Last Modified : 10 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.3 "Dulcet Wind to Heaven".
一週間ほど前のことだ。私はMkさんと二人でパーティを組んで、ジャグナー森林にやってきていた。私はクエストアイテムを取りに、Mkさんはトラなどを狩ってお金稼ぎ。それぞれの目的のためにお互いを手伝う形である。
まずは私のクエストアイテム集めから。カブトムシを狩り続けるがなかなか出ない。少々時間を要してアイテムを揃えた。次はMkさんのトラ狩りだ。しかしジャグナーを北上していたところで、私が受けているもう一つのクエストを思い出した。ジャグナーの北西にある湖に会うべき人(NPC)がいたのだ。それを伝えてMkさんにつき合ってもらう。
湖で用事を済ませ、さてこれからMkさんのトラ狩りを再開させようとなったところで、リンクパールに緊迫した声が流れ始めた。リンクシェルメンバーのある方がクエストのために組んだパーティでダボイに進撃、しかし不運にも全滅してしまったというのだ。
「ダボイ」とはジャグナーに隣接するオークの本拠地である。ドルシネアはまだ足を踏み入れたことすらないのだが、強力なオークが多数徘徊する危険地帯と聞いている。オークの大量トレインのために、レベル上げに来たパーティが幾つも粉砕されるという悲惨な事故の話題なども事欠かないようだ。最近のバージョンアップでオークが強化されたそうで、更にやばいことになっていると聞く。
プレイヤーキャラは死ぬとその場に倒れ伏し、ホームポイントへの強制転送までのカウントダウンが始まる。制限時間は一時間。この間に自らホームポイントへの移動を選択するか、他の冒険者からの蘇生魔法を待つことが出来る。蘇生魔法を受ければ、「衰弱」という非常に弱まった状態にしばらく陥ることになる代わりに、死ぬことで失った経験値をある程度取り戻すことが出来る。更に加えてホームポイントに戻らずにその場で復活することが出来る訳だ。
彼等をレイズで救うべくRbさんが出撃したようだが、それは少し離れたジュノからであり、到着にはまだしばらく掛かりそうだ。全滅してからかなり時間が経過しているらしく、残り時間が刻々とリンクパールに告げられる。それを聞いたMkさんが、救出に向かうと言うやいなや、慌ててダボイへ向けて走り出した。戸惑いつつも、取りあえず私も後を追う。ダボイの近くでチョコボに乗ったRbさんが我々を抜いていった。
ダボイに入っていくRbさんとMkさんの二人。ダボイ近辺のオークは既にドルシネアにとっては危なっかしい存在だ。一体相手なら何とかなるが、リンクされでもするとまず死ねる。オークにビクビクとしながら、ドルシネアもダボイへと入った。
中に入らずじっとしてそばのオークを「調べる」と、やはりギリギリ勝てる程度の相手だ。到底中に進むことは出来ない。私はとても役に立たない。救出はお二人に任せる他はないようだ。立ち去ろうとしてオークに絡まれ、必死のバトルを繰り広げる。未だパーティを組んでいて、体力ゲージを見て危機を知ったMkさんに心配される。
ダボイを出、周囲のオークを注意深く避けながらジャグナーを走る。既に意味もないので、Mkさんとのパーティも解散した。一人となった私は私自身のジャグナーでの目的も果たしたので、サンドリア王国への帰途に付いた。
この時の私の心境は、正直に言うと「悔しさ」に包まれていた。役に立たないことに対する悔しさではない。非常に身勝手な話ではあるが、「Mkさんを持って行かれた」という悔しさである。
レベル上げでパーティを組めないのならクエストなどでと考えて、それが果たせて嬉しかったのだ。仲間と共に遊べていることが嬉しかった。それを中途半端なところで、外的要因で絶たれてしまい不満を感じたのだ。
また以前記したように、私には個人的に持つ「冒険の定義」があった。冒険の最中に見舞われた困難やその結果に対しては、その場に居合わせた者だけで乗り越える。でなければ離れた者に救援を求めるよりも、ホームポイントに戻ってその冒険をやり直す。それが私の持つ冒険の定義だ。
もちろんそれを他人に振りかざすことはない。この時も特に何も言わず、パールからこぼれる成り行きをただ聞くだけだった。助けに行くという一般的な行動と自分の価値観との相違にジリジリと心を焦がしながら、サンドリアへとドルシネアを走らせた。
そうしてまた、一つの不満が私の中に蓄積された。誰にも告げることのない幾つもの不満は、私の中で静かに増幅していった。
ジュノ港に行く。ジュノで最も下層にある港は海に面してはいるが、しかしマウラ、セルビナと異なり海を行く船は一隻も行き来していない。この港に出入りしているのは、サンドリア、バストゥーク、ウィンダスの三国と、辺境のカザムの四カ所を往復する空飛ぶ船、飛空挺だ。
辺境行きの飛空挺エントランスの窓口に行き、ガルカの係員に持ってきた物をトレードする。パルブロ鉱山、ギデアス、そしてユグホトの岩屋で入手した三つの鍵だ。これらと交換で、遂にドルシネアはカザム行きの飛空挺パスを入手した。これで入場料さえ払えば、あの飛空挺に乗ることが出来るのだ。但しこの時入手したのは、あくまでカザム行きの飛空挺に限ったパス。三国に向けた飛空挺に乗るには、また別のパスが必要だ。
パスを入手したドルシネアは、しかしカザムへ行くことはなかった。以前は一人で鍵を揃え、一人で飛空挺に乗るつもりだった。しかし、Rnさん、Tkさん、Rbさん達と共同で鍵を集める中で、次の日曜日に一緒に飛空挺に乗ろうという話になったのだ。もちろん、これを拒む理由などない。
だが、その後鍵集めを手伝ったMhさんも誘ったとき、Mhさんは残念ながら都合がつかないということだった。気にしないで行ってきてと言うMhさん。だが私は少し気になった。他のメンバーと微妙にプレイ時間にズレがあるMhさんは、以前からリンクシェルメンバーが集まるような突発的なイベントに参加できない傾向があった。今回の飛空挺、Rnさん達には三人で行ってもらい、私はMhさんと一緒に行こうかなと一人考え始めていた。
リンクシェルにおけるイベントについて、最近考えていたことがある。無理に全員揃ってイベントを行うには、既にリンクシェルのメンバー数は多くなり過ぎているように思えるのだ。何しろ既に10人を超えている。全員が同時にログインしていることすら稀なのだ。
ログインしたとき、リンクシェルのメンバーが数人集まってパーティを組んでいたりすると、それに加われなかったことを少し「寂しく」思う。特に私はレベル上げを止めた者。レベルが離れていては、レベル上げのパーティには加われない。先日のダボイの出来事のように、入っていけない場所も多い。どうしようもないことだ。
どうしようもないことではあるが、それは自然な感情だと思う。それを抑えるというのは少々不自然であると思う。自分は抑えられたとしよう。しかし、同じ感情を別のメンバーだって抱いているかもしれない。そのメンバーにも抑えろと言うのか。私にはそれはできない。そう言ってしまうのは……例えば既に頑張っている人に対して無責任に「頑張れ」と声を掛けるような……冷たいことだと思えるのだ。
だから、その「寂しさ」をカバーする方法はないかと考えた。その結果が、「小さなイベントを多く行えばいい」というものだ。今回のイベントには参加できなかったけれど、この前のイベントに参加できたからいいや。次のイベントの参加できればいいや。そう思えるような環境に持って行ければいいと考えた。イベントというのも、サポートジョブの取得のような大きなものでなくてもいい。誰かの一つのクエストにおけるアイテム集めを手伝うのもいいだろう。
要するに、会えばいいのだ。会うこと自体を大仰なことにしないで、ごく普通によく会っていればいいのだ。いつも会っているのなら、たまに会えなくても寂しいとは思わなくて済むだろう。それが私なりの結論だった。
とあるクエストをクリアするため、ドルシネアをバストゥークまで走らせた。リンクシェルで会話しながらメンバーの居場所を確かめると、どうやらこれまでとはまた別のメンバーの鍵取りに行っているようだった。もちろんRbさん達が手伝っている。
バストゥークで買い物を済ませ、再びチョコボでジュノを目指す。あの方は最近レベル上げを頑張っているようだったので鍵取りはまだやらないのかなと思っていたのだが、どうやらそうでもないようだ。これなら一緒に飛空挺に乗れるかもしれない。そんな風に考えていると、Rbさんが正にその様に誘っている声が聞こえた。
だがそこで空気が変わった。その誘いを唐突に思ったその方の不満が聞こえる。その言葉を私は、レベル上げに使う時間を飛空挺に割かれる不満と受け取った。実際はそれとは異なる理由だったのだが、その時の言葉からは本当の理由は推察できなかった。それ故、その時間すら取れないの?と尋ねる。真実との差異から、不満は怒りにまで発展してしまった。私は戸惑い、言葉を失った。
その方とのメールのやり取りの中、私はここ数週間で蓄積し増幅させた不満を、遂に爆発させてしまった。
それから数日間。オンラインでその方との大きな隔たりを感じた私は、長く装備していたリンクパールを外すことになる。