1. 番長方面
  2. Dulcet Wind
  3. ドルシネア・ダイアリィ 第四部・目次

Last Modified : 2 AUGUST 2004


黄金の秋

ラテーヌ高原からバルクルム砂丘に入り、港町・セルビナへ。セルビナの入り口には一人のナイトが警備を務めていた。「お疲れ様」と声を掛けてセルビナに入る。

マウラへ向かう船に乗り、船尾に腰を下ろした。誰かがドルシネアのバザーから串焼きとパイを買っていったのだが、少ししてからその人がTellで話し掛けてきた。今日でプレイを終える旨、そして最後の観光中である旨を記したドルシネアのバザーコメント、サーチコメントを読んだらしい。
「おやめになるのですか。お疲れ様でした」
丁寧な口調の方だった。

「自分も辞めるか辞めぬかで悩みました。今でも悩んでいます。難しいところです。思い出めぐり楽しんで^^」
そういうその方はドルシネアと違い、それなりにレベルも上がっている。レベル上げを通して色々苦労しているのだろう。私には、あくまで無難な言葉しか返せない。
「無理せずあくまで楽しむ範囲で、頑張ってくださいましな」
「自由きままに過ごすことにしました。リアルも忙しくなったので。ありがとうです」
つまり、「自由きまま」ではない領域がやはりある、ということなのだろう。

知り合いではない、その場ですれ違った人との会話を今日は幾つか楽しむことが出来た。それは「最後の日であるから」という特別な要因が作用していたのも確かだが……このように、もっと多くの言葉を交わせる人がこの世界にはいるのだと感じることが出来た。私はレベル上げを放棄したから、多くの冒険者が野良パーティを通じて得るであろう知り合う機会を、あまり多く得られなかった。長くリンクパールの繋がりの中だけに過ごしてきたのも、巡り合いの機会を見過ごして来た原因の一つになっていたように思う。

海を見ながら、少し勿体無いことをしたかな、と思ったりもする。昨日今日とセルビナ警備の人に挨拶をしていたように、もっと気軽に人に話し掛けられていればと振り返ったりする。どちらかといえば人見知りをするタイプだから、なかなかそう出来なかった。だが私がそうであるように、人との会話を……積極的ではないものの……求めている人は結構いるのではないだろうか。踏み出すことで、そういった人たちが結び付いていければ、この世界はより豊かになっていくだろう。ネットワークで結び付いているこの関係を、より広く育んでいくことが出来るだろう。

先日のバージョンアップで、冒険者の到達出来る最高レベルが75と設定された。これ以上のレベルは取りあえずもう用意されないということになった。レベル上げに勤しむ冒険者達の、最終到達点が決められたのだ。強さを求めて、上へ上へと拡張され続けたFFXIは、一応の終着点に達したのだ。

その一方で、調理などの合成もスキル値100、「師範」という新たな位が設定された。それに伴い、また多くのアイテムとそれを作り出すレシピが追加されている。戦闘とは直接関係しない花火のレシピや普段着などのアイテムも、ハロウィンの辺りから少しずつ増えてきた。ハロウィンで配られたかぼちゃの帽子は、今も被られているのを良く見かける。そしてクリスマスの飾り付けも見事なものだった。

レベル上げとは直接関係しない要素に対して、徐々に力が注がれて来ていると感じられる。それはただひたすら上を目指して伸びてきたヴァナ・ディールが、横へと広がっていく兆しであるように思える。戦いの場としてだけではなく、より豊かな生活の場へと世界が潤っていくような、そんな変化であるように思える。それは私がMMORPGに求めていた、好ましい変化だ。そんな世界を今去るのは、ちょいと勿体無いなと思ったりもする。思ったりも、するけれど……。

マウラが近づいてきて、目的のものが青空の下に姿を現した。船に乗ったのはそれを見る為だ。立ち上がって、手すりの所まで近寄ってそれを見た。

画像・星の大樹。
海の上から見る、祖国ウィンダスの星の大樹。

その景色を胸に抱くように手を広げる。初めての船旅以来何度も見たこの風景だが、見る度に胸が熱くなり、時には目を潤ませる。そんな時、自分の故郷に対する思いの強さに、改めて気付かされるのだ。故郷には思い出がある。幼き日の思い出が。それはもう二度と返らない、驚きと希望に満ちた黄金の時。

船はマウラに到着。船を下り、マウラで釣りをする際によく使った場所に座り込む。行き来する船を暫く眺めた後、ドルシネアはウィンダスへの帰路に就いた。


ドルシネアの最終セール

ドルシネア、タロンギ大峡谷の一角にログイン。ウィンダスに帰る途中で一旦ログアウトしたのだ。年越しそばを食べて戻ったが既に現実時間は22時を過ぎている。時間が無い! まだ知り合いへの贈り物を全て作り終えていないのだ!

急いでウィンダスに向かう。サルタバルタに入ってマクロでフィッシャ装備に着替える。「天国への階段」こと、とんずら発動! 早くウィンダスに帰らなければ、皆の分の料理を作り切れない! サルタバルタを疾走する。

ウィンダスに帰還。曜日を確認すると火曜日だ。チャンス、料理に最適! やたら高くなっている素材も躊躇せず買い、水の区の調理ギルドに走り込む。ギルドのNPCの上級サポートを受け、少しでもハイクオリティ品が出来易いようにスキルを底上げして調理を行う。時間はどんどん過ぎて行く。

しかしそれでも100パーセントハイクオリティ品が出来る訳ではない。ノーマルクオリティの串焼きやパイがごっそりとたまる。とうとうモグハウスの金庫にも自分の鞄の中にすらも、それらをしまい切れなくなってしまった。

それらを処分しようにも、競売所に出品出来るのは七ダースまでで出品枠が到底足りない。折角作った物をNPCに売るのも勿体無い。悩んだ挙句、処分価格でバザーに出し、一般売りすることにした。勿論、ただバザーに出したのでは見てくれる人にしか売れない。そんなのを待っている暇も無い。こうなったら、大声を発して宣伝するしかないだろう。初めての宣伝Shoutを決行だ。

宣伝の内容は、二、三行に分けて行わないと足りない感じだ。それをその場で手で打っていては、一言一言に時間が掛かる。そこでShoutの内容は複数のマクロに設定して、それを連続して使用して声を発することにした。この頃ログインしていた知り合いの赤魔道士タルタル、NmさんとTellでお話しをしながらマクロを作る。そして自分にしか聞こえないモグハウスの中で、それを使って内容に問題がないことを確認。日本人だけでなく北米冒険者にも分かるように出品物の名前はタブ変換で。……うむ、恐らく通じる筈だ。意を決して森の区のモグハウスを出、ちょいと深呼吸をして、そして叫んだ。

「引退セール! my last bazzar!」
「(ミスラ風山の幸串焼)@100、(アップルパイ)@50!」
「at (モグハウス)!」

数秒後、わらわらと人が集まってくる。そして次々にバザーを覗き込み、それらを購入していった。最初こそ「ありがとう」「thx!」等と返していたが、とても追いつかなくなったので売れていくがままにしておいた。

ほんの二分ほどで全ての串焼きとパイが売り切れた。流石に定価の半額という値付けだけはある。それをNmさんに報告すると、「そりゃあそうですよ」という反応が返ってきた。


母なる大樹の元で

現実時間で23時20分を過ぎた頃、「いまからウィン行きますね」というNmさんのTellが届いた。私の最後に付き合ってくれるのだという。そんなつもりは無かったので、驚いた。しかしまだ贈り物の作成と配送が残っている。大慌てでウィンダス中を奔走した。釣り師のCcさんにはやはり魚貝類の料理を送りたかった。だがその材料は他の素材ほど多くは流通していない。結局、「ネビムナイトの壷焼き」しか作ることが出来なかった。

23時40分を過ぎて、石の区の競売所にてようやく全ての配送を終えた。その競売所の上にいるNPCに転送してもらい、ドルシネアはウィンダス港の口の院・屋上に移動した。階段を下りながら左手に目を移すと、そこにはノルバレン物産店のNPCミスラ、Posso Ruhbiniがいつもの様に立っていた。その前に少し立ってから、口の院の周囲にNmさんの姿を探す。飛空挺に乗ってウィンダスに来たNmさんと、ここで落ち合う約束だった。Possoとは逆側の階段下に、赤魔道士のアーティファクトに身を包んだNmさんは待っていた。

画像・Nmさんと。
座り込んで高さを合わせ、Nmさんと記念撮影。

口の院を背に話をしながら思い返す。そう、憶えているかな。Nmさんとはこの口の院の階段上で、フレンド登録を交わしたのだったね。

最後を迎える場所を目指して、Nmさんを連れて港を移動する。私は既にFFXI(正確にはPlayOnline)を解約している。24時を過ぎたらいつアクセス不能になるか分からない。24時きっかりに切断されるという訳ではないが、その数分後には強制切断されるという。それまでに残された時間は、もう殆ど無い。

港から森の区に移動して、はっと立ち止まった。森の区中央の広場にある池。ここ暫くそこを彩っていたクリスマスの飾り付けが、無くなっていたのだ。

画像・森の区の池。
いつもの穏やかさを取り戻した広場の様子に、思わず立ち止まる。

「少し前に元に戻ったみたいですよ」とNmさんが言う。それは嬉しい。見慣れたこの風景を、最後に見ておきたかった。少しの間それを眺める。そんな私をNmさんは後ろで静かに見守っていた。

再び走り出す。既に23時50分を過ぎている。急いで門をくぐって、サルタバルタに出た。既に日が暮れた夜の草原を、Nmさんを後ろに連れて北へと走る。道なりに進むと少し上り坂となる。その頂点まで来て、足を止めた。

右に目を向けると少し下に川が流れ、後ろを振り向くと初級冒険者の狩り場である草原が広がる。左手の先にはピピラがたまに釣れる湖があり、真っ直ぐ前に走ればタロンギに向かう道となる。そして今ドルシネアが立つこの場所には、いつも道標として使ってきた大樹が一本。初めて他国への旅に出る時、この木の根元にリンクシェル「DulcetWind」最後のパールを置いていった。この思い出深い木の元を、私は最後の場所に選んだ。

「ここが思い入れのある場所なんです」とNmさんに伝えながら、草の上に座り込む。横に並んで、Nmさんも座り込んだ。私にとって、この木はウィンダスの中と外を分ける境界線だった。ウィンダスから外へ出る時、ウィンダスに帰ってくる時、いつもこの木が心の切り替え点だった。星の大樹ほど大きくは無いけれど、この木は私にとってウィンダス、そしてサルタバルタの母性の象徴だったのだ。

画像・大樹の元で。
木の元に座り込んで、二人で言葉を交わす。

残り僅かな時間を、Nmさんと語り合って過ごした。わざわざやって来てくれるNmさんには直に渡そうと、贈り物の料理を持って来ていた。立ち上がってNmさんにトレードする。だがNmさんのカバンは一杯で、料理の一部しか渡すことが出来なかった。それじゃあ勿体無いからと、残りはドルシネアが頂くことにした。キノコのスープをドルシネアが飲み干して、Nmさんとニヒヒと笑い合う。言葉を交わす中でNmさんがぽつりと言った、私の存在、私のゲームプレイの方針、私の送った生活……それらを全て肯定するような一言は、色々な出来事の記憶が今なお揺れる私の心に、深く響いた。

Nmさんとは一緒に行動することはあまり無かったけれど……知り合いの中で最も多く、アイテムのやり取りをした方かも知れない。それは私がMMORPGに抱いていた、そして求めていた相互扶助の形だったし……それ故、より良い助けになれるようにと自然に目標を抱く形になった。Nmさんは私のモチベーションの源となる、さり気ない、それでいて大きな存在だったのだ。

テレビで時報が鳴った。2004年1月1日、0時0分。年が明けた。新年の挨拶をNmさんと交わす。あとどれだけヴァナ・ディールに居られるか、もう分からない。そういう不確かな状態というのは、私にとっては心地の良いものではない。やはりきっちり自らの手で終えるべきだ。Nmさんにそれを告げると、Nmさんはそうですねと頷いた。

その時、背後の川の中に一人のガルカがやって来た。サーチするとレベルの低い、サポートジョブの無い北米のモンクだ。魔法を使えない低レベルの冒険者を見た時にいつもしたように、彼に防御魔法・プロテスを掛けた。お辞儀をするガルカに、Say形式で言った。
『私は今、このゲームを終えるところなんだ』
『グッドラック!』
何故だか分からないが、そう伝えたくて仕方が無かった。

メニューからログアウトコマンドを選ぶ。その場にしゃがみ込むドルシネア。ログアウトまでの30秒のカウントダウンが進む中、Nmさんに感謝と別れの挨拶をした。Nmさんの別れの言葉ににやりと笑って返そうとしたが、そのコマンドを打ち終える前に、Nmさん、ドルシネア、そしてヴァナ・ディールは、暗転する画面の中に姿を消した。

画像・Nmさんとお別れ。
最後までご一緒してくれて、本当に有り難う。

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