独立遊隊が建てた天幕内で負傷者の様子をひと通り見て回っていたエレオラは引き揚げしな、ラウルにそう声をかけられて足を止めた。
「ラウルさん。ありがとうございます、いただきます」
ここには帰還手続きがまだ取れずにいる軽傷の被害者や先の戦闘で負傷した独立遊隊の兵がおり、エレオラは看護要員としてその手伝いに来ていたのだが、現場はなかなかに忙しく、昼も夕も片手間に詰め込むような食事しか出来ていなかったので、ありがたい申し出だった。
とは言ってもエレオラはおにぎりひとつもらえれば充分だったのだが、大皿に大量のおにぎりを乗せたラウルは笑顔で「はい!」と彼女に大きなおにぎりを三つも渡すと、個数変更を申し出る暇(いとま)も与えず小走りで次の場所へと走り去ってしまったのだ。
「あ……」
取り残されたエレオラはホカホカと温かいおにぎりに視線を落として頭を悩ませた。
これはさすがに食べきれないわ……どうしよう? 他にお腹が空いていそうな人がいたらお裾分けしたいけれど……。
エレオラはきょろりと辺りを見渡した。周囲にいるのは一日の仕事を終えて何人かで談笑している独立遊隊の面々で、お裾分けを申し出るには数が足りない。
個数を考えると一人か二人でいる人物が望ましかったが、見渡す範囲にあいにくと適当な相手が見当たらなかった。
篝火やカンテラが彩る夜の闇と橙色が入り混じった道を歩きながらお裾分け相手を探していたエレオラは、灯りの届かない広場の片隅に佇んでいるスレンツェの姿に気が付いた。
腕を組み、防護柵に背もたれるようにして夜空を眺めているスレンツェは、どことなく元気がないように見えた。
「スレンツェ様」
声をかけて小走りで駆け寄ると、こちらに視線を向けたスレンツェはゆっくりともたれていた背を起こした。
「エレオラ。どうした?」
「あの……これ、ラウルさんから思いがけずたくさんいただいたんです。私一人では食べきれないので、良かったら召し上がりませんか?」
エレオラが抱える大きなおにぎりに目をやったスレンツェは納得の表情で頷いた。
「……そうだな。もらおうか」
「はい。宜しければお二つどうぞ。私はひとつで充分ですので」
「じゃあ、遠慮なく」
その場でおにぎりを口に運ぶスレンツェの傍らでエレオラもおにぎりにパクついた。塩の効いたまだ温かい握り飯が口の中でホロりとほどけて、米の優しい甘みが口中に広がっていくと、ホッと幸せな気持ちになった。
「……温かいな」
どこかしみじみとしたスレンツェの口調に、エレオラは先程感じた彼の様子がやはり気のせいではなかったと確信しながら口を開いた。
「出来立てみたいですよ。ラウルさんが頼んで握ってもらったみたいです。こんな大皿に、私じゃ持ちきれないくらいのおにぎりをいっぱい乗せてました」
「ラウルらしいな。……食事を取り損ねていたから丁度良かった」
「そうだったんですね。……。何か、問題でもありましたか?」
さり気なく尋ねるエレオラにスレンツェは小さくかぶりを振った。
「いや―――」
それきりスレンツェは沈黙すると、夜空を仰いで黙々とおにぎりを食べ進めた。エレオラも彼にならって、吸い込まれそうな星空の瞬きを見上げながらおにぎりをほおばる。
しばし無言の時が流れたが、辺りを包む静寂は不思議と重いものでも、気まずいものでもなかった。
個数の違いはあったが先に食べ終えたのはスレンツェの方で、彼は夜空を見上げたまま、独り言のようにポツリと呟いた。
「―――……ある人からとても嬉しい言葉をもらったんだ」
そんな彼の横顔を見やりながら、エレオラは最後のおにぎりを飲み込みつつ言葉の続きを待った。
「……とても嬉しい言葉だったが、それはオレが欲しかったものとは似て非なるものだった―――。とても嬉しかったしありがたかったが、反面、行き場のない感情が込み上げてきて、たまらなく苦しくなった。その相手に非はないんだ。誰が悪いわけでもない、どうしようもないことなんだと頭では理解していても、気持ちが付いていかなくて―――情けないが、ここで少し落ち込んでいた」
切れ長の瞳に苦し気な光を滲ませて、スレンツェは自嘲気味にそう言った。
「心とは、ままならないものだな……」
エレオラには彼がそう語るところにひとつ心当たりがあった。
それは、ひと足先にユーファを助けに向かったフラムアークの元へエレオラが遅れて駆け付けた時のことだった。
倒れ込む寸前のユーファをフラムアークが抱え込むようにして支えていたのだが、エレオラの目にはその時の二人の距離が異様に近かったように見えたのだ。
その近さに一瞬驚いたが、戸惑っている場合ではなかったので、すぐさま気を失ったユーファに駆け寄り応急処置を施した。
処置後、ユーファをフラムアークが抱き上げて運んだのだが、その時の彼の表情が、眼差しが、一挙一動が、臣下に対するものとは明らかに違って感じられたのだ。
思いがけもしなかったその光景に、エレオラは大きな衝撃を受けた。
彼女自身はこれまでスレンツェとユーファが互いに惹かれ合っているものと思っており、そちらの組み合わせは考えてもみなかったからだ。
あんなフラムアークは初めて見た。むしろ、あれが本来の姿なのだとしたら、今までよく隠してきたものだとさえ思った。
フラムアーク様とユーファさんがそういう関係にあるのだとしたら―――アデリーネ様は、カムフラージュ?
だから、以前宮廷へ来た時もあまりお部屋で過ごされずに外へ出て、お二人でいる姿を周囲に印象づけていた―――?
それを踏まえて思い返すと、あの時のスレンツェの口ぶりは、二人の仲が偽装であることを知った上でのものだったのではないかと思えた。
スレンツェ様は、全部知っていた?
全部知っていながら―――ユーファさんを想っていた? ずっと―――……。
だとしたら―――いったい、どれほど辛かったことだろう。
これまでのスレンツェの心情を慮(おもんばか)って胸を痛めながら、エレオラはそんな自分の勝手な解釈を戒めた。
―――いいえ、ダメね。全ては私の勝手な憶測に過ぎないもの。
実情を知りもせず、勝手な憶測で同情を押し付けるのは失礼だ。
例え報われないと、届かないと分かっていても、その人を想う気持ちを簡単に変えることなど出来はしない。それが恋で、その想いにどう向き合うかはその人次第だ。
人の数だけ想いの形はあって、自分のように報われないと分かっていても傍にい続けることを選ぶ者もいる―――エレオラ自身はそうあることを望んでいるし、それを他人にとやかく言われたくはない。
一人ひとり尺度が違って、無数にある想いの形。それに正解も不正解もないと思う。
けれどやっぱり、時にはつまずくこともあるし、どうしようもないやりきれなさに襲われることも、晴れない悲嘆に暮れることもあるのだ。
「そうですね……いくつになっても心とは、ままならないものですね」
スレンツェの言葉に心から同調しながら、エレオラは自身の思うところを伝えた。
「だから、時には心の赴くままに嘆いても悲しんでもいいんだと思います。むしろ、そうしてあげる必要があるのかもしれません。吐き出すことで少しでも心が楽になれば、理性とのバランスも取れてくると思うんです。感情って、そういうものじゃないですか」
以前スレンツェに外出用の服を見立ててもらった時は、勇気を出して素直に嬉しいという気持ちを表現した。ずっと自分の内にあった彼への想いを認めて、わずかでもそれを形にしたことで、無意識下でわだかまっていたものが解けて、心のバランスが取りやすくなったような気がする。
「たとえありがたいものであったとしても、欲しいものとは違うものをもらっても心から喜べないのは当たり前なんですから、もっとご自分を甘やかしてあげて下さい。スレンツェ様はご自分に対して厳し過ぎるきらいがありますから、そういう気分の時くらい、大いに甘やかしてあげていいと思いますよ」
心にわだかまる後ろ向きな感情を処理しきれずにいたスレンツェは、それが人としてごく自然なものだと肯定されて、重苦しい胸の内がわずかながら軽くなっていくのを感じた。
「……。確かに……そういうものなのかもしれないな……。だが、そんなふうに言ってもらえるとは思わなかった。自分を大いに甘やかす、か……なるほど、確かにオレは苦手かもしれないな」
「そう思います」
間髪入れず肯定されて、スレンツェは苦笑した。
「心に留めておくよ。ありがとう……お前はいつもオレに新しい視点をくれるな」
「そう……でしょうか?」
「ああ。おかげで少し楽になった」
その言葉通り、沈んでいたスレンツェの表情は少しだけ軽やかになったように見えた。そんな彼につられるようにして、エレオラの顔にも穏やかなほころびが広がる。
「お役に立てたなら良かったです」
二人の頭上に広がる星の海は、先程よりその輝きを幾分増しているように見えた。
*
「……なあ。参考までに聞きたいんだが、もしあのまま片翼が失われていたら、あんたは再起不能に陥っていたか? それとも奮起して立ち向かう余力を残していたのか?」
こんな遠慮会釈もない言葉を兄であるフラムアークに投げかけてきたのは、彼の直下の弟で独立遊隊を率いる第五皇子エドゥアルトである。
聞きたい話がある、と密かに弟の天幕へ呼び出された兄は、いきなりのこのぶしつけな質問に何とも言えない表情になって、目の前の弟を見やった。
「それはお前が目指す悠々自適な未来の為に必要なことなのか?」
「そうだね。僕にとっては重要なことだ」
いたく真面目に頷く弟には、この兄と無駄話をする趣味はない。それはフラムアークにも分かっていたから、重い溜め息をつきつつ応じた。
「……実際のところはそうなってみなければ分からないし想像したくもないが、もしそうなっていたら、きっと心のどこかに支障をきたしていたと思う。だがきっと、怒りとか憎しみとか、そういった負の感情が奮起する原動力にもなっただろうとは想像出来る。それを糧に、やれることをやり切る努力はしただろうな」
「ふぅん……」
「オレにとってのユーファはお前にとってのラウルだよ。そう自分の身に置き換えて考えれば想像しやすいんじゃないか?」
「あいにくと、僕は僕であってあんたではないからね。そもそもあいつは身体能力が強靭過ぎて、考えても現実味が湧かない」
まあでも、考えるだけでも不快極まりないけどな。
心の中でそう呟いて、エドゥアルトは兄に次なる質問を振った。
「それで、グリファスが出てきた以上フェルナンド兄上が今回の―――というか、ここ一連の件にまつわる黒幕と言い換えても過言ではないだろうけど、グリファス自身は『全ては自分の独断専行』と言って、兄上は何も知らず一切関与していないとして譲らないし、兄上自身もそう主張するだろう。おそらくあの人が直接関与した証拠はこれからも出てこないだろうし、みんな内心で思うところはあれど、証拠が出てこない以上、今回の件はグリファスの暴走で片付けられるだろうね。兄上には配下の監督責任が問われて何らかの処分は下されるだろうけど、致命的なダメージとまでは至らないだろうな。何せ次期皇帝候補の筆頭だし、中央の貴族達からの支持基盤は厚い。後はグリファスが処刑されて、ヴェダ伯爵家は爵位を剥奪か家格降格の上、領主の任を解かれてファーランド領から放逐されて終わり―――ってところじゃないかっていうのが僕の見立てなんだけど。あんたはどう見る?」
どこか面白そうに意見を求められたフラムアークは、冷静に相槌を打った。
「……まあそんなところだろうとオレも思う。フェルナンドが直接指示した証拠が出てこない以上、追い詰めることは難しいだろうな」
そんな兄にエドゥアルトは人の悪い笑みを浮かべて迫った。
「どうするんだ? さんざいいようにやられて、このまま指をくわえて見ているしかないのか?」
これにはフラムアークも渋面になって意見を付けた。
「焚きつけたいのか萎えさせたいのか、嫌な言い方をするな……高みの見物でも決めこむつもりか? オレがどうするつもりか知りたければ、お前もそろそろ態度をハッキリさせるべきじゃないのか?」
「そろそろそういう時期だというのは感じているよ。だからこの機会にこうしてあんたを呼んで色々聞いているんじゃないか。宮廷では人目もあってなかなか難しいからね」
「オレとしてはこういう腹の探り合いではなく、お前とはもっと腹を割って話したいところなんだがな」
「そうか。じゃあもう少し踏み込んだ話をしてみよう」
頷いたエドゥアルトは兄の橙味を帯びたインペリアルトパーズの瞳を覗き込むようにしてこう言った。
「僕があんたの側についた場合、あんたは僕に対してどんな役割を望む? 僕に対してどんなメリットを提示出来るんだ?」
口には出さないが、それは無論フラムアークが皇帝となった暁、その後の話だ。
フラムアークは少し考えてからこう答えた。
「……そうだな。オレがお前に望むものは、抑止力かな」
「抑止力?」
意外な回答に、エドゥアルトは黄味の強いトパーズの瞳を瞬かせた。
「そう、抑止力だ」
フラムアークは頷いて、エドゥアルトの瞳を真っ直ぐに見つめ、その真意を告げた。
「強大な権力(チカラ)を手にした者が間違った道に進まぬよう制する、抑止力。お前には抑止の剣としてオレの傍で目を光らせてもらいたい」
「……。あんたが道を誤った時には僕の剣であんたを斬ってでも止めろと? それは、僕の役割なのか? 身近にもっと適した相手がいるんじゃないのか?」
眉根を寄せて疑問を呈するエドゥアルトにフラムアークは小さく首を振った。
「スレンツェには将来的には違う役割を頼みたいとオレは考えているから。ベリオラが収束した後、お前もそれに勘付いていたじゃないか」
ピク、とエドゥアルトのこめかみが動いた。
「……。本気なのか?」
「冗談でこんなこと言わないよ。これを頼める相手はお前しかいないんじゃないかって、実は結構前から薄々思っていた」
「へぇ……よりによってこんな曲者に? 人脈がないんだな」
「それは否定しないけど……色々な観点から見て、オレはお前が最適だと思った。お前は確かに曲者だけど物事をよく見ているし、周りに左右されずに公平な判断が出来る人物だ。機知に富んで剣の才角もあるし、必要とあらば非情に徹することも出来る。なかなかに得難い人材だと思うよ」
そう評されたエドゥアルトはきまり悪げに居住まいを正し、兄をヤンチャにしたような顔を盛大にしかめてみせた。
「どんなに褒め称えても、メリットがなければ響かないぞ」
「メリットか―――そうだよなぁ、うーん」
フラムアークは腕組みして宙をにらみ、考え込んだ。
「確約出来るメリットとして挙げられるのは、常に背中を警戒する必要なく生きていける未来―――かな。
お前、前に言っていたろう? 『ずっと気を張って生きていくのはしんどいし、常に背中を警戒しながら生きていく未来よりは、出来ればのんべんだらりと過ごせる未来の方を願いたい』って」
またしても予想の斜め上を行く回答に、さすがのエドゥアルトも面食らった。
「それは確かに言った覚えがあるが―――……は? それだけ? いや、有り得ないだろ、さすがに」
珍しく素になる弟にフラムアークはしれっと答えた。
「でもお前の信条は確か、『今と同じ生活レベルでなるべく面倒くさいことに関わらず、悠々自適に過ごしたい』だったろう? 常に背中を警戒しながら生きていく時点で、悠々自適に過ごすのは無理があるよな? お前の信条を現実のものとする為には、オレが提示する条件は絶対不可欠―――つまりお前にとってなくてはならないものなんだ。違うか?」
「―――は、屁理屈を……」
「だが、理に適っている」
「……。まさか、本当にそれだけでこの僕を釣るつもりじゃないよなぁ?」
青筋を立てて剣呑な雰囲気を醸し出すエドゥアルトに、フラムアークは臆さず逆に迫った。
「ダメか? オレでなくては出来ないぞ? 自分以外に大切な者がないフェルナンドには無理だ。自分以外に大切な者がないあいつは喪う苦しみが理解出来ないから、自分の都合で簡単に切り捨て、必要もないのに巻き込んで、大した理由もなくただいたずらに奪う。やられた側としてはたまらないぞ。絶対に許すことなど出来はしない」
エドゥアルトの脳裏に、フラムアークが傷だらけのユーファを抱えて戻ってきた時の光景が浮かんだ。
遠目に見ただけだったが、大切な者が理不尽な力によって傷付けられ、それを防げなかった己に対する怒りと、彼女の現状に対する憂いと、どうにか救い出せた安堵とがない交ぜになったフラムアークの姿は悲愴で、生々しいその情景はエドゥアルトの心に確かな一石を投じていたのだ。
だがそんな内心を包み隠して、エドゥアルトは皮肉気に笑った。
「オレでなくては出来ない、とは大きく出たものだな。逆に言えば、権力を手中にしたあんたがそうならない保証がどこにある? 昔から、その手の話は掃いて捨てるほどあるよなぁ?」
それに対するフラムアークの回答は明確だった。
「その為にお前がいる」
「……!」
エドゥアルトは唇を結び、燃え立つような滾りを宿したインペリアルトパーズの瞳を凝視した。
押し黙ったエドゥアルトの両眼を真っ直ぐに見つめ、フラムアークは初めて具体的にその言葉を口にした。
「フェルナンドを次期皇帝の座から引きずり下ろし、オレは次の皇帝としてこの国に立つ。その為に、エドゥアルト―――お前の力をオレに貸してくれ」
長い長い沈黙が落ちる。
―――自分以外に大切な者がない、か……。
エドゥアルトはフラムアークを見つめる視線はそのままに、詰めていた息をゆるゆると吐き出した。
そうだな……分かっている。
フェルナンドは優秀だが、そういう意味では欠陥を抱えた人間だ。
どうあっても飼い慣らせない性分の自分は、近からずとも遠からず、フェルナンドにとって目障りな存在となるだろう。
そしてその矛先はまず、エドゥアルト自身ではなくその周辺に及ぶ。
傷だらけのユーファを抱えたフラムアークの姿を見た瞬間、それが未来の自分の姿に重なって、正直ゾッとしたのは決して気のせいではない。
そうならないようにずっと上手く立ち回り続ければいいという話でもあるが、正直それは面倒臭いし、そもそも癪だし、何より疲れるしな……。
両肩の力を抜いたエドゥアルトは一度半眼を伏せて、それからゆっくりと正面の兄の顔へ視線を戻した。
「……僕は泥船に乗るつもりはないからな。大口を叩いた以上は実践しろよ」
長い沈黙を破って告げられた弟の言葉に、フラムアークは軽く息を飲み、それからみるみる顔を輝かせた。
「! エドゥアルト……!」
「―――ち……こんなに安く釣れてやるつもりはなかったのに……我が兄ながら強(したた)かな男だ」
舌打ち混じりにぼやく弟に、フラムアークは満面の笑顔で右手を差し出した。
「お前が力を貸してくれるなら心強いよ。ありがとう」
「ふん……」
面倒臭そうに右手を差し出し、申し訳程度に握手を交わしながら、エドゥアルトはフラムアークに問いかけた。
「それで? やられっぱなしで指をくわえて見ているつもりはないんだろ? これからどうするつもりなのか聞かせてもらおうか」
それに対し、フラムアークはにっこりと微笑んだ。
「もちろん。フェルナンドには致命的なダメージを負って退場いただくよ」