第二話:人間相手に麻雀を打てば


以前、某雑文で「麻雀打ちませんか」と 書いたところ、やろうぜという回答がぱらぱらと舞い込み、卓を囲める人数が あっさり集まってしまった。そういうわけで、去る一月八日、我家にて 「ミレニアム記念アマチュアミュージシャンによる麻雀の集い (同時開催「日本の鍋〜本日のお題:寄せ鍋」)」が決行され、 私は大学一年生以来実に十数年ぶりに牌を握ることとなったのであった。

全員「やろう」と返事をしてきたように記憶しているのだが、家に着いた彼ら、 口を揃えて「お前がやりたいつーから来てやったんだありがたく思え」 と高飛車な態度。「二度と麻雀の出来ない身体にしてやる」 と宣言してくれるヤツまでいてまったく私は友達に恵まれている。

ここで「なんだと貴様等そこへ座れいっ叩き切ってくれるわっ!」と やらなくて良かったと、茶を啜りながらしみじみと述懐する私である。

ザウルスの麻雀ゲームで久々にルールを思い出してぽつぽつ打ち始めた程度で、 再挑戦というほど昔打っていたわけでもない私は、この面子の中では、つまり 初心者なのだ。

初心者なのだけれど、「最強の麻雀」や「絶対振り込まない麻雀」を読破し、 最強で絶対振り込まない麻雀が多少なりとも打てるはずだと思ってる私は 「なんだ普通に打てるんじゃん」とひょっとしたら言われちゃうかもえへっ、とか 思ってたんですよ。白状しますと。5 % ぐらい。いえ 10 % ぐらい。

本を読んだ後も、ゲームの成績があまり変わらない時点で 間違いに気付くべきだったんですが。 だいたい「多少なりとも最強」という時点で駄目過ぎ。

なんというか、

教則本「君も三日でブルーズが弾ける」を読みながら家に閉じこもり、 半年前にお年玉つぎ込んで買った愛機、通信販売 19,800 円アンプとシールドと ピックと音叉とストラップ付き赤いエレキギターを鳴らしていた R 君に 「今度ブルーズでも合わせてみませんか」とセッションのお誘いが。R 君は考える。

取り敢えずブルーズ進行はなんとか覚えたぞ。 ADAA DDAA EDAE だろ。あとペンタなんとかいうスケールも覚えた。スケールだぜ。 かーっ。用語がもうなんつーかテクニカルタームっていうの? ミュージシャンよね。 これ弾けばソロもばっちりってわけよね。ひょっとして「いや初めてなのに なかなかお上手で」とか言われちゃうかもうへうへうへ…

妄想を爆走させつつスタジオに到着すると、そこにはずらりと並ぶ 眩いばかりの Fender や Gibson、 既にびびりまくりの R 君、ガタガタしながらギターを抱えると、 では肩慣らしに、と始まった曲が「なうずざたいむ」とかいう知らない曲で なんかロックじゃなくて覚えたはずのコードと違う音がしておる。 どどどどういうことだおかしいでもみんなブルーズって言ってるし こここ困ったぞなにか音を出さなきゃ、音を、そうだコードだバッキングだ、 と思って弾いたらコード進行間違えて演奏が止まっちゃった。 そしてそこにぽつりと残されたのは、 もう意識ははるか彼方へと舞い上がり、真っ白になった R 君であった…

という感じだろうか。長いな。

いやもうね、びびっちゃったんですよ。私。ほんとに。

まずテクニカルターム。冷静に思い返すとなんてことはないんですが、じゃ点棒は イチニイヨントウで、とか言われてなんだそりゃなんの呪文だとか思ってオタオタ する。万点棒イチ、五千点棒ニ、千点棒ヨン、百点棒トウで 25,000 点ずつ 各人に配るってだけなんですが(だよね? この時点でまだ勘違いだったりして)。

がらがらと牌を混ぜた後、よいしょよいしょと積み上げて、ふと周りを見ると 三方向びしっと十七牌二段が、それも丁寧に六、五、六牌できちっと段差まで付いて 置いてあるわけです。サイコロを振って各人配牌を取っていくのですがこれがまた 超音速で持っていくのよね。みんな。ゲーム開始後のツモ/切り速度も なんだか凄いことになっていて、 コンピュータだとすごく速くツモ/切りがなされるけどアレは コンピュータだからであって、人間は人間らしいスピードで、と思ってたら 全員コンピュータであります。正月に家族相手に打ってたあれはなんだったんだろうと 思わず遠い目を…してる暇もありません。

周りは理牌(牌を整理して、今どんな手なのか見やすくしておくこと)もせずに 打てるようなレベルの中で、私一人、上下まできれいに揃えたりしてるんですから、 時間かかるに決まってます。コンピュータ相手だと配牌なんて全自動だし きれいに上下揃えて並べてくれるんだけどな。 一索つまりあの鳥がひっくり返ってたら可哀相じゃないか。 気になりません? 俺だけ?

こうなると、周りをを見る余裕がありません。自分の手牌を必死に見ます。 見ます。見ます。見ます。あわわわなんか知らんうちに聴牌だ。何これ。 ピンフだ。平和だ。高めイーペーコーも付いてる。いつのまにかこんなに育って。 おいちゃんは嬉しいよ。よよよ。だーっ、それロンだ!

と私が指差したその先には、私が序盤で切った 2 ピンがありましたとさ。

麻雀を知らない方のために補足説明を致しますと、相手が捨てた牌で 自分があがる時、「ロン」と発声するのですが、自分が既に捨てた牌で 「ロン」することは出来ないのです。間違えて「ロン」と言っちゃった時は 「フリテン」というチョンボになって上がれないどころか罰金まで払わされます。 これはもうなんというか、麻雀のルールの基本です。ベーシックです。 サッカーでいうと、オフサイドだというのにそのままゴールを決めてしまい、 あまつさえガッツポーズまで決めてしまったようなものです。 つまりとても恥ずかしいことなのだ。

この一撃で(って自分がミスしたんだけど)私は灰になりましたね。まったく。 初心に帰るというか、下手をはっきり認識したので、却って落ち着いたというのは ありますが、こういう馬鹿をやると来るものも来なくなります。 結局この半荘は半ばにして私がトビ(最初に配られた持ち点全て取られる)で終了。 もう二ゲームやって、一応飛ばずに半荘終了しましたが いずれもビリ。ドンベ。ラス。四位。 後ろで見ていた見学者(?)もビビるツモの悪さ。 振り込み(自分の捨てた牌で相手があがる)こそしませんでしたが、あがれたのは 二回だか三回だか。

絵に描いたような、それは素晴らしい、完全なまでの 負けっぷりであります。とほほ。

後ろで見ていたといえば、「おおおお前ナゼそこでソレを切るんぢゃ〜!」と 頭を抱えられることもしばしば。くそぅ勝っていれば 「ふっふっふ君らには分かるまいこれが亜空間打法ぢゃ」とか言えたんだけどなぁ。 ってそういう問題じゃないか。

みんな、喜んでいる。「肉を食いたきゃ満貫上がれ」とか「チョンボ野郎は 土間で食え」とか「フリテンしたヤツ集めてバンド作れ、 バンド名はフリテンダーズだ」とか、はたまた 「お前が上がれないのは家の風水が悪いせいだ」とか言いたい放題である。 ここで先頭を切って言葉の暴力で私をつるし上げているのが 博多のイングヴェイ・マルムスティーンこと I 氏である。 ギターも速いがしゃべりも速い、よくもまぁそんな速度でギャグを 繰り出せるものだと感心…している場合ではない。まったく失礼なヤツである。 さらにこやつは料理も巧いときている。下手に言い返すと、ゲーム後の鍋にも影響が 出そうだ。ちくしょう。どうもこの男、自分の才能を間違った方向に 使っているのではないか。その良く回転する頭を世界平和とか地球環境保全のために 使って欲しいものだ。

考えてみればほとんどが、 以前同じバンドに所属し、ドラムソロをくれだとかここはドラムに目立たせろだとか ギターリズムが甘いぜなんとかせんかいとか、 私の無茶な注文を苦々しい思いで聞いていた連中である。因果応報とはこのことか。 嗚呼、俺が悪かった。悪かったからせめて白菜とえのきぐらい食わせてくれ。 食わせてくれないと次にセッションする時にギターソロのバック、奇数拍フレーズで 埋めるぞ。だいたい土間ってどこだよ。

この日は全体的にもかなり盛り下がった地味な麻雀で、 派手な手役でどっかーんと上がるとか、 一人に点棒がじゃんじゃか集中するとかそういうことがなく、 そんな中で一番勝ったのが熱帯魚パワーを発揮した Y 君でありました。 おめでとうございます。ぐすん。

ああ、難しい。麻雀。

やはり自分のペースって重要だよな。今度はもう周りのスピード気にせず じーっくり打っちゃおうかしら。第一打目から長考とか。 でもそれってジャズのセッションに行って 一人ディストーションサウンドで白目ムいてチョーキング決めてるような ものだろうか。そりゃ友達無くしそうだ。

*         *         *

麻雀大会から二日、まだ傷の癒えぬ心を引きずりながら、何気なく始めた コンピュータ相手の麻雀で、何故だかあっさりと二回続けてトップを取りました。 そこには、機械が発するふーんというファンの音だけがやけに耳に付く中で、 画面に表示された「一位:りお」という文字を妙に冷静に見つめている 自分がいました。

機械相手は熱くねえなぁ。やっぱり。
気の利いたセリフの一つも吐いて欲しいもんだ。


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