Last Modified : 8 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.1 "The Mother Dulcet Wind".
「筋肉少女帯」という、既に活動を停止して事実上の解散状態にあるバンドがある。彼等の初期の曲……インディーズの頃から、アルバム「月光蟲」辺りまで……を聴くと、私は必ず、とあるゲームを思い出す。その名は「ポピュラス」。特にメガドライブ版……いや、正確には海外で発売されたジェネシス版のポピュラスだ。
このゲームをプレイしていた当時、友人に勧められて借りていた筋肉少女帯のCDも聴いていた。結果、双方の印象が強く結び付き、今なお二つセットで思い出すようになったのだ。ポピュラスをプレイしていた当時は、六畳一間に同期の人間と二人で住んでいた。布団の上に座り込んで、14インチのテレビを仰ぎ見るようにしてプレイしていた絵が思い起こされる。
ゲームと曲、そして当時の状況をセットにして記憶しているゲームというのは、他にもある。「ライフフォース」というシューティングゲームに思いを馳せると、当時毎日通っていたゲームセンターを思い出す。扉を開けるとカウンターの中に朗らかな店長の顔があり、その向こうから店内に響くライフフォースのBGMが聞こえる。そしてそこでジョイスティックを握り、曲に乗ってピンク色の肉塊や降り注ぐ弾幕をかいくぐっているのは、よくゲーム談義を交わした友人だ。
PC98版「EVE burst error」をプレイしたのは、人生でトップクラスの失敗をしたときだった。何かにつけて後悔し、自らを叱責し軽蔑しがちだった私を、ゲームに引きつけることで落ち着かせてくれた。自分に自信を無くした私を、このゲームの登場人物は随分力づけてくれた。テープに録音したFM音源のBGMを、その年何百回と聞き返した。
この先数年後になって、今プレイしている「Final Fantasy XI」を思い出すとき、きっと同時に心の中に流れるだろう曲が一つある。先に挙げた筋肉少女帯のメンバー、大槻ケンヂが今所属するバンド「特撮」の曲、「パティー・サワディー」だ。そのアップテンポの歌を聴くとき、そして歌うとき、私は青空の下でサルタバルタの草原を走るドルシネアの姿を思い描く。元気に両腕を振って、バランスを取るように尻尾を後方へ伸ばして、パティー・サワディー 愛ってへっちゃうんだよ
、と切ない詞を歌いながら、細い身体のミスラが走っていくのだ。
そして今後、ヴァナ・ディールの何処かを走るとき……ドルシネアはまた別の歌を、歌っているのかもしれない。そして後にその歌を耳にするとき、私の意識はまたヴァナ・ディールを走るのだろう。
いつものようにモグハウスに起床……じゃないっ!? 起きるなり、いつもと違うBGMに驚き戸惑う。見慣れない部屋にモーグリの姿もない。隣に立つのはしょぼくれたジジイだ。……そうでした。前日はサポートジョブを習得した後で、セルビナの村長宅に泊まったのでした。ジジイ(村長)とベッドの間に、惚けて立つドルシネア。ベッドを奪い寝ていたせいか、身体が何となくジジイ臭い気がします。
取りあえず、ウィンダスに帰らねば。折角習得したサポートジョブも、モグハウスに帰らなければ設定することが出来ない。パーティへの誘いも悪いけれど断って、ドルシネアはぶらりとジジイの家を出た。船が来ないことには、帰りようがない。
Mhさんとリンクシェルで会話。何となしにフレンドリストを確認すると、Mhさんの居場所はセルビナ行きの船の中と出た。……こっちに来てるじゃないか。何しに来るのだろう。パーティにも所属していないようだ。一人旅? セルビナ近辺でレベル上げか? でもそれはMhさんっぽくないな。
やがて船が着き、桟橋でMhさんと手を振り合う。
二言三言の挨拶だけして、早々に船に乗り込んだ。やがて船はマウラに向けて海を滑り出す。Mhさんとの会話も途絶え、ボーっと海を眺めながらこれからの冒険について計画を練りだした。サポートに付けるジョブのレベルを上げなければならない。まずは何といっても白魔道士だろう。回復魔法が使えるようになると、ソロプレイがなんと楽になることか。そして戦士も上げておこう。パーティプレイにおいて、挑発で敵を引きつけて盾となることが出来る。前衛としての役割が、少しは果たせるようになるだろう。
しばらくしてまたフレンドリストを見てみると、Mhさんの居場所として表示されたのは、我々にとって見慣れない土地の名だった。「コンシュタット」。Mmさんの居場所として表示されたことは何度かあったが、FlさんやMhさんのそれには示されたことがなかった名前だ。もちろん、ドルシネアも行ったことはない。メニューから「リージョン情報」を選んで、世界地図を表示する。コンシュタットをそこに求めると、どうやらそれはバルクルム砂丘の更に先に当たるようだった。
何故またそんなところに。やはりパーティで狩りだろうかとサーチを掛けるが、パーティには所属していないことが分かった。一人でいるということ? いや、もしかして高レベルの知人がいて、パーティは組まずに一緒に行動しているとか。……なんでそんなことを? 意味がない、有り得ないな。「PL」を行うのならともかく。だがそれをMhさんがするとは思えない。
高レベル冒険者の保護の元で安全に狩りをする行為を、オンラインゲームの世界では俗に「パワーレベリング」(略してPL)という。賛否両論のある行為だ。キャラクターのレベルは早く上がるが、それ故プレイヤーのレベル(技量)が磨かれない危険があるからだ。何より、「苦労を楽しむ者」から見れば、そのような行為はゲームの楽しみを味わうことなく先へ進む、勿体ないものと思える。ただし、FFXIではレベルが離れると一緒に遊べなくなるため、友人とレベルを合わせるためにPLを行うケースもあるのだが。
まぁ、いろいろ推理してみたりしたが、それ以上詮索するのは止めにした。ストーカーでもあるまいし、Mhさんの行動を全て把握する必要なんて無い。それぞれの冒険がある筈だ、それを尊重しよう。時には共に冒険をし、時には別々に冒険をする。それを楽しく語らうのも、各々の心にそっとしまうのも、それでいい。自由でいるのがいい。そうしていれば、自分もまた自由でいられるだろう。自由に楽しく、この世界を満喫しよう。海の上に浮かぶ満月を見ながら、そんな風に思った。
マウラに到着。ブブリム半島横断へ緊張感を高めている中、Mhさんの元気な声がリンクパールを通して響いた。
「新たな食材求めて3000里。バスに到着ですー!」
バス! バストゥーク! プレイヤーがスタートできる、三つの国の一つ! Mhさんはウィンダスを離れ、危険地帯を突破して異国へと辿り着いたのだ。
「同じ敵でのサポ上げも飽きたので、心機一転です!」
ストレスを発散できた気分の良さが、冒険をやり遂げた達成感が、言葉として溢れ出ているかのようだ。「よくやった! 感動したっ!」と賞賛する。間違って、リンクシェルへの会話ではなく、周囲へのSayをかましてしまう。恥ずかしい。建物の中にいたので、外の様子が分からない。誰も聞いていなければいいなと思う。
その後、ブブリム半島を何とか横断。だいぶ慣れてきたが、ゴブリンとゾンビの通せんぼには長い時間の足止めを余儀なくされた。ウィンダスへ帰還し、「にかわ」を作って久しぶりの錬金術スキル上げ。Flさんがログイン。Flさんも昨夜はセルビナでログアウトしていた。早速、Mhさんがバストゥークにいることに気付いたようだ。渡ったことを告げると、いたく好奇心を揺り動かされたようだ。元々三人の間では、最も冒険心の豊かな方。その分死んでいる回数も多いようだが。
白魔道士にジョブチェンジ。そしてサポートジョブに赤魔道士を設定。ドルシネアの冒険の、新たなステージが始まった。