第十話:首都高バトル実践編


当初の目的は、首都高を迷わずに運転できるようになることだったのだ。

その目的のためにドリームキャストや首都高バトル 2を入手したという話を 以前書いたが、 そんなもんで運転出来るようになるワケがなかろう、と周りの反応は冷たかった。

首都高バトルは「バトル」である。相手より速く走るゲームだ。 自分のクルマを敵車の横から幅寄せして壁に激突させて先行するという ファイティング・スピリット溢れる、というかミもフタもないドライビングで 勝利をもぎ取る私であったが、それを横で見ていた嫁は、 首都高というのはヘンテコなパーツを付けたクルマが どっかんどっかん壁に当たりながら 300 km ぐらいのスピードで 戦っている場所であると刷り込まれてしまったらしく、絶対に行ってはならぬとの お達し。

首都高完全再現!を謳っているゲームである。やっていると当然ながら、 実際に走ってみたいなあと思ってしまうのだ。いやだから別に バトルするわけじゃないんだからさ。ウチのクルマ、スピード出ないしさ。 え、絶対駄目?

さて、正月明け。 葛西方面の実家から「パソコンが壊れた、すぐ来い」との連絡あり。 嫁はちと都合が悪く、その日は同乗出来ず。

まったくもう。困るよねえ。そういうことで呼び出されてさあ。 出張サービスっていい値段するんだぜ。まあ嫌なことは早く済ませたほうが いいからさっさと行ってくるか。

とか言いながら頭の中では

東名から三号渋谷線、谷町ジャンクションから C1 内回りに入って芝公園、銀座を通って江戸橋ジャンクションを 箱崎方面へ折れて 9 号深川線から湾岸線へ出て葛西だ

もう完璧である。ついでに

帰りは葛西から辰巳を通り越して有明ジャンクションから 11 号台場線へ入り レインボーブリッジ経由で再び C1 外回りで谷町から三号渋谷線へ

帰りまで完璧である。勝利のイメージは出来上がった。

首都高を使い慣れた方からみれば当たり前だと 思われてしまうかもしれないが、ついこの間まで「四ツ木って何県?」と 聞いていた人間なのだ。私は。これを劇的な進歩と言わずして何と言おう。

上述のルートで、首都高バトルに登場しない道は三号渋谷線のみ。 渋谷線を走りながら、ああもうすぐ首都高だ、と期待に胸を膨らます私。 いや、渋谷線も首都高なんだけれど。立場のない可哀相な渋谷線。 そして C1 に入って数十秒、こっ、これはゲームのあの道だあっ、と 認識出来たときの感激は今も忘れない。ってそんなものさっさと忘れて、 もっと大事なこと覚えた方が良いんじゃないかと思うんですが。

初めての道を走る時、やはりいつもより多く道のことを考えると思う。 特に車に慣れていない人間にとってはそれが結構なストレスだったり するのではないか。みんなそれから開放されたいからカーナビが普及して いるのだろう。

私にとって首都高は、ほとんど初めてと言って良い道である。 にもかかわらず、地図も開かずに「今自分はどこを走っているのか?」 という迷いが全くないのは却って妙な気分だ。道を把握しているだけではない、 「この先有明ジャンクションから 11 号に入るには左の車線にいたほうがいいな」 なんてことまで分かってしまうのである。さらに、「あー、この右コーナー越えると もう一回右コーナーがあるんだよな、ほーらあった」なんてことまで 覚えているのである。さらにさらに「あー、この橋桁!これにいつも激突 するんだよなあ」と大喜び。余計なことまで思い出さんでよろしい。

ゲームやったからって走れるようになるわけじゃねえ、と何人かに言われたけれど、 これ、結構役に立ってるんじゃないかなあ。別にコーナーの向きを知ってるから 走りやすいってことは無いのかもしれないけれど、道を把握しているという 安心感は、殊の外大きな効果があるのではないか。

逆効果というか、副作用らしきものが一つだけ。

「浜崎橋ジャンクションかっ、ここの左カーブはキツいぜ!右車線から一気に 切り込んでクリッピング・ポイントをかすめ、再度右車線側でフィニッシュ、 アウト・イン・アウトがコーナーの基本だぜっ」

なんてことをやったら周りのクルマを巻き込んで大事故だ。

ゲーム内では車線なんて全く無視して 200km とかとんでもないスピードで 突っ込んでいるコーナーを 40km ぐらいでちまちま回りながら 「やっぱアウト・イン・アウトだよなあ」とか思ってしまう。思うな。危ない。

というわけで、初挑戦で大変な目にあった首都高だったが、 ソフト代五千数百円と引き換えに、多少なりとも当初の目的に 近付くことが出来たのではないだろうか。 しかし、費やした時間がでかいんだけどさ。その分楽器練習してれば 今ごろはマイク・スターンかはたまたヴィニー・カリウタかってなもんで。とほほほ。

なに、そんなワケない、どーせ変わらないって? どっちにしろ、とほほほ。


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