第36日目 8月10日(金) 晴れ
4時30分起床。朝から快晴、とても暑い。出発早々、新得町の手前の小高い丘から見おろした鹿追町の全貌と遠くまで続く十勝平野は見事な眺めだった。狩勝峠は標高の割にキツい登り坂で、しかもあまりにも良い天気に恵まれすぎたため、とても暑く苦い、峠道だった。
ここは“日本新八景”のひとつだそうだが、僕にはそう美しい景色には思えなかったが、ただひとつ峠を征服したという満足感だけがあった。峠を猛スピードで幾寅の街まで下ったところで休憩中の道内江別市の大学生と出会う。
その渡辺さんと相談して一緒に金山湖に行くことになった。樹海峠経由で富良野へ行くのも捨てがたかったが、金山湖は知名度は低そうだが、なかなかグー。やはり来てみて良かった。
金山で2人、日陰で昼食のパンをかじっていると、近所のおじさんとおばさんが、冷たいジュースと生卵を持ってきてくれた。ジュースもさることながら、この時しょうゆで溶いて飲んだ生卵の味は一生忘れられないであろう。昨日に続き、人の優しさを痛感している。
その後は空知川沿いに富良野に向けて快調に距離を稼いだ。2人で走ったせいもあるが何よりも右手に十勝の山々、左手に夕張山地の偉大な眺めを見ては自然にペダルも軽くなる。この国道沿いは、たくさんのスイカやメロンの販売小屋が並び、時より風に乗り甘い香りが漂ってくるが、貧しいサイクリストにはスイカやメロンを食うお金はなく2人で涙を飲んだ。
1時45分、布部に着く。この駅はドラマ”北の国から”の影響だろうか? とうてい無人駅とは思えない立派な真新しい駅でステーションホテルとしては水が無いことを除くとベストだ。待合室にはドラマの撮影風景の写真がたくさん飾られていた。
その後、渡辺さんを誘い”北の国から”の舞台である麓郷に行った。途中の川沿いの道で、この秋放送予定の”'84スペシャル”の撮影のために純と清吉がロケをやっていた。写真を撮り忘れたのが残念である。手を振ったが無視されてしまった。帰ってから見るドラマの放送が楽しみである。
麓郷は実に北海道らしい景色でとても感動した。今まで見てきた景色は牛や馬のいる景色だが、この景色は一面の畑作地帯、牧草地とはまたひと味違うすばらしい風景だ。
麓郷の森は”北の国から”の丸木小屋をひと目見ようとする若い女の人で賑わっていた。地元の人に冬の景色がまた最高に美しいということを聞いたら、十勝岳の山麓であるこの地に住みたくなった。
今日は麓郷小学校で寝ることにした。今やっとテントを張り落ち着いたのだが、昼間あまりのんびりしすぎたため、郵便局が閉まってしまいお金が下せなかった。明日は土曜日、午前中には必ず下さなければ大変だ。
夕食後は、渡辺さんと話が弾み、久しぶりに楽しい夜になった。今日も家に電話をするのを忘れた。母とは話をしたいと思うのだがとても面倒臭い。明日には電話をしないと、死んだと思っているに違いない。だんだん帰りが近づいてきてとても寂しく感じる。
今夜も星が出ていて、明日も天気がよさそうだ。今日も暑くて一日中裸で走っていた。いつも前のめりで自転車に乗っているために、背中は異常に焼けているのだが、胸と腹があまり焼けず、色が極端に違っていておかしい。
明日も頑張って走り、できるだけ札幌に近づきたい。渡辺さんは札幌の手前の江別市なので明日にも旅が終わるらしいのだ。それを聞いていると、家に帰って落ち着けることが羨ましいような気にもなるが、旅が終わってしまうという寂しさも感じられ、とても複雑な気分だ。 消灯8時40分。
本日の宿泊地 麓郷小学校、本日の走行距離 92km (累計 3463km)