Last Modified : 20 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.3 "Dulcet Wind to Heaven".
釣りに興じる毎日が続いている。ウィンダスからNPCのテレポによって、今日はRnさんと一緒にセルビナへ飛んだ。海辺で二人並んで釣っていると、Rnさんが「太ったーーーーーー!!」と絶叫する。クエストで求められる魚、「太ったグリーディ」を釣り上げたのだ。早速二人でセルビナを駆け、このクエストをクリアする。
先にログアウトするRnさんを見送って、ドルシネアは更に釣りを続ける。リンクパールの向こうでは、Ccさんがリアルで起きた雷のせいで停電落ちをしたりする。ひょっこりやってきたRmさんと並んで釣りをした後でサンドリアまで走り、更にNPCのテレポでウィンダスに帰ってこの日は終了。
翌日、再びNPCのテレポを利用し、今度はロンフォールまで飛ぶ。走って北部にあるオークの拠点、ゲルスバ野営陣へ。毎日毎日、セルビナというのも味気ない。今日はここで釣りをするのだ。
ゲルスバで釣ることのできる魚は、サケとマスである。今日持ってきた釣りの道具は、その二種に的を絞ったカーボンロッドとフライだ。この様に、相手によって竿や餌を選択するのも釣りの楽しみの一つ。倉庫に幾つか並んだ竿や餌を見ると、最近の私は胸が弾む。残念ながら現在は、竿を折るために導入された(に違いない)「錆びた装備シリーズ」の存在のため、中級以下の多くの竿が役に立たない物になってしまった。このゲルスバ野営陣は、カーボンロッドを安心して使うことの出来る数少ない漁場である。
ゲルスバ野営陣からユグホトの岩屋を経由、オークを三体ほどしばきつつゲルスバ砦の奥地に出る。だが砦には釣りに適した場所はないようだ。再び野営陣へと移動する。
糸の長さが足りないのか、流石に吊り橋の上からは釣りは出来なかった。糸を垂らせられる場所を求めて、ゲルスバを降りていく。オークの住処に池を見つけて試してみたが当たり無し。結局以前に試したのと同じ場所まで戻ってきてしまった。ま、仕方ない。
川の上を渡る道から、改めて糸を垂らす。早速釣れた……サカナのモンスターが。そうだった、サルタバルタやセルビナと違い、ゲルスバはモンスターが釣れるんでした。すっかり忘れて武装を解いていた。慌てて剣やら盾やらを身に付けてサカナに反撃だ。まぁ、落ち着いて考えると、ここで釣れるサカナはドルシネアには脅威ではないのだが。
サカナを倒し、その後も装備を解かないままに釣りを再開する。マスを釣り上げて喜んでいたりすると、ドルシネアの背後を通り過ぎていく、見覚えのある冒険者が一人。ヒュームの白魔道士・Rpさんである。挨拶を交わす。
なんでもRpさんはミッションを遂行中だという。Rpさんと手を振って別れる。何げにゲルスバのサーチを掛けて、首を捻る。Rpさん、パーティ組んでない。一人きりだな。確かにさっきも一人だったし。ミッションってドラゴン退治だとか言ってなかったっけ。一人じゃ無理だな……。いや、まさかな。
もやもやとしながら釣りを続けていると、そのRpさんからTellが届いた。危うく一人でドラゴン退治に行くところだったという。やっぱりそうだったのか。Rpさんは我々と異なるリンクパールを付けている。だから心配はないだろうけれど……取りあえず、ドラゴン退治にもしメンバーが足りないときには、我々に声を掛けてくれるように伝えておく。きっと力になれるだろう。
ウィンダスで受けた釣りのサポートイメージが切れた。釣りを終えてサンドリアへ。リンクシェルのメンバーリストに久し振りの名前が現れた。闇のクリスタル、蟲の卵を一ダース……使い慣れない素材を競売所で集め、ドルシネアはNPCの手でサルタバルタへと飛んだ。
最近も、私にとっては楽しくない話題がリンクパールを流れた。レベルの高い者達による、数十万ものお金のやり取りの話。数万単位のお金を使い、一気に合成のスキルが上がったという自慢のようなもの。冒険者を辞めた者……時の止まった者の宿命とはいえ、そういった会話には付いていけないし、聞きたくもない。レベルの低い、その様な大きいお金稼ぎの方法を持っていない我々のことをもう少し考えて欲しいと思うと同時に……嫉妬する自分自身に嫌悪を感じる。嫉妬はやはり、恥じ入るべき感情であるだろうから。
ウィンダスの調理ギルドに駆け込んで、新たなジュース作りに挑戦する。メロンジュースを超えるMP回復力を持つそれは、名を「ヤグードドリンク」という。競売所では一本1,000ギル以上で取り引きされる高級品のジュースだ。これを二本、取りあえず作る。
競売に走り、最後の素材である「ゼラチン」を購入する。一つだけ欲しかったのだが、単品では出品されていなかった。躊躇したがこのチャンスを逃したくはない、意を決してダースで購入。7,000ギルもした。所持金が10万ギルを切ってしまった。
揃えた素材を持って再び調理ギルドへ。スキルは充分に足りている筈だが、念のため上級サポートを受ける。いざ調理開始!
……そしてドルシネアは遂に作り上げた。その菓子、「雪山のロランベリー」を。
何故「雪山のロランベリー」なのか。それはこのFFXIというゲームを始める前に、このゲームの中であったこととして読んだエピソードの中に、この菓子が出てきたことに由来する。誰かへのプレゼントとして渡されたのが、この菓子だった……筈である。
細かに思い出せないそのエピソードを、現在私は見つけられないでいる。Webを検索して探し求めているのだが、見つけることが出来ない。本当に私はそのエピソードを読んだのだろうか? 読んだからこそこの菓子の名をゲームの開始当初から胸に刻み込んでいた筈なのだが、その思いの源を今、私は知らない。
ウィンダス港からNPCのテレポによって、北グスタベルグへと飛ぶ。走ってバストゥークへ。久し振りに、私とMtさんのログインが重なった。是非会っておきたい。Mtさんは南グスタベルグにいるようだ。バストゥークへ向かう途中も周囲を見回したが、Mtさんを見つけることはできなかった。このまま走っていてもそのスピードはMtさんと同じ速度、着かず離れずでいつまで経っても会えないかもしれない。チョコボを借りて改めて南グスタへ飛び出した。そして程なく、グスタベルグの荒涼とした大地に小さなMtさんを見つけ出した。
グスタベルグにてバストゥークのクエストを攻略中であるというMtさん。今のジョブがメインジョブではないために中途半端な装備でそれを恥じらうMtさんだったが、しかしその帽子は「風切り帽子」。ドルシネアがウィンダスで初めてクエストをクリアして手に入れた、思い出深い帽子だ。今も倉庫にしまわれている帽子を久し振りに見て、懐かしく目を細める。
二人でしばらくお話しした後で、持ってきた雪山のロランベリーとヤグードリンクを一本渡した。こんなお菓子もあるんですねと珍しがるMtさんに、言葉を続ける。「マロングラッセっていうのも、あるそうですよ」
ミスランシミターを手に入れた。銃も手に入れた。そして調理の目標だった雪山のロランベリーも遂に作った。5月の末から終わりを求めて続けてきたドルシネアの旅も、三つの目的を全て終えたことで区切りを迎えた。全てを終えて、このゲームのプレイを終える時期として予想していたのはちょうど今、8月から9月というところだった。
だが最近の私は、5月の末に思っていたものとは別の楽しさを見つけていた。一つは釣り。ここ数日に渡って続けている釣りの楽しさは、知り合いの釣り師・Ccさんから伝えられたものだ。まだこれを満足いくまで楽しみきっていない。
別に釣りのスペシャリストになる気はない。釣りだけではなく、最近になって彫金とか鍛冶とか骨細工とかの合成も始めたが、何でもかんでもやりたい訳じゃあない。ドルシネアを万能な存在にしたい訳ではない。任せられるものは別の人に任せたい。その人に頼りたい。頼り頼られといった、助け合う関係を築きたいと思う。そうやってこの世界にある楽しさを分け合いたいと思う。
そしてもう一つの楽しみ、マロングラッセの存在を知った。私が聞いたであろうエピソードがあった頃は、雪山のロランベリーは調理の最高級品だった。だが今は、それよりも上の料理が多く存在している。その高い調理技術が必要となるレシピの中に、マロングラッセがあるという。ドルシネアから見ると、あと二階級以上は昇格しないと作られない菓子だ。それは私とドルシネアにとって、新たな目標となる菓子だった。
マロングラッセを作りたい。作ってそれを皆に分けたい。そうやって調理の楽しさを伝えて、皆と分かち合いたい。その為にこそ、私は調理を続けているのだから。
一方で、「楽しみの限界」を感じてもいる。時々あるFFXIのバージョンアップでは、このヴァナ・ディールに新たなエリアや新たな要素が付け加えられている。だがそれの殆どは、高レベルの冒険者を対象としたものなのである。ヴァナ・ディールにいる冒険者達は続々とレベルを上げていく。それに合わせて新要素を作らなければ、飽きられてプレイヤーは去っていくだろう。だからこそ上を作り足すのは当然のことかもしれない。
しかしそれらは、レベル上げを止めたドルシネアには何ら価値のないものだ。バージョンアップによる恩恵を受けることは殆ど無い。今のドルシネアの生活は、新たな要素が増えることなく、ただ現存している自分の歩ける場所を、そして楽しめる要素を、ひたすらに食いつぶしていくだけだ。やがてそれを使い果たしてしまうだろう。釣りの目標を達成したら? 調理の目標を達成したら? 他の冒険者が新たな要素を楽しむ声を聞きながら、自分で触れられる全ての要素を味わい尽くした私はその時どう感じるだろう。また恥じ入るべき嫉妬に身を焦がすのだろうか。
この限界点は……恐らく2003年の年内いっぱい。その辺りだろうと何となく思う。FFXIの次にプレイするつもりであるMMORPG、「True Fantasy Live Online」。その開始は未だ遅れているのだが、流石に年内いっぱいには始まると思う。だとしたら、その辺が丁度いい頃合だろう。8〜9月で終えるつもりであったFFXIのプレイを、年内いっぱいまで延長しよう。
Mtさんと別れ、バストゥークへ戻る。ヤグードドリンクをまた作って、宅配を通じて今度はタルタルの赤魔道士・Nmさんに送る。Nmさんは私がまだ未熟だった頃から、いつもジュースを作って送るのを「楽しみにしています」と言ってくれた。その言葉は、私に調理の目標を与える素敵な響きを持っていた。だからこそ、このジュースの最高級品であるヤグードドリンクをNmさんに送るのは、とても大きな目標だった。
私がジュース等を送る度、Nmさんはお返しに色んな物を送ってくれた。ドルシネアには入手できない、高レベルな者だからこそ手に入れられるアイテムや合成用のクリスタルなどだ。助け合う関係が、心地よい。より高い助けになれればと思う。
調理師として、より高みへ。そして残った楽しみの領域を求めて。ドルシネアとの旅が更に続く。
第三部 「Dulcet Wind to Heaven」 完