『これから論文を書く若者の ために:究極の大改訂版』
表紙 に賭けた魂の闘い
その3

若手研究者のお 経


2015 年 1 月 26 日。撮影の日だ。共立出版の Y 内も来てくれた。カメラに強そうで助かった。研究棟 2 階のロビーで撮影を行った。ロビー に二組の学生がいたが、一組は、カメラを持って大勢でやって来た私たちを見て、目を合わさぬよう立ち去っていった。もう一組は、撮影の間中ずっと いた。何をやっているのかと疑問に思ったことであろう。本を目にすれば、その疑問が氷解するかもしれない。
 まずは、肩を組んで整列した姿を撮影した。

一番手前の M 月には、白い紙のキャプテンマークを巻いてもらい、右手には、ペナントがわりの論文を持たせた。良い感じだ。
 次に円陣の写真を撮った。ところがここに、大きな苦悩が待っていた。

まずもって、顔を出してよいものか。絵になっているとはいえ表紙に出ているので、今さら隠すのはほとんど無意味だ。しかし、生写真では隠してみる ことにした。ただし、最大の問題は他にあった。円陣では学生が丸くなる。そのため、円陣内から撮影すると、一部の学生しか写らないではない か! はたして、写らなかった学生はモデルになったと言えるのか? 本を貰えるのか? いや、本のことはよい。学生としてはよくないか。モ デルになると喜んでいるのに、写らないのは可哀想だ。…………… どうすればよいのだろう。考える時間が欲しい。いったん休憩することにした。
 酒井は、研究室の居室に戻った。そこで何故この絵を見たのか、今となってはわからない。ネットで絵を見ることなどない酒井が、この日は見たの だ。

CATAGフリー絵画・版画素材集より
レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐。知らぬ人のない名作だ。…………… しかし、何故、13 人で会食するのに横一列に並んでいるのか?



通常は絶対にこうだ。



そうか! 酒井は外に飛び出し学生を集めた。

横に広げればいいんだ。そうすれば全員が写る。見る者の視線を密かに意識した構図。最後の晩餐に用いられた手法が、500 年の時を超えて、究極の大改訂版の表紙にも使われた。

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