15 第8回高校生クイズの問題に学ぶ

 高校生クイズは昨年で第21回を迎えたが、この間にクイズを取り巻く状況が大きく変わった。ウルトラクイズは時代が変わっても、クイズ問題の作られ方・こだわり方はそれほど変わらなかった(「今世紀最後」は芸能がやや多めだったが)。それに対し、高校生クイズではクイズを取り巻く状況の変化に伴って、問題文が大きく変化してきた。大学のクイズ研究会などが問題を請け負うことが多いからだと思うのだが、そのことの是非はさておく。

 今回述べたいのは「第8回」である。第8回の問題は、他の大会と比べて異質な点が多く見られるのだが、今まで意識されてこなかった。実はその異質さは、上手いこと問題作りに取りいれると、個性的な問題作りの一助となる性質のものなのである。皆さんの問題作りに貢献できれば幸甚。

A 2択問題が多いことについて

 同じ情報を元にした問題でも、「何を答えにするか」によってだいぶ印象は変わってくる。例えばこんな感じ。

  1. 出生届を出すのは14日以内、では、死亡届は何日以内?(第3回ウルトラ・決勝)
  2. 出生届と死亡届。日本の法律で、より早く出さなければならないのはどっち?(第8回高校生クイズ・中部)

 この場合、1番が確実な知識を要求しているのに対し、2番は当てずっぽうでも答えられるから、勝負どころの早押しだと一か八かで押そうという気持ちも起こりやすい。1番と2番の問題の正解率は2番の方がはるかに大きいはず。出題者の意図によって1番と2番を作り分ければよい。

 このように、2択問題には「当てずっぽうでも答えられる」「勝負どころで押したくなる」という要素を入れることができる。高校生クイズのように、解答者=高校生の気持ちをなんぼでもホットにすべきクイズの場合は、上手いこと2択問題を埋め込むとよい。これは一般人向けのクイズ大会でも同じことが言える。

 だからだろうか、第8回の問題には2択問題が異常に多い。普通の問題に仕上げれば良いものまでわざわざ2択にしているようだ。2択問題は選択肢をうまく作らないと、不自然極まりない問題になってしまい「何それ?」の印象を与えてしまうから注意が必要である。例えばこんな感じ。

  1. 発明を登録して得られる、「特許権」の有効期間は15年、20年のどっち?
  2. アイスクリームなどの香料に使われるバニラはキク科かラン科かどっち?

 ともに東北大会の決勝。1番はすっきり「有効期間は何年?」といきたいところ。無理に2択にしたという感じがぷんぷんにおう。勝負どころでは押そうという気持ちにもなるが、問題としてはスマートではない。2番はもっとすごい。バニラという植物を見たことがあればノータイムで「ラン科」と答えも出せようが、やっぱり問題としての意図がよくわからない。ヘンな2択といわざるを得ない。

 この2問の不自然さは、「3択問題を作るU」で述べた「選択肢がうまく作れない問題は、無理に3択の形にする必要が無い」と関連する。つまり、自然な選択肢が作れないのなら、2択問題にしないほうが美しい。1番の問題は知識で答えられるからまだしも、2番の問題を知識で答えられる高校生はいない(いたとしても、その人は特別な人だ)。だからせめて、2番については別の出題形式にするか、出題しないか、どっちかにして欲しかった、ような気もする。で、わたしだったらこういう2択にします。

 結構綺麗な形のような気がするが如何だろう? このように選択肢を「より大きい集合」にすることは、2択問題を作るのに有用であることが多い({ラン科}⊂{植物})。数字問題だと「百個より多い?少ない?どっち?」などの形も使えるが、こちらはあまり面白い問題にはし仕上がりにくい。同じ数字問題でも「昭和何年代?」のように、イメージの沸く数字だといいかもしれない。「昭和・平成のどっち?」とかならあり得る。その他、状況によってより的確な選択肢を作っていくことが作成者の腕の見せ所である。

 なお、「何を答えにするか」という話題については、次のような問題も参考になろう。

  1. IOC・国際オリンピック委員会の公用語は、英語と何語?
  2. IOC・国際オリンピック委員会の公用語は、フランス語と何語?
  3. IOC・国際オリンピック委員会の公用語は、何語と何語?

 大抵のクイズプレーヤーは、この問題を作るとき、1番の形にするのではないだろうか。TQCでわたしが出題するとしたら3番にするところである。が、第8回高校生クイズの決勝では2番の形で出題された。このように「○○なのは、A、Bと何?」というような形式の問題の場合、一番答えるのが易しい(=メジャーな)ものを答えにすることもあり得る。不自然な問題になってしまうことが多いためか、高校生クイズでの出題例は多くないが、皆さんが早押し問題を作るときには上手く取りいれると面白いかも。わたしはこんなのを作ったことがある。

 1995年1月出題分。答えは「天平」となる。

 

2 YES・NOクイズの特徴について

 長戸勇人氏の『クイズは創造力 問題集編』では、ウルトラクイズの○×クイズについての分析が精緻になされた。その中で「規則違反問題」についての記述がある。簡単に言うと「〜は反則である」とか「〜は法律で禁じられている」とかいう問題は、答えが×になる、という解答判別法である。何故かというと、規則違反問題は得てして「綺麗なでっち上げ問題」として出題されることが多いからである。「こんなことも、別に法律上はOKなんだぜ」という問題作成者の声が聞こえてきそうな次のような問題。

 ともに綺麗なでっち上げ問題で、答えは×。このような「綺麗なでっち上げ問題」は「ウルトラクイズらしい問題」として世のクイズ好きを喜ばせてきた。その期待に答えるべく、問題作りのプロの心意気を感じさせる「綺麗なでっち上げ問題」は数々作られていったわけだが、それらはすべて「でっち上げ」である以上クイズプレーヤーの作った解答判別法の餌食となる運命にある。同じ発想で問題が作りつづけられる限り、クイズマニアは正解を重ねる。

 だったら出題傾向を変えればいいじゃん、という意見も当然出てくるはずなのだが、それは無理な話だ。何故なら、ウルトラクイズで放送される○×クイズは、「面白い問題である」ことが要求されるからである。「綺麗なでっち上げ問題」という出題傾向は、「面白い問題」を構築する際には外せない。

 一般にテレビの○×クイズにはその性質上、「視聴者に分かりやすい面白さをおりこまなければならない」という要素が要求されてしまう。これと「問題を正しいものにするためのウラとり」という要素はテレビのクイズの必然である。これをうまく利用したのが長戸氏の解答判別法であり、そこにはかなりの説得力がある。

 しかし、クイズの世界を広げるためにここで考えなければならないのは、「規則違反問題で、解答判別法に適合しない、且つ面白い問題は作れないものか」ということである。そのヒントとなるのが次の問題。第8回高校生クイズ準決勝。

 これは「マンホールのふたは、円形でなくてもよい(答えは○)」という第13回ウルトラ・どろんこクイズの問題と構造が同じである。「〜は反則である」の逆の問題であるから、答えは○。といきたいところだが、実際の正解は×(というかNO)。つまり解答判別法には合わない。

 判別法には合わないんだけど、なかなか面白い問題である。この問題の場合は、答えがYESでもNOでもそこそこ面白い。で、こういう問題が1回出題されると、それだけで今後一切解答判別法が意味を為さなくなる。事実、高校生クイズではこの判別法が絶対無比のものになっていない。例えばわたしが1997年に出題した問題。

 TQCのメンバー向けに作った問題。この問題に解答した本藤氏(1人必答だった)は、軽く正解している。さすがだ。先入観の無い人はこういう問題の場合強い。答えは当然裏をかいてNO。「規則違反問題」の解答判別法に合わなくても、そこそこ面白い問題は作れるんだぞ、という意思表示として作った問題であった。果して目論見通りの出来だったので、自分ではたいへん気に入っていて、作ってしばらくは悦に入っていた。「使ってはならない」としなかったところも気に入っている。

 ところが、これと全く同じ文章の問題がその後、第19回高校生クイズ(沖縄大会)で出題された(「数字」の部分が「アラビア数字」になっていたが、確かにそのほうがよい)。詳しい事情はよくわからないが(TQCの誰かが問題作成者になっていて、ぱくったのではないか?と思っているのだが、詳細は不明)、高校生クイズのスタッフが「解答判別法」に合わないような、しかも面白い問題を作ろうとしていることが伺える出題であった。それを裏付けるように、高校生クイズの『史上最強の指南書』(日本テレビ)という本には「罠を見破る『攻略本』が出現したときには、正直面食らいもしたが、それを逆手にとって問題づくりを楽しんだのも事実」とある。ま、別のところには「おもしろい情報は、なるべく答えをYesにして出題したいもの」とあるから、必ずしも「裏をかくこと」だけを狙っているわけでもないようだが。

 また○×必勝法として、「やはり」「もちろん」などの言葉が含まれている問題文の場合、答えは×になりやすい、という傾向分析もなされたことがある。これも「面白い問題」にするという気持ちを働かせれば、どうしても×にしたいところだからだ。数は多くないが、ウルトラクイズではこの分析が当てはまる。次のような問題。

  1. 道路の舗装率が最も高い都道府県は、やはり総理大臣を最も多く出している山口県である。
  2. ハーバード大学は、なんとケンブリッジ市にある。

 1番は「綺麗な(とは言えないが)でっち上げ問題」で、でっち上げ部分に付いた「やはり」という言葉が「○を出せ〜」と誘っている。2番は「意外な事実をそのまま持ってきた問題」であり、かなり特殊な例だが、「なんと」という言葉が「やはり」の逆の意味を持っている。これで答えがバツだったら面白くも何とも無い。これらの答えが解答分析法通りになってしまうのも、「面白さ」という点では必然である。しかし第8回高校生クイズ準決勝はこうなる。

 この問題の場合、YESが答えだと意外な事実となって結構おもしろい。NOだと「やっぱなぁ」というリアクションが想定される。どっちが答えでも問題の面白みはきちんと成立している。言いかえれば、先の2問と違って解答分析法通りの答えでなくても成立するということ。

 一般に、「もちろん」「やはり」「なんと」などの修飾語のある問題が、解答分析法とおりの答えを要求するかどうか、見分けるには修飾語を外してみればよい。外した後、著しく問題が不自然なものになった場合は「解答分析法通りの答えで無いとおもしろくも何とも無い」。外しても成立する場合は「どっちが答えでもよい」。

 だから、単独で成立している問題に「もちろん」「やはり」などを付けてあげれば、簡単に悩ましい問題を作ることが出来る。参考にしていただきたい。

 

おまけ 下手な問題に学ぶ ふたたび

 付け加えると、この回は問題文の下手さがかなり目に付く。例えば

 まず「その中に」が変なのは「13 不自然な問題に学ぶ」の通りであるが、この問題の場合もっとまずいことがある。「黒人の魂の叫びがその中に流れるという」まで聞けば、知っている高校生はそこで押して「ソウル」と答えたくなるだろう。でブー。かなり悲しいことになりかねない。単純早押しでなければまだいいが、ルールは早押しだった。思わせぶりな前振りは、いたいけな高校生に不幸を招く。

 もっともっとまずいのは「ズバリ、アルファベットは?」という部分の異様さ。せめて「アルファベットの綴りは?」といきたいところ。この種の下手さは最近の高校生クイズにも見られる文法である。もう少し工夫しましょう。

 

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