第四十三章.爆弾テロを阻止せよ!

 

 

 それはクラシスの花探しからほんの二三日後の日の出来事であった。

傭兵隊隊長戸田為政は訓練を終えると帰宅の途についていた。

すでに訓練終了時間から一時間以上経っており辺りは暗闇に包まれている。

ちなみに部下であるその他の傭兵たちはみんな帰宅済みである。

為政一人が残業して、明日の訓練についての計画をまとめていたのである。

本来ならばそんな仕事は傭兵隊の任務支援班のお仕事なのだがマデューカス少佐を始めと

して現在のスタッフでは少々心許ない。

その結果、隊長である為政に仕事は回されてくるのであった。

しかもいくら残業したところで残業手当は一切つかない、ただのサービス残業なのであった。

 

 「あれ?トダさんじゃありませんか。」

為政が暗闇の中を歩いていると突然ソフィアとばったり出会した。

学校の帰りらしくまだ制服のままである。

「やあ、ソフィア。今日はずいぶん遅いんだね。」

為政がそう言うとソフィアはにっこり微笑んだ。

「実は舞台のお稽古だったんですよ。

今度の日曜日、端役ですが舞台に立つことになったんです。」

「ほほうー、そいつはおめでとう。」

為政がそう言うとソフィアは照れた。

「そ、そんな大した役ではないんですよ。ほんの二言三言台詞があるだけで。」

「台詞があるだけでたいしたものさ。それに頑張ったんだろ?」

「は、はい。」

ソフィアは頷いた。

それを見た為政もうんうんと頷いた。

「それじゃあ頑張ってくれよ。」

為政はそう言うとソフィアと別れて帰ろうとした。

その時ソフィアが為政に言った。

「もしよろしかったら舞台見に来てくれませんか?」

それを聞いた為政はすかさずOKと頷いた。

「分かった。見に行かせて貰うよ。」

為政がそう言うとソフィアは嬉しそうな表情を浮かべた。

「約束ですよ、トダさん。舞台は夕方の5時から始まりますから。」

ソフィアはそう言うと元気良く走り去った。

それを見届けた為政は再び兵舎への道のりを歩き始めた。

 

 

 そしてドルファン歴29年1月25日、ソフィアとの約束の日がやって来た。

 

 「おーい、朝だよー。」

いつものごとくピコの大声が為政の目を覚まさせた。

普段ならばそんな声は無視して寝続けるが今日は違う。

時間はたっぷりあるとはいえ寝過ごしては拙いからである。

為政はすっと布団から身を起こした。

「さ、寒い・・・」

冬なのだから当たり前である。

為政は慌てて暖房に火を入れた。

すぐにとはいかないが部屋が徐々に暖まってくる。

ようやく一息ついた為政は寝間着を脱ぐと服に着替えた。

「今日は素直に起きたね。」

ピコが感心したように言うのを聞いた為政はむっとしたものの口には出さなかった。

その100倍の言葉が返ってくるのがわかりきっていたからである。

「飯食ってくるな。」

為政はそういうと食堂へと向かって歩き始めた。

 

 朝食を終えて為政が自室に戻ってくるとピコが暇をしていた。

「為政、どこかへ行こうよ。」

為政の顔を見るなりピコはそう言ってくる。

「どこかってどこだ?今日は予定があるんだぞ。」

為政がそういうとピコは不満げな表情を浮かべた。

「どこでもいいよ。第一ソフィアの舞台は夕方でしょ。それまでどこかへ行こうよ。」

そこまで言われ為政は考え込んだ。

このまま夕方まで自室にこもっていると昼寝してしまいそうである。

そしてそのまま寝過ごしてしまったたら・・・。

そこまで考えたところで為政は外で時間をつぶすことにした。

「わかったよ、ピコ。時間になるまでどこかで遊んでいよう。」

為政がそう言うとピコは喜んだ。

「やったー。それじゃあさっそく遊びに行こうよ♪」

そこで為政はピコと連れだって兵舎を後にした。

 

 (ふむ、どこへ行こうか?)

兵舎を出たところで為政は考え込んでしまった。

ピコは全てを為政に任せたらしく口を出してこない。

こういう時にこそ口出しして欲しいのに。

それでも為政は考え込んだあげく一つの結論を出した。

「どうだ?遺跡見物しないか?」

為政がそういうとピコは驚きの声をあげた。

「遺跡なら何度も行っているじゃない?」

「他の用事でならな。しかし遺跡を見物しに行ったことはないぞ。」

「そうだっけ?」

「そうだとも。」

為政は自信満々に頷いた。

実際、果たし会いや誘拐騒動で遺跡には足を踏み入れているがゆっくりと遺跡を見物するゆとり

など無かったのだ。

「それじゃあ行くぞ。」

為政はピコとカミツレ地区の遺跡群に向かって歩き始めた。

 

 レリックス 遺跡群に向かうにはサウスドルファン駅前を通るルートとサンディア岬駅前を通る

二つのルートが存在する。

為政はサウスドルファン駅前を通る道を使って行くことにした。

こちらの方がほんの少しではあるが近道なのだ。

そんな訳で人通りの多いサウスドルファン駅前を歩いていると為政は一人の少女にぶっかって

しまった。

どうやら注意散漫であったらしい。

「おっと、すまない。」

為政がそう謝ると少女は笑った。

「あら、貴方だったのね。」

それは私服姿のライズであった。

「なんだ、ライズだったのか。すまないな、大丈夫だったか?」

為政がそう言うとライズは頷いた。

「もちろんよ。それじゃあね。」

ライズはそう言うとさっさと為政の前から立ち去った。

「何か急いでいるのかな?」

為政が呟くとピコは何ともない事であるかのように言った。

「いつもあんなだったでしょ。それより早くいこうよ。」

「そうだな。」

為政とピコは再び歩みを早めた。

 

 

 「これは見事なものだな。」

為政は感嘆の声をあげた。

目の前に次々と現れる古代の遺跡の荘厳さに為政はただ驚くしかなかったのだ。

「すごいよね・・・」

ピコもどうやら驚いているらしい。

「こんなすごい建物を何千年前に建てていたんだからな、すごいわ。」

その時、ピュウーと冷たい冬の風が為政を包み込んだ。

「ブワックション!!」

為政は目の前にいたピコにものすごいくしゃみをぶちまけた。

「うわー!!汚いなー、為政。口押さえよ。」

「すまんすまん。」

さすがにピコに悪いと思った為政は謝ると鼻をかもうとポケットに手をやった。

ポケットの中には懐紙が入っているはずなのだ。

ところがポケットに入れた手はおかしな感触に触れた。

(???)

いぶかしりながらもその物体を取り出すとそれは一通の封書であった。

「何?それ。」

ピコが聞いてきたが為政も思い当たる節はない。

すくなくとも今朝、兵舎を出る段階では入っていなかったのだから。

不審に思った為政は封書を小柄を使って開封すると慎重に中の物を取り出した。

それはただの手紙であった。

(どれどれ)

為政は手紙を広げると目を通し始めた。

 

 手紙に目を通し終えた為政は大きな溜息をついた。

その内容の真偽はいざ知らず、書かれていたことの重要性ははっきりしていたからだ。

「何々?何が書かれていたの?」

ピコが尋ねてきたので為政はピコに手紙を見せた。

そこには以下のように記されていたのであった。

 

『警告状

 本日午後3時、爆弾テロが行われます。

 場所は次の通り、また爆発する順番も同様。

 シアター/国立公園/教会

 各爆弾は15分ごとに次々と爆発していきます。

 また爆弾は極めて高性能であり、多量の死傷者が出ると推測されます。

 よって貴公によるテロ活動阻止を期待します。

 なおこの手紙は決してイタズラではないことをここに誓わせていただきます。     −S』

 

 「た、大変だよ為政。なんとかしなくっちゃ。」

慌てふためいたピコの声が為政の決断を決した。

「爆弾をなんとかするぞ。」

「それでこそ男だよ。ところで為政、爆弾処理なんてできるの?」

ピコに尋ねられて為政は言葉に詰まった。

科学は好きだが決して得意ではないのだ。

そんな為政の様子を見たピコが為政に助け船を出してくれた。

「大丈夫だよ、為政。いい人がいるじゃない。」

「いい人?」

為政が聞き返すとピコはニヤリと笑った。

「爆弾と言えば科学。科学と言えばあの人に頼らない手はないんじゃない?」

「メネシスか!」

「ピンポンパンポンー!

ちょううどここからシアターまでの途中にラボがあるんだし丁度いいと思うよ。」

「そうだな。よし、急ごう。」

為政とピコはメネシスのラボへと急いだ。

 

 ドンドンドン・・・

メネシスのラボに到着するなり為政は扉を勢い良く叩いた。

文句を言われるかも知れないがそんなことに構っている状態ではないのだ。

「うるさいなー、何か用?」

すると案の定不機嫌な顔をしたメネシスが顔を出した。

今まで寝ていたようで目がしょぼしょぼしているらしく眼鏡の下の目をしきりにこすっている。

しかし今は時間がない。

為政は単刀直入に手紙を見せた。

すると始めはボケッと読んでいたメネシスも読み終えた時にはキリッとした表情になっていた。

「ば、爆弾テロだってー!?なんであたしのところに密告状が届かないのよー。」

なんかピントがずれている。

「そんなことはどうでもいいから爆弾処理!」

為政が促すとメネシスもハッと気付いたらしい。

「よっしゃ!爆弾処理に行くよ!!」

そう叫ぶやメネシスはラボを飛び出した。

それを為政も慌てて追いかけ始めた。

 

 「ハアハアハア」

メネシスはすっかりばててしまい動ける状態ではなかった。

まだメネシスのラボを出て数百m。

しかし室内にこもって研究ばかりしている科学者に体力などあるはずがない。

当たり前のことではあるが為政はすっかり失念していたし、当の本人も失念していたようである。

(どうしたらいいんだ?)

為政は考え込んだ。

為政が背負って行くという手もあるがそれでは時間がかかってしょうがない。

あれこれ考えている内に一台の馬車が通りかかった。

「すまん!!乗せてくれ!!」

為政がそう叫び、馬車の前に立ちふさがると馬車が止まった。

「危ないだろ!!なにしやがるんだ!!!ってユキマサじゃないか。」

そう、その馬車の御者はジーンだったのだ。

「すまない、ジーン。シアターまで乗せていってくれないか?」

「そりゃあ構わないがユキマサならここからならすぐじゃないか?」

「連れがばてているんだ。」

「連れ?」

その時、ジーンはようやくメネシスに気付いた。

「お前は爺の・・・。いやだね、絶対乗せてやるもんか。」

ジーンは忌み嫌っているメネシスの顔を見て即座にそう言った。

為政としてもジーンの態度は理解出来たが今はそれどころではない。

為政は手早く事情をジーンに話した。

 

 「・・・・・・・」

ジーンは為政の説明を黙って聞いていた。

そして聞き終えた後も黙りこくったまま顔はうつむいている。

「・・・ジーン?」

心配になった為政がジーンに尋ねるとジーンは顔を上げると言った。

「分かったよ、今は緊急事態だもんな。乗せて行ってやるさ。」

「すまん。助かるよ」

そこで為政と疲れ果ててばててしまったメネシスはジーンの馬車に乗り込むと第一の標的とされ

ているシアターへと向かった。

 

 シアターに到着した為政とメネシスは素早く馬車を飛び降りた。

時間を見れば今の時間は午後2時30分。

爆破予告時間まではあと30分しかない。

「すまない、ジーン。次のところがあるから待っていてくれ。」

為政がそう叫ぶと

「OK!待っているぜ。」

ジーンは親指を立ててにやりと笑った。

「さっさと行くよ。」

メネシスが促したので為政も慌てて続いた。

 

 ドンドンドン

為政はシアターの扉を力強く叩いた。

公演開始まであと少し。

当然のことながら中では公演準備のために人がいるはずであったからだ。

すると案の定扉が開いた。

「どなた様ですか?」

それはなんとソフィアであった。

為政の素性を知っている人間ならば説明することも容易い。

為政がさっそくソフィアに爆弾テロとそれに関する密告状について話した。

「爆弾テロですか!?」

ソフィアがあげた声に他の人間も気にしたのであろう、為政たちのもとに近づいてきた。

「ちょっといいかしら?」

「あ、団長!!」

どうやらこの劇団の責任者であるらしい。

責任者のいち早い登場に為政はホッとした。

いちいち下から順番に説明していると時間が掛かって仕方がないからである。

そしてソフィアに話したように手早く密告状について説明した。

それを聞いた団長は頷いた。

「わかったわ、調べて頂戴。」

「すまない、助かるよ。」

公演の準備中で忙しいのに快諾してくれた団長に礼を言うと団長は手をパタパタと横に振った。

「そんなこは気にしなくて良いわ。むしろこちらの方からお願いするくらいよ。

それより団員たちを避難させた方が良いわね。」

「そうしてくれ。」

為政はそう言うとメネシスと共にシアター内へと入っていった。

 

 そしてさっそく爆弾捜しを開始する。

しかしシアターは広い。

どこを捜したら良いのか分からず為政がうろうろしているとメネシスが叫んだ。

「何をうろうろしているんだい!さっさとさがすんだよ。」」

「しかしどこを捜したら良いのか分からないんだが。」

為政がそう言うとメネシスは溜息をついた。

「まったく爆弾テロにはちゃんとコツがあるんだよ。

 まずは屋内・・・屋外よりも人の密集性が高いから同時に多数に人間をやれるし・・・何と言っても

爆圧が拡散しないから殺傷力が低下しないしね。

そんなわけでもっとも効率よくテロを起こすポイントがあるんだよ。」

そう言うとメネシスはスタスタと歩き始めた。

慌てて為政もその後を追いかけていく。

「ほらあった。」

メネシスが立ち止まった先には30cm四方の小さな箱が置かれていた。

「さっさとこの木箱、こじ開けておくれ。」

メネシスに言われた為政は持ってきたバールを使って慎重かつ素早く木箱をこじ開けた。

するとメネシスはその場にしゃがみ込み、箱の中を観察した。

「ふーん、なるほどね・・・・。

胴タンクの中に濃硫酸ね・・・、タンクが溶け出すと粘土の上のオキソハロゲン塩酸と反応・・・、

発火が始まってドカンというわけか。
ってゲ・・・この粘土パラムパリュウムじゃないの。

良くできた時限爆弾だわ・・・、パラムなんて合成爆発物自体精製がムッチャ難しいのに。

・・・まさかあいつ?」

「あいつって誰だ?」

メネシスの洩らした言葉に為政が突っ込むとメネシスは何でもないと首を振った。

「とりあえず爆弾処理しておきますか。

まずは濃硫酸を凝固させて・・・、まあこんなもんかな。」

メネシスは作業を終えると手をぱんぱん叩きながら立ち上がった。

「さーあ、終わった終わった。もうこれでこの爆弾は永遠の眠りについたよ。」

「大丈夫なんだな?」

為政が念を押すとメネシスは頷いた。

「もちろんさ。それじゃあ次の所に行こうかね。」

メネシスはそう言うとシアターを出て馬車に乗り込んだ。

為政はとりあえず団長やソフィアら劇団員に爆弾を処理したことを伝え、また衛兵隊に通報する

よう頼んでから馬車に乗り込んだ。

「よし、行くぜ。」

ジーンは手綱を操り、国立公園へと向かった。

 

 「よっしゃあ、ここも終わったよ。」

メネシスは額の汗を拭きながら立ち上がった。

国立公園に仕掛けられた爆弾は屑籠に仕掛けられていた。

それも人が良く集まるトレンツの泉のすぐ側であった。

幸い国立公園に仕掛けられた爆弾は先ほどと全く同じ構造の爆弾だったのですぐに解体出来た

のだ。

「次行こう、次。」

そう言うわけで最後の教会へと向かった。

 

 馬車が教会に着くなり為政は素早く降りると中へと入った。

すると教会の中には神父こそいなかったもののシスターと数人の信者が祈りを捧げているところで

あった。

「すいません!!」

為政は叫んだ。

すでに爆弾の爆発時間はあと僅かなはずだからである。

その前に人々を避難させ、爆弾を処理しなければならないのだ。

そのためかメネシスは何も言わずに爆弾捜しを始めている。

「何事ですか?」

たおやかに微笑んだシスターが為政の様子を気にしにやってきたので手短に事情を話した。

「なんですって!?爆弾ですか?」

為政の話を聞いたシスターは驚きの声をあげた。

それを聞いた信者たちも腰を浮かせた。

「はい、ですから速やかに避難してください。我々が処理しますから。」

それを聞いたシスターは信者たちを誘導しながら避難した。

 

「どうだ、見つかったか?」

為政が声を掛けるとメネシスは頷いた。

ここ教会に仕掛けられた爆弾は祭壇の陰に置かれていた。

いままでの爆弾よりも箱が二周りほど大きい。

「ここが本命かな?」

メネシスはそう呟くと為政に木箱を開けるように指示した。

そこで為政が木箱を開封するとメネシスは前と同じように中を覗き込んだ。

「これもパラムか・・・。」

メネシスは慣れた手つきで今までと同じように濃硫酸を凝固させ爆発しないよう処置した。

 

 為政とメネシスが祭壇から離れると待ちわびていたかのようにシスターが声を掛けてきた。

「あのー、爆弾は大丈夫でしょうか?」

「ああ。」

為政とメネシスが頷くとシスターは喜んだ。

「ありがとうございます!!あなた方は命の恩人ですわ。本当にありがとうございます。

それにしても一体誰が爆弾を仕掛けるなんて恐ろしいことをしたのでしょう?」

「私ですよ。」

突然の声に三人が振り返るとそこには眼鏡をかけた神父が立っていた。

「ゼールビス神父!?」

シスターが驚きの声をあげたが神父は気にも留めていなかった。

「やはり貴方でしたね、メネシス。

爆弾が一個も爆発しなかったと聞いてね。そうじゃないかとは思っていたのですよ。」

神父を怒りの眼差しで凝視していたメネシスはそれを聞くなり叫んだ。

「あの時限方式・・・そしてパラム。

あんな凝った仕掛けをするのはアンタだと思っていたよ。ミハエル・ゼールビス!!」

神父はにやりと笑うと十字架を手にとってあざけ笑うかのように言った。

「ガリレア門下の同窓生にこんな所で再会出来るとわね。これも神のお導きでしょうかね?」

「ふざけるんじゃないよ、ゼールビス。

ガリレア先生の教えを悪用した極悪人・・・今日こそ引導を渡してあげる!

ユキマサ!私の代わりにヤツを倒して!!」

「へ!?俺か?」

為政は突然話が振られたので驚いてしまった。

しかしゼールビスは気にもしていなかった。

「そうですか、貴方が私を倒すというのですね。やれるものならやってみなさい!!」

そう叫ぶとゼールビスは杖を構えた。

そこで為政も打刀を抜くと晴眼に構えた。

 

 武器を構え合った二人はじりじりとゆっくり動いていた。

お互いに隙を探りながらのことだ。

(くそー、こういう展開は得意じゃないんだが・・・)

為政は心の中でそう思った。

為政が身につけた剣術は実戦本意、よって多対一等の状況に対応するため一人に集中して

迎え合うような戦闘は経験したことがなかったのだ。

為政がそんなことを考えていたためであろうか、ほんの僅かではあるが隙があったらしい。

ゼールビスが間合いを詰めると杖で殴りつけてきた。

「くそっ!」

為政は素早く後退、ゼールビスの一撃を受け止め、反撃で斬りつけた。

ゼールビスはその一撃を受け流すと再び元の構えをした。

「なかなかやりますね。さすがに叔父上や仲間だった八騎将の面々を倒しただけはあります。」

その言葉を聞いた為政は驚いた。

「貴様、ヴァルファの一味か!!」

「いいえ、違いますよ。」

ゼールビスは首を横に振った。

「仲間だったと言ったでしょう。私は負け戦には荷担して死ぬような愚か者ではありませんから。」

どうやらこの男、ヴァルファのプロキア離反後すぐに軍団を抜けたらしい。

そういう意味では戦略眼に長けているのだろう。

しかしかっての仲間たちをあざけっているその姿に対して為政は嫌悪感しか抱くことは出来な

かった。

「言いたいことはそれだけか!」

為政はそう叫ぶと素早く間合いを詰めると一気に斬りつけた。

「なっ!?」

虚をつかれたゼールビスはとっさに反応する事が出来なかった。

そのまま構えた杖ごと身体を袈裟懸けに切り裂かれた。

「み、見事です・・・。一介のテロ屋からヴァルファ八騎将まで上り詰めたこの私を・・・血煙の

ゼールビスをこうも易々と・・・。」

そう言葉を残すとゼールビスは崩れた。

これがヴァルファバラハリアン八騎将の一人『血煙のゼールビス』の最後であった。

 

 ゼールビスが息を引き取ったのを確認すると為政は打刀についた血を懐紙を使って拭き取った。

そして鞘に収めるとフーと息を付くとゼールビスの死体に背を向け、そして驚いた。

メネシスが涙をボロボロながしながら泣いていたからだ。

「何を泣いているんだ?」

為政が尋ねるとメネシスは自分が泣いていることに気付いたようであった。

「あれ?なんであたし泣いているんだろう?おかしいよね。」

そしてぺちゃんと床に座り込むと嗚咽し始めた。

「うっ・・・ううぅ・・・、ミハエル・・・アンタ馬鹿だったよ・・・。

道さえ誤らなければあたしなんかよりもずっと先生に近い科学者になれただろうに・・・」

「メネシス・・・。」

「ありがとう、ユキマサ・・・。もうこれでミハエルは罪を犯さなくてもすむんだよね・・・?

あたし間違っていなかったよね・・・?これで良かったんだよね・・・?」

そんなメネシスを為政はただ黙って見続けることしか出来なかった。

そこへバタバタと大勢の足音が響いてきたので為政は教会の外に出た。

すると数十人もの軍人たちが教会へと駆け寄って来るところであった。

為政がソフィアに通報するようにと伝えた衛兵隊の登場であるらしい。

しかし物事はすでに決しているのだ。

そんな腹立たしい気持ちで衛兵隊の面々を眺めていると衛兵隊の隊長と思しき人物が声を掛け

てきた。

「おい、東洋人。爆弾はどうなった?」

そこで為政は事実を端的に話した。

「爆弾は処理した。犯人の男もやったよ。」

それを聞いた衛兵隊隊長は笑った。

「良くやった、東洋人。オレらの仕事まで片づけてくれるとはな。」

「犯人は血煙のゼールビスだったがな。」

為政が付け加えたその一言に隊長は憎々しげに睨んだ。

おおかた手柄を取られたなどという低次元な発想なのであろう。

こんな小役人を相手にしていると自分も矮小な存在になってしまった気がしてしまうので為政は

再び教会内へと戻った。

 

 そこでは爆弾とゼールビスの死体を運び出しているところであった。

メネシスはいまだに泣きじゃくっているが衛兵たちは全く気にも留めていない。

為政がメネシスに近づこうとするとシスターがそっと止めた。

為政は何かを言おうとしたがシスターは首を横に振るだけであった。

シスターの考えが分かった為政はシスターに一礼すると教会を後にした。

今の為政にはメネシスに何かをしてやることなど無いのだ。

結局為政は再びシアターを訪れることはなく、そのまま兵舎へと戻っていった。

 

 

あとがき

 はあー疲れた。

一から再構築したら4日掛かってしまいました。

これほど時間がかかるとは思いも寄りませんでした。

種本があるのと無いのとでは雲泥の差が出てしまいましたね。

 さて残りは後4話という所まで来ました。

後は戦いばっかりですよ、今回を含めて4回連続だからなー。

一騎討ちシーンはすごく苦労するんだけど・・・。

 さてこの話を書いていて思ったこと、それはメネシスの年齢です。

ゲームだと少女っていっているんですけれど本当にそうなのか?

私の計算だとスーとクレアさんの間ぐらいが年齢じゃないかな?

具体的には

ガリレア門下に入ったのが14.5才?そのままゼールビスと一緒に数年間お勉強。

ゼールビスがテロ屋さんになって4.5年?物語が始まって3年間。

大体26.7才ぐらいが適当だと思うんだけど。

多少はしょれても20代には突入していると思うから少女ではないと思うんですけどね。

皆さんの意見はいかがでしょかね。

 

さて次回は第四十四章「道化師再び」です。

まあ出来るだけ早くあげたいと思っておりますのでよろしく。

 

 

平成12年12月22日

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