Last Modified : 28 JULY 2004
From Dulcinea's diary Part.4 "March for the Dulcet Wind".
12月31日、未明。ようやくアップルパイ+1が三ダース出来上がった。取りあえずここで一息付いて、ウィンダスに帰ることにしよう。そう思い、南サンドリアのレンタルハウスからチョコボ厩舎に向かって走り出した。
前を走るヒュームの女の子がバザーを出しているのに気付き、いつもの様にその中を確認した。バザーコメントには英語のメッセージが。そしてバザーには、「石のスープ」が三つ並べられていた。石のスープとは、蒸留水に火打石を数個入れて炎のクリスタルで煮込むだけの、原始的とも言える非常に初歩の調理アイテムである。調理を始めたばかりという印象だ。一瞥して、バザーを閉じた。
いや、ちょいと待て。私は調理の皆伝だ。調理の先人として、出来ることがあるだろう。
すぐにもう一度バザーを開き、石のスープを一杯購入した。ぴたっと足を止める彼女を追い越して、少し離れたところでこちらも足を止める。彼女に背を向けたまま、おもむろに買ったばかりの石のスープをぐいと飲み干し、Say形式で一言呟く。
「good taste」
彼女の「^^」という笑顔を背に、再びチョコボ厩舎へと足を向けた。
一年と一ヶ月、そして一日。最後の一日はこうして幕を開けた。
故郷のウィンダスに戻り、串焼きやパイを比較的安値に設定してバザーに出す。そしてサンドリアでもそうしたように、森の区の広場に座り込んだ。モグハウスと競売所の間にある為、ここも多くの人が行き来する。また川も流れているため、釣りに興じる人も多い。この時は、三人の海外プレイヤーが糸を垂らしながらSay形式で釣り談義を交わしていた。暫しそれに耳を傾ける。
『カープを釣るための竿、どうやって手に入れた?』
『サンドリアのクエストだよ』
『名声いるのか?』 (そのクエストを受けるために必要な名声、ということだろう)
『分からない。でもいい竿だよ』
『それいいなあ』
『何の餌使ってる?』
『ワーム』
『私は虫ダンゴ』
……
ああ、いいな。こういう雰囲気、とても和む。だから釣りはいいんだよ。
釣りだけじゃあなくて、もっと色んな会話を聞きたかったと思う。ヴァナ・ディールにはSayで長々と会話を続けるのは良くないという風潮があって、人が集まりざわつく筈の場所がむしろ静まりあっていたりする。折角多くの人が集うのだ。もっと気軽に、そしてオープンに会話が出来る雰囲気とシステムであったならと、つくづく思う。まぁもっとも日本人の場合は、「w」の連発や流行りの言い回し、アスキーアートが散りばめられる、代わり映えのしないやり取りを見ることになるのかもしれないが。
ドルシネアをそのままにして買い物に出掛けてくると、その間に知り合いが通っていったようだ。まだ知り合って日の浅い、ヒューム娘のRiさんが「今まで、ありがとうでした^^」とTellしてくれている。そしてダンディヒュームのMmさんの「いままでFFおつかれさまでした」という言葉がログに残されていた。
周辺では相変わらず楽しそうに釣りをしている人がいる。それを眺めていると、ドルシネアのバザーから山串を買ってくれた人が、Tellで「ごちそーさま!」と伝えてくれた。これに「お粗末さまです、お元気で!」と返す。
手持ちの山串とパイは売り切れた。ここをバザーに選んで良かったと色々満足しながら、その場を後にした。
サンドリアのヌナイでシュガーとリンゴを補充して、宅配を使ってドル猫に送る。ドルシネアでログインし直して、それをポストから取り出していると、ある方からTellが届いた。
「卵お買い上げありがとうございました。やめちゃうのですね(>_<)」
それは先程、パイの材料を仕入れたバザーの主からだった。私が彼のバザーから卵を買ったときに、「最後のパイ作りに使わせてもらいます。どうもありがとう〜」とTellを入れておいたのだ。
彼はいつもウィンダスの森の区にいた。プレイヤーは殆ど存在せず、キャラクターだけがその場にいて販売を行う寝バザーというヤツである。ただ、多くの寝バザーは地面に座り込むか立ち尽くしているのに対し、彼は「/follow」のコマンドを使い、広場を往復するNPCの後を自動的に付いて歩いていた。そしてバザーコメントでは「B商会」(仮名)を名乗って売り文句を記し商売をしていたため、少なくとも私の中では独特の存在感を持っていた。
いつのことだったか、タロンギ大峡谷で知り合いと思われるタルタルと二人で遊んでいる彼を見掛け、「おお、ちゃんと中身(プレイヤー)が入っている!」と喜んだことがあった。そんな彼と、初めての会話である。
「はい、そうなのです〜。Bさんに会えなくなるのも寂しいですね〜」
「見ていただいてありがとうございますm(_ _)m ボクも寂しいです」
「これからもB商会、頑張ってくださいね^^」
「ありがとうございます\(^-^)/ お元気で^^ よいお年を!」
「よいお年を〜!^^」
B商会の彼の品揃えは、いい物もあれば大した物でもない微妙な物まで売られていた。でもそんなところに、お金儲けだけが目的ではない「生活感」を感じられた。「B商会」を名乗る彼もまた、毒消し屋を名乗るドルシネアと同じように、この世界を彼なりに「生きている」に違いないと思えるのだ。
なんとなく、有名人と会話が出来たような気分でとても嬉しかった。
パイを更に焼いた後、調理素材を揃えてサンドリアに移動魔法・デジョンで飛ぶ。そして山串を焼いてから、セルビナに向かって走り出した。
ラテーヌ高原を走っていると、前方に大きな羊の姿が現れた。バターリングラムである。最後の日に出会えるとはラッキー! 周りに冒険者の影は見られなかったが、とんずらを発動して駆け寄った。
久し振りだからかもしれないが、思ったよりも苦戦する。それでもまぁ死ぬことは無いよなと高をくくっていたら、ラムの特殊技・ペトロブレス発動。これを食らってドルシネア、石化してしまう。攻撃も、魔法も、逃げることすら適わずに殴られ続けるドルシネア。こ、これは真剣にヤバイ!
体力表示が真っ赤に染まった残HP89で石化が解除、すぐさま二時間ジョブアビリティ・絶対回避を行使する。相手の攻撃は全て避けられるので、攻撃を食らうことで魔法の詠唱が止まることを心配する必要も無い。がんがんケアルIIを唱えて体力を回復する。MPが切れたところで大羊への攻撃を再開。そして何とか勝利した。
や、やれやれ。最終日に殺されちゃあたまらない。良かった良かった。座り込んでヒーリングしていると、通りすがりのナイトに辻ケアルを貰ってしまった。有り難い。長い回復の間に日が暮れて、ラテーヌは夕焼けに赤く染まった。
体力、MPの回復を終えたドルシネア。では改めてセルビナへ向かいましょうかと、足を一歩踏み出したその時、地面がずしーんずしーんと重々しく震えた。え……? この振動は……まさか……。すうっと左を振り向くと、夕日をバックに黒い巨体を震わせて歩く、大羊の姿が目に飛び込んできた。うわー! また出たー!
どうして大羊に会うときは、こう立て続けに出会うんだろう。苦笑しながら再び剣を抜き大羊に切り掛かる。今度は危なげなく勝利した。勝った後で気が付いたが、ドルシネアは食事も取っていなければ、防御魔法・プロテスすらも纏っていなかった。そりゃあ貴方、苦労もする筈ですよ。
荷物が一杯の為、後者の大羊から得られた戦利品は持ち切れずに捨てる羽目になった。ちょいと勿体無かったなと思いながら、ドルシネアは再びラテーヌを先に急いだ。