終章.終わり、そして始まり

 

 

 「いよいよだね。」

朝起きた傭兵隊隊長戸田為政にピコはそう言った。

「ああ、そうだな。」

為政はピコの言葉に頷いた。

今日はドルファン歴29年3月15日。

五年に一度の騎士叙勲式であった。

ただでさえ盛り上がる騎士叙勲式、ちょうど間に戦争があったこともあり今年は大変盛り上がる

であろう事が容易に推測できた。

そしてこの騎士叙勲式が傭兵隊の面々の最後の晴れ姿となる。

その翌日にはこの国の全ての外国人は国外退去を命ぜられるのだから。

現にこの国にいたかなりの外国人がすでに国外へと流れている。

傭兵もまた騎士称号に関係ない者や興味のない者はすでに船に乗り込んでいることであろう。

為政は寝間着を脱ぐとこれが最後になるであろう傭兵隊の第一種軍服に袖を通した。

とたんにピシッと気が引き締まる思いがした。

「それじゃあ行ってくるよ。」

そう言うと為政は自分の部屋を出た。

 

 

 為政が騎士叙勲式の行われている城についた時、もう式は始まっていた。

まあもともと為政たち傭兵隊の叙勲式は騎士たちの後で別に遅刻したわけではないのだが。

というわけで傭兵たちは出番が来るまで大人しく待っていなければならない。

為政は待合室の椅子に座ると大人しく待っっていた。

すると一人また一人とやって来る。

始めは5.6人しかいなかった待合室はあっという間に三十人ほどにまで膨れ上がった。

そしてそれに伴ってどんどん警備の人間が増えてくる。

為政が警備の人間を黙ったままジーッと見ているとグイズノーが声を掛けてきた。

「よう、警備の人間がどうかしたのか?」

そこで為政は首を横に振りながら言った。

「いや、ただ俺たちを馬鹿にしているなと思ってな。」

「奴らがオレたちは暴れるんじゃないかと思っていることか?それともあれっぽっちの警備兵で

オレらをなんとか出来ると思っていることか?」

グイズノーの言葉に為政は苦笑いした。

「両方だよ。まったく俺たちを馬鹿にしているよな。」

そんなことをお喋りしているとついに傭兵隊の出番がやって来た。

「おい、出番だぞ。来い!」

妙に高飛車な衛兵に案内され為政たちは叙勲式の会場である城の大広間に入った。

 

 城の大広間にはものすごい数の人間が・・・いなかった。

いたのは騎士称号を与える国王とその側近、あとは衛兵たちがいるだけであったのだ。

どうやら騎士団の叙勲式が終わった段階で参列者たちはみな帰ってしまったらしい。

「はぁ。」

為政はがっかりして溜息をついたものの考えてみればそう大したことではない。

というか予想されたことでもあったので為政はすぐに気を取り直した。

そして言われるままに国王の前に他の傭兵たちともども並んだ。

そして傭兵たちの叙勲式が始まった。

 

 騎士称号は低いほうから順に与えられていった。

まずは準騎士。

この称号は傭兵隊で一年以上勤務していた全ての者に与えられた。

まあ記念というかそんなところであろう。

それゆえ一人一人には与えられず代表者が一名だけ受け取った。

そして次の青騎士・紫騎士・赤騎士。

この叙勲式に参列した傭兵たちの半数はこの称号を貰った。

まあ騎士団の人間も大抵はこの辺りの称号が大半を占めるらしい。

さらに黒騎士・城騎士・銀騎士。

この辺りの称号は士官クラス、それも文武共に優れた傭兵隊選りすぐりのエースたちにしか

与えられなかった。

なんせ騎士団でも100人に一人ぐらいしか与えられないという称号だからかなりのものであった。

ところが傭兵隊隊長である為政の名はちっとも呼ばれない。

(おかしいな・・・)

そう思っているとついに為政の名前が呼ばれた。

為政は胸を張って堂々と国王の前に立つと跪いた。

すると国王は為政の前に立つとその手にした剣を為政の肩に当てた。

そして高々と

「汝は外国人ながらよく戦ってくれた。

トダよ、汝に騎士の最高位である聖騎士の称号を与える。」

と高々と宣言した。

その言葉と同時に国王の側近や衛兵たちが一斉にどよめいた。

しかしすぐにそのどよめきも消えた。

叙勲式そのものが終わったため国王がその場を退席したからである。

そして側近もそれに続き、警備対象がいなくなったため衛兵も退席、その場には傭兵たちだけが

残された。                                             

 「すごいじゃないか。」

叙勲式の終了と同時に為政の周りに傭兵たちが集まってきた。

「そんなにすごいことなのか?」

聖騎士の称号の重みを全く理解していなかった為政はそう聞いてみた。

するとグイズノーが

「おいおい、知らなかったのかよ。

聖騎士っていうのはな、ここドルファンではもっとも最高の騎士称号なんだぞ。」

と言えばギュンター爺さんも

「その通りじゃよ。

なんせ騎士団のほうですらここ20年ほど聖騎士の称号を受けたものはいないんじゃからな。」

と言った。

それを聞いた為政は心底驚いた。

たしかに八騎将を全員倒しているし、その他にも様々なことに活躍していたが正直な話、戦況に

影響させるような活躍は一切していなかったからである。

為政がそのことを話すとグストン准尉が

「この国を出ていくんだから称号だけでも大盤振る舞いしてやろうということなんじゃないのか?」

と言い、皆を納得させたのであった。

 

 叙勲式を終えた傭兵たちはこの後、酒盛りをする事を決め、その場を後にしようとした。

その時、近衛兵団のメッセニ中佐が為政に話しかけてきた。

「おい、東洋人。ちょっと話がある。悪いが暫く残ってくれ。」

メッセニ中佐の言葉に為政は頷き、そして仲間たちに言った。

「悪いが少し遅くなる。先に初めておいてくれ。」

それを聞いた仲間たちは「おう」と頷くとさっさと大広間を出ていった。

 

 「それでは陛下がお待ちだ。来てくれ。」

メッセニ中佐の言葉に為政は驚いた。

中佐本人が為政に用があると思っていたからである。

そんな為政のとまどいが顔に出ていたのであろう、メッセニ中佐は笑った。

「気にするな。陛下はお優しい方だからな、何かお言葉が有るんだろう。」

まあ妥当なメッセニ中佐の言葉に為政は頷き、その後に続いた。

 

 為政が案内されたのは何度も足を踏み入れたことのある謁見の間であった。

何度もくぐり抜けた丈夫で大きい扉を通るとそこにはドルファン国王デュランがいた。

「陛下、トダ大尉を連れて参りました。」

メッセニ中佐が為政を初めて呼んだことに驚いたものお顔には出さずに為政はかしこまった。

「うむ。」

王は頷くと威厳のある大きな声でメッセニ中佐に命じた。

「メッセニ、そなたは下がっておれ。大尉と内々に話したい事があるのでな。」

「はっ!分かりました陛下。」

メッセニ中佐は頷くと謁見の間を出ていった。

それを見届けると王は立ち上がり、為政の目の前に立った。

そして王は口を開いた。

「トダ大尉よ・・・、今日は王としてではなく父親としてそなたに話がある・・・。」

「・・・・・。」

為政は頷き、黙ったまま王の話を聞いた。

 

 その内容はまさに衝撃的なものであった。

あの陽気で明るいプリシラにそのような家庭事情があったとは・・・。

為政はプリシラの表面しか見ていなかったことに気付き、愕然とした。

「・・・すまない、頼みがある。」

王はそう言うと頭を下げた。

「へ、陛下!?」

「この通りだ。娘に、プリシラに会ってやって欲しい。」

為政はその姿にただ承知するしかなかった。

いや、為政もプリシラに会わせて欲しいと頼みたかったのだ。

為政が承知したことを確認すると王は寂しそうに笑った。

「済まない・・・親馬鹿とでも笑ってくれ。しかし私は最愛の娘の願いを聞き入れてやりたいのだよ。」

為政は王に言われたプリシラのいる場所、空中庭園へと向かって歩き始めた。
















 「よう、遅かったな。」

為政が酒場についたとき、すでに辺りは陽も落ち真っ暗になっていた。

すでに傭兵たちはすっかり出来上がってしまっている。

ドルファン最後の夜を飲み明かすことで過ごすのであろう。

為政はさっきまでの気持ちを切り替えて席に座った。

するとすっかり出来上がっていた騎馬隊隊長ベッカー中尉が絡んできた。

「おい、隊長さんよ・・・、一体何の話をしていたんだ?

まさか聖騎士一人だけこの国に残るってな話じゃなかったろうな?」

それを慌ててアスベル少尉が止めるが中尉はグデングデンになってしまい話が通じない。

為政は苦笑いすると本当の話をするわけにはいかないのでもっともらしい話をした。

「ただたんに旧家によって外国人排斥法が成立したがこれは王家の本意ではない。

その事だけは承知していてくれというのと、いままでの三年間ご苦労さんといったねぎらいの

言葉だけだったよ。」

それを聞いたベッカー中尉はよしよしと肯いた。

そしてそのまま酔いつぶれてしまった。

 

 「珍しいな。中尉は禁酒中じゃなかったのか?」

為政が尋ねるとアスベル少尉はうなだれながらも言った。

「明日でみんなとお別れなんだから今日ぐらいは禁酒をやめるんだって・・・。」

「なるほどな。」

為政は頷いた。

ここ三年間、ずっと生死を共にした仲間が離ればなれになるかもしれないのだ。

最後に思いっきり羽目を外したくなる中尉の気持ちが為政にもよく分かったのだ。

「よし、俺も思いっきり飲むか。」

為政は目の前にあるグラスに酒をそそぎ込むと一気に飲み干した。

「おお、良い飲みっぷりだな。」

やはり出来上がっているグイズノーが為政に話しかけてきた。

「明日は訓練もないんだ、せいぜいたまにのはめはずしとさせてもらうさ。

それに隊長という職務からも解放されたことだしな。」

こうして傭兵たちの最後の夜が更けていった。

 

 

 そして翌日。

とうとう外国人排斥法の期日がやって来た。

今日までドルファンに残っていた外国人たちは次々と出国していく。

もちろん傭兵隊の面々も同様である。

次々と船に乗り、ドルファンを後にしていく。

しかし為政は昼過ぎになってもまだ兵舎に残っていた。

なぜならば傭兵全てが出国するまで傭兵隊は書類上は存続していることになっているのだ。

そこで隊長である為政は最後まで残り、傭兵たちの出国を見届ければならないのだ。

いつでも出国できる準備を整えて、為政は次々と兵舎を去っていく傭兵たちを見送り続けた。

 

 「おい、ユキマサ。」

午後二時頃、グイズノーとホーンが連れ立って為政の所へやって来た。

「・・・行くのか?」

為政が尋ねると二人は頷いた。

「ああ、そうだ。というわけでお別れを言いにな。」

「そうか、これからは寂しくなるよ。ところで二人は何処へ行くんだ?」

「スィーズランドへ行く。また傭兵をやるつもりでね。ところでユキマサはどうするんだ?」

グイズノーの問いかけに為政は考え込んだ。

「・・・考えてもいなかったよ、この後どうするかなんてな。

隊長職を全うするのでいっぱいだったからな。」

それを聞いたグイズノーは笑った。

「お前さんらしいよ、全く。・・・お別れだな、ユキマサ。

もしかしたら戦場で会うかも知れないがその時はお手柔らかにな。」

そう言うとグイズノーはホーンと一緒に港へと向かって歩き出した。

「気を付けろよー!!」

為政がその背中にそう叫ぶと二人は振り返らずに手を振った。

これが二人との別れであった。

 

 「寂しくなるよね・・・。」

ピコがそう言ったので為政は笑った。

「出会いがあればまた別れもある。それにいつかまた会えるだろうさ。」

為政の言葉にピコも笑った。

「そうだね。また新しい出会いが有るだろうし、再会できる・・・よね。」

「そうとも。」

ピコの様子がいつもより少しばかりおかしいことに為政は気が付いたが何も言わなかった。

そういうこともたまにはあるのが当たり前だからだ。

「それにしても私、ホーンの言葉一度も聞かなかったよ。」

ピコがそんなことを言ったので為政も頷いた。

「俺もだよ、ピコ。

なんせ長いつきあいのグイズノーですら殆ど聞いたことがないというんだからな、

3年ぐらいでは無理なんだろうよ。」

その時、ギュンター爺さんが顔を出した。

「なんじゃ?声が聞こえたがお主一人じゃったか?」

そこで為政は慌てて誤魔化した。

「独り言だよ、独り言。それよりも爺さんも行くのか?」

為政が聞くとギュンター爺さんは頷いた。

「ああ、国に帰るつもりじゃよ。

さすがにこの年で傭兵を続けるのは不可能だと悟ったからの。」

「そうか・・・。」

為政が相づちを打つとギュンター爺さんは続けた。

「三年間、思うがままに生きた。

これで思い残す事はないからのう。もとの人の良い爺に戻るわい。」

そういうとギュンター爺さんはカッカカカカと笑った。

「もうこれでお主と会うこともあるまい。末永く無事に暮らせよ。」

ギュンター爺さんは最後の最後に老人らしい台詞を吐き、そして為政の前から姿を消した。

 

 

 「さて行くか。」

為政は立ち上がると荷物を担いだ。

その荷物はここドルファンで過ごした三年間の思い出と共にずいぶんと膨らんでいた。

そしてそのまま兵舎を出た。

すると門の所にマデューカス少佐が立っていた。

「少佐・・・」

為政がそう言うとマデューカス少佐は首を横に振った。

「残念だったな、大尉。俺はもう少佐じゃない、退役したからな。」

それを聞いた為政は笑った。

「それなら俺ももう大尉ではありませんよ。部下たちは一人残らず出国しましたからね。」

その言葉をきっかけに二人は笑い出した。

しかしやがて二人の笑いも収まった。

「気を付けろよな、大尉。いつかまた会おう。」

「ええ、少佐こそ・・・、それではまた。」

為政は別れを伝えると少佐の前を通り過ぎた。

そしてそのまま三年間過ごした兵舎を振り返ることなく港へと歩いていった。

 

 

 

 ザブーン ザブーン ザブーン

 

 ベッドの上に横たわっている為政の耳に、ただうち寄せる波の音だけが届く。

すでに海上は真っ暗であり、当直の船員を除いては皆寝静まっているはずであった。

しかしいつもとは違う環境のせいか為政はまだ寝付くことが出来なかった。

そこへみしっ みしっと木のきしむような音が響いた。

その音は少しづつ、しかし確実に為政の寝ている部屋へと近づいてくる。

為政はベッドから身を起こすと窓からさしこめる月明かりを頼りに傍らに置いてあった小太刀に

手を伸ばした。

そしてそっと音もなくドアの近くに忍び寄った。

その時ドアがコンコンとノックされた。

「・・・ユキマサ、いる?」

聞き覚えのある声に為政はドアのかんぬきを外すとドアを開け、声を掛けた。

「こんな時間に何事だ、プリシラ?」

すると寝間着姿のプリシラは笑い、そして言った。

「・・・ごめん。ちょっと用事があるんだ・・・。だから部屋に入れてくれないかな?」

「ああ、いいとも。」

為政はプリシラを部屋の中へと迎え入れた。

部屋の中に入ったプリシラは興味深そうにきょろきょろ眺めた。

畳二畳ぐらいの狭い部屋に決して立派とは言えないベッドにちょっとしたクローゼット。

どれもそう珍しいものではない。

しかしプリシラにとっては興味を引く物であったらしい。

「ふーん、この部屋はこうなっているんだー。」

「そんなことの為にこんな時間に来たのか?」

為政が問いただすとプリシラは首を横に振った。

「うんん、違うわ。とても大切なことなの。」

そう言うとプリシラはベッドに腰を下ろした。

部屋は狭くゆとりがないので為政もプリシラの隣に腰を下ろした。

「一体大事なことってなんなんだ?」

為政がプリシラを問いただすとプリシラはうつむいた。

(???)

為政がプリシラの反応に戸惑っているとプリシラは顔を上げ、為政の目を見つめた。

「・・・なんか照れちゃうけど・・・」

そう言いながらプリシラは為政の顔に近づき、そして触れ合った。

一瞬驚いたものの為政はプリシラの背中に手を回すとそれに応えた。

二人は息の続く限り求め合った。

やがて二人の唇が離れるとプリシラは為政から離れた。

そして自分の背中に手を回すとボタンを外した。

するとプリシラの着ていた純白の寝間着はパサッという音と共に床に落ちた。

そこには月の光に包まれた白い裸身のプリシラが立っていた。

その姿に見とれていた為政ではあったが気を取り直すと立ち上がるとプリシラを抱きかかえ、

ベッドに押し倒した。

「きゃ!」

プリシラは小さな悲鳴を上げたが為政の顔を見て微笑んだ。

「いいのか?」

為政がそう言うとプリシラは頷いた。

「私は決めたの、あの国を・・・ドルファンを出るって。貴方についていくって決めたの。

だから・・・。」

為政はそれ以上プリシラに言わせなかった。

そのまま続きを言おうとしていたプリシラの口をふさぐと抱きしめた。

「あ、あの・・・わ、私こういうの・・・初めてだから・・・」

プリシラの言葉に為政は頷いた。

「分かった、優しくするよ。」

為政はそう言うとプリシラの身体に覆い被さっていった。

 

 

 

 スー、スー、スー。

プリシラは為政の隣で幸せそうな表情のまま寝入っていた。

そんなプリシラの顔を愛おしげに為政は眺めていた。

その時、ふと窓の外を眺めると満天の月が出ていることに為政は気付いた。

なんとなしに月を眺める気になった為政はプリシラを起こさないように起きあがると素早く

服を着込んだ。

そしてそっと扉を開けると甲板へと上がっていった。

 

 「来たんだね、為政。」

為政が甲板にあがると手すりの上に座り込んでいたピコが出迎えた。

「よう、ピコじゃないか。こんな所にいたんだな。」

為政がそう声を掛けるとピコは顔を赤く染めてうつむいた。

「あんなことしている部屋にいられるわけないでしょ。」

その言葉を聞いた為政は笑った。

「うぅー、為政私を笑ったー。」

ピコがむくれたので為政は素直に謝った。

「すまんすまん。お前がそんなに怒るとは思ってもいなかったんだよ。」

「・・・まあいいんだけどね・・・」

そう言うとピコは空を見上げ、満天の月に目をやった。

それにつられて為政も月に目をやった。

二人?は穏やかな表情のまま月を眺め続ける。

しかしやがて月は雲に閉ざされてしまい見えなくなった。

 

 「そろそろ部屋に戻らないか?」

為政がそう言うとピコは悲しげに首を横に振った。

「どうした。一晩中、外にいるつもりなのか?」

するとピコは為政に驚くべき事を言った。

「うんん・・・、為政。これで・・・お別れだよ・・・。」

「何!?ど、どういうつもりだ、ピコ!!」

為政が聞き返すとピコは悲しそうに笑い、そして言った。

「そろそろ為政にも分かるんじゃないかな?お別れが近づいていることが。」

「何だと?」

為政は慌ててピコの様子を観察した。

するとピコの身体がだんだん薄れていくのがはっきり分かった。

「ど、どういうことなんだ!?」

為政の言葉を聞いたピコは背中の羽を羽ばたかせ、為政の目の前に止まると言った。

「私はね、独りぼっちの寂しい人の側で過ごす妖精なんだ・・・。」

それを聞いた為政はピコに反論した。

「俺は独りぼっちなんかじゃなかったぞ。」

それに対してピコは首を横に振って答えた。

「うんん、為政はずっと独りぼっちだったよ、国元でも傭兵をやっていたときでも・・・。」

「・・・・・。」

為政は黙ってピコの話を聞き続けた。

たしかに言われたとおり、国元にいたときには親友と呼べるような存在はいなかったし、

あちこちの国を傭兵として転々としていたときはすぐに別れてしまうこともあり、それほど親しく

なることもなかったからである。

「でもドルファンにきて為政は変わった。沢山の友達に出会ったし、大切人も出来た。

もう独りぼっちなんかじゃないんだよ。」

ピコが話している間にもどんどんその存在が薄れていくのが分かった。

 「・・・ピコ、お前はどうなるんだ?」

為政の前から姿を消そうとしているピコに尋ねてみた。

するとピコはにっこり笑いながら言った。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、死んだりするわけじゃないんだ。

ただ為政の前から姿を消すだけなんだよ。」

「・・・もう会えないのか?」

為政の言葉にピコは頷いた。

「・・・うん、もう会えないと思う。というより私ともう一度会うなんて寂しすぎるよ。」

「そうか・・・。」

為政は寂しそうな目をした。

「十年以上の相棒だったからな、いなくなるとは寂しくなるよ。」

「・・・ありがとう、為政。君のこと・・・好きだったよ・・・。」

ピコはそう言うと為政の頬に口づけした。

そしてそのままかき消すようにピコの姿は見えなくなった。

「・・・・・・」

最高だったかは分からないが楽しかった相棒との生活はこうして幕を閉じた。

 

 

 「・・・・・・。」

為政は手すりに肘をおき、黙って暗やみに包まれた海を見続けた。

だがやがて風によって雲が流され、月や星が顔をだすと明るくなってくる。

その時、背後に人の気配がしたので振り返るとそこにはプリシラがいた。

「こんなところにいたんだ。」

そう言うとプリシラは為政の隣に立って月を眺めた。

「きれいな月だよね。」

プリシラの言葉に為政は

「ああ、そうだな。」

と頷いた。

するとプリシラは為政の顔を覗き込んだ。

「な、何だ?」

為政がそうい言うとプリシラは心配そうな顔で尋ねてきた。

「何かあったの?何か寂しそうな顔しているけど・・・。」

「いや、何でもないさ。」

為政はとっさに笑顔を作って見せた。

「それならいいんだけどね。」

プリシラのその何気ない一言に為政はジーンと来た。

あっ、とプリシラが声を上げるのと為政がプリシラを抱きしめたのはほとんど同時であった。

 

 「ちょ、ちょっとユキマサ・・・」

プリシラは恥ずかしそうに言ったが為政はその腕を緩めようとはしなかった。

抱きしめたまま為政はプリシラの耳元に囁いた。

「俺は君のことを生涯守り続ける・・・。」

それを聞いたプリシラは照れつつも微笑みながら言った。

「当たり前よ。貴方は私のナイトなんですからね♪」

 

 

             〜完〜

 

 

 

あとがき

 とうとうこの話も完結です。

なんとか目標の2000年内に完結は果たせました。

更新は2001年1月1日ですけどね。

始めの目標は2001年3月31日までに完結でしたから。

倍のスピードで更新できたんですな。

我ながら大した物だと感心ものです、はい。

 さて今回の話ですが非常に難産でした。

ベタベタに甘い恋愛ネタが入っていたし。

18禁にならない範囲でそれなりにHに、大人の関係に仕立て上げるのには苦労しました。

紛失した原稿ではこんなに甘いお話ではなかったんですけどね。

 気に入った点は傭兵仲間との別れのシーン。

ここは男と男の友情というか絆みたいな物が現せることが出来たんじゃないかと自分では

おもっているんですけどね。

 ただ心残りが一つ。

それはピコの正体についてです。

なんだか自分でもいまいちの出来映えと言う気がしてなりません。

こればかりは第二稿のほうが良かったと思うんですがなくしてしまった物は仕方がありませんよね。

 それでは約二ヶ月以上にわたってのお付き合い、誠にありがとうございました。

次回作をお楽しみに。

 

 

平成12年12月31日 20世紀最後の夜に

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