第八話:Computer Games


コンピュータ・ゲームといえばイエロー・マジック・オーケストラだ。 ファーストアルバムの A 面最初と最後に配されていた「サーカスのテーマ」と 「インベーダーのテーマ」を今でも口ずさむことが出来る。というのは嘘で、 この二曲、「ぴゅんぴゅん」「ぼーん ぱっ ぼーん ぱっ」 「しゅんしゅんしゅんどかんどかん」など ゲームの効果音のみで出来上がっており、こんなものを口ずさんでいたら 電波の人である。

このアルバムが発売されたのは 1978/11/25。 US リミックス盤が米国で発売されたのが1979/05/30、 日本に逆輸入(?)されたのが 1979/07/25 だ。 その頃日本はスペース・インベーダーに占領されていたわけで、 分別のない馬鹿餓鬼だった私もその影響を受け、 ばりばりのテレビゲーマーに…

なってもおかしくなかったのだがならなかった。 何故なら私は、インベーダーゲームをたった一面さえクリアすることが出来なかった からだ。とほほほ。

というわけで私はテレビゲームが嫌いだ。

また、故意にテレビゲームと距離を置いていたというのもある。 私には妙に凝り性なところがあって、 手を出すとついつい時間を使ってしまいそうな気がする、というのが理由だ。 空いた時間はなるべく音楽に使いたい。いや使っても大した進歩はしないのだが、 使わなかったらもっと進まないわけで。嗚呼。

実は以前、PC 用のゲームを一つだけ買ったことがあって、名前を Sim City という。 自分が市長さんとなり、工業/商業/住宅地区を配分し、発電所を作り、 道路や鉄道を引き、などなどしつつ町を大きく育ててゆくゲームなんだけれど、 やっぱりはまってしまった。「市民は公害に苦しんでいます」とか Sim 住民に 陳情され、ううむ道路を鉄道に替えねばならぬか。しかし財政が、なんだと 野球場が欲しいだ? 阿呆抜かせお前等全員地上げじゃ、などと まじめに悩んで夜も眠れぬ私であった。

そんなわけで、テレビゲームとは無縁な世界に生きてきた私である。 ファミコンのコントローラも触ったことがないという徹底ぶりだ。

しかし人生には何が待ち受けているかわからない。

七月。私の努めている会社が創立何周年だかということで、 社員には記念品が配られることになった。 以下の物から一つ選べという。

  • TA
  • カラーインクジェットプリンタ
  • ファックス電話機
  • 携帯電話
  • 平面スピーカ付き CD プレイヤー
  • 商品券
  • ドリームキャスト
家の電話を ISDN に変える予定は今のところないし、プリンタはあるし、 ファックス電話機は去年の末に買ったし、携帯電話は二台あると便利かもしれないが 二台持つほど甲斐性がないし、CD を聞く装置はなんだかんだでたくさんあるし、 商品券はちょっと勝負を逃げている気がする。

って何が勝負なんだかさっぱり分からないが、とにかく消去法で残ってしまったのが ドリームキャスト、セガが社運を賭けたゲーム機だ。

周りの友人達にも「どれがいい?」と聞いてみたところドリキャス圧倒的優勢。 曰く「今まで触ったことの無い物の方が夢が広がる」…なるほど。 「お客様のおもてなしにも最適」 「ダンスダンスレボリューション大会その2の開催をぜひ」 …どうも自分が遊びたいらしい。

さて、ドリームキャスト用のゲームに「首都高バトル」というソフトがある。

唐突に話は今年の春にさかのぼる。

クルマを買ってまだ日の浅い私が、ひょんなことから首都高に挑戦することとなった。 首都高というのは、あまり走り易い高速道路ではない。という意見に 肯いてくれる方は多いと信じる。とにかく道が複雑に入り組んでいて、自分の 目的地と途中ルートをしっかり把握していないと悲しい事態に陥る危険性大だ。 慣れれば便利らしいのだけれど。

葛西 IC から湾岸線に入り、有明ジャンクションからレインボー・ブリッジを 渡り、都心環状線 C1 から 3 号渋谷線へ抜ける、 というのがその日の私の作戦であった。

しかし橋を渡るとそこは雪国じゃなくて四ツ木だった。 レインボーブリッジじゃなくてハープ橋だそれは。

首都高をイメージしにくい方のために、大まかな位置関係を 説明しましょう。等間隔フォントでごらんください。 矢印が「行きたかった方向」。方向はいいかげんなので、この図で 首都高を運転しないように。

                    ☆堀切 JC

            ☆☆☆向島線   ☆四ツ木

       ★★★
       ★ ★
  ★★★ ← ★★★ C1
     渋谷線               ☆かつしかハープ橋
        ↑

        ★レインボーブリッジ

         ↑
         ★有明 JC    ←  ←    ★葛西 IC
つまり、入った途端に間違えて、明後日の方角へと爆走していたわけだ。 その時は堀切ジャンクションから 6 号向島線経由で C1 へ戻り、なんとか事無きを 得たのだが、「四ツ木って何県?」とかボケまくっている 運転手のために、いきなり命懸けのナビゲーションをしなければならなくなった 嫁は、以来首都高恐怖症である。

そんな私が耳にした「首都高バトル」。カーレースゲームなのだが、なんでも 首都高の一部を正確に再現した道路を舞台に改造車を走らせ、相手を見つけたら パッシングを浴びせてレースがスタート、という、道路交通法を全く無視した ゲームであるらしい。

それで道に慣れれば首都高も恐くないのではないか、と思っていたのだが 恐怖症の嫁は「もう二度と行くことはないから慣れる必要無し」と聞く耳持たぬ。 まあそのためにゲーム機を揃えるのもなあ、と私も忘れていたのだ。

だが。人生一寸先は闇だ。私がゲームに関わる日がやって来ようとは。

ドリームキャストを選んで申し込んだことなどすっかり忘れていた八月のある朝、 それは宅急便の荷物を装い我が家へと侵入してきたのであった。 自分で申し込んでおいて何なのだが、うわっ、ほんとに来ちゃったよ、 というのが最初の感想。

コンピュータ、ソフトがなければただの箱。というわけでソフトを入手せねば ならぬ。もちろん首都高バトルに決まっておる。

土曜日にドリキャスが来て〜日曜日にソフトを買って〜 てゅりゃてゅりゃてゅりゃてゅりゃてゅりゃてゅりゃりゃ〜 とロシア民謡など歌いながらヨドバシカメラのゲーム売り場へと赴いてみる。 初めて入るそのエリア。なんと人、人、人。レジに並ぶ長蛇の列。 ゲーム界とはこんなに活気のあるところであったのか。 ううむなんだか居心地が悪いぞと思いながらも、首尾よく「首都高バトル 2」 (いつのまにか「2」になったようだ)を探し当て、手にして最後尾に並ぶ。 レジ待ちの間、ぼーっと店内を見回すと、混んでいる理由が分かってきた。 どうやら昨日が 「ドラゴンクエスト VII」という有名なゲームの発売日だったらしい。 というわけで並んでいる人ほとんどがドラクエ 7 の人であった。

そんな中で、「首都高バトル 2」を持ってひっそりと順番を待っている私って、 やっぱりゲームに縁がないんじゃないだろうか。

そんな気が、する。


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