紙本水墨淡彩色紙。 昭和51年。 1葉。 縦27cm 横24cm
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蟹は手習いの初めから終生無心に数多く描いた題材です。作者は蟹を描く時には手が無心に自在に動いて面白く描けると語っていました。特に色紙には素晴らしい作品が多くあります。蟹百態と称したい程蟹を沢山描いています。蟹を描く作者は初心の無垢な少年に立ち返る心境だったでしょう。画面の蟹は深い藍色で特に美しく綿密に部分的にも彩色されています。小さな目にも鋭気があり、脚の並びも活き活きと躍動しています。
私は子供の時、隣の称名寺に寄宿していた旅の雲水から蟹の画を習いました。蟹が描けるようになると、雀を描きたくなりました。次には竹を描きたくなり、次には人物を描きたくなりました。勉強が波紋のように拡がっていきました。
蟹の絵は若い時にも描きましたが、今頃(昭和52年頃)でないと描けないものがあります。
芸は、そのままで技巧がないという事が素晴らしい事です。
トルストイ、ドストエスキーや、どんな文学でも「栄光」というものは意味のない事を伝えています。