Last Modified : 10 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.3 "Dulcet Wind to Heaven".
「獣人印章」というアイテムがある。モンスターを倒すと稀に落とすアイテムで、ゴブリンやヤグード達獣人の間で流通している手形のような物らしい。もっともこれを落とすのは獣人に限らず、ウサギなどの獣たちも同様に落とす。獣人が落とした物を拾い食いでもしたのか、それとも偶然首にぶら下げでもしているのか。
この印章を求める者が、世界に一人だけ存在する。ジュノにいるとあるNPCだ。彼は獣人印章を50個だとか99個といった単位で冒険者に求め、引き替えに数種類の宝珠……オーブと交換してくれる。このオーブを特定の場所で使用することにより、中に封じられているモンスターが現れる。それと戦い勝利することで、高価だったりそうでもなかったりするアイテムが手に入れられるのだ。
NPCの彼自身はこの話を眉つばなものであると思っていて、冒険者をそそのかして(いるつもりで)獣人印章を集めているようだ。……何故彼は獣人印章を集めているのだろう。当然彼にとって利益となるからに違いないのだが、獣人の手形がどうやったら利益になるのか。やはり獣人と取り引きしているのだろうか。
獣人やらモンスターやらNPCの都合はさておいて、我々にとってはオーブの中のモンスターと戦利品が重要だ。何しろ中には、数十万ギルの価値にもなるアイテムがあるというのだから。
何でも話によると、各オーブを使うとレベル制限の掛かったバトルフィールドに突入するという。以前ミッションで戦ったドラゴン戦は、レベル25制限のバトルフィールドだった。そのフィールドに入ると冒険者はレベルを抑えられ、不相応の防具や武器などは装備できなくなる。勿論、習得している魔法やアビリティもレベル25より上で覚えるものは使えなくなる。オーブのフィールドの場合は各オーブに応じてレベル40や50に制限されるそうである。そして登場するモンスターは、そのレベルの冒険者六人パーティで戦うことを想定して強さが設定されているらしい。
そうなると、レベル30にも満たないドルシネアには関係のない話である。レベル上げも止めたのだから、今後もそのような冒険に参加することもないだろう。となれば獣人印章やオーブも必要ない。必要ない物を持っていてもしようが無いから、売るなり誰か必要な知り合いにでも譲りたいところだが、あいにく獣人印章もオーブも売却・譲渡不能なアイテムだ。だから狩りの最中にゲットした獣人印章を邪魔だと捨てたことも今までに何回もあった。それでも持ち帰った印章を、何かの役に立つこともあるかと少しずつため込んでいた。
ところがここに来て耳寄りな情報を手に入れた。先月のバージョンアップで新たなオーブが追加されたのだが、その中に一人でも挑戦できる……アイテムを獲得できる可能性を持ったバトルフィールドがあるというのだ。なんとそれは、レベル1の冒険者でもチャレンジ可能であるという。
先日の狩りの最中に拾った獣人印章で、ドルシネアの手には遂に100個の獣人印章がたまった。単独挑戦可能なオーブは、獣人印章50個と交換するコメットオーブ。つまり二回挑戦可能となった。……よし、行ってみるか。一攫千金を狙ってみるか!
チョコボに乗って、久し振りにジュノへ向かった。手には50個の獣人印章。目指すはギデアス、ドラゴンとの戦いの場であった「バルガの舞台」である。
久し振りに訪れたジュノはやはり騒がしい街だった。滅多に見掛けない街中のShoutが、このジュノでは当たり前のように飛んでいる。
まず競売所に足を向け、持ってきた鉱石を売りに出す。競売の出品一覧や取引履歴を見ると、やはりウィンダスやサンドリアなどの三国と比べると流通量が桁違いという印象を受ける。やはりここは冒険者の集う街なのだ。自分がすっかり田舎者になっている気がする。
だが元来、私は人の多いところが好きではない。それは現実においても、そしてこのヴァナ・ディールにおいても同様だ。行き交う冒険者の多さと石造りの町並みに、何とも言えない居心地の悪さを感じる。それはこのジュノ周辺の環境も要因だ。ジュノ近辺のモンスターが強すぎて、外に出られない。安全を期するならチョコボに乗って出ていくしかない。この街にいるとき、私はジュノに閉じ込められているという閉塞感を絶えず感じているのだ。
ジュノ港にてNPCの元へ行き、獣人印章50個とコメットオーブを交換して貰う。50個集めるのには相当の日にちが掛かった。少しだけ躊躇したが、ここで使わなければドルシネアには使う機会がない。意を決してコメットオーブを入手する。レンタルハウスを借りてポストを確認すると、先程出した鉱石が既に売れていた。やはり流通量が半端ではないのだ、このジュノは。今度何かいい物を入手したら……そう、それこそこの後の挑戦で見事アイテムを獲得できたら、ここに売りに来るのもいいかもしれない。
チョコボを借りて、ウィンダスへと帰郷。モグハウスにて改めて準備を整えて、いよいよギデアスに出撃だ。競売所前の寝バザーで、売られていた「半熟卵」を購入する。半熟卵はゆで卵のハイクオリティ品である。これからの挑戦の成功を祈願して、これを後で食べることにする。ギデアスに向けて、サルタバルタをひた走る……。
ギデアスに入り、地図を見ながらその最深部まで走る。「バルガの舞台」にはドラゴン戦で一度しか行ったことがない。その時は一緒にドラゴン退治をする仲間の後を付いていった。だからあまり道を覚えていない。マップを睨み、少し戸惑いながら奥へ、奥へ。そしてエリア切替え。
来た。道の両脇に松明が並ぶこここそ、バーニングサークルのあるバルガの舞台。懐かしい。あの時は他にもバーニングサークルに突入するパーティが控えていて、興醒めの待ち行列になっていた。だが今日は平日の夕方ということもあり、立つのはドル猫一人きりである。静寂に緊張感がぐんと高まる。それにしても、あの正面にある大きな七輪みたいなものはなんであろうか。
大きな七輪の元へ行く。そこにあるのは大きな魔法陣、バーニングサークル。ここにコメットオーブをトレードする訳だな……。丁度ログオンしていたRmさんに、リンクパールを通じて実況を始める。レベルのだいぶ高い冒険者であるRmさんだが、このバーニングサークルは経験がないようだ。半熟卵をぱくりと食べる。そして遂にオーブをトレード。画面暗転して、データロード。
これから命を懸けた戦いが始まるというのに、バルガの舞台の上空はやけに澄んだ青い空だ。そのアンバランスさがやけに恐ろしい。足を先に進める。禍々しく尖った黒い岩に囲まれて、「それ」は静かにドルシネアを待っていた。
向かって左から、SmallBox、MediumBox、LargeBoxの三つの宝箱がそこにはあった。モンスターの姿はそこにはない。
この「戦い」のルールは聞いている。この三つの宝箱から一つを選ぶのだ。選んでそいつに攻撃を仕掛ける。何でもいい。直接殴ってもいいし、魔法を撃ち込んだっていい。その一発が全てだ。攻撃を仕掛けた瞬間、選ばなかった残りの二つは消失する。残るのは選んだ宝箱だけだ。
もし「当たり」なら、それで終わりだ。残った宝箱を開けると戦利品が手に入る。だが選んだ宝箱がもし「外れ」だったなら、その宝箱は「ミミック」というモンスターになって冒険者に襲いかかる。このバトルフィールドはレベル50制限。つまりレベル50の六人パーティで対等に戦える強さのモンスターが登場する。このミミックが正にそれだ。ミミックを倒せば、やはり戦利品が手に入る。負ければそこに残るのは冒険者の死、それだけである。
そういうことだ。「レベル1の冒険者一人でも挑戦可能」というのはつまり、「当たりを引けば良い」という意味なのだ。ミミックを倒せない冒険者でも、当たりを引けば戦わずしてアイテムゲット。その代わり外れれば恐らく攻撃一発でポックリ死ぬだろう。オール・オア・ナッシング。これは命を懸けたギャンブルなのである。
Rmさんに実況を続けながら、宝箱の周りをゆっくりと廻る。「どいつ」だ? 「どいつ」がミミックだ? 「どいつ」が当たりなのだ? 宝箱達をじっと見つめるが、当然見た目では分からない。名前に応じた大きさの違いがあるだけである。小さいつづら? 大きいつづら? 間を取って中くらいのにしようか? 悩みながら宝箱達の後ろに回り込む。……さぁどうする?
ドルシネアはシーフである。シーフは敵から逃げることに関しては結構な実力を持っている。もしミミックを引いてしまったとしてもそれを前提とした用意をしていれば、恐らく殺されずに逃げ切ることが出来るだろう。宝箱に攻撃をかける前に「絶対回避」を使用して30秒の近接攻撃100パーセント回避状態に入っておけば、もしミミックが出ても30秒の間に呪符デジョンを使用して脱出が出来る筈だ。土壇場までそれをするかどうか、悩んでいた。
だが残りの戦績ポイントが限られている。呪符デジョンを使えるのもあと七回程度だろう。出来ることなら使いたくない。死んだら経験値が減ってしまうが、ここしばらくのトカゲ狩り・オーク狩りで経験値をそこそこ稼いでいた。一、二回死んでもレベルは下がらない。勿論、出来る限りドルシネアに死の苦しみを経験させたくはないのだが……。
でもこれはギャンブルだ。外したらそれなりの、チャンスに対する対価を払うべきだ。それがゲームというものだ。……剣を抜く。絶対回避は使わない。それが私の選んだ「ゲーム」。不意打ち発動! その瞬間の閃きで、ターゲットは大きいつづら……LargeBoxに決めた。大きい宝箱に歩み寄り、剣を振り上げる。シーフの真骨頂、不意打ちを食らえッ!!
小さい箱と真ん中の箱が姿を消した。大きい箱の形が変わる。……それは「ArmouryCrate」という箱に変化した。ドルシネアへの攻撃は、いつまで経っても来なかった。……当たりらしい。堅くした身から緊張が解けるまで、もうしばらくの時間が掛かった。
宝箱から得た収穫は、1,234ギルにメディシンリング、そしてプラチナインゴットだ。お金はともかく、指輪とインゴットはその価値がよく分からない。指輪はレベル50以上の白魔道士が着けられるものだ。潜在能力とかいうものが付いているが、やはりよく分からない。知り合いにレベル50近い白魔道士はいないから、売ってしまってもいいだろう。インゴットは……何しろ「プラチナ」だ。材料となる白金鉱が10,000ギルは下らないのだから、それを数個必要とするであろうプラチナインゴットは、それなりに期待できる価値があるのではないだろうか。
バルガの舞台を出、サルタバルタを走るドルシネアの耳に、リンクパールを通じてRmさんの報告が届いた。ジュノで競売の取引価格をわざわざ調べてくれたようだ。
それによると、メディシンリングは5万〜6万ギル、プラチナインゴットは7万ギルで取り引きされているという。……二つ合わせて12万〜13万ギル……ほ、本当ですか!? 今まででドルシネアが持ったことのある最高金額は、ミスランシミターを買った辺りで5万ギルと少しだった。け、桁が違いますよ……ッ!!
ウィンダスの競売所で取引金額を確認しようと思ったが、メディシンリングは履歴がない。出品されたことすらないようだ。彫金の盛んでないウィンダスでは、プラチナインゴットの売買が行われていないのも、まぁ当然だ。やはりこれは、ジュノに出品した方が良さそうだ。また上京しなければ。
そんなことを考えていると、とある冒険者がやけにお辞儀をしているのがログウィンドウに表示された。どうやらバザーを見るのにお辞儀をし、見た後で更にお辞儀をしているようだ。やけに丁寧なお人である。
ドルシネアのそばに、一人のタルタルが歩み寄ってきた。ドルシネアにお辞儀をすると、バザーを覗いてきた。なるほど、このタルタルさんだったのか。バザーを覗いているタルタルに、にやりと笑みを返してみる。「○○は顔を赤らめて照れた。」……可愛らしすぎるぞ、こんちくしょー。
徐々にお宝を手にした実感が湧いてきた。10万ギルを超えるお金が手に入る……。幸せな気分でログアウトした。