1. 番長方面
  2. Dulcet Wind
  3. ドルシネア・ダイアリィ 第三部・目次

Last Modified : 10 JANUARY 2004


Diana And Kihel

最近気になっていたことだ。リンクシェルの最新メンバーであるMtさんが、今日もウィンダス港に一人いる。何でも釣りをしているのだそうだ。Lxさんとパーティプレイの練習に出掛けているとき以外は、大抵ウィンダス港に一人だった。それがとても気になっていた。

レベル上げを止めたドルシネアを除くリンクシェルのメンバーは冒険者である。ヴァナ・ディールに生きる冒険者の常として、見知らぬ者達とパーティを組んでレベル上げに精を出す。レベル20を超した辺りからは人の集め易さや狩り場への移動の関係上、都会のジュノに定住するようになりがちだ。ログインするのが数日に一回でいつもウィンダスにいるMtさんとは、顔を会わせる機会はないように見えた。

Mtさんはキーボードで文章を打つことが苦手であるようだった。リンクパールを通した複数人の会話に入ることが出来ず、いつももっぱら聞き役に回っていたように思う。以前確かその様に聞いたと記憶しているが、Mtさんは別のリンクシェルに所属していたという。ただそこのメンバーは高レベル・高ランクの者が多く、初心者のMtさんは会話に入れなかったらしい。Lxさんを通じて私達の……とはいってもここしばらく、私はリンクパールを付けていないが……比較的低いレベルで初心者の多いリンクシェルに移ってきたのだ。

会うこともなく、更にここでも会話がないとしたら、それはとても寂しいことではないだろうか。

あいにく我がドルシネアはここ数日、バストゥークに滞在している。バストゥークからウィンダスまで移動するには時間が掛かる。ログイン時間の短いMtさんに会うのは難しい状況だ。Tellを飛ばせば、二人で会話も確かに出来る。キーの入力が遅くても、一対一ならマイペースで出来る。だがあまり面識がないからこそ、直にあってお話しがしたかった。そうすることで「私」の存在を、リアルに感じることが出来るだろうと思うのだ。分かり易さは大切だ。

一度会ったことのあるヌナイではなく、この日はトパーズトパーズでMtさんの元へ向かった。トパトパはMtさんと同じ金髪で、髪型もツインテール同士。親近感を持ってくれるのではないかと考えた。身長の高いヌナイでは小さなタルタルであるMtさんを見下ろす形にもなってしまう。トパトパなら、同じ目線に立てるのだ。FFXIサービス開始一周年記念で設置されているNPCモーグリからクラッカーを貰い、それを手にウィンダス港へとたったか走る。

夕暮れの桟橋に、一人糸を垂らすMtさんを見つけた。手を振りながら走って近付く。Mtさんの隣に着いて、まずは「/joy」コマンドで喜んでおく。両手を広げてぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶタルタルのアクションはとても微笑ましい。竿をしまうMtさんに、景気づけのクラッカーを放つ。パーンと音を立て、振り向いたMtさんの顔面を突き抜けて後頭部で破裂するクラッカー。やっちまったー!と内心驚愕する私。

画像・ウィンダス港のMtさんと。
そっくりなMtさん(向かって右)とトパーズトパーズ(左)。

取りあえず気にしていないようなMtさんと暫し会話する。釣りのこと、クラッカーのこと。ちょっとしたネタを思い付くまま、少しずつ話す。思惑通り、一対一なら充分会話できるのだ。今度一緒に釣りをしましょうと約束してお別れ。ドルシネアでログインし直してから、Mtさんにフレンド登録をお願いした。


パシュハウ沼の挑戦

前日から、パシュハウ沼で一人黙々と狩りをしている。パシュハウ沼はいつも天気の悪い沼地である。バストゥークから荒涼としたグスタベルグを抜け、緑の豊かなコンシュタット高地の起伏を越えた先にある。ドルシネアが初めてジュノを目指したとき、そして五月の連休に行った個人的企画、倉庫キャラジュノ集合ミッションにおいて、ガルカのヘブンスコープが通り抜けた場所である。それ以降は殆どチョコボで安全を期して通り抜けるだけだった。

何故ここで狩りを始めたかというと、バストゥークで受けたクエストをクリアするためであった。カメの獣人・クゥダフの甲羅に付くという「ヨロイ蟲」を集める必要があった。他のアイテムがそうであるように、ヨロイ蟲もプレイヤーが競売などを通して取り引きしている。競売で入手すれば、何もわざわざ自分でクゥダフを狩ることもなくクエストをクリアすることが可能だ。……だがそれを、味気なく思うプレイヤーは少なくはないだろうと思う。いや、願う。

画像・パシュハウのカニと。
朝日の昇る中、カニとバトル。

パシュハウには二種類のメロンを持ってきている。ジュースを作るためだ。より厳しい相手との戦いを楽にするためには、戦いの最中にジュースを飲むことでMPを回復させることが不可欠だ。そしてヨロイ蟲を出すカメと戦うには、それが必要になることもあるということだ。

まぁ、それを抜きにしても調理のスキルを上げるためにメロンジュースの作成が丁度いいのだ。ジュースの作成に必要な「水のクリスタル」は沼に生息するカニを倒すことで入手できる。カニはクゥダフと比べると弱いので、カニを倒すことで必殺技・ウェポンスキルを打つのに必要なTPを貯めることもできるので、一石二鳥である。つまり、パシュハウでの狩りは次のようなサイクルで進む。

  1. カニと戦いTPを貯めながら、水のクリスタルを入手する。
  2. 水のクリスタルが入手できたらメロンジュースを作成する。合成に失敗したら、またクリスタルの入手を図る。
  3. TPが最高値である300近辺まで上がったら、ヨロイ蟲を出すクゥダフにチャレンジ。
  4. クゥダフとの戦いでTPが枯れるので、またカニとの戦いへ。

現在は攻撃用の武器に短剣を使っている。片手剣と比べると一発当たりのダメージは低いが、攻撃と攻撃の間隔は短くて済む。手数の多さで与えられるダメージが勝るのではないかと考えたのだ。そして短剣で使える有効なウェポンスキルは「ガストスラッシュ」。風属性の攻撃で、TPを貯めれば貯めるほど攻撃力を増すことが出来る。だから限界の300までTPを貯めるのだ。ただし魔法と同じ性質の攻撃であるため、魔法を感知して襲ってくるエレメンタルなどの敵には気を付けなくてはいけない。パシュハウはよく雨が降っているため、ウォーターエレメンタルが出現していることが多い。クゥダフとの戦いの際には、周りには充分気を付ける。

カニとクゥダフとの戦いの間に、回復のためにしゃがみながら何となくフレンドを検索してみる。リンクシェルのメンバーがダボイに集まって、パーティを組んでいるのを知る。今リンクパールを付けると、楽しげな彼等の声が聞こえてきたりするのだろうか……。曇っていく私の心を、パシュハウにそぼ降る雨の音が穏やかにしてくれる。

辺りをぴょこぴょこ跳ねるウサギを見て、ふと思い出したことがあった。そういえばCcさんが調理を始めたんだった。釣り師として腕を上げているCcさんが、その釣果を自分の手で調理しようと最近は野兎のグリルを焼いていると聞いた。自給自足の楽しさを語っていたっけ。

材料の調達に協力することにする。TP貯めをカニに加えてウサギでもやるようにする。シーフの技能「ぬすむ」でウサギから肉を剥ぎ取ってから叩き殺し、死体から更に肉をゲットしたりする。一ダースも集められればいいだろう。

パシュハウに生息するのはカニやクゥダフ、ウサギだけではない。巨体に似合わない円らな瞳が愛らしいといえば愛らしい「グーブー」、通称ドーモ君がいた。ほとんど癖になっている操作で少し先にいるグーブーを「調べる」と、思いがけず戦えそうな強さの表示であった。今まで危険な相手として避けてきた、近寄るのはチョコボに乗っていたときだけだったドーモ君。遂に相まみえるところまで来たのだ。強くなったなぁ、ドルシネア。

メロンジュースを用意し、TPを貯め、万全の準備をした上で、意を決してグーブーに戦いを挑む。

画像・グーブーその一。
可愛らしいといえば可愛らしいグーブーが……。
画像・グーブーその二。
怖ええーッ!!

こんな本性があったとは驚きだ。素晴らしくパワフルなフックなんかも繰り出してくる。凶暴性を秘めたキャラだったのね。とはいえ強さは想定の範囲内、無事に倒すことが出来た。

しばらく後で、近場に蠢く別のモンスターが目に入った。「モルボル」。ファイナルファンタジーシリーズではその嫌らしい攻撃が嫌われているという話である。私はファイナルファンタジーシリーズをプレイしたことがないのでモルボルと出会うのはこのゲームが初めてだ。だが陸に上がった緑色の巨大なタコといった感じの不快な姿は、これまでのモルボルを知らない私にも嫌悪感を与えるには充分だ。

こいつを調べたときにも、知らされた強さは意外に低いものだった。おや。先程のドーモ君と同じくらいの強さなのだろうか。じゃあもうモルボルにも勝てるようになってるのかも。グーブーへの勝利で気分良くなっていた私は、その様に判断した。先程と同じように準備を整え、軽い緊張と共にモルボルに戦いを挑んだ。

画像・VSモルボル。
モルボルの二本の触手がドルシネアを襲う。

ドカッドカッと与えられる大きなダメージに動揺した。違う! ドーモ君とは明らかに違う攻撃力だ! しかもそれが一度に二発も来る! 格闘のように二発攻撃をやってくるのか! 慌ててメロンジュースを飲む。ケアルIIによる回復は間に合うのか? MPは足りるのか? 一気に激しい動揺が広がった。キツイ攻撃を「絶対回避」の行使で避けるが、その発動時間である30秒はあっという間に過ぎ去った。

それでも相手の体力を半分は減らしていただろうか。しかしその時、あの悪名高い特殊攻撃が放たれた。「くさい息」である。食らった瞬間、ドルシネアがありとあらゆる状態異常に陥る。麻痺、毒、暗闇、沈黙、病気……とても把握しきれない身体の異常を示すアイコンが幾つも画面上部にズラリと並んだ。二行に渡ったアイコンを見るのは初めてで、あまりのことに一瞬頭が真っ白になる。

どうする? 何から治す? 毒。闇。いやまず体力の回復……いやいや、麻痺か!? 麻痺していては攻撃が止まる。一刻も早く倒す必要がある、麻痺はイカン。麻痺を治そうと白魔法・パライナの詠唱をしようとして、ピタリと手が止まる。アカン、沈黙やった……魔法唱えられへんやんか。

ソロにおいて回復手段である魔法が使えないということは致命傷である。間もなくドルシネアは地に倒れ伏した。敗北である。

力無く突っ伏したドルシネアの身体を見て申し訳なく思うのはいつものことだが、しかしこの時、私にはそれをも越える感情が湧いていた。それは爽快感である。圧倒的なパワーの前に呆然と敗れ去ることは、時として無力感より快感が勝る。昔、シューティングゲームで初めて戦うボス敵の強さに、「こんなの勝てるか」と笑いがこみ上げたことはよくあったものだ。この時私はモルボルに対して、その様な感覚を抱いたのだ。

レベル上げを止めたドルシネアだ。恐らく今後、モルボルを倒すことはないだろう。倒せない敵として、パシュハウを行くときに避ける敵となるだろう。だが、それでもいい。「越えなくても」いい。ドルシネアはこの世の頂点を目指す冒険者を辞めたのだから。ドルシネアが送る「平静な日常生活」に、モルボルを倒す強さは必要ではない。それがドルシネアの存在の方法だ。

清々しさを抱いてホームポイント……バストゥークに戻る。ヨロイ蟲も必要数揃った。取りあえず、パシュハウとはさよならだ。結局一ダース集められなかったウサギの肉をCcさんに送って、ドルシネアはモグハウスへと戻った。


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