1. 番長方面
  2. Dulcet Wind
  3. ドルシネア・ダイアリィ 第四部・目次

Last Modified : 17 JUNE 2004


送別の雪

トパーズトパーズの植木鉢、本日の収穫はマーガレットにサンゴタケ。残念。サンドリアのドルシネアでログインし直してポストを確認。赤魔道士エルヴァーンのVnさんから、炎のクリスタルが一ダース届けられていた。有り難い、有り難いが恐縮だ。ハロウィンに伴う高騰で、炎クリはもう笑えない値段になっている。それをこうポンポン戴いちゃうのは、さ、流石に……。メッセージで伝えても、「気にしないで下さい」と返っては来る。けれどやっぱり気にしちゃうものだ。これはいい物でお返ししないとな。

お菓子作りのためレンタルハウスを出るや否や、
『ワールドパスポートの為に、誰か1,126ギルくれないか!?』(訳)
いきなり英語のSayが耳に入った。あぁ、遂に海外ユーザがやって来たのだな。

以前から報じられていたように、この十月の末から北米地区でPC版FFXIの販売、サービスが開始されたのだ。北米ユーザ用に新たなサーバが用意されることもなく、今まで日本のユーザがプレイしていた既存のサーバに、北米ユーザも入ってくることになっていたのだ。

FFXIで最初にキャラクターを作る際、そのキャラクターの降り立つサーバは基本的にランダムである。もし知り合いと一緒にプレイしたいのなら、その知り合いがいるのと同じサーバに偶然割り当てられるまで忍耐強くキャラクターを作り直し続けるか、既に入っている知り合いに「ワールドパスポート」を発行してもらい、そのパスワードを使ってキャラクターを作成するしかない。

先程、英語のSayを発したプレイヤーは、後者の手段で知り合いを呼び込もうとしているのだろう。ワールドパスポートの発行には結構な費用が掛かる。1,126ギルか……ゲーム開始直後のプレイヤーにとっては、かなり大変な金額だ。私だってその位稼ぐまで、ゲーム開始後何日まで掛かったか知れない。

クッキー作りの為にレンブロワ食料品店に足を運んで、ちょいと驚いた。

画像・レンブロワの店員。
店員がホネになっている!

どうやらこれは、ハロウィンのイベントの一環であるらしい。見かけはモンスターのホネであるが、別に襲って来る訳でもなく普通に食材を売ってくれる。ハロウィンらしく仮装しているということのようだ。いよいよハロウィンイベントが始まるのだな。さて、どんなイベントだろう。

クッキーを焼いてから、デジョンでウィンダスへ里帰り。更にその後、「にんにくせんべい」「からしせんべい」も焼く。一応これもお菓子に入るだろう。競売所でコカトリスの肉をダース買い。焼いたら族長専用山の幸串焼きが九本出来た。おお、ハイクオリティの中でも更にレベルの高い出来か。なんでもHQ、HQ2、HQ3と段階があり、族長山串は最高で一度に一ダース出来ることもあるという。是非とも狙ってみたいものだ。

と、森の区の競売所前に、ヒュームのTkさんとミスラのRnさんが座り込んでいた。また、見慣れない方も隣に座り込んでいる。挨拶をしつつ話を聞くと、そのTkさんのお知り合いのLrさんは、この月末でFFXIを解約するのだという。最後に別れを惜しむお話をしていたという訳だ。こちらからも「お疲れ様です」と挨拶させていただく。

そうだったのか……では、何か出来ることはないだろうか。ドルシネアに出来ること、それは考えるまでもない。競売所の方に向き直り、出品されている食材を漁る。モグハウスまで戻れば大体の素材は揃っている。食材管理のトパーズトパーズを当たれば恐らく全部揃えられるだろう。だがそれには少々時間が掛かる。今すぐこの場で、それを為すのがベストだと考えた。

少々値が張ったが、無事に食材を揃えられた。出品されていないことだって良くある、幸運だった。三人の元に戻り、炎のクリスタルを取り出した。相手を前に作ることで、思いはより強く伝えられると考える。ドルシネアが手を前にかざすと、炎がぼっと揺らめいた。

作るのはあの、思い入れ深い「雪山のロランベリー」だ。万が一失敗して食材を失うと少々困ったことになるが、今のドルシネアのスキルならもう失敗することなど殆ど無い。問題は無い。……炎を操るドルシネアの背を見ながら、微かに思う。「それ以上を望むのは、贅沢なことだろうか」と。いや、雪山のロランベリーなど、大抵の人は口にしたことは無いだろう。それを最後の餞別として送ることが出来れば、充分喜んでもらえる筈だ。それでいい、それで……。

次の瞬間、ドルシネアの手にある炎が一際激しく輝いた。はっと目を見張る。ぎゅわんぎゅわんぎゅわん、ズババーン! ……炎が消え、完成品が手の中に残る。出来上がったのは「新雪のロランベリー」。雪山のロランベリーの、ハイクオリティ品だった。

おおー!と歓声を上げ、パチパチと拍手をくれるLrさん達。「新雪を作られたのは、これが初めてです」と告げながら、Lrさんに手渡した。知り合い同士、積もる話もあるだろう。今が初対面の私がいるよりは、皆で深い話をしてもらいたい。そう考え、お別れの挨拶をしてその場を立ち去った。

競売所前を離れ、モグハウスを目指してドルシネアを走らせながら、私は拳を握り締めていた。やった、出来た! 初めて「新雪」を作られた! 今まで何度か挑戦しても作られなかった新雪を、しかもこの重要なタイミングで!

もし私がその場にいて……ドルシネアの横を共に走っていたならば、私はドルシネアの頭を掌でがっちり握って、「やめれぇ〜!」と笑顔で嫌がるドルシネアの髪を、笑いながらぐしゃぐしゃとかき回していただろう。期待以上の完璧な仕事だ! これ以上は無い! ドルシネア、おまえは最高の調理師だ!

Tkさんから届く感謝のTellを聞きながら、私とドルシネアは歓喜の中でモグハウスへと戻っていった。


Hectic evening in Halloween

次にログインした時、ヴァナ・ディールでは既にハロウィンイベントが始まっていた。

画像・イベント中のNPC。
森の区モグハウス前のNPCが、アンデッドモンスターの仮装をしている。

レンブロワの店員と同様に、ウィンダスの各地にあるお店の店員がお化け系モンスターの仮装をしている。また水の区においては、道を堂々と練り歩くホネや幽霊(の仮装をしたNPC住人)の姿も見られた。後者の方には冒険者達が、(言い方は悪いが)金魚の糞の様にぞろぞろとその後を追い掛けている。

情報を集めてみたところ、どうやらこの仮装したNPCにお菓子を渡すことでアイテムが貰えるらしい。主なアイテムは以前にもイベントで配られたことのある花火だが、低い確率で特殊な装備品も得られるのだという。同じNPCにお菓子を続けてあげてもアイテムは貰えないため、出来るだけ多くのNPCにお菓子を配った方が良いそうだ。

貰えるというアイテムにはそれほど関心は無いので、まずは作り溜めしておいたお菓子をばら撒くのが調理師・ドルシネアのイベントへの参加方法だ。チョコ、クッキー、せんべい等をバザーに並べて、町の様子を観察しに行く。途端にお菓子が売れる。どうもありがとうーと礼を言っているそばから、別の人に売れる。どうもあり、売れる。どうも、売れる。売れまくる。有り得ない勢いで売れていくお菓子たち。

楽しい! 楽しいがしかしこれはいかん、用意していた分はすぐに無くなりそうだ。補充する必要がある。食材を求め、水の区の調理ギルドに足を向けた。開店前にやって来たギルド直営の売店。その扉を開いて、絶句する。

画像・調理ギルド売店にて。
大勢の冒険者が、ギルドの開店を待ち侘びる。

何だこの混みっぷり! こんなにもお菓子とその素材を求める者がいるのか!? 開店の瞬間、この大人数が一気に素材の買い込みに掛かる。お陰で一部の素材は売り切れで手に入れられなかった。買えなかった素材は割高となるが競売所に求める。バブルチョコが売り切れてしまったが、その素材のメープルシュガーは既に競売からも消え失せていた。これは……えらい事になってきた!

他人の合成の結果が分かるようになった。そのお陰で、競売付近でもお菓子を作っている者が数人いるのが分かる。どうやら各種パイを作る人が多そうだ。だがパイを作るには色々な食材が必要になる。パイ生地も一々作らなければならない。ウィンダスでパイ生地を作るのは、素材の確保の段階で非常に難しい。サンドリアなら食材を集めるのは楽なのだが……。パイは駄目だ。もっと作りやすいお菓子は無いものか。競売所前で「ジャックのランタン」を作りながら、各種レシピに思いを巡らす。

このランタン、バザーに1,800ギルで出していたのだが、こんな高額にも係わらずぽぽーんと四つ、あっという間に売れていった。まさか売れるとは思っていなかったので驚いた。ハロウィンってことで洒落で買っていったのかなと思ったが、もしかしたら彼らは勘違いをして購入したのかもしれない。というのも、調理ギルドでも見かけたのだが、かぼちゃの帽子を被っている冒険者が散見されていたからだ。恐らくあれが、仮装NPCから貰える当たりアイテムなのだろう。その帽子と、アイテム欄に表示されるジャックのランタンのアイコンはかなり似ていた。買っていった彼らは今頃、ランタンを被ろうと四苦八苦しているのかもしれない。ドル猫は食べたことあるけれど、ランタンが食べ物とは、知らないだろうしなぁ……。

レシピ集を睨んで考えた末、せんべい二種をメインに作ることに決めた。せんべいの材料は調理ギルドで安価で扱われ、しかも売れ残っていることが多い。そしてそれらは一度の合成で一ダース作ることが出来る。パイは一回につき四つだし、前述の様に素材を揃えるのが大変だ。チョコはシュガーさえ手に入れば楽なんだけれどなぁ……。まぁ、いい! せんべいで行くぞ! 「毒消し屋ドルシネア」、今より「せんべい屋ドルシネア」にジョブチェンジだッ!!

早速素材を集め、森の区の競売所前に陣取って調理を開始だ。競売所には多くの人が集まる。そこで合成をしていれば、合成結果を多くの人に伝えられることとなる。つまり労せずして宣伝になるという訳だ。からしせんべいとにんにくせんべいを交互に作ると、狙い通りに次々とバザーを覗かれ、そして売れる。時間が経ち、夜も遅くなるに連れ、ログインしてくるプレイヤーの数も増えたようだ。凄い勢いでせんべいが売れていく。

素材が切れたら調理ギルドへ走る。ここも相変わらずの混雑っぷりだ。だがせんべい狙いの人はあまりいないらしく、せんべい用の素材は余裕で揃えることが出来た。ニッヒッヒとほくそ笑むドルシネア。そしてまた競売所前でせんべいを焼く。炎のクリスタルが切れる。競売を見るとその値はもう目も当てられない有様だ。だが買う。そしてせんべいを焼く。売れる。焼く。売れる。売れる、売れる。ああああ! 焼くのが間に合わないいいいッ!

……その数時間は、夢のような体験だった。これほど多くの人達に、調理を求められたことは無い。しかもせんべいやバブルチョコを、だ。調理で売れるものと言えば、狩りで有効な串焼きやパイ、そしてジュースくらいなもの。山の様にある他のレシピなど、効率重視の冒険者には誰にも求められはしないのだ。

寄る人並みも山が過ぎ、せんべい作りに一段落を付けた。ふと所持金を確認すると、あれだけ高い炎クリを買い込んだにも係わらず、せんべい屋開業前よりも少しばかり増えていた。一回の調理で一ダース出来るせんべい。単価を安く付けても数が出たため、それなりに儲けとなったらしい。赤字前提でやっていたため、これは嬉しい誤算だった。

知り合い用にランタンを改めて作り、いい気分で競売前を後にした。


Hollow night in Halloween

ふとリンクシェルのメンバー一覧を確認すると、結構な人数がログインしていることに気が付いた。先程までせんべい屋として忙しく活動していたので気に留めなかったが、パールから声が聞こえないのも気が付かなかった要因の一つだろう。

その時ログインしていたメンバーは、どうやら皆同じ場所にいるようだった。タロンギ大峡谷でパーティ……六人以上なのでアライランスか……を組んでいるようである。パールから声が聞こえないのは、恐らく会話がパーティモードで行われているからだろう。以前にもあった事だが、同じパールを付けているのにメンバーが別のモードで会話していて、自分には何も聞こえないというのは、疎外感を感じるものだ。

タロンギはすぐだし、ちょいと顔を出しに行ってみようか。せんべい屋も終わったし、さっき作ったジャックのランタンを渡したい人もいる。そう考えて、チョコボを借りてウィンダスを出た。

タロンギの南部、峠地帯を抜け、中央部へ。きょろきょろと左右に視線を飛ばすと、やがてある丘の上にメンバーを見つけることが出来た。チョコボを操り駆け寄って、皆の前に姿を見せる。……だがいつまで待っても、誰からも何の反応もなかった。Sayでも、Tellでも、パールを通しても彼らの声は聞こえず、そして出会った時に大抵交わされる、手を振る「/wave」のアクションすらも見られなかった。彼らの後ろに隠れていた訳ではない。前に位置したのだ、見えない筈はないにも係わらず。

やがて彼らは散り散りになり、周辺のモンスターを狩り始めた。レベルの高い彼らにとって、タロンギのモンスターは敵ではない。思い思いに各自で殲滅、というところだろうか。チョコボの上から、その様子を眺めた。

何だ、この無反応は。せんべい屋で高揚した気分が急速に冷めていくのを感じる。まぁ、いいや。取り合えず、用事のある人にだけ声を掛けることにするか。憮然としつつそう考え、チョコボを降りて各人の元へ走った。声を掛けた相手はそれぞれちゃんと答えてはくれた。まだ送っていない方には、ランタンを渡す。

ある人と会話している最中に、別の方がそばまで駆け寄ってきた。以前から微妙に距離を取っている相手だ。その方は既にイベントで入手していたかぼちゃの帽子を身に付けていた。近くに立ち止まり、物も言わずこちらに顔を向けているその様子に、強い不快感を覚えた。
(なんだ? また自慢なのか? 面倒くさいな。こっちは今この人と話をしてるんだ。何も言わないんだったら邪魔をしないでくれ……)
放ったまま話を続けていると、少し経ってその方は何も言わずに立ち去った。

数人との会話を終え、私は一人ウィンダスへの帰路についた。

ログアウトした後で、仲間内の掲示板にこの無反応についての不満を記した。社交辞令でいいから手くらい振って欲しいと。それは私にとって、私の存在意義を「確認」する発言であった。

さて、どうなるかな……。決意を心に秘めつつ、成り行きを待つことにした。


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