暗く闇の帳が降りた富士の樹海、そこに舞い降りる無数の黒い影があった。
巨大なパラシュートで降下してくるその影は、自衛隊の最新式空挺用レイバー、99式ヘルダイバーである。
「こちら第一小隊。降下終了。Tポイント確保。」
無骨なシルエットに似合わず見事な空挺降下をおこなうヘルダイバー。
だが、そのパイロットの口調は戦闘のプロフェッショナルそのものだ。
「司令機より輸送中隊へ。第二波降下開始。」
先行部隊からの報告を受け、上空を飛行する輸送機より第二陣の降下が開始される。
貨物室のハッチが開き、ガイドパラシュートが射出され、それに引かれてヘルダイバーが貨物室から姿を現す。
既に降下を終えた部隊は行動を開始していた。
隊列を組み、暗闇の樹海を進むヘルダイバーのモニターセンサーが目標を捉える。
「01よりコマンド。目標を補足。方位〇二、距離一二〇〇。目標を確認。」
そう報告したパイロットがモニター越しに見たものは、自機に向かって発射されたATMミサイルだった。
他のヘルダイバーも次々にミサイルを受け大破する。
爆発の閃光で木々の間に浮かび上がったそのシルエットは、禍々しい赤いレイバーだった。
「HAL−X・10(エックステン)」そう呼ばれる赤く塗装されたレイバーは、4本の脚部を収納すると
ホバーユニットを展開し移動を開始した。
「目標、方位〇三へ向け毎時40kmで移動中。目標を補足次第、対地攻撃を開始。展開中の各部隊警戒せよ。 」
スカウトヘリからの情報を受け、攻撃ヘリ ヘルハウンド が攻撃を開始する。
対空火器が機銃だけのX・10はたちまちホバーユニットを破壊される。
被弾したホバーユニットを切り離し、再び移動を開始するX・10。
そのレーザーセンサーの赤い光が木々の間を照らし、偽装したレイバーを発見するや木々をなぎ倒し突進してくる。
「撃てぇーーーー!!」
号令一下、猛然と射撃が開始される。
雨あられと降り注ぐ弾丸を物ともしないで突き進むX・10を木々の間に張り巡らされたワイヤケーブルが止める。
ワイヤーが絡まり、文字通り的と化したX・10を弾丸の嵐が襲う。
自動小銃が、大口径の対レイバーライフルが火を噴く。
更にヘルダイバーまでもが加わり、昼と見まごうばかりにマズルフラッシュが閃く。
重装甲を誇るX・10もようやく止まり、上空から降りてくるヘリのライトに照らされ隊員達が近寄ってくる。
もはや残骸となったとなったレイバーに隊員が群がり調査が開始される。
そしてハッチをこじ開けた隊員達が見たものは。無人のコクピットだった。
機動警察Kanon
Kanon
THE MOBILE POLICE
東京湾の上空をヘリが1機飛行していた。
機体のマークから察するにKey重工のヘリである。
そのヘリの機上でパイロットのおっさんが上機嫌で話をしていた。
「あれが木更津第1人工島です。最終埋立総面積45万平方メートル。川崎沖合の第2人工島と並ぶ本計画の
重要拠点の一つで・・・・・・。」
眼下に見える東京湾の工事現場を眺めながら、長々とバビロンプロジェクトの説明を続けるおっさん。
あまりにも長いのでここらで省略・・・。(笑)
やがて話題がレイバーの事に移っていく。
「単位時間あたりで熟練労働者の数十倍のマンパワーを発揮するレイバー。その集中使用による巨大洋上工事、
一昔前の夢物語が現実の物となったわけです。
もっとも、そのおかげで昔は考えられなかったレイバー犯罪なんて厄介なことも起きるようになりましたが・・・。
あぁ、これはそちらの御専門でしたね。」
そう言って振り返ったその先には、気持ちよさそうに眠りこけている警官が二人いた。
特車二課の派手な制服に身を包んだ二人・・・。
相沢祐一巡査と水瀬名雪巡査である。
おっさんの視線に気が付いたらしく、目を覚ました祐一が慌てて横の名雪をこづいて起こそうとするが、
そこは睡眠魔人の名雪・・・。
「うにゅ。」
と寝言を言うだけでいっこうに起きなかった。
苦笑する祐一と寝続ける名雪に気にするでもなく、おっさんは視線を戻した。
「見えてきましたよ。5時の方向。全長500メートル、洋上高150メートルの洋上プラットフォーム。
我々は方舟と呼んでます。」
おっさんの言葉に窓から身を乗り出して、どこをどう見ても船には見えない洋上の巨大建造物を見下ろす祐一。
「何であれが方舟なんだろうな?」
そう呟きながら(名雪が知ってる分けないか・・・。)
と同僚でもあり、いとこでもある名雪を見てそう思った。
「う〜。祐一ひどい・・・。」
寝ているはずの名雪からそんな台詞が聞こえてのだった。
そんな二人を余所にヘリは方舟のヘリポートの着陸した。
「システム01から05解除。ディスプレイ正常作動中。」
方舟の一区画にあるレイバー格納庫に第1小隊隊長小坂由紀子さんはいた。
『どうです。完璧に仕上がってるでしょう。』
格納庫の中には黒と白のツートンカラーに塗り分けられたレイバーがあった。
肩部に装備されたパトライトで、警察用のパトレイバーだと判断できる。
どうやら、格納庫の片隅にある管制室と話しているらしい。
『おたくの北川さんでしたっけ?慎重なのはいいけど考えすぎですよ。
八王子の方から、2号機以降のロールアウトの許可を早くもらえってうるさくってもう・・・。』
小坂隊長は、新たに導入が決まった新型パトレイバーのチェックのために方舟を訪れていたのだった。
「もう一度、今度はバックアップで立ち上げてみるわ。」
『あぁ、ちょっと。第2小隊の方が2名、お迎えに参上だそうです。』
引き続きチェックを続けようとする小坂隊長を技師が止めた。
「第2小隊の・・・?」
そういってモニターカメラをレイバーの足下にズームさせると、祐一と名雪が走って近寄ってくるところだった。
音響センサーのスイッチをオンにすると2人の会話が聞こえてくる。
2人とも小坂隊長がレイバーの中で聞いているとは、気づいていない。
「どうだ名雪、わざわざ見に来た甲斐があったってモンだろうが。」
自分が開発したわけでもないのに、自慢げに話す祐一。
「うーん。なんだか私この子好きじゃないよー。」
「何!お前が見たいっていうから口実作って抜け出してきたのに、なんだその言いぐさは。」
勤務中の警官とは思えないのんきな会話である。
「今日はここまでにしときましょう。」
『りょーかい。』
2人の隊員の会話に小さく笑うと、技師にテストの終了を告げてレイバーから降りた。
「相沢、水瀬両名。小坂隊長をお迎えにあがりました!」
レイバーから降りてきた小坂隊長を見るや慇懃に敬礼する祐一と名雪、さっきの会話態度はどこへやらである。
「早かったわね。あなたたちが来るとは聞いてなかったけど・・・。」
「自分らは、折良く2課に立ち寄った民間ヘリに便乗しましたので・・・。
整備班の誇る高速艇が現在、こちらに向かっております。
で、あの、出来ましたら、その到着の時間まで・・・。」
言いにくそうにしながら新型を見る祐一の意図を察する。
「さすがは秋子先輩の部下ね。と言うより娘さんと甥っ子だったわね。
良く嗅ぎつけたもんだわ。何なら試乗してみてもいいわよ。
水瀬巡査はお気に召さないみたいだけど。」
にっこりほほえみながら、皮肉を言う小坂隊長。
「聞かれちゃったみたいだね。」
「お前がつまんないこと言うからだ。根に持たれたらどうすんだよ。」
「だって本当のことなんだよ。どことなく悪役っぽくない?」
ため息をつきながら新型を見あげる祐一。
鋭角的なセンサーユニットや長い手足と言った独特のシルエットを持った機体だ。
「主観の相違だな。制式化されれば零式って呼ばれるらしい。98シリーズの最新バージョン、
と言うよりHOS(ホス)で動くことを前提に設計された初めての機体。っと言った方がいいだろうな。」
「ホスって何それ?」
「お前って中身については、本当に興味持たないな。
HOSってのは、二ヶ月前にKey重工が発表した革命的なOSなんだよ。
従来の機体に載せ替えるだけで30パーセントは性能が上がるって画期的な奴。
ハイパーオペレーティングシステム、エイチオウエス、HOS。
今じゃ大抵のレイバーが書き換えている。」
名雪のおとぼけなセリフにまたため息をつきながらも機体の説明をする祐一だった
が、ちょうど説明し終わったところで放送が流れた。
特車2課の小坂隊長。迎えのボートが到着しております。A15デッキへお越し下さい。
繰り返します。・・・・・・。
「さぁいくわよ。」
小坂隊長に率いられ格納庫を後にする2人、結局 零式に試乗することは出来なかった。
「うわー。まるで巨人の国みたいだよー。」
「みんなレイバーサイズだもんな。」
迎えの高速艇が待つデッキに向かう通路を歩きながら、名雪が感嘆をあげる。
方舟は、レイバーの整備および格納の為の施設であるから、内部のリフトも通路も全てレイバーサイズなのである。
「ぼんやりしていると置いてくわよ。」
周りの光景に見入るあまりエレベーターに乗り遅れそうになる。
3人が乗るエレベーターもレイバー用の巨大な物だ。
「小坂隊長、1つ質問してもよろしいですか?」
「ここのことなら私もごく一部しか知らないわよ。」
難しい話をする2人をよそに、名雪はエレベーターからの景色に見入っている。
「いえ、あの零式なんですけど、何でこんな所に?」
導入前とはいえれっきとした警察の装備品であるパトレイバーが民間の、しかも工事現場としか
言いようのない方舟においてあるのも妙な話である。
しかも最新型のパトレイバーともなれば、なおさらである。
「NY市警に実験的にレイバー隊が組織されて、先にあれが3機導入されたのは知ってるわね。」
「舞が初代隊長になるんじゃないかって言う、あの危ない話でしょう。
佐祐理さんが補佐に付くとは言ってましたけど・・・。」
舞と佐祐理さんとは、一時期NY市警から特車2課にレイバー隊の研修のために派遣されていた、
川澄舞巡査部長と倉田佐祐理巡査部長のことである。
現在は2人とも戻ってしまっているが、独特の感性(特に舞)を持った人物であった。
「技術指導で渡米している整備班の北川君から、連絡があったのよ。徹底的にそれも2課の人間の手で
チェックしてくれないかって。ここならKey重工のラインも入ってるし、機密保持も万全でしょう。」
「何か問題でも?」
「まさか、それならもっと大事になってるはずよ。ただ放っておくわけにもいかないと思って。」
その後、整備版の誇る高速艇で無事、2課に帰隊した。
真夏の日差しで陽炎がのぼる埋め立て地に小坂隊長の声が響いた。
「訓練期間の延長?今週中には全員帰隊できると、先週課長ご自身が・・・。」
方舟から帰隊した小坂隊長は、秋子さんとともに課長室にいた。
2人の小隊長の前には、椅子に腰掛けた特車2課課長の姿があった。
「確かにそういった。だが状況が変わったのだ。第1小隊の零式への機種転換訓練はさらに一週間延長される。」
現在、第1小隊のメンバーは小坂隊長を除き、採用された新型の零式への機種転換のための訓練のため、
埋め立て地にはいなかった。
そのため、第2小隊がずっと待機任務に就いている。
「納得のできる説明をお願いします。第2小隊にこれ以上のオーバーワークを強いればどんな大失態を
招くことになるか。呼び戻していただければ、第1小隊今すぐにでも立派に働いてご覧に入れます。」
なにげに第2小隊に酷いことを言っているようにも聞こえるが、当の第2小隊隊長の秋子さんは
にこにこといつもの笑顔のままである。
「小坂君。これは本庁の決定でね。私にもどうにもならんのだよ。」
小坂隊長に気圧され気味の課長はそういってたしなめようとする。
「それでは小坂はこれより本庁に出向き、警備部長本人に第1小隊の帰隊を上申して参ります。失礼!」
そう言い残して退室しようとする小坂隊長に課長の方が折れた。
「待ちたまえ。私の一存で話すのだ機密は守ってもらうよ。一昨日未明、陸上自衛隊第七管区所属の試作レイバーが、
風洞実験中突如暴走、フェンスを破壊して基地外に逃走する騒ぎがあった。
虎の子の空挺レイバー部隊まで動員してようやく仕留めたそうだ。
暴走の原因は不明、調査しようにも機体はスクラップ同然。よほど慌てたらしい。」
「しかし、そのお話とどういう関係が?」
自衛隊の試作レイバーが暴走したからと言って、訓練期間が延長される理由とは考えられない。
ただでさえ警察と自衛隊は仲が悪いのである。
しかし、まだ話に続きがあった。
「問題のレイバーはKey重工製、零式と同じ例のオペレーティングシステムを実装しているタイプだ。
それに連中はひた隠しにしとるが、暴走時コクピットは無人だったそうだ。
っとここまで話せば納得がいくかね?」
つまりはそういうことらしい。要するに様子を見ようと言うのが上層部の判断なのだ。
そのころ待機任務中の第2小隊のオフィスでは・・・。
「まじかよ?ホントに?・・・じょーだんじゃねーよな、勘弁してよ。」
実は、課長室での会話を盗み聞きしていたのだった。
盗み聞きしていた美坂栞巡査から、第1小隊が当分戻ってこないと言うことを聞かされた隊員の落胆は激しかった。
約1名除いて。
「何よ何よその態度は、第1小隊のみんなが戻ってくるまで、この街の平和を守れるのは私たちだけなのよ!」
拳をかざして力説する沢渡真琴巡査。98式Kanon2号機のパイロットだ。
「俺たちの人権は誰が守ってくれるんだよ。」
「そんなものはないのよ!!」
祐一の台詞に対し、きっぱり言い切った真琴。
「そりゃあ、お前は狐だからな。」
だが祐一の反撃で撃沈した。
「栞ちゃんもあゆちゃんもショックだねー。」
あぅ〜とうなっている真琴をよそに別の二人に名雪が話しかける。
「このひと月で、バニラアイスを買いに行けたのが3回。これはれっきとした危機です。」
「ぼくもたい焼き・・・。」
何の危機なのかは知らないが、そう主張する栞と月宮あゆ巡査。
栞はバニラアイス、あゆはたい焼き、あと真琴は肉まん、名雪はイチゴ。
彼女らはこれらの物を長期間摂取出来ないと、禁断症状がでるらしかった。
そのため2課の食料庫にはこれらの品がストックされているのだが、待機任務のために不足しがちになっているのだ。
「埋め立て地に缶詰と言ったところですね。」
天野美汐巡査部長がそう締めくくった。
「でも、確かにここんとこ出動が多いよな。」
祐一がもうウンザリといった口調で呟いた。
その時、警報が鳴り出動命令が下った。
第七管区より通報。台東区下谷に205発生。第2小隊全機出動せよ。繰り返す・・・・。
「言ってる側からからこれだよ。」
毒つきながらも立ち上がる。
「それっ!急げ!!」
脱兎のごとく駆けだしていく隊員達。
彼らが走っていく第2小隊のハンガーでは怒声が響き渡っていた。
「トレーラー廻して!リボルバーカノン急ぎなさい!!」
整備班の美坂香里班長である。
「ダラダラしていると、はり倒すわよ!!」
香里の怒声が響く中、整備員が走り回り出動態勢が整っていく。
そのころ現場は避難する住民らで大混乱になっていた。
家財道具まで持って避難しようとする住人達で、道路は溢れかえっている。
「逃げろーー!早く逃げろ!こらー危ないから逃げろってのがわからんのかー!!」
誘導する警官の避難勧告も聞かずに屋根に登っている野次馬もいる。
そんな連中に構わず暴走したレイバーは、民家を破壊しパトカーをも踏みつぶして進んで行く。
上空を飛ぶヘリからは、レイバーが破壊した後が道のように続いているのが容易にわかった。
『桜吹雪12より、現場急行中の特車2課第2小隊へ。目標は四菱重工製土木作業レイバー、
タイラント2000と判明。国際通りの工事現場から民家を破壊しつつ、毎時4キロで東進中!』
ヘリからの情報が第2小隊の車両のモニターにも表示され秋子さんが指示を出していく。
「祐一さん。そのまま直進して川沿いに目標の前方に回り込んでください。」
『了解っ。』
すぐに返事が返り祐一の指揮車と名雪が乗る98式Kanon1号機けろぴーを積んだキャリアがむかう。
「四菱のタイラント2000と言えば,土木レイバーのヘビー級だ。スピードはないがパワーは折り紙付きだ。
締めていけよ。」
「私、こういうの嫌いだよー。」
祐一のアドバイスに名雪はあまり乗り気ではなかった。
相手がヘビー級でパワーがあると言うことは、格闘戦を行った時に愛機であるけろぴーに傷が付くのがいやなのだ。
一方、2号機の方にも秋子さんの指示が飛ぶ。
「2号機は直ちに起動。追撃を開始してください。」
「了解。起動開始!」
指示を受けた真琴が嬉々として、2号機を起動させていく。
「真琴ちゃんわかってるよね。人名優先だからね。この意味判ってるよね。」
「くどいわね!現場の判断を信用しなさいよっ!このうぐぅ!」
必死に注意するあゆだったが、真琴に気圧され黙ってしまう。
「うぐぅ〜。」
「じゃあ、真琴はっきり言います。銃は使っちゃダメです。」
「あぅ〜。わかったわよ。美汐。」
今度は美汐に言われた真琴が黙る番だった。
「それでは起こしてください。」
2号機を積んだキャリアがデッキアップし、Kanonが地面に降り立つと避難した住人や見物人から歓声が上がる。
暴走するレイバーのコクピットでは、操縦していたおっさんが泣き声をあげていた。
そこへ真琴からの無線が入る。
『暴走中のレイバーの乗員に告げる。こちら特車2課第2小隊。今助けるわよ。』
助けが来た、と最初こそ安心したおっさんだったが第2小隊と聞いたとたん顔面蒼白になった。
思わずもうダメだと叫ぶおっさん。
それを聞いた真琴がキレれた。
「あんたねぇ、納税者だと思って優しくしてたらつけあがってー。ゆるさないんだから!!。」
そう叫んでタイラントに掴みかかる2号機。
だが重量級のタイラントがKanonが1機くっついたぐらいで止まるわけはなく、逆に外装だけが外れてしまい
真琴は仰向けに倒れてしまう。
そんな2号機の様子をヘリが見ている。
『現任中の桜吹雪12より水瀬隊長へ。2号機が市街地のど真ん中で暴走レイバーをどつきまわしています。
まあ、その割に効果は無いようですが・・・。
あっ!今蹴りを入れました。続いてドロップキック。何とかしてくださいよ。』
実況中継をしてくれる桜吹雪12の人の泣き言を、秋子さんはいつもの笑顔で聞き流していた。
必死にしがみつく真琴の2号機を引きずって、さらに民家を破壊していくタイラント。
やがて、名雪のけろぴーが先回りしているポイントの接近する。
「反応接近中。出てくるぞ。名雪。」
祐一が言うやタイラントと2号機が飛び出してくる。
「早く乗員を何とかしなさいよ!このレイバーばか力出しちゃって、もう!!」
切れ気味の真琴が何とかタイラントを羽交い締めにしている間に、名雪が乗員のおっさんを助け出した。
「真琴、電磁警棒を使いなさい。」
「左胸のラムユニット。一撃で決めろ!」
美汐の指示と祐一のアドバイスを受け、2号機がラムユニットに電磁警棒を突き立てた。
バシッ!
電撃が走り、タイラント2000がゆっくりと停止する。
「よ〜し終わったわよ。帰ってお昼にしよ!」
真琴がそう宣言した次の瞬間、停止したはずのタイラントが再起動した。
そのまま2号機ごとバラックを破壊して、運河に倒れ込んだ。
盛大に水しぶきを上げて2機のレイバー。波が沿岸の家屋を押し流す。
立ち上がった2号機のホルスターが開き、リボルバーカノンを構える。
「真琴〜。だめだよ〜。」
「真琴、撃っちゃダメです!」
「よせ!真琴。」
名雪、美汐、祐一の制止もむなしく、トリガーは引かれた。
「往生しなさ〜いっ!!」
ダァン、ダァン、ダァン、ダァン、ダァン、ダァン!!
リボルバーカノンが火を噴き、タイラントに炸裂する。
FRP製の外装で耐えられるはずもなく、今度こそ停止、と言うより大破するタイラント。
超電導モーター用の冷却液が漏れたらしく、運河の水面がレイバーが氷に覆われていく。
『作戦終了。目標を完全に破壊。周辺地区への被害甚大。繰り返す・・・・・。』
あおりを食らって氷漬けになった真琴が座るコクピットには、作戦終了を告げる無線が響くのだった。
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