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Last Modified : 10 JANUARY 2004


命を懸けた調理

ドルシネアは「ダングルフの涸れ谷」に来ていた。バストゥークの近くにある、硫黄の匂い立ち込める入り組んだ谷だ。バストゥークのとあるクエストで、この地で晴れた日にしか手に入れられない物が必要なのである。この時はちょうど晴れていたため、これを探しに出掛けてみたという訳だ。

それが手に入る場所は何処なのか、知らなかった。攻略本とか攻略サイトなどで調べることも可能だが、それをやってしまうのは少々味気ない。ドルシネアは涸れ谷をまだあまり歩いていないことだし、散歩がてら探し回ってみるのも悪くないだろう。レベル26のシーフであれば、絡んでくる敵もあまりいない筈……。

自分で作ったマトンのローストを食べつつ走っていると、涸れ谷にはレベル10を少し超えたくらいの冒険者を何人か見られた。魔法を使えない冒険者にプロテスを、ヒーリング中の者にはケアルを掛けて去る。少し離れたところでパインを搾り、ジュースを飲んでMPを回復だ。勿論、調理スキルを上げるのも兼ねている。鞄の中にはパインが一ダースほど。パインはそれ自体それほど高くもないし、ジュースを作るには二つの消費だけで済むし、経済的だ。そしてMPの回復量もなかなかだ。

涸れ谷を奥へ行くと、岩肌にぽっかりと穴が空いているのを発見した。ただの穴ではない、人工的に整えられた入り口になっていて、その先に通路が続いている。涸れ谷に人工的なものを見たのはこれが初めてだ。何処に続いているのだろう。

そしてこの通路には一際強いゴブリンが立っていた。ブブリム半島やバルクルム砂丘で最強クラスのゴブリンだ。こんなところにもいるなんて。まるでこの先に行かせないようにするかのようだ。……何があるのだろう。きっと何かあるに違いない。強い興味を抱いた。

確かに彼等は強いが、調べると「楽」と表示される。戦えない相手ではない。……まぁ、今や「楽」と戦うのが必死になってしまう訳だが。そのうち更にレベルが上がると、ソロでは「練習相手にならない」敵と必死のバトルとなるのだろう。FFXIとはそういうゲームである。

ともかく、この先を見たいと思ったので戦いを挑むことにした。ゴブリンが後ろを向いた好きに走り寄り、不意打ちを叩き込むことで戦闘開始だ。ボロボロになりつつ、なんとか勝利。厳しい戦いだ。ヒーリングして回復を済ませた後で少し通路に入り込む。通路はすぐに右へと曲がっている。そっと向こうを覗き込むと、通路の先にまたゴブリンが歩いていた。これはやっかいだ。

一戦が長く、その後のヒーリングにも時間が掛かる。そうすると倒したモンスターがまたフィールドに現れて(ポップして)しまう。つまり、挟み撃ちに合う危険性がある訳だ。挟み撃ちがなくても、帰ってくるときにまたゴブリンと戦わなくてはならないのだから……先に行くのはちょっと危険かなと思う。

通路を出たところで迷っていると、通路の右側から姿を現したゴブリンがこちらに振り向いた。まさかこの距離で気が付く?と驚く間もなく、ゴブリンが走り寄ってきた。絡まれた! やむを得ず迎え撃つ。

敵は黒魔道士系のゴブリンのようで、黒魔法を撃ち込んでくる。そして何よりキツイのは、反撃効果のある黒魔法・ブレイズスパイクを身に纏っていることだ。これを纏っている相手に攻撃を仕掛けると、攻撃が当たる毎に反撃ダメージを受けてしまう。スパイクに拳を叩き付けているような状態だ。ドルシネアの体力がどんどん減っていく。

戦闘にはなんとか勝利したものの、ドルシネアの体力は既に殆ど無い。そして食らった攻撃魔法・フロストの効果で徐々に体力が減っていく。しゃがんで体力回復を図ることもできない。MPも戦闘の中で使い切ってしまった。残り体力が20を切った。こ、このまま死を待つしかないのか!?

立ち尽くしたまま絶望を感じているその時、一つの光明が脳裏に差し込んだ。ジュース! 今は持ってないが作ることは出来る、材料はあるのだ! それでケアル一発分でもMPを回復できれば! すぐさま鞄から「水のクリスタル」を取り出す。続いて材料のカザムパインを二つ。急いで合成開始! 合成の最中はヒーリングと同様にしゃがみ込むが、ヒーリングとは異なりスリップダメージで強制的に立たされることはないようだ。ジュース作りの最中も勿論体力は減っていく。

この合成に失敗したら終わりだ。もう一回合成している暇はない。パインジュース作りはもうそうそう失敗することはないが、失敗しないということはない。ここで失敗してしまったら……! 祈りながらドルシネアの調理を見守る……光と共に、ジュースが一本出来上がった。成功だ! そして体力は10を切った。

急いでジュースを飲む。効果を発揮し、MPの回復が始まった。減るHP、増えるMP。減るHP、増えるMP。ケアル一発に必要なMPは8。それが貯まるまで体力は保つのか!? 減るHP、増えるMP。既にケアル詠唱の用意は出来ている。MPが……8貯まった! 残り体力は2。ケアル詠唱!

詠唱の最中に死んでしまったら……とゾッとしながら見守る。HP2、1……25。ケアルが間に合った。一瞬後、リンクパールに安堵の叫びが木霊した。

画像・ブレイズスパイク。
別の場所にて。炎のスパイクがドルシネアを襲う。

伝えなければ伝わらない

再び、ドルシネアはバストゥークにログイン。リンクシェルのメンバーも多くログインしていたので、ここぞと話を振っておく。Ccさんのサポートジョブのことだ。この間の、バルクルム砂丘での狩りからもう一週間が経っている。あの時、グールからのアイテムが入手できないまま、Ccさんは未だサポートジョブを取得できていない。最近は以前から好きでよくやっていた釣りをして過ごしているようだけれど、流石にサポートジョブが欲しくない訳がないだろう。Ccさんの狩りを手伝うために、ドルシネアはCcさんのいるバストゥークに数日前から滞在している。赤魔道士はレベル18、適正レベルになっていた。

メンバーで話をしていると、ちょうどそこにCcさんがログインしてきた。ジャストタイミング! Ccさんの為にメンバーが集い、すぐにグール狩りに出掛けられるだろうと一人喜んだ。この間下見をしておいたグスゲン鉱山なら、さほど手間も掛かるまい。

画像・Ccさんとドルシネア。
相変わらず素っ裸のCcさんは、当リンクシェルの裸族筆頭だ。

だがこの時は、私の考えたような展開にはならなかった。メンバーの反応は鈍く、話は集結する流れにならない。サーチで調べると、ジュノにて仲間内でパーティを組んでいるのを見つける。それを私は、これから仲間を募ってレベル上げに行こうとしているものと判断した。そして少なからず失望する。サポートジョブの取得は皆それぞれ苦労したんじゃないのか。何故Ccさんをフォローしようと思わないのだろう。Ccさんはもう一週間取得できずにいるというのに。更にこの時発せられたメンバーのとある言葉に、それほどレベル上げが大事かと腹立たしさを抑えきれなかった。

だがその思いを私は、何処にも、誰にも表していなかった。全て自分の中に押し込めていた。苛立ちのあまり一人バストゥークを飛び出して、グスゲン鉱山を目指していた。振り返ると意味不明な行動である。……私は機嫌を悪くすると黙り込む癖がある。だがそれは、ネットを通じたコミュニケーションには全く意味を成さない行為だ。直に会っている相手になら、不機嫌の具合が伝わるだろう。だが顔を合わせていない場合、思っていることは伝えなければ伝わらないのだ。考えていることが相手に自然に伝わるとか、自分がこう思っているのなら相手もこう思うだろうというのは、ネットには合わない都合の良すぎる考え方だと今は思える。

そしてメンバーも、Ccさんのことを充分案じていたのかもしれない。この時の私の腹立ちが伝わっていないように、相手からも伝わっていないこと、伝えられていないことがあるのかもしれない。私にはそこまで気を回すことは出来なかった。私の考えを察しろというのが勝手なように、語られない思いを察するのは難しいものだと思う。

結局、Rbさんの問いかけに「集まって欲しいです」とCcさんに言わせる形で、メンバーはグスゲン鉱山を目指すこととなった。この時の私は、Ccさんに頭を下げさせてしまったと感じ、この結果に大きな不満を抱いた。一人先に辿り着いていたグスゲンを出て、メンバーの到着を待つ。

一番に辿り着いたのはRbさんだった。早速パーティを組み、パーティ会話で抱いた不満を軽く愚痴ってしまったりする。そんな中、Rbさんが言った。私も気になっていた。あれ程毎日パーティを組んでいたCcさんが、連日釣りをしている状態を……と。

それを聞いてハッとした。好きで釣りをしていたのではなく、パーティを組めなくて仕方なく釣りをしていたのかと。そうだ、確かに野良パーティに参加してぐんぐんレベルを上げていたCcさんが、全くパーティに参加せず釣りばかりしていたのは言われてみれば確かにおかしい。パーティに誘われなかったのだ、サポートジョブを持っていないために

レベル20を前にしたレベル帯の場合、セルビナでパーティを組むのが定番だ。それ故冒険者はセルビナに集う。そしてセルビナでは大抵後衛が不足し、前衛が余っている。余っているならば、より性能の高い者が選ばれるのが自然な流れだ。その考えに沿うならば当然、サポートジョブを持っている者と持っていない者では前者が選ばれる。キャラクターの性能も高いだろうし、それを操るプレイヤーの熟練度も高いだろうからだ。サポートするジョブを上げているものの場合、効率よく経験値を稼いでさっさとレベルを上げてしまいたいというのもあるだろう。わざわざサポートジョブ見取得の初心者に付き合いのも、サポートジョブクエスト用のアイテムを集める手伝いをすることを渋るのも、仕方がないと言えなくもない。

だからこそ、Ccさんはレベル上げに行けずに釣りをしていたのではないか。サポートジョブを得られないままにメインジョブのレベル上げをしても、あまり意味がないという考えもある。私が思っていたよりも、Ccさんは辛い状況にあったのではないか。私はCcさんを思いやっていたつもりだったけれど、それは全くの思い上がりだったのだ。

画像・Rbさんとドルシネア。
長老的存在・Rbさん。小さいタルタルだけれど当リンクシェルでは最強だ。

思えば、近いレベル帯での狩りに拘るメンバーを穏やかにたしなめたのもRbさんだった。我々の意向よりも、何より当事者のCcさんの気持ちが大切。Ccさんが楽しめることが大切なのだと、Rbさんは語った。頭が下がる。リンクシェルの長老的存在であると私が捉えるRbさんだが、今日は色々学ばせてもらった。感謝したい。

いつの間にか、他のメンバーがグスゲン鉱山に入っていた。慌ててRbさんとグスゲンに向かう。いよいよ初めての、グスゲン鉱山の狩りが始まる。


聖子の歌とグールのサレコウベ

集まったメンバーで、グスゲンでのグール狩りが始まった。グスゲンの入り口近くに陣を取り、グールを一体一体釣ってきてボコボコにするというものだ。釣りにはシーフのドルシネアが。先日の偵察で構造をある程度知っていたし、シーフのレーダー能力は狭い坑道で特に役に立つ。

砂丘と異なり、グールの数は結構多い。それ故にすぐ入手できると思っていたアイテムだったが、しかしなかなか出てくれない。次から次へとグールを叩き伏せるのだが、たまっていくのは骨くずばかりである。終いにはグールが枯れてしまったり。暇つぶしに陣のメンバーが周りの弱いホネを壊滅させたりしている。

グールを連れて行く行為を通して、私はより良い「釣り方」を学んでいた。レーダーを見て、どの程度の間合いを取っていれば追っ手の攻撃を受けないかを知った。とんずらを用いた釣りだ。とんずらを発動させて敵を攻撃、追ってくる敵をレーダーで見つつ、走っては止まり走っては止まりで一定の間合いを保つのだ。シーフが釣りに適したジョブと言われる所以を、身をもって知った。

いつも帽子を被っているタルタルのMkさんなど、リンクシェルのメンバーが続々とグスゲンにやってくる。すっかり楽しくなってきた私は、グールを誘いながら何故か歌まで歌っていた(松田聖子の歌だったような)。だがそれはやはり油断だった。グールの側にいたイヌに絡まれてしまったのだ。イヌの特殊攻撃で「病気」の状態にされると、ヒーリングによる回復ができなくなる。MPの回復が出来ないのはパーティにとって致命的である。

とんずらでイヌから逃れようと、グスゲン鉱山を奥に走るドルシネア。どうにかイヌは捲いたのだが、遠く離れて仲間の元に帰るのがキツイ状態に陥った。一人坑道を進んでいくとグールを発見。というか発見されて攻撃を受ける。慌てて出口方面に走るとまたグールと鉢合わせ。これにも絡まれる。逃げる。やや、またグールだ。ボコボコボコボコ……血が、血がー。

グール達に惨殺されそうになったドルシネアであったが、駆けつけた仲間と通りがかりのタルタルさんに助けられて事なきを得る。少々反省、図に乗り過ぎた。その後は慎重さを加えてグール狩りに戻る。程なくして、やっと最後のアイテムが出た。Ccさんがこれをゲット! 後はセルビナでクエストをクリアすれば、サポートジョブを取得ということになる。

画像・サポートジョブ取得へ。
当然、皆でセルビナにダッシュだ!

砂丘でエルヴァーン紳士・Lxさんも駆けつけ合流。メンバーで白い砂を跳ね上げつつ、絡んできたゴブリンをボコボコにしつつセルビナへ。そして無事サポートジョブを習得したCcさん。メンバーからのお祝いの中でCcさんが発した「これでやっとパーティに行けます!」という言葉は、私の胸にちくりと刺さった。

本日のまとめ

画像・サポートジョブゲット!
囲んでお祝い。Ccさん、おめでとう。

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