『これから論文を書く若者のために:究極の大改訂
版』
表紙に賭けた魂の闘い
その2
若手研究者のお
経
2015 年 1 月。『これから論文を書く若者のために:究極の大改訂版 (第 3
版)』を脱稿した酒井は、久しぶりの開放感に浸っていた。い
や、開放感に浸りながら、放置していた仕事に手を付けていた。ただ、頭の片隅に、「表紙をどうするのだろうか?」という思いが常にあった。
初版の表紙は、酒井が撮った学生の写真を元にデザイナーが作り上げたものであった。
ユアテックスタジアム仙台 (当時は、仙台スタジアムと呼ばれていた) に整列し、論文に挑む学生達の図であった。昼の闘いだ。第 2
版の表紙は夜の闘 いに変わった。
学生はそのままだった。
さて …………… 、 酒井はときどき思案に囚われた。究極の大改訂版 (第 3 版)
ではどうするか。版が変わったことを明瞭にせねばならない。---------------
酒井は、随分前にとあるブログで見た記述を思い出していた。初版と第 2 版の表紙の違いを、「GK (手前から二人目)
の服が赤が初版、青が第 2 版」と記していた。
こんなに違うのにそんな所で区別しているのか。軽い衝撃を受けた。少々の変え方では駄目に 違いない。……………
雪を積もらせるか。雪が降りしきり一面真っ白なら、変わったことはわかるであろう。
しかし、大雪の中で整列している意味がわからない。写真を 撮り直す?
ふっとその思いが湧き、その夜にはもう、撮り直すことに決めていた。そしてインターネットに向かい、参考となる写真を探した。
11 人の普段着の学生を使うことに変わりはない。問題は、どういう写真に変えるかだ。やがて酒井は、二つの写真に目を留めた。一つ
は、試合前に、肩を組んで整列して国歌を聞いている姿であっ た (参
考写真)。背中から撮るのに惹かれた。もう一つは、試合前に円陣を組んでいる姿であった (参
考写真)。この二つのパターンで撮ってみるか。酒井は、共立出版の Y 内に、表紙の写真を撮り直したいと伝えた。
それからの数日間、酒井は、研究室の学生を見つけると、モデルになってくれるよう頼んだ。本が出来たら一冊あげると伝えた。皆、喜んで引き受け
てくれた。「究極の大改訂版(第 3 版)」とは言わなかった。新製品が出ると、「放出感謝祭」と謳って旧製品を出すことがよくあるそうだ。