第35日目 8月9日(木) 曇り時々雨
4時5分。一晩を共にした田野さんは5時に山を降り上川に向かって歩き出した。出がけに紅茶を入れてあげたらとても喜んでくれた。山霧もしだいに晴れてきて、今日も暑くなりそうだ。
6時20分いよいよ出発。テント場であった大雪ダムを出発、すぐに樹海トンネルを抜ける。しばらくは大雪湖沿いの道を上ってゆくがこのあたりは全面舗装の快適な山道ですばらしい景色に見とれながらペダルを漕ぐ。そのうち大雪湖が見えなくなり周囲を山々で覆われるころ突然舗装が切れ、ダー卜が現れる。
大雪ダムから上り進むこと19km、比較的走りやすい路面で勾配もゆるく、7時42分、難なく北海道最高の三国峠(1139m)に到着した。今朝の出発からここまでの間ほとんど車と会わなかった。
とても寂しい山の中だ。記念写真を済ませ8時に峠を下った。
上りが楽であったため下りはスピードを出してすぐに下れるのかと思ったら、それが大違いだった。峠から十勝三股までの15kmは、厚く敷き詰められた玉砂利のために路面に凹凸があり、車が一台通過するたびにその凹凸が変化するという有様、車の轍の上を慎重に走らないとすぐにハンドルをとられてしまうのだ。
しかし、8時45分何とか十勝三股まで来ることができた。のんびり休憩をしていたが、期待していた”オッパイ山”がどの山なのか分からずに残念だった。オッパイの形の山はひとつあったのだが、果たしてあれが”オッパイ山”なんだろうか? もっともほとんどの山はオッパイの形に似ているわけだが。
最大の難所となったのは十勝三股から糖平までの20kmだ。路面には必要以上と思われる程の玉砂利がばらまかれていて、すぐにハンドルをとられてしまう。路面の荒れが激しいため下り坂でありながらペダルを漕がないと進まないし、砂利の厚いところではタイヤが砂利の中に潜ってしまうため、一度止まってしまうと、ペダルを漕いでもホイールスピンを起こして走れない。特に糖平が近づいて一度舗装道路があり、その後が最悪で何度も転んで、サイドバックの紐を切りたりして、泣きながら走った。自転車を降りて押して歩いたりもしたが、これだけの荷物を積んでいるとちょっとしたファミリーバイク以上の重量となるので乗るよりもかえって苦しいのだ。
今日まで35日間の中で一番苦労したところだ。10時25分、汗とホコリまみれになった僕は糖平の街に出た。
糖平の街の公園で紅茶を入れ、少し早目の昼食を済ませ、次の目的地である然別湖に向かった。
幌鹿峠までの14kmは舗装はしてあるものの急勾配、急カーブの連続で浄土平の吾妻スカイラインを思い出す感じだ。
それだけに峠に着いたときはとても感激した。ただひとつ一面の曇り空が悔しかった。
峠を下ると道が突然狭くなり然別湖の湖畔に出る。湖畔沿をしぱらく走ると温泉街に出た。ここで休憩をして東雲湖に向かった。
道沿いの空地に自転車を止め、山道を歩くこと45分、山の中にひっそりと水をたたえる東雲湖があった。
天気が悪いせいもあり、あまり美しいとは思えなく期待外れで残念だったが、これで北海道三大秘湖の全てを見ることができた。一番良かったのはオンネトー湖だなあ。
東雲湖に着いたころから、雷が鳴り出して小雨が散らついてきたので、シュラフが気になり小走りで戻る途中、山の中でウンコがしたくなり野グソとなった。今朝しないで出発したことを後悔した。
以然として小雨が降っていたが山の通り雨だろうと判断し、思い切りて鹿追の街まで進むことにして再び峠を越え、下りに入ったあたりから雨が本降りになりだしたが、山の中で雨宿りの場所もないので、しかたなく走っていたら、バス停風の小屋があったので中に入った。
すると小屋の中にはハンドボール程の大きさのハチの巣があり、たくさんのハチが飛び回っていた。そこでハチを気にしながら30分くらい雨の様子を見、テント、シュラフにビニール袋をかぶせ小降りになったのを見計らって逃げるような気で出発、猛スピード(時速35kmくらい)で走っていると雨が上かってホッとした。
鹿追の8kmくらい手前のところで赤のワーゲンに乗った若いカップルに手招きされて、「どこまで行くのか?」、「ひとりなの?」などと聞かれ、話した。別れ際に「頑張ってね」と言われジュースとスナックをもらった。僕がこうして、辛いことを乗り越えてここまで走り続けられるのも周囲(見知らぬ旅人や地元の人)の人達の親切に支えられているからなのだ。そのことが今日の赤いワーゲンの2人によってしみじみと感じられた。
いつものことだがとても勉強になった。
5時50分、やっと鹿追に着きテント場を決めた。今日もずいぶんきつい道を距離的にも高度的にも走った。今日一日で3つもの峠を越えたのだ。
明日は富良野まで行きたいが峠を2つ越えるしかない。金山湖にも行ってみたいのでどうなるだろう。三国峠を越えたら急に”帰途”という気がしてきた。
今までは早く帰りたいと思ったりもしたのだが... 今では... 北海道も残り10日くらいだと思うと急にまだまだ帰りたくなくなる。昨日の帰りたいという気持ちはまるで反対で、自分でも不思議に思う。
今の天気予報では明日も晴れ時々くもりくらいで一時雨だそうだ。今日も濡れるのを覚悟でカッパを着なかったので、もうずいぶん長いことカッパを着ていない。
昼間、辛くて泣きながら三国ダー卜を走りている時に、ふと”本当に自然の残っているところは舗装でなく砂利の方がピッタリくる”心からそう思った。走るのがいやになって辛いながらも、そう感じた。
いつも日記の最後に書く言葉だが、”明日も頑張るぞ”。三国峠の砂利道をホコリをまき散らしながら猛スピードで走る車を見て、青森で初めて見たあの”なぜ急ぐ、昔はみんな歩いていた”という標識を思い出した。 消灯9時半。
本日の宿泊地 鹿追小学校、本日の走行距離 105km (累計 3371km)