病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

二十歳C


 小雨が降り始めた宵闇の窓の外を見やりながら、私とスレンツェはフラムアークの帰りを彼の執務室で待ちわびていた。

 審議が長引いているのだろうか。まだ、廊下に彼の靴音は響いてこない。

 今日は一日、審議の行方が気がかりで仕事が手に付かなかった。どうしても必要なことだけをこなし、明日に回せるものは全部回して、私は夕方頃からこの執務室に入り浸っている。

 少し前に仕事を終えたスレンツェもここへ来て、私達は言葉少なに会話を交わしながらじりじりとフラムアークの帰りを待ちわびているのだった。

「遅いわね……」

 不安な気持ちを抱いたまま、ただ待ち続ける時間は、余計に長く感じる。

「レムリア達……どうなってしまうのかしら……。フラムアーク様、私達のせいで苦しい立場に立たされていたりしないかしら……」

 落ち着かない様子の私にスレンツェが言った。

「今はただフラムアークに任せて待つしかない。あいつが上手くやってくれると信じよう。オレ達に出来るのはそれだけだ」

 それは、重々分かっているのだけれど……。

「遅いのは議論が続いている証拠だ。あいつは頑張っているよ。レムリア達の件を契機に、おそらくは兎耳族の保護の在り方にまで話が及んでいるんだろう。もしかしたら、夜中までかかるかもしれないな」

 確かに……フラムアークは当初からそれを想定して、私に聞き取り調査を依頼していたものね。

 祈るように瞳を閉じた時、私の聴覚が聞き覚えのある靴音を捉えた。

 ハッと顔を上げて振り返った先のドアがほどなくして開き、審議を終えたフラムアークが入ってくる。

「フラムアーク様!」
「だいぶ揉めていたようだな。ご苦労だった」

 一目散に駆け寄る私と労いの声をかけるスレンツェとを見やって、フラムアークは頬を緩めた。

「ああ……だいぶ待たせちゃったみたいだな。ようやく終わったよ……ひどく肩が凝った」
「お疲れ様です。それで、あの……」
「首尾はどうだった?」

 口々に尋ねる私達に、フラムアークは笑顔を見せ頷いた。

「どうにかなったよ。レムリア達には一ヶ月間の社会奉仕活動が申し付けられることになった」
「えっ!?」

 予想していたより遥かに軽いその処罰に、私はサファイアブルーの瞳を見開いた。

「そ、それは本当ですか!?」
「うん。本当だよ」

 信じられない……! 最悪、無期の禁固刑が言い渡されるかもしれないとすら思っていたのに!

「レムリア達は明日にも釈放される見込みだ。今はもう牢獄ではなく別の部屋に移されている。きちんと確認してきたから、間違いない」
「あ……ありがとうございます! フラムアーク様、本当にありがとうございます……!」

 私は深く腰を折って、心からフラムアークに感謝した。

 良かった……! レムリア達がひどい罰を受けずに済んで、本当に良かった……!

「そこまで罪が軽減されたということは……兎耳族の保護の在り方について、抜本的なところまで見直されたということだな」

 スレンツェのその言葉を聞いて顔を上げた私は、憂いを含んだ表情で彼に頷き返すフラムアークと、それを見つめるスレンツェとの間に漂う何とも言えない空気に気が付いた。

 ―――え……? 何……?

「ああ……やはり、そういうことになった」
「……。そうか」

 違和感に戸惑う私を置いて、二人はまるで確認事項の伝達のようなやり取りを交わしている。

「あの……?」

 兎耳族の保護の在り方について議論が及ぶことは、私達の想定の範囲内だった。

 今回の件で兎耳族(わたしたち)に対する規制がより強化されるか、もしくは情状を酌量してある程度柔軟な措置が取られるようになるのか―――それはそういう程度の変化を示唆しているものだと、私はそう解釈していたのだけれど。

「審議の場で議論が尽くされた結果、皇帝は今回の調査結果と国民の声を鑑み、兎耳族の庇護を撤廃することになった」

 フラムアークの口からそれを聞いた時、彼らが想定していたのはその根幹を覆すレベルのものだったのだということを知り、私は耳を疑った。

 庇護を、撤廃……!? そんな大きな話に……!?

 予想だにしていなかった急展開に、頭と心の整理が追いつかない。

 え―――待って待って、それはつまり―――。

「段階的に兎耳族(きみたち)は保護を解かれ、そう遠くないうちに宮廷(ここ)を出て、以前のように外の世界で暮らしていくことになる。君は自由になるんだよ、ユーファ」

 ―――自由?

 混乱しているところへ畳みかけるようにそう提示されて言葉を失う私へ、フラムアークは熱っぽく語った。

「詳細はまだこれから煮詰めていかなければならないが、数年の時をかけて希望者から順次保護を解いていき、平等な支度金を持たせて宮廷の外へと送り出す流れになりそうだ。国の方で希望者が住まう兎耳族の新たな集落を用意する運びになっているから、保護の解除に消極的だった高齢者達もそうやぶさかではないだろう。十年後には、全ての兎耳族が以前と同じように宮廷の外で自由な生活を送っているはずだ。
そう遠くないうちに宮廷(ここ)を出て、どこへでも行けるようになるよ。街へ買い物に出ることも、森を散策することも、故郷へ足を伸ばすことも―――君の自由な意思で、どこへだって行けるようになるんだ」

 魅力的なはずのその文言は、ちっとも私の胸に響いてこなかった。

 だってそこに、置き去りにされてしまった私の気持ちはどこにもなかったから。

 兎耳族の保護の在り方について議論が及ぶことを私達は想定していたけれど、それに対する解釈の度合いが、私と彼らでは始めから異なっていたのだ。それを知らなかったのは私だけで、フラムアークもスレンツェも、最初からこうなる可能性を見越して動いていた。

 そして今、フラムアークは私自身が想像もしていなかった選択肢を、戸惑う私の前に揚々と差し出している。

 どうして? 皇帝の道を目指す為に、私の助力が必要だと、力を貸してくれと、貴方はそう言ってくれたのに。

 私はそれが嬉しくて、その為の助力は惜しまないと、そう応えたのに。

 なのに、どうしてそんな突然私を放り出すようなことを言うの? 私自身の意思を確かめもせず、そんな当たり前のように、私が選択する答えを決めつけて―――。

 私の心にはそんな思いが渦巻いていた。だからこの時胸にあったのは喜びではなく、むしろ悲しみと憤りの方だったのだ。

「―――それは、どういう意味ですか」

 自分でも、思った以上に険を含んだ声が出ていた。

 そんな私の反応が予想外だったのか、フラムアークは驚いた表情を見せた。

「……嬉しくないの?」
「レムリア達のことは素直に嬉しいですし、とても感謝しています。兎耳族(わたしたち)の為に貴方が最大限の力を尽くしてくれたことも、手厚く事後を考えてくれたことも、心からありがたいと、そう思います。まだ実感はありませんが、様々な制約を解かれて自由を手に入れられることも、本当に夢のようです」

 そうよ。それらのことは、間違いなく嬉しい。

 けれど、でも、それ以上に私の心は今、深い悲しみに覆われてしまっている。

「ですが……、私に向けられた貴方の言葉は、ちっとも嬉しくありません!」

 私は頬を紅潮させ、きっ、とフラムアークの瞳を見据えた。

「皇帝によって貴方付きを任命された私は、その庇護を失えば宮廷薬師としての資格を失い、宮廷にいる資格さえも失います。貴方は、それでいいのですか? 本当に、それを望んでいるのですか!? 貴方の裁量で再度私を任命しようとは、思って下さらないのですか!?」
「それは―――……、正直、考えたよ。でも、君は元々、望んで宮廷薬師になったわけじゃない。それでもオレに献身的に尽くしてくれた君が、ずっと望郷の思いを抱いていることは知っていた。宮廷という名の鳥籠の外へ出たいと、切に願っていることも……。そんな君にいつか恩返しがしたいと、ずっと思っていた。そのタイミングが今、ここで来たんだ。予想だにしていなかったタイミングではあったけど、ようやく君に自由を返してあげられるチャンスがやって来たんだよ。だから」

 言葉を選びながらそう答えるフラムアークに私は問いかけた。

「自由を返してもらえるのならば、何もただのユーファに戻らなくても、宮廷薬師の私であっても同じことでしょう? 宮廷薬師として働きながら休日は街へ買い物に繰り出したり、休暇をもらって故郷へ赴くことも出来るようになる、そういうことではないのですか?」
「確かにそうだ。だが、ここから先、オレが行く道はこれまでよりずっと険しく危険なものになる。このタイミングで皇帝の庇護を解かれたのは幸運と捉えるべきなんだ。君を安全に解放してあげられるのは、今ここをもって他にない。ここが潮時なんだよ」

 私を諭して距離を置こうとするフラムアークに私は言い募った。

「貴方の野望を達成する為には、私の力が要るのではなかったのですか? 私とスレンツェ、どちらが欠けても成立しなくなってしまうのではなかったのですか!?」
「―――それは。あの時はまさか、これほど早い段階で君を自由にすることが出来るとは思わなかったから……君をオレの野望に巻き込むことに対して、合理的な理由が成立していたんだ。そういう、ずるい思惑があって」
「貴方もスレンツェも、この審議によってこういう結果が成立する可能性を事前に見越していましたよね? 正直、私にはそこまで見通せていませんでした。私には、貴方達のような先見の明はありません。それに、今回はこういった形で貴方の足を引っ張ってしまうことにもなった―――だから、ですか? 本当の理由は……それですか?」

 自業自得。そう言われれば諦めもつく。

 彼の足枷になっては本末転倒なのに、それでも私は尋ねずにはいられなかった。

「―――私は貴方にとって、それほど取るに足らない存在でしたか?」
「違う!」

 強い口調でフラムアークは否定した。

「オレは君にスレンツェのような役割を求めているわけじゃない! オレが、君に求めているのは―――!」

 言いかけて口をつぐみ、煮え切らない態度で拳で握り込む。

「貴方が、私に求めているのは? 何ですか?」
「いや。ここで取り立てて言うことじゃない」

 本心を見せてくれないフラムアークに、私は悲しさでいっぱいになった。

「貴方は『私を安全に解放できるのはここが潮時』と先程言いましたが、この先険しく危険になる道に、貴方達を置き去りにするような形になる私の気持ちは、まるで考えて下さっていないでしょう!?」

 それが悲しくて、腹立たしくて―――私は目に涙を溜めながら想いの丈を訴えた。

「私は、いつか貴方が私に自由を返してくれたとしても、貴方とスレンツェの傍を離れることなど、頭の片隅にも置いていなかった! 例えどんな結末を迎えることになったとしても、貴方の行く末をスレンツェと共に見届けるのだと、私なりに貴方を支え続けるのだと、そう覚悟していたのに―――! 私にとって貴方達はこんなにも特別なのに、貴方達にとっては違うの!? 私をこんな形で遠ざけて、これまでとは違う形で保護するのが、貴方達の私への望みだというの!?」
「そうじゃない!」

 身を切られるような表情で、フラムアークはかぶりを振る。

「オレ達にとってもユーファは特別だ! ……特別なんだよ、特別だから―――!」
「ならば、どうして対等に扱ってくれないの! 勝手な優しさを押し付けて、私の気持ちを無視しないで!! あんな高説を垂れた以上、最後まで責任を持って私の覚悟を受け止めてよ!!」

 全身全霊で叩きつけた私の叫びに、フラムアークはぐっと奥歯を噛みしめた。

 数瞬の沈黙を置いて、未だ迷いを見せる瞳を彷徨わせながら、かすれた声を絞り出すようにする。

「―――オレだって、本心ではずっとユーファに傍にいてもらいたいんだ……」

 額に左手を当てがってうつむくようにしながら、フラムアークは震える息を吐き出して、抑え込んでいた胸の内をこぼし始めた。

「本当は、君を手放したくない。けれど、避けられる危険にわざわざ巻き込みたくない。そんなジレンマにずっと苛まれているんだ……。それを見せまいと必死で、精一杯、強がっているんだよ。言わせないでくれ……」

 フラムアーク―――。

「皇帝の庇護が撤廃されることが決まった時―――やり遂げた思いが込み上げてくる反面、すごく怖くなった。いつか君に自由を返すと意気込んでいたにもかかわらず、想像以上に早く手にすることになったそれを君に伝えるのが、どうしようもなく怖くなったんだ。涙ながらに笑顔でそれを受け取る君を勝手に想像して、これでユーファを失ってしまうことになるのかと―――君がオレの、オレ達の元を去ってしまう時が来たのだと、そう勝手に実感して……。けれど君の幸せを願うなら、そんな気持ちは隠しておくべきだろうと思った。それが主君としてあるべき姿だって……その方が男らしいって、男として選ぶべき道だって、独りよがりに思い込んでいた。それが君の為だって、本気で思い込んでいたんだ……」

 掌で隠されていない彼の口元が、歪む。

「―――は……。現実の君にあんな―――あんな顔をさせてこっぴどく叱られてしまうなんて、想像もしていなかった……。君に気持ちを叩きつけられる今の今まで、自分が一方的に先走って、君の気持ちをないがしろにしてしまっていることに全く気付いていなかったんだ。……格好悪すぎだな」

 自嘲するその語尾が震えた。

 私はゆっくりとフラムアークに歩み寄って、掌に隠された端整な顔を仰ぎ見る。

 上に立つ者として自分を律していた皇子としての仮面は剥がれて、溢れ出そうな感情を必死に堪える年相応の青年の姿がそこにあった。

 その表情や言葉から、彼が決して私の気持ちを軽んじたわけではなく、彼なりに私の身を案じ、様々なことを慮った上での行動だったのだということが分かる。

 私は涙ぐみながら口を開いた。

「私こそ……年甲斐もなくあんなふうに声を荒げて、感情を剥き出しにしてしまって、すみません。
私を心配してくれた貴方やスレンツェの気持ちは、とても嬉しいんです……。でも、履き違えないで……私は最後まで貴方達と一緒に戦って、見届けたいんです。だから、迷惑でないのならば、貴方達の傍にいさせて下さい。お願いだから……どうか、独りにしないで」

 フラムアークの頬を輝くものが伝い落ちた。

 そこから堰を切ったように感情が溢れ出て、せり上がる衝動に突き動かされるように彼は腕を伸ばした。私を掻き抱くように胸に収め、そのまま崩れ落ちるようにして床に膝をつくと、フラムアークは身体を打ち震わせて嗚咽した。

「―――っ……ユーファ……、ユーファッ……」

 私も泣きながら彼を抱きしめ返した。

 フラムアークも、いっぱいいっぱいだったんだ。

 様々な葛藤と戦いながら、それでも主としての立場を重んじ、臣下である私の身を守ることを第一に考えてくれていた。

 それでなくとも、今日の彼にかかった負荷は相当なものがあったはずだ。誰一人味方のいない審議の席で、一瞬たりとも気を抜けない状況で、長時間を戦い切った。どれほど精神力を削られたことだろう。それでも彼はしっかりと重責を全うし、大きな成果を持ち帰ってくれたのだ。

 敵だらけの宮廷内で、数少ない心を許せる味方である私を手放すことを決めたその覚悟が、いったいどれほどのものだったのか―――今の彼のこの姿が、それを如実に物語っている。

 自分の心を押し殺してこんなにも傷付きながら、それでも私の身を案じることを優先して、彼は主君として振る舞って見せていたのだ。

 健気で深いその愛情に、胸の奥から形容しがたい、突き上げるような感情が込み上げてくる。

 衣服を隔てて響く互いの鼓動を、温もりを感じながら、私は控え目な香水の入り混じったフラムアークの匂いに包まれ、言葉にならないその激情に再び目頭を熱くした。

 私を抱え込むようにしたフラムアークの胸は広くてその腕は力強くて、けれどその身体はずっと細かく震えていて―――私は精一杯強がって見せていた彼を抱きしめ返す腕に力を込めた。

 こんなふうに感情を露わにして涙を流す彼の姿を見たのは、いつ以来だろう。

 生まれ持ったカリスマ性や持ち前の包容力に惑わされてはいけないのだと、そう実感した。

 高い資質や努力で培われた様々なものを持ってはいても、彼はまだ二十歳の青年なのだ。

 普段は第四皇子として、皇帝を目指す者として意識的に立ち居振る舞っていても、その陰ではたくさん背伸びをしている部分もある。

 私は、彼の表の姿に惑わされてはいけないのだ。

 さっき、フラムアーク自身も言っていた。私に対して、スレンツェのような役割は求めていないと。

 彼が私に求めているものはきっと、彼という人を見てその心を支えていくこと―――それこそが、私が担っていく役目なんじゃないだろうか。

「私を……これからも、傍に置いて下さいますか?」

 改めて確認を取る私に、フラムアークは小さく鼻をすすりながら言った。

「最後のチャンスだよ……返事をしたら、オレはもう、君を手放せない。行きつくところまで、連れて行く」
「元より、そのつもりです」

 私は泣きながら微笑んだ。

「貴方は昔から優しくて……自分より他人を思いやってしまう傾向にあるから、どうしても人より負担を背負ってしまいがちです。だからせめて、私やスレンツェには余計な気遣いをしないで下さい。一蓮托生なのですから……どうか共に背負わせて。二人より三人の方が、背負うものは軽くなるでしょう?」

 私を抱きしめていたフラムアークの腕が緩んで、濡れたインペリアルトパーズの瞳が真正面から私のサファイアブルーの瞳を捉えた。

「ユーファ。まもなく皇帝よりその庇護を解かれる君を、改めてこの私、第四皇子フラムアークの宮廷薬師として任命したい。この要請に、否はないか?」

 かしこまって問う彼に、私は口元をほころばせて頭(こうべ)を垂れた。

「はい。謹んで、お受け致します」

 涙の痕の残る私達の顔にようやく笑顔が広がったところで、その様子をずっと見守っていたスレンツェが歩み寄り、座り込んだ私達の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜるようにした。

「まとまるようにまとまって、何よりだ」

 涼しい顔をして言う彼に、私は恨みがましい視線を向けた。

「スレンツェ。あなたにも後で言いたいことがあるわよ」
「……叱りの言葉を受ける覚悟は出来ている」

 そう嘆息する彼を見上げたフラムアークが悪戯っぽく問いかけた。

「何なら、その場に立ち会おうか?」
「いらん。何を想像しているのか知らんが、オレはお前のように無様な姿は晒さんぞ」
「ちょ、無様とか言うなよ! オレの立場!!」
「知るか」
「くっ……ユーファを甘く見るなよ! 後で似たようなことになっても知らないからな!」
「心配無用だ」
「くそ! ユーファ、手厳しく頼むぞ!」
「はい、分かりました」
「おい、ちょっと待て。どうしてそうなる……」

 さっきまで感情を剥き出しにして本音をぶつけ合っていたのが、嘘のよう。あっという間に、いつもどおりだ。

 私は涙を拭いながら微笑んで、笑顔でやり合うフラムアークとスレンツェを見やった。

 ああ、やっぱりこの空気感は最高ね。何物にも代えがたい。

 私の居場所はやっぱりここよ。それ以外にない。

 改めて、そう思った。

 私は、貴方達のことが大好きなんだもの。

 そんな特別で大切な貴方達と、最後まで共に歩む。これが、これこそが、私の選んだ道なのだ―――。
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