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放課後の学校の教室。
この春、晴れて三年生に進学した水瀬名雪は一枚のプリントを前に一人悩んでいた。
それは・・・いつものようにイチゴやら猫やらケロピーやら。
そんなことではなくこれから先の人生を左右しかねない重要なことであった。
それ故に名雪はいつものように惰眠をむさぼることなく考え込んでいたのだ。
「おう名雪。こんなところで何をしているんだ?」
従兄弟にして恋人の相沢祐一の言葉に名雪は頭を振った。
「ううん、何でもないよ。それよりも祐一は?帰らないの?」
すると祐一はちょっと照れくさそうに鼻の頭をぽりぽりかきながら言った。
「名雪と一緒に帰ろうと思ってな。今日は部活ないんだろ」
「祐一・・・」
放課後の教室の中で互いに見つめ合う二人。
まるでそこらにあふれている少女漫画のワンシーンのようだ(笑)。
だがそんな状態は長くは続かなかった。
「はいはい、二人だけの世界はその辺で終わりにしてちょうだい」
手を叩きながら現れたあきれ顔の美坂香里の言葉に名雪と、そして祐一は我に返った。
よく見ると香里だけではない、教室に残っていた十数人の同級生達もニヤニヤ笑いながら二人を見守っていたのである。
「か、香里。い、一体いつから!?」
「はじめから」
「う〜、はずかしいんだぉ〜」
名雪の顔はまるで好物のイチゴのように真っ赤になった。
「それはそうと名雪、何を考えていたの?」
香里の言葉に名雪は大きなため息をつくと机に置かれたプリントに視線を落としながら言った。
「これだよ、これ。進路指導」
すると事態を理解したのだろう、香里は即座に言った。
「悩むぐらいなら誰かに相談したら?秋子さんとか」
すると名雪は首を横に振った。
「お母さんに相談しようとしたらいきなり『了承』だったんだよ。相談にもならないよ〜」
名雪の言葉に祐一と香里は苦笑した。
「たしかに秋子さんならそうかもね」
「納得できる理由だな。だから一人悩んでいたのか?」
「うん」
名雪は頷き、そしてはっとしたように顔を上げて叫んだ。
「祐一はどうしたの!?それに香里は!?」
すると二人は胸を張って答えた。
「当然提出済みだ」
「まあ聞くだけ野暮というものよね」
「う〜、参考に聞くけどどうするの?」
名雪の言葉にまず祐一が答えた。
「当然進学する。実力主義が言われるこの世の中でもやはり学歴は重要だからな」
そして祐一はいくつか学校名を上げた。
それはみな超がつく有名・名門大学ばかりであった。
当然入試は大変な難関のはずである。
しかし学校の成績順位No2の祐一には何と言うことはないレベルであった。
「それで?」
大学卒業後のさらなる進路を聞くと祐一はまた胸を張った。
「当然決めていない!4年後のことなんか知ったことか。後は野となれ山となれだ」
「「はぁ〜」」
名雪と香里のため息二重奏。
そして名雪は祐一を無視して言った。
「香里はどうするの?」
「私は医者になるために医大に行くわよ」
「お医者さんか〜。香里にぴったりかもね。ところで何で?」
名雪の素朴な疑問に香里は表情を曇らせた。
「栞の病気が治った話、話したわよね?」
香里の言葉に名雪は頷いた。
すると香里は続けた。
「高名な名医でもさじを投げた栞の病気、それがある日突然治っていたわ。
誰もがみんな奇跡だって言っていたし私もそう思う。
でもね、名雪。もしかしたら今も栞と同じ病気で苦しんでいる人がいるかもしれない。
私はね、そんな人たちを助けてあげたいの」
「・・・やっぱり香里はすごいよね〜」
祐一とは違ってえらく高尚な香里の考えに名雪は感心したように頷いた。
すると香里は照れて、手をパタパタとふった。
「やだね、名雪ったら。立派なこと言っているけどこれだって自分のためなんだから。
名雪、あなたもそう言う道を選んだらどう?
自分の為に頑張る、これって人生の基本だと思うわよ」
「・・・そうかな?」
「そうよ。陸上の道を究めたって良いし、他に何か自分の好きなこと、夢を追い求めたって良いし。
すべて名雪の人生なんだから悔いない選択をしなくっちゃ」
「・・・うん」
名雪は頷くとボールペンを手にした。
そしてプリントに自分の未来を書きつつるのだった。
それから二十年あまりの月日が流れ、新たな物語が始まる。
あとがき
今回はエピローグです。
ですからこれだけではいまいち分からないと思いますけど。
まあタイトルから察してください。
なお構成的には4エピソードを用意していますが全4話というわけではないです。
内容は完全に確定済みなのですぐに書けると思いますけど。
なお今回は出番があった香里と、助かった栞はもう出てきませんのであしからず。
2001.12.28 明日から正月休みだ♪