・ディールに立つ。

一年以上の時を過ごし、私の中に様々な思い出を残すFFXI。その最後に心残りを抱きたくはない。既にPlayOnlineを退会し、ログインすら出来なくなっていたが仕方がない。新たに一ヶ月分の契約を済ませ、私は今度こそ最後となるログインを果たしたのだった。


残すべき物

カメラをグルグルと回し、思い出の木の元に立つドルシネアの顔をじっくりと確かめる。もう二度と会えない気でいたが、こうしてまた会えた。長い付き合いだ。とても愛おしく感じる。今度は後悔を生まないように、彼女を心にしっかりと刻み込んでから別れなければならない、そう思う。

ドルシネアの横を見ても、勿論そこには誰もいない。最後を見届けてくれた友人のタルタルの姿はそこには無い。それが何故だか不自然に感じる。どうやら私の時間は、あの瞬間に止まったままであるようだ。その時を再び進めるかのように、夜の草原を走ってウィンダスへ向かう。終わらせた筈の場所にいるのが気まずい。特にNmさんに対しての後ろめたさがある。申し訳ない、騙した訳じゃあないのだ。あと少しだけ、どうか許して欲しい。

ウィンダスに入り、競売所とチョコボ厩舎で食材を購入する。Ccさんへ贈る料理の材料だ。森の区中央の池を横切ると、その向こうに「B商会」を名乗るタルタルが、いつものようにNPCのミスラをつけて歩いているのを見た。

画像・モグハウスの門松。
正月イベントの一環らしい門松が、モグハウス前に飾られていた。

もう帰ることはないと思っていたモグハウス。中ではいつものように、お付きのモーグリがドルシネアを待っていた。料理のレシピを睨んで、Ccさんには「フカヒレスープ」と「シーフードシチュー」を作って贈ることに決めた。二つ選んだのは、どちらか作るのに失敗してもいいようにという保険を兼ねている。調理素材を求めて金庫を開くと、そこには食材と装備が一杯残っていた。その品揃えにドルシネアの生き方を見て、何とも表現出来ない感情が胸に沸き上がる。ダンディヒュームのMmさんに貰ったゼラチン、レンブロワ食料品店で買い貯めておいたメイプルシュガーを取り出した。

FFXIを「引退」する際に、自分の所持品を売り払ってお金に換えて、知り合いに分配するという話をよく聞く。お金に換えないまでも、高価な所持品を知り合いに託す者もいるという。だが私はそれをしなかった。まぁ、レベル30にも満たないドル猫の持ち物など、それよりレベルの高い友人の誰の役に立たないというのもあるのだが。だが最も大きな理由は、それらはこれからも必要であると考えるからだ。それは他の誰でもない、現在の所有者であるドルシネア自身が、今後も使い続けるからだ。

以前にも記したことがあるが……私は自分とドルシネアの魂が、別々にあるとイメージしている。私が自分自身でヴァナ・ディールに降り立てないため、その世界に存在するドルシネアの身体を借りてそこに立つのだ。だから私がヴァナ・ディールに行くことが無くなっても、ドルシネアは一人でそこに存在する。彼女は彼女の生活を歩んでいくことになる。その為には、彼女の持ち物は彼女の為に必要なのだ。宝物のミスランシミターやパイレートガンは、今後も彼女の宝物であり続けなければならない。そう考える。

Nmさんとの最後の会話の中で、調理のスキルを尋ねられた。ドル猫のそれが「皆伝」のままであることを告げると、半月ほど前に追加された最上級の段位「師範」まで上げられなかったことをNmさんは残念がった。だがそれに対して、私は首を横に振った。仮に目標であった90までスキルを上げたとしても、私は昇格試験を受けるつもりはなかったからだ。最後の昇格試験は、ドルシネアが一人になってから、彼女自身で受けて欲しいと思っていた。それが私が彼女に残す、彼女の為の目標だったからだ。

ポストを覗くと、ヌナイから送られてきたテーブルが入っていた。そういやぁこれを受け取っていなかったか。早速部屋に設置する。

画像・ドル猫の部屋。
不自然に大きく高いテーブル。壁際にはチェストが並び、ベッドの脇には忌まわしき防具箱が。

まだまだ生活感に乏しい部屋だ。もう少し整えたかったが仕方がない。ドル猫自身が綺麗に揃えることに期待しよう。

画像・星の大樹。
青空の下、星の大樹を眺めながら調理に奔走する。

釣りギルドでフカヒレスープの材料のシルバーシャークを調達する。何と一匹6,000ギル。一瞬躊躇したが大切な贈り物だ、妥協をする訳にはいかない。意を決して購入する。どうか失敗しません様に。

画像・Posso Ruhbini。
ノルバレン物産店のPosso Ruhbiniに、改めて別れの挨拶。

ウィンダス港を出て、西サルタバルタ経由で調理ギルドのある水の区に向かう。その途中、このサバンナでは見掛けないサル達に出会った。数珠繋ぎで徘徊する彼等はどうやら正月イベントの特殊なモンスターであるようだ。先頭からパパサル、ママサル、そして見ザル、言わザル、聞かザルの五匹が連なっている。去年も羊が並んで歩いていたっけ。代わり映えしないなあと苦笑する。

それにこんなにほんの風習、北米ユーザには分からないだろうし。あまり面白くはないんじゃあないかなとまず考えた。しかしよく考えてみると、そうやって何もしないよりは、双方の風習を取り上げて知り合う方が、より豊かな世界になるのかも知れないと思えても来る。……まぁともかく、今はサルに構ってる暇はない。

調理ギルドにて、上級サポートを受ける。フカヒレスープを作るのにスキルは充分足りているが、シーフードシチューは少し難しい。そもそもスキルが足りていても失敗はあり得るのがこの世界だ、安心は出来ない。ゆっくり落ち着いて、調理を開始。まずスープ……成功! 続いてシチュー……これも成功! 良かった。いつぞやにシャクラミの地下迷宮で掘り出しておいた「がら」も役に立った。何よりだ。

宅配を利用して、Ccさんに二つの料理を送る。これでオッケー、一つの後悔は解消された。最後は私とドルシネア、二人の別れを残すのみである。


お弁当を作ろう

さて、ドルシネアとの別れを惜しむ場所は何処にしよう。ちょいと考えてみて浮かんだのは、やはりウィンダス方面の名所である「星降る丘」であった。だがただあそこに行くというのも捻りがない。何かないかな。何か一捻り、楽しいことが……。

少し悩んで捻り出したこと、それは何か食べ物を作って持っていくというものだった。そういえば、知り合いに色々作って贈ってきたが、自分自身にご馳走を作ったことは殆ど無かったな。皆に送るのはミスラ風山の幸串焼だったけれど、自分で食べていたのは少しランクの落ちるステーキだった。まぁそれは、串焼きという有り触れた物を食べないという楽しい生活の為の工夫だったし、串焼きを常用するには少々お金が掛かり過ぎるという経済的な要因もあったからだが。

でも、最後くらいいい物を食べてもいいかも知れない。それを持って丘へ行く……ピクニックをドル猫と二人で楽しむってのは、いいかも知れないな。そう考え、また調理のレシピに目を走らせる。ピクニック向きの料理って何かあったっけ?

暫く探して見つけた物、それは「王国風オムレツ」だった。オムレツというのはなかなか美味しそうだ。見晴らしの良い丘の上で食べる絵が思い浮かぶ。うむ、これにしよう。ついでに飲み物として、結構スキルが必要な「バンパイアジュース」という物にも挑戦してみよう。この二つのセットがいいかな。よし、決めた!

自宅に戻り、金庫の中からリンゴとロランベリーを取り出す。そして競売所からレッドテラピン(スッポン)を購入。調理ギルドの売店でトマトを購入し、バンパイアジュースの素材は揃った。なるほど、全部赤色の素材なんだな。それらを絞ると赤い血のようなジュースが出来上がるという訳だ。その名の所以というヤツだな。調理ギルドでサポートを受けてジュースを作成。まずは飲み物の用意が出来た。

さて、問題はオムレツだ。「キングトリュフ」とかいう超高価な素材が必要なようだが、ウィンダスには売られていない。やはり高価な物といえばジュノになるかな。少々遠出になるが、致し方なし。チョコボを借りてジュノへ行くこととする。

チョコボ厩舎に向かう途中で、思わず足を止めた。サルタバルタの門から入り、森の区・中央の広場に出る所。そこで持って来た初期装備に身を包む。

画像・始まりの場所。
そう、この場所。この格好でこの場所から、全ては始まった。

あの頃はまだ何も知らなくて、文字通り純白の一ミスラであり、一プレイヤーだった。今のドルシネアも、そんなに多くのことを知らない。レベル上げを止めたから、冒険者を辞めたから、皆が通り過ぎる場所にいつまでも居続けたから。でもそれがドルシネアの個性を作り上げると信じていた。私のわがままに付き合わせてしまって、色々なことに付き合わせてしまって……ドルシネアに悪いことをしてしまっただろうか。ドルシネアはもっと広い世界を走り回ってみたかっただろうか。刺激的な冒険に、身を投じてみたかっただろうか。今のドルシネアの背中を見ながら、少し物思いに耽る。

画像・ドルシネアの背中。
長い間、この背中と共に歩んで来た。

ともかく行こう。再びチョコボ厩舎に向けて走り出す。最後の調理だ。自分自身の為の料理を作ろう。星降る丘のピクニック。それが私の見つけた、終わりの形であるのだから。


Record Link