タルシーフの悩殺
ウィンダスのモグハウスにて起床。ポストから、ヌナイが裁縫などで稼いだお金、6,000ギルを受け取る。これで所持金は10万662ギルに回復した。早速調理ギルドに足を運び、素材を買い込んで調理のスキル上げだ。
ジンジャークッキーを作ってみても、なかなかスキルが上がらない。そこでターゲットをからしせんべいに替えてみると、うまい具合にスキルが上がり始めた。やがてスキルは58に。早速ギルドのNPC師匠の試験を受けて、ドルシネアは「印可」に昇格した。
合成において、印可になるということは大きな区切りに到達することを意味する。調理や錬金術、骨細工や彫金等々の各合成は、並行して60までスキルを上げられる。しかしそれ以上を上げられるのはどれか一つの合成だけ。どれかを上げれば、他のスキルは60まで下がっていく。つまりこれ以上のスキル上昇を計るということは、キャラクターはその合成の専門職を目指すということなのだ。「今日から君は真の意味で調理師となったんだよ」という師匠の言葉に、微かな満足感を覚える。
この日、リンクシェルのメンバーはタロンギ大峡谷でレベル上げのパーティを組んでいた。ドルシネアにはそれに合うレベルのジョブがなかったし、プレイできる時間も今夜はさほど無い。少し寂しかったがそれには加わらないでいた。すると一人、ドルシネアと同様にソロで活動しているメンバーがいることに気付く。ゲルスバ野営陣に一人、Gzさんがいるのである。
NPCのテレポでロンフォールまで飛ぶ。サンドリアに入り、食料品店で買物をしてステーキを焼いた。どうやらGzさんはシーフのレベル上げをしているようだ。ステーキの効果は串焼きまでには至らないが、きっとGzさんの力になるだろう。ステーキを持って、ドルシネアもゲルスバへと向かう。
オークと戦うGzさんを見つけても、すぐには近付いていかなかった。見つからないようにオークの住居などに身を隠し、とことこと転戦するタルタルの動きを観察していたのである。Gzさん、頑張ってるなぁ……タルタル、可愛いなぁ……。
- 楽しい(一方的な)かくれんぼも、見つかっておしまいです。
- ブーメランをよたよたと扱うタルタル。たまりません。
オークと戦うGzさんに付いて周りながら色々お話しする。お話し自体も勿論楽しいのだが、普段あまり見ない前衛ジョブのタルタルの動きをじっくり堪能させてもらう。短い腕をいっぱいまで使って弦を引っ張り、これまた短い足で踏ん張って矢を放ったり、「おっとっと」という感じでのけ反りながらブーメランを受け取るその動きは、愛らしいにも程がある。こちらはすっかりにやけっぱなしである。
ダルメルステーキをGzさんに渡すと、お返しに闇のクリスタルを数個戴いた。すぐそばにいるキノコバッタを狩って得たのだろうか。ヤグードドリンクを作るのに必要な闇クリ、助かります。
狩りを終えてその場でログアウトするGzさんを見送ってから、ドルシネアもいつもの釣りポイントまで降りてからログアウトした。
十五夜の出陣
ゲルスバ野営陣の釣り定位置にログイン。そこから一歩も動かずに、取りあえず少しだけ釣りをする。リアルでは9月だというのに連日暑い。丁度ログインしていたRmさんとボヤきつつ、錬金術や調理のお話しをする。そういえば、オンラインゲーム関係の話をしている中でゲーム外のことは大抵「リアル」と表現するように思う。いや、「現実の方」ということもあるかも。……どっちにしろ、どうにもスッキリしない違和感を感じるのは私だけか？
Tkさんとデジョンを得るクエストについて相談しながらサンドリアに戻る。そのクエストではとあるアイテムが必要になるのだが、私はまだそれを手に入れていない。自力で手に入れるのは難しそうなので、競売所で落札するか知人に貰うつもりである。確認すると、Tkさんは既に知り合いに譲って貰っていたようであった。
ウィンダスに戻り、調理ギルドにてヤグードドリンクと新たなレシピ、メロンパイ作りに挑戦する。順調にスキルアップ！デジョンクエストに必要なアイテムは、Rmさんに戴くこととなった。そのお返しも兼ねてメロンパイとヤグードドリンクのセットをRmさんに送る。更に知り合いの魔道士陣、Nmさん、Mhさん、Mtさんにも同様に送る。メロンパイはこれまでに作られたアップルパイよりも、ステータスアップの効果が高いパイである。彼等のより良い力となれるだろう。
翌日。今夜は十五夜に合わせた公式イベントがある日である。去年にも十五夜にイベントがあったらしいが、どうやら今年も同じようなイベントがあるらしい。それは、各フィールドに出現する「白ウサギ」にニンジンを渡すというものである。去年のイベントではウサギの移動速度が少々速く、追いかけっこをする羽目になったらしいのだが、さて今年はどうだろうか。
ウィンダスのモグハウスにてポストを覗くと、Nmさんからクゥダフヘルムというアイテムが二つ届いていた。恐らく昨日のヤグードドリンク＋メロンパイのお返しだろう。これはバストゥークのクエストを終わらせるのに必要だが、レベルの低いドルシネアでは自力調達は不可能なアイテムだった。有り難い。
レベル16の黒魔道士にジョブチェンジ。お金稼ぎも兼ねて、経験値を少し稼ぎに行こう。レベル15辺りから、経験値の取得効率が落ちてきている。レベル28のシーフでは「楽な相手」と戦うのが精一杯であるように、黒魔道士でも徐々に敵の強さと自分の強さに開きが出てきているようだ。レベルが上がれば次のレベルに上がるために必要な経験値も増えていく。それに対して時間当たりの稼ぎは減っていく。苦しいところである。
デジョンを習得するのに必要なレベルは17、あと一つだ。取りあえず半分程まで、経験値を稼いでおこう。自分で食べるメロンパイを作り、メロンジュースの素材を一ダース分用意する。森の区からサルタバルタに出る門の前に、いつもはいないモーグリがいる。話し掛けると「ムーンカロット」というアイテムを鞄一杯に詰め込まれた。これを例の白ウサギに渡すらしいが、だが邪魔だ。三本だけ残して残りは全て捨てて、ドルシネアはタロンギ大峡谷を目指した。
精霊の加護の元で
タロンギ大峡谷でのキリン狩りの最中に、視界を白いウサギが横切っていった。ターゲットできたその名前は「Moon Rabit」である。だがターゲットできていたのは文字通り一瞬だけで、あっという間にターゲット射程範囲外へとすっ飛んでいった。そのスピードたるや閃光の如し。ヴァナ・ディールで初めて見たスピードだ。チョコボを遙かに上回るあの速度では、追いかけるも何もあったものではない。呆れてイベントに参加する気を無くした。
狩りの方はというと、メロンジュースをがんがん作って飲みまくることでMP回復時間を短縮することで、狩りの回転を上げて頑張った。戦闘開幕に撃つ魔法、バインドの効きが目に見えて悪くなっている。「同じくらいの強さ」の敵と戦うときは、バインドの前に黒魔道士のアビリティ「精霊の印」を忘れずに使う事を心掛けた。
- 「精霊の印」発動！ 続けてキリンにバインドを詠唱だ。
「精霊の印」とは黒魔道士がレベル15で使えるようになるアビリティで、次に放つ魔法のレジスト率を下げる効果を持つ。最初のバインドをレジストされると、最初から倒しきるまで相手の近距離攻撃を浴びることになる。防御力が極めて低い黒魔道士には辛い状況だ。強い敵であるほど、バインドを耐えられて欲しくないのだ。ちなみにレベル15で覚えた精霊の印の話題が何故今まで出てこなかったのかというと……アビリティの欄を見て、習得に気付いたのが今日だったからである。レベルが上がったときに「精霊の印を習得した！」とか表示されればいいのだが。
一時間の狩りで鞄が一杯になった。どうやら白ウサギは、大体決まったルートを巡回しているらしい。一度目の前を横切ったウサギにニンジンを渡そうとしたが、距離が遠くて失敗した。楽しそうに白ウサギを待ち受けるパーティの声を聞きながら、ドルシネアはタロンギを後にした。
仲間
この空と 命があふれる大地
分け合いたいよ「Beat on Dream on」(作詞：小室みつ子、作曲：井上大輔、編曲：須藤賢一)より。
ウィンダスへの帰途に付き、サルタバルタのサバンナを走る中、パールを通じて仲間の声が聞こえていた。その時は、そこにとある方のボヤキが流れていた。なんでも、自分がお金稼ぎの為に競売所に出品していたアイテムがあるのだが、そこに別の人達が目を付けて出品するようになったのだという。
FFXIの競売システムは、一般的なオークションの様に「公開された希望価格に対して、より高い落札価格を競って売却される」システムとは大きく違う。公開されない希望価格以上の価格を提示した人に対して即座に売れるのである。買い手は希望価格になるべく近い値段で買おうとする。もし同じ値段で出品していた場合は早く出品された物が売れていくので、早く売りたい場合はより安い値段で出品することになる。その結果、多く出品される物については値段下げ合戦が始まることになる。
自分以外の物がそのアイテムで儲けようとすることを、その方は随分嫌っていた。他にも儲け口はあるだろうに、人の真似をするなんて。その様に腹立たしそうに話していた。そして更に、こうも続けた。もうこれでは儲けられないから、安く出品して相場を壊してから、別のアイテムの方に稼ぎ口を移すとするか。
そのアイテムは、丁度私もお金稼ぎに使っている物だった。ただ私が出品していたのはウィンダスの競売所で、あの方の儲け口であるバストゥークの競売所とは取り扱いが異なる。だが私の言葉を聞いたその方は、それなら相場破壊は出来ないか、と呟いた。
この方のボヤキを聞いていて、私は正直、いい印象を抱かなかった。競売所のシステムは決して使いやすいものとは言えない。何百もあるアイテムの中なら、どれがよく売れているかとか価格の動きはどうなっているかとかは、それなりの時間を費やさなければ見極めることなど出来ないだろう。やっと見つけたのが偶然その方が仕切っていたアイテムと重なったのかもしれない。その相場を破壊されたら、またお金稼ぎに苦労する羽目になるだろう。
そもそも他に稼ぎ口を知っているのならただそちらに移ればいいだけのこと。何故わざわざ相場を破壊しなければならないのか。自分以外の者が儲けることをそんなに嫌うのは何故だろう。独占しなければ気が済まないということなのだろうか。ゲームだから「競う」ということを重視しているのかもしれない。しかしこのゲームにおいて、お金稼ぎというものが「競う」に値するものだとはあまり思えない。仲間内とかゲーム内でトップクラスの富豪が繰り広げるのならともかく、ごく普通の一般プレイヤーを巻き込んで広く競われるものではないと思う。ただでさえおいしいクエストなどをゲームの修正で潰されてしまい、少ない儲け口なのだ。皆苦労しているのだから。
私が同じ物を出品しているから止めるということだが、知らなければ相場は破壊していたのだろう。そうやって知らないままに、自分の知り合いが不利になる相場破壊を今までもやっていたのかもしれない。自分の知り合いだけではない。知り合いの大切な知り合いや、今後知り合いになるかもしれない人まで巻き込んでいるのかもしれない。目に見える範囲だけを大切にするということは……自分の目に見える知り合いだけを大切にするということは、結局のところ自分自身が嫌な思いをしないためだけの行為であると考える。
徐々に気分が落ち込んでいく中で、その方のボヤキは最後に次のような言葉を紡ぎだした。
「新規アメリカ人が来たら売りつけるんだが」
私はリンクパールを外して、そのボヤキをもうそれ以上聞かずに済むようにした。
10月にFFXIの北米版が発売されることが既に発表されていた。海外用にサーバが用意されることはなく、既存の日本人が溢れるサーバに海外のプレイヤーも入ってくることになるという。その様な新規海外プレイヤーがまだ相場を分からない内に、少し高く売ってしまおう……口振りからその方の言葉をそういう意味合いに私は捉えた。それに強い嫌悪感を覚えた。実際に海外プレイヤーが入ってきたとき、あの方の口から差別的・排他的な言葉が出るのではないか。そんな不安がふと過ぎる。
楽しいことだけではなく、つまらないこと、悲しいことも勿論共有したいと思う。だがそれはあくまで「正しい」方向で、だ。そして知り合いだとか国籍だとかは関係ない。この世界を共有できる人ならば、全ての人が仲間である。私はそうでありたいし、親しい仲間にも、そしてドルシネアにもそうであって欲しい。それがきっと多くの人とこの世界の楽しみを分け合うための、より良い方法であるだろう。
母なるサルタバルタの地を駆けながら、そんな風に自分の道を確かめていた。