Last Modified : 15 JULY 2004
From Dulcinea's diary Part.4 "March for the Dulcet Wind".
一時ドルシネアに貸し出していた鎧に身を包んで、長く過ごしたモグハウスを後にした。かちゃかちゃと鎧の音を立てながら森の区を走り、何度か利用した裁縫ギルドへ。そこで世話になったNPC達に別れを告げた。武器・防具関係の管理、そして裁縫によるお金稼ぎを行っていたサブキャラクター、エルヴァーンのヌナイ。彼女をサンドリアへ移すことにしたのである。
ドルシネアが調理を行う際、サンドリアとウィンダス双方に用事が出来ることが多い。食材の調達は物価が安く、レンブロワ食料品店のあるサンドリアが断然有利だ。一方ウィンダスには調理ギルドがあり、ギルドの直営店やNPCのサポートを利用することが出来る。だからサンドリアで食材やクリスタルを揃えた上で、ウィンダスに移動して調理を行うという形がベストなのだ。実際、往路をチョコボ、復路を移動魔法・デジョンを使ってそういう感じにやって来ていた。
だが十二月に入り、いよいよプレイ時間を十分に取られなくなっていた。片道、チョコボでの移動に時間が掛かり過ぎる。悩んだ末に、今まで避けていたサブキャラクターの更なる移動に踏み切った。ヌナイをサンドリアに常駐させ、食材の確保を行ってもらうという訳だ。
元々、いずれヌナイをサンドリアに移住させたいと思っていた。それはまだゲームプレイの終了について考える前の頃からだが、何となくヌナイはエルヴァーンの国・サンドリアが似合うような気がしていたのだ。ヌナイにサポートジョブを取らせてから、サンドリアに移住する。そんな計画をおぼろげながら立てていた。だがプレイの終わりについて意識するようになり、それ故プレイ時間をドルシネアにつぎ込むようになってからは、ヌナイのレベル上げ、そして移住についてはほぼ諦めていた。ここに来て前述のような食材調達の都合があり、それならばヌナイに行かせようと思い立った次第である。
ウィンダスを出てサルタバルタを北上、タロンギ大峡谷に出る。レベル11の戦士であるヌナイにとっては、ここからが危険地帯だ。ジュノ方面まで行く陸路も考えたが、今回は船を利用する海路を取ることとした。ブブリム半島を目指していると、狩り場のパーティにヒュームのTkさんが参加しているのを見つけた。ジョブは侍、レベル9である。珍しく四人パーティで頑張っているようだ。Tellで応援して、タロンギを抜ける。
ブブリム半島をこんな低レベルで抜けるのは久し振りだ。岩柱で視界が悪い。シーフと違ってレーダー能力が無いため、物陰に敵がいるかどうかを知るには何とか目視で見つけるしかない。ハラハラものである。ゴブリンが何体も徘徊する地帯を、恐怖に耐えつつ走り抜ける。スリリングだ。
辿り付いたマウラは雨模様だった。ここのところドルシネアは釣りをしていないし、移動は陸路ばかり使っていた。マウラに来るのは久し振りだ。船が来るまで、色っぽく座り込んでのんびりと過ごす。
船到着。中に入っても特にすることは無い。やはり色っぽく座り込む。すると隣にいるヒュームの青年が、こちらに視線を向けているではないか。むっふっふ、悩殺だ。
船がマウラを出ても、ヌナイはそのまま船倉に残る。レベル11の戦士では甲板は危険だ。下手なモンスターに襲われたらあっという間に殺されてしまう。釣りの道具も持ってきていないし……というか、ヌナイで釣りはしたこと無いか。まぁ、安全第一で大人しくしていよう。そう考えて座ったままで居たのだが。
まさか船倉で戦闘とは……。まぁ、巻き添えは食わなかったので問題は無かったのだが、ちょいと驚いた。
その後は特にハプニングも無く、船はセルビナに到着した。これでウィンダスとサンドリアの中間点を越えた事になる。さぁ、残り半分。気合を入れていきましょうか。
セルビナを出ると白い砂が眩しいバルクルム砂丘である。ここにはブブリム半島と同等の強力なゴブリンが生息しているが、激しい高低差や岩柱が視界を遮るブブリムと較べるとかなり索敵し易い。その為、船に乗る前よりはだいぶ楽な気分で足を運ぶことが出来た。青空の下、サンドリアを目指して東へと砂を蹴る。
道中、半分程に達したところで、前方を走る冒険者の姿が目に入った。背の高い彼はエルヴァーンの男性だ。サーチするとヌナイよりも少しレベルの高い侍であった。その彼が、ゴブリンの近くを通過していく。
(あ、あれはちょいと無謀な接近じゃあないかい?)
後ろから見てそう感じたのは間違ってはいなかった。横切るエルヴァーンをゴブリンが発見し、後を追って走り出した。あの侍、絡まれてしまった!
エルヴァーンはそのまま東へと走っていく。ヌナイもそっちに行く必要がある。かくして、エルヴァーン、ゴブリン、ヌナイという三人の縦列行進が始まった。そのゴブリンは砂丘で結構強い部類に入るモンスターで、その侍には倒せそうも無い。勿論その後を追う形になったヌナイにも到底敵わない。近づき過ぎないよう、一定の距離を保って彼等を追う。近づき過ぎると、彼が倒されてしまった後は次にヌナイが狙われる羽目になるからだ。
とはいえ、危なくなったらやはり加勢するべきだろうか……。そう考えたりもしていたが、どうやら彼はゴブリンの攻撃を受けていないようだった。ゴブリンが彼を見つけたとき、既にある程度離れていたのが功を奏したようだ。追われてはいるがダメージは受けていない。真っ直ぐと迷いの無い彼の走りは、どうやらそのまま逃げ切るつもりであるようだった。
だがその真っ直ぐ先、少し離れた場所に新手のゴブリンが登場する。おいおい、ちょっと距離を取った方がいいんじゃない?と後ろから見て思うが、エルヴァーンの彼はそのまま真っ直ぐ突っ込んだ。結果、彼を追うゴブリンに新手のゴブリンが気が付いて加勢に入る。「リンク」というヤツである。侍を追うゴブリンは二体になった。
なおも走るエルヴァーン。砂丘の東に到達し、ラテーヌ方面へ向かう進路を彼は取るようだった。彼を追うゴブリン二体が、彼とヌナイの間を走っている。凄いな、彼、このまま逃げ切るつもりだよ。感心しつつも可笑しくて、私はこの状況を楽しんでいた。まぁ、彼がラテーヌ高原に逃げ込むということはこのゴブリン達がヌナイの前に残されるということだから、襲われないように距離を開けとかなくちゃいけないかな。
彼が道なりに北へ向かった時、はっと気が付いた。ちょいと待て。この先にラテーヌとのエリア切替地点がある。そこは予定外の敵に襲われても逃げ込める場所だから、レベル上げのパーティがよく狩りをする場所だ。もし今、狩りをしているパーティがいたら、そこにこのゴブリン達を連れて行くことになる! 侍の彼はそれを分かっているのか!?
広げ始めていた距離を縮めるように先を急ぐ。ゴブリンとエルヴァーンの先に視線を向けると、やはりそこには数パーティ、二十人近くが陣取っていて狩りをしている最中だった。侍の彼は歩を弱める気配を見せない。そのまま狩場に突っ込んでいく。慌ててSay形式で警告を発した。「ゴブリン二匹行ってます!」
それから先のことはあまり詳細に覚えていない。どうやら侍の彼はそのままラテーヌへ逃げ込んでしまったようだ。彼を追っていたゴブリン達は、新たな標的を求め周囲の冒険者に襲い掛かった。突然の襲撃に、狩り場の冒険者達はばらばらに動きながらも、次々とラテーヌや少し離れた場所へと避難していくようである。私も一体のゴブリンに挑発を飛ばし、一旦攻撃を引き付けながらラテーヌへと逃げ込んだ。
ラテーヌでしゃがみ込み、ヒーリングしながら周囲を見回す。避難した冒険者達が同じように休息している。やがて回復した者が砂丘へと戻っていくが、新たに来る者と一緒に再び避難して来たりしている。ゴブリンの脅威はなかなか去ってくれないようだ。そういえばしまったな。このレベル帯、海外組の冒険者も相当数いる筈だ。警告を日本語でしか出せなかった……。暫く経って回復を終え、ヌナイを再び砂丘に戻した。
少し離れた場所に、未だ一体ゴブリンが残っている。二、三のパーティがそれを遠巻きにして、警戒しつつ休んでいるようだった。標的を失ったモンスターは、元の場所へと戻る性質を持っている。砂丘の中央へと戻るため、ゴブリンが移動を始めた。その先に数人のパーティが陣取っている。おいおい、分かっているのか? そのままじゃあ危ないぞ。案の定、パーティの一員であるガルカにゴブリンが絡んだ。慌てて逃げ出すガルカとパーティメンバー。ラテーヌに向かって、ヌナイの方へと走ってきた。他のパーティはぴくりとも動かず、それを眺めているようだ。
その様子に、ぽっと不満が浮かんだ。なんだこれは。ゴブリンが我が物顔で行ったり戻ったりしているぞ。絡まれる度にラテーヌに逃げ〜を繰り返すのか。他の者はそれを傍観してるのか。格好悪いぞ! ゴブリンが去ってくれるまで待つなんて、無様だとは思わないか? あんた達、冒険者だろうがああ!
ガルカとその仲間がヌナイの横を走り抜ける。そしてそれを追うゴブリンとすれ違う。ヌナイが剣を抜く。こういう光景、以前とあるサイトで見たぞ。そしてその時、勇気あるモンクがした行為も知っているぞ! ゴブリンをターゲット、挑発発射! ドギューンという大きな効果音と共に光弾がゴブリンに放たれる。ゴブリンがこちらを向くのも確認せず、すぐさまキーボードを叩いた。Ctrl+G! 特別な色でメッセージが表示された。『Nunihが助けを求めている!』……救援要請! これで誰でもゴブリンに攻撃が出来るようになる。さあ来い、冒険者!
ゴブリンの攻撃がヌナイを捉える。ぐんと減る体力。やはり重い、もってあと二発までってところか。二発目命中。ゴブリンから少し距離を取ろうとするが、あまり意味を成していない。更にもう一発。これまでか……! 覚悟を決めた時、ヌナイに向いていたゴブリンがくるりと後ろに振り返った。そこに立つ、剣を構えた冒険者の姿。続いてまた別の方角から、挑発が打ち込まれた。逃げていた者達も戻ってくる。周りから浴びせられる攻撃に、ゴブリンがくるくると向きを変える。続々と参戦する者達。最終的にその数は十人近くにもなっていた。
やがてゴブリンは沈黙した。各自メンバーの元へ戻っていく冒険者達。ヌナイも道の端によって、食らったダメージの回復に入った。体力表示は赤い文字になっている、瀕死の状態だ。にしてもやれやれ……皆来てくれて助かったよ。日本語と英語を並べて、感謝のメッセージをSayで発する。誰からも反応は返ってこなかった……ゴブリンに追われていた、これまた瀕死のガルカさんのお辞儀を除いて。
エルヴァーンは誇り高き民である。生まれも育ちもウィンダスのヌナイだが、これで少しはサンドリアの民に認めて貰えるだろうか。そんなことを考えながら、ヌナイはサンドリアの門をくぐって行った。