Last Modified : 22 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.3 "Dulcet Wind to Heaven".
あーあ、やっぱりだ……。19時から始まった公式イベントに参加しながら、私はすっかりうんざりしていた。
巨大ガエルとの戦いの場の一つとなった西サルタバルタには、数百人の冒険者が集結していた。そのような状況は以前のイベント、Bon-Odoriで体験している。これだけの人数が狭いエリアに集中した場合、全てのキャラクターを画面に表示しきれない。自分の周辺の極々一部しか表示できないのだ。Bon-Odoriの場合、それでも冒険者は星降る丘の広範囲に分散していた。今回、冒険者は標的のモンスター一匹だけに集中するのだ。だからいよいよ極端に狭い範囲しか描画されない。
これが引き起こした大きな問題、それは「標的のモンスターがそもそも見えない」というものだった。モンスターが見えないとターゲットできないので、戦闘状態に入れない。モンスターを画面に表示させるには、モンスターに殆ど重なるほど近付かないといけない状況だ。殆どの冒険者はモンスターの姿を求めて宛もなくさ迷うという有様になっていた。緊張感の欠けらもないその作業は、やがて周囲にSayやShoutでばらまかれるボヤキとして吐き出された。
そしてなんとかモンスターと戦闘状態に入ることが出来ても、緊張感はすぐに消えることとなる。何しろ殴っても殴ってもモンスターの体力が減らないのである。イベント開始から数十分経ってもモンスターの体力ゲージはほんの数ドット分しか減っていない。モンスター自体の防御力と攻撃力は皆無らしく、ログに表示される、冒険者の攻撃によって与えられているダメージは非常に大きい。そしてモンスターの攻撃を食らった冒険者も死ぬどころかケロリとしている。このモンスターはただ単に体力が天文学的な数値ほどあるだけの、木偶の坊なのだ。……そんなものを相手にして、何が楽しいだろうか。
それにしてもなんで「カエル」なんだろう。詰まらない相手だ。これが巨大マンドラゴラとか巨大モーグリとかなら面白いのに。世界観が壊れるとかいう理由で出来なかったりするのだろうか。こんな醜い、灰色一色の地味なモンスターなんか見てても全く面白くないのだが。これならまだラテーヌ高原やコンシュタット高地にいる巨大羊の方がずっとマシだろう。
Ccさんにリンクパールを通じて実況中継をしていると、処理が重すぎたためか一度ゲームが強制終了されたりする。再起動して復帰、何とかモンスターを見つけて取りあえず殴っておく。そうしているうちにCcさんが西サルタバルタへ到着。こんなつまんない戦闘に参加してもなぁ……とか思っていると、ここで思いも寄らない事態が起きた。突然カエルが死んでしまったのだ。
その場に居合わせた冒険者は呆然である。なにしろまだ95パーセントはあった筈の体力が、一瞬にして0になったのだから。モンスターを見つけられないでいた者達は更に唖然である。見えないままに「なんか死んじゃったみたい……」と聞かされたのだから。その模様をCcさんに伝えると、「ノートリアスモンスターも回線落ちか!」という。なるほど、言い得て妙だ。
やがてイベントへの参加のために、RmさんとRnさんも西サルタバルタへとやって来た。だがそこにあるのは標的を失って立ち尽くす、数百人の冒険者達だ。戸惑い、落胆、非難、嘲笑……様々な呟きや叫びがフィールドに溢れる。久し振りに会ったリンクシェルやフレンドのメンバーと立ち話をしながらモンスターの再出現を待つ。まさかこれで終わりではないよね……という望みをかけての行為だが、数十分経っても何の変化も見られなかった。
折角メンバーが数人集まったのに、折角イベントを楽しもうとしていたのに、これではあんまりだ。意を決してその場を離れ、ウィンダスへ戻る。そしてチョコボを駆って急いでジュノを目指す。もう公式イベントはダメだ。別のイベントをでっち上げよう。コメットオーブだ。ギデアスのバーニングサークル・ギャンブルしかない!
メリファト山地の出口付近を走っているところでシステムメッセージが流れた。イベントは不具合が発生したため中止するという。パールを通じて失笑が広がる。呆れた……。もっとも不具合がなかったとしても、ちいとも脅威でないサンドバッグ相手にたこ殴りしてそれの何処が楽しいのかと、私には根本的な企画自体に問題があるとしか思えないのだが。
イベント中止で集まった皆が別れてしまうのは惜しい。ジュノに辿り着く前にギャンブルの件を持ちかける。一緒にギデアスに行かないか?と。皆はこれに乗ってくれた。ジュノにて残していた獣人印章50個とコメットオーブを交換、呪符デジョンを使いウィンダスへ急いで戻る。そしてウィンダスで待っていた仲間と合流した。
「外れたら死ぬから、それでもいいように」と伝えておいた。Rnさんはレベル5の獣使い、新たに加わったTkさんはレベル8のサブキャラでの参加だ。Ccさんはレベル33の戦士のままで参加らしい。潔し! Rmさんはバーニングサークルに辿り着くまでの護衛としての参加で、ギャンブルには加わらずとのこと。死の確率が高いギャンブル、もちろんそれもアリなのです。
レベル50制限、三者択一ギャンブルバトル。Rnさんが操ってペットにしたマンドラゴラを一匹連れて、一同はギデアスに向けて旅立った。
ミスラのドルシネア、エルヴァーンのCcさん、ミスラのRnさん、タルタルのRmさん、そしてやはりタルタルのTkさんのサブキャラ。ジョブもレベルもバラバラな一同で、いよいよギデアスに突入する。RnさんとTkさんの二人はレベル一桁であり、ギデアスのモンスターと戦うには不相応である。攻撃を仕掛けてくるカラス獣人・ヤグードやミミズ、ハチなどを、護衛のRmさんが中心となって撃退する。それを繰り返して、五人はギデアスの奥地へと向かった。
この時周囲には何やら重装備の冒険者が何人も並んで走り、我々と同様に奥へと脚を進めていた。どうやら行き先は同じくバーニングサークルのようだ。我々と同じ、コメットオーブを使用するバーニングサークルなのか、それとも別の戦いに赴くのか……それは分からないが、十数人が群を成すようにして洞窟を走るのはあまり経験が無くて、ギャンブルを前に高まっている胸の高揚が更に熱くなってくる。
そしていよいよ辿り着いた、ギデアス最深部・バルガの舞台。今日は少しだけ待ち行列があったものの、それほど待たされることもなくバーニングサークルに立つことが出来た。死んでもいい覚悟を改めて確認し、ドルシネアがコメットオーブを使う。護衛役のRmさんの応援を受けながら、四人はサークルの先へと姿を消した。
夜のバルガの舞台は不気味である。サークルから先へと行く前に、このギャンブル主催の、そして経験者の私は三人に注意を告げておく。この先にいる三つの宝箱には、決して触れないこと! その一発が全てを決めるのだから。それを話した後で取りあえず先頭に立ち、宝箱の元へゆっくりと足を進める。付いてくる三人。そしてドルシネアはそっと宝箱の後ろ側へと廻りこんだ。
初めて見る宝箱達に、思い思いの感想を口にするCcさん、Rnさん、Tkさん。宝箱と三人を眺めながら、それまで全く決めてなかった「開ける宝箱の選定方法」をふと思い付いた。三人に声を掛けて、身長順にそれぞれ宝箱の前に立ってもらう。一番背の高いCcさんは大きな宝箱、中くらいのRnさんは中間の宝箱、そして一番小さなTkさんは小さな宝箱だ。
そして三人に「/random」コマンドの入力を要請する。それはダイスを振って2〜998のランダムな数を出すコマンドだ。出た目はリンクパールにも報告する。外で待っているRmさんへの実況中継だ。Ccさん、118。Rnさん、103。そしてTkさんは178と出た。……全員100台ですか。随分低レベルな戦いじゃあありませんか? なんだかとても不安になってきた。外れるんじゃないの、これ。
低い目だが勝ちは勝ち。今回はTkさん担当の小さい箱を狙うこととした。Tkさんの両脇にCcさんとRnさんが寄り添う。三人に最後の確認……死んでも恨みっこ無し……を告げ、「いくぞー!」と叫びながらドルシネアは小さい宝箱に自らの宝物……銃を向けた。この一発に全てを賭けるのじゃー!
カチャリ…………(この銃を構えてから発砲するまでの長い間が、この場ではまたたまらないッ)…………ターンッ! 瞬間、息を止めて事態を見守る我々四人。
宝箱のモンスター・ミミック。一発の銃声に続き炸裂する筈のモンスターの攻撃は、だがしかしいつまで経っても来なかった。そこにあるのは、一度経験したことのある静寂。「当たりだ」と思わず呟く。我々の前には、アイテムが入った宝箱が一つだけ残されたのだった。喜びに沸くメンバー。
話を続けていると、その場に続々とバトルフィールドを勝ち抜いてきた冒険者達が姿を現す。その中に一人、あからさまにレベルの低い初期装備のエルヴァーンが一人現れた。話を聞くとやはりギャンブルに勝ってきたところだという。しかも彼は大当たりアイテム・レイズIIの魔法スクロールを手に入れたとのこと。皆でお祝いする。
公式イベントはダメダメだったが、何とか盛り上がることが出来た。そしてこの後、すっかり感化されたRmさんは一人ジュノに走った後、単独でギャンブルに数回アタックしてきたという。