マッドドクターなゆなゆの危険な実験
File.01
「ただいま〜」
某大手企業の次長職にある相沢祐一が最近建てたばかりのマイホームに帰宅すると自慢の二人の子供たち(息子と娘だ)が出迎えた。
「「おかえり〜」」
「うなぁ〜」
ペットであるピロ3世も一緒だ。
「おっ、ピロか・・・って名雪は?」
猫アレルギーである妻のことを祐一は尋ねた。
名雪がいるときはピロは子供部屋から外には出さないという約束があったからである。
すると息子と娘はため息をつくと言った。
「いつものようにラボ(研究室)の中」
「それも一日中。今日はまだお母さんの姿見ていないよ」
子供たちの言葉に祐一もため息をついた。
「はぁ〜。あいつののめり込んだらまっしぐらという性格は何とかならないものかね。
いくら猫好きだからって・・・」
そしてバイオハザード(生物災害)を防ぐための分厚い金庫のようなスチール扉に目を向けた。
その向こう側では名雪が一人、一心不乱になって研究に明け暮れていることであろう。
そう!!
現在の名雪の職業は化学者だったのだ!!!
高校を卒業した祐一は順調に都内某国立大学へと進学した。
そして名雪は・・・関西にある某国立大学へと周囲の人間を驚かせつつも進学した。
なぜならば高校3年生になったころの名雪の成績では絶望な進路だったからだ。
しかし名雪はがんばった。
朝は早起きして(無論あの目覚まし時計を使って)勉強、授業中も決して惰眠を貪ることなく熱心に授業を受け、夜は10時過ぎまで勉強(8時には寝ていた名雪には深夜にも等しい)。
さらに学年主席の香里と学年次席の祐一の手ほどきを受けてメキメキと実力をつけていった。
そして春。
名雪は誰もが「奇跡だ」というほどの難関を突破、化学者への道を歩み始めたのである。
大学へ進学後はたまにの祐一とのデートを除き、毎日勉学に励み、卒業後は祐一と結婚。
その後も大学院へと進んで勉学と研究に明け暮れた名雪は今や博士号を持つ立派な化学者になっていたのである。
「・・・じゃあ夕飯は?」
今は過去のことよりも自分の空腹を何とかするのが最優先。
昔と変わらず焼きそばしか作れない祐一は娘・・・相沢若菜に尋ねた。
すると若菜は肩をすくめて言った。
「私が作ったのならあるけど・・・・。おばあちゃんの料理とは一緒にしないでね」
母親が研究にかかりっきりのために近所に住む祖母に料理を教わっている娘の言葉に祐一は苦笑いした。
「馬鹿だな。お義母さんの料理と比較するものか。
第一、超がつくような料理人でさえ秋子さんの味にはかなわないんだ。
それに空腹の今なら謎ジャム以外ならなんでもおいしくいただけるぞ」
「空腹は最高の調味料というわけ?あまりうれしくないだけど・・・」
そうは言いつつも若菜は祐一にちゃんと手料理を食べさせてくれ、祐一は空腹感から解放されたのであった。
「いや〜、若菜の料理の腕前も上がったな」
愛娘の手料理に舌鼓をうった祐一はとりあえず食後のお茶を一口飲んだ。
するとその時突然「バシュー」というけたたましい音があたりに鳴り響いた。
しかしその場にいた三人は誰一人慌てない。
平然な顔である。
それもそのハズである。
音の発生源は名雪のラボの扉が開いた音だったからだ。
やがて低温のために流れてくる白い煙のなかから異様な格好をした何かが現れた。
全身を黒づくめの防護服に身を包み、顔全体をすっぽり覆ってしまうマスクとゴーグル。
まるでス○ーウォー○に出てくる某キャラのようだ(笑)。
やがてその人物はゆったりと三人の前に現れると口を開いた。
「つ、ついに世紀の発明品が完成したんだよ!!」
それは間違いなく名雪の声であった。
もっともマスクで遮られて聞き難かったが。
まあそんなことはおいといて三人は冷静だった。
「よかったな、名雪。おい、ところで今回は何度目だ?」
すると呼びかけられた息子・・・相沢祐喜はため息をつきながら言った。
「・・・今回を数えるなら物心ついてから357回目」
「今回も失敗にお小遣い一ヶ月分」
若菜の言葉に祐一も頷いた。
「俺も一ヶ月分と言わず二ヶ月分、いや三ヶ月分でも構わないが失敗する方にかける」
「ボクも」
「う〜っ、もしかしてみんな酷いこと言ってる?」
名雪は唸るが三人は何処吹く風といった表情だ。
しばらくむくれていた名雪ではあったがやがて気を取り直したのであろう、世紀の発明品を三人に披露した。
「これが世界を変える発明品CCA−856だよ!」
そのCCA−856,見た目は何か液体の入った小さな瓶である。
だがいつものことなので祐一・若菜・祐喜は表情一つ変えない。
そんな三人にすこし落胆しつつも名雪は注射器を取り出すと瓶のふたに突き立てた。
そして注射器に中身の液体を吸い取らせる。
そして着ていた防護服の袖をめくると注射器の針を腕に突き立てた。
そして中身の液体を送り込む。
「これで猫アレルギーは治ったはずなんだぉ〜!」
そう叫ぶや名雪は顔を覆っていたマスクとゴーグルをかなぐり捨てた。
そしてきっとリビングの床で毛繕いしていたピロをきっと睨み付ける。
すると名雪の視線を感じたのであろう、ピロはピクッと体を震えさせた。
そして逃げようとしてだろう、慌ててピロは腰を上げる。
しかしその判断は遅かった。
「ネコ〜、ネコだよ〜♪」
その動きは獲物を遅うチーターのごとく。
人間業とは思えないスピードで一瞬に飛びついた名雪はピロを即座に捕まえた。
そして幸せそうな表情を浮かべるとピロが嫌がっているにも関わらずほおずりする。
「ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪ネコ〜♪」
だがその至福の時間は長くは続かなかった。
幸せそうに嫌がるピロに無理矢理ほおずりしていた名雪の目から大粒の涙がこぼれ出す。
「あれ?おかしいな?」
慌てて目をこする名雪。
しかしそれでも涙は止まらない。
それどころか「クシュン!クシュン!クシュン!」とくしゃみ。
そして「ズルズルズル」と鼻水。
典型的なアレルギー反応だ。
その様子を見た祐一は名雪に言った。
「どうやら失敗のようだな。悪いが約束だ、ピロを開放してやれ」
「う〜っ」
唸る名雪ではあるが仕方なくピロをその抱きしめていた腕の名から開放した。
猫アレルギーが治るまではネコと触れ合ってはならない、それは祐一とそして秋子さんとの約束だったからだ。
そして怯えるピロは若菜の腕の中に飛び込む。
「お〜よしよし。恐かったんですね〜」
若菜の言葉にむっとする名雪、しかしそれは紛れもない現実だった。
「う〜っ、今度こそ成功させるんだよ!」
名雪はマスクとゴーグルを装着しながら叫んだ。
そして再びラボの中へと戻るのであった。
「「「はぁ〜」」」
名雪がラボにはいるのを見送るとその場の三人は一斉にため息をついた。
「お母さんって昔からああだったの?」
若菜の言葉に祐一は頷いた。
「ああ、その通りだ。ネコを見ると理性が効かなくなる。出会った頃からまったく変わらん」
「たいそう難儀したんだろうね」
「全くだ。何度エライ目にあったことか・・・。
それにしても世界中のネコたちのために名雪の失敗を祈ってやろうじゃないか」
未だに若菜の胸の中でぐったりしているピロを哀れそうに見ながら祐一は言った。
すると若菜と祐喜は同感とばかりに頷き、そして三人はまた大きなため息をつくのだった。
そのころラボ内では。
「う〜っ、今度こそ猫アレルギーを治すんだよ。そして101匹ネコちゃん大行進を実行するんだから〜」
と三人が聞いたら卒倒するような野望に燃える相沢(旧姓水瀬)名雪なのであった。
あとがき
File01完成です。
ちなみにこの話は実家に帰省する電車の中で前半部を書いています。
と言っても半分もなくて、残りは実家で書いたんだけどね。
ちなみにネタは映画「Cats&Dogs」を使ってます。
キャラクター説明
相沢祐一(38)
ご存じ我らが主人公です。
なおこのSS内では高校卒業後20年あまり。
最近になって名雪の生まれ故郷である雪の町に戻ってきた。
そんな設定です。
ちなみ現在は某大手企業の次長さんをやっています。
相沢名雪(旧姓水瀬)(37)
現在は主に生物・遺伝子工学を手がける科学者です。
自らの野望実現のためにこけの一念で進学した根性の持ち主でもあります。
現在はもっぱら自宅にこしらえたラボ(研究室)で怪しい実験・開発を行っています。
相沢若菜(13)
祐一と名雪の間に生まれた長女。
外見は名雪に似ていますが性格はしっかり者。
料理は近所に住む祖母の秋子さんに習っているので腕前は確か。
その他にも勉強は得意、運動神経もかなりの者あるよう。
ちなみに相沢家No.1の実力者である。
相沢祐喜(11)
祐一と名雪の間に生まれた長男。
極めて常識的な人間で父親とはそう言う意味ではまるで似ていない。
ただ勉強はよくできる。運動神経はよくないけど。
相沢家内の地位は一番の下。
2001.12.30