第四十一章.ホワイトクリスマス

 

 

 世間ではすでに冬休みに入って三日ほど経っているとある朝。

傭兵隊隊長戸田為政はまだ寝ていた・・・。

傭兵隊の隊長という役職は給料は良いのであるが、仕事量も大変多いのでまた疲労もたまり

やすいのである。

よってせっかくの休日、寝だめをして体調を整えておくのも立派なお仕事なのである。

しかしせっかく為政が用意した理論武装もまったく通用しないのもいた。

「ねえ、起きるんだよ、為政。」

先ほどからあの手この手の手段で為政を起こそうとしているピコである。

これが訓練所に通う平日ならば遅刻せずにすむのだが休みの日までこれでは堪らない。

為政は

「あと8時間・・・・」

と言って布団を頭からすっぽりと被ってしまった。

これでピコのやかましい声も聞こえなくなる。

安心した為政はもう一度グッスリと寝入ろうとした。

するとその時、ドカドカと何かが頭上から落ちてきた!

 

 「何しやがるんだ!!」

為政は飛び起きるなりピコを怒鳴りつけた。

その拍子に布団の上に散らばっていたハードカバーの本が床へと転がり落ちる。

しかしピコは平然とした顔をしたまま言った。

「へへー、起きた?」

それを聞いた為政は大きな溜息をついた。

「起きた?じゃないだろうが。人がいい気持ちになって寝ているっていうのに・・・。」

「だって今日はクリスマスだよ。」

ピコはそう言ったが為政は肩をすくめると嘆いた。

「だから寝ているんだろうが。パーティーで夜更かしするんだぞ。」

そう言うと為政はまた布団の中に身を置いくと再び深い眠りへとついたのであった。

そしてピコは

「せっかく起きたのに・・・」

とぶつくさ文句を言っていたのであった。

 

 

 「ああー、よく寝た。」

すでに日も暮れ暗くなった頃、すっかり眠気のとれた為政はベッドから起きあがりながらそう

言った。

そんな為政をピコは呆れ顔で見ている。

「そりゃあ20時間近くも寝ていればねー。」

ピコは当てつけるようにそう言ったが為政は全然気にしていなかった。

為政は手早く礼服でもある第一種軍服に着替え、招待状を手にすると部屋を出た。

ピコは部屋で留守番というわけだ。

兵舎を出た為政はその寒さで身を震わせた。

しかも見上げてみれば空はドンヨリ曇っている。

為政は足早にドルファン城へと向かった。

 

 「ようこそおいでなさいました。奥へどうぞ。そろそろ始まります。」

為政は城の衛兵に招待状を渡すと城内へと入った。

すでに何度も同じ道を歩いている為政は迷うことなくパーティー会場へとたどり着いた。

そして為政は迷うことなく庶民用の会場へと足を運んだ。

二年前のことをよく覚えていたからである。

そういうわけで為政が庶民用パーティー会場に入るとソフィア・ハンナ・ロリィ・レズリーの四人が

出迎えた。

もちろん単なる偶然にすぎない。

「やあ、久しぶり。元気ししていたか?」

為政がそう声をかけると四人の少女たちは各々頷いた。

「こんばんは、トダさん。」

「元気にしてた?ユキマサ。」

「お兄ちゃん、今晩は。」

「あんたはなんとか元気にやっていたかい?」

久しぶりの再会に為政と四人の少女たちは会話を弾ませた。

 

 「こうしてみんなが揃って何かできるっていうのもあと三ヶ月ぐらいなんですよね。」

ソフィアが言うとハンナも元気良く続いた。

「そうそう。

だからクリスマスやシルベスターはみんなで揃って楽しもうっていうことになったんだよ。」

それを聞いたロリィは何か悲しそうな表情を浮かべた。

「お姉ちゃんたちと会えなくなっちゃうなんてロリィ寂しいな・・・。」

その言葉を聞いたレズリーが

「ロリィ、同じ街に住んで居るんだからいつだって会えるさ。」

と言ったので為政も成る程と頷いた。

「そうか。3人はドルファン学園を卒業するんだよな。ところで進路はどうするんだ?」

為政が尋ねるとソフィアが代表して為政に答えてくれた。

「ハンナとレズリーの二人は卒業したら就職して働くんです。

ロリィちゃんは高等部に進学。私は・・・」

「やあ!!ソフィア!」

ソフィアが言いかけたところで突然声が飛び込んできて話を妨害した。

こんなバッドタイミングで話しかけてくるやつは一人しかいない。

ソフィアの婚約者ジョアンである。

ジョアンは為政やハンナ・ロリィ・レズリーを無視してソフィアに話しかけた。

「ママが待っているんだ。こんな庶民用ではない上流階級用に行こう。」

ジョアンはそう言ったがソフィアは嫌がっている。

まあ誰だってジョアンと一緒になんか居たくはないだろうが。

「ジョアン、私は・・・」

そう言って為政たちの方に視線を向けた。

(仕方がない、助けるとするか。)

そう思った為政はジョアンに声を掛けた。

「おい、ジョアン。そこら辺にしておけよ。」

その言葉を聞いたジョアンは慌てて振り向き、そして驚いた表情を浮かべた。

「む、貴様は東洋人!!なぜ貴様ごときがここにいる!!!」

そこで為政はジョアンをいらつかせるべく落ち着いて丁寧に話した。

「何故っていわれても招待状を貰っているからなぁ。」

「なんだと!?貴様ごときに招待状とは・・・。まあいい、ソフィア、行くよ。」

そう言うとジョアンは嫌がるソフィアの手を引いて会場を去っていった。

 

 「大変だよな、ソフィアもさあ。」

二人が居なくなるのを見送ったレズリーはそう言葉を洩らした。

「そうそう。ロリィならあんな奴、絶対にいや!!!」

「しかしお似合い?かもしれんなぁ。」

為政がポッツリ言葉を洩らすと3人は同時に聞き返してきた。

「何で!?」

その剣幕に圧倒されながらも為政はなんとか訳を話した。

「いや、ああいう馬鹿男にはソフィアみたいなしっかりした女性がついていないと・・・。

それにソフィアも馬鹿男を世話するのは親父で慣れているだろうし、結構性に合っているじゃ

ないかって思ってな。」

「なるほど、そう言うことは有るかも知れないな。」

レズリーは為政の言葉にそう頷いた。

しかしハンナとロリィはまだ不満足げではあったが。

「で、でもソフィア嫌がっていたじゃない!」

ハンナの反論に為政は

「口に出して言っていたか?」

と言った。

するとハンナは何やら回想し始めたがやがて呟いた。

「言ってはないけど・・・・。」

「ソフィアが口に出してイヤと言わない限りは何も言いようがないさ。

もしかしたら違っているかもしれないんだからな。」

それを聞いたハンナは渋々頷いた。

 

 その後もしばらくは四人で会話していたがやがてハンナ・レズリー・ロリィはの3人は男を引っか

けてくるからと言って為政と別れた。

そこで為政は腹ごしらえすべく立食コーナーへと向かった。

そこで為政は皿に食べ物を盛るとパクパク飲み食いし始めた。

3皿ほど平らげた時、為政はスーとばったり出会った。

「お久しぶりね、トダ君。」

スーがそう声を掛けてきたので為政も応えた。

「今晩は。ところで一人なのかな?」

それを聞いたスーは年齢に似合わず頬を膨らませてむくれた。

「悪かったわね。どうせ私にはクリスマスを一緒に過ごしくれる男性なんていないわよ。」

すっかりすねてしまっている。

為政は慌ててスーに謝った。

「すまない。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。」

「いいわよ、別に。ところでトダ君ってすごかったにね。」

「何が?」

突然の会話の転換に為政はスーが何を言いたいのか分からなくなってしまいスーに尋ねた。

「今まで戦争のことなんか気にもしていなかったけどトダ君って一人でヴァルファバラハリアン

八騎将の半分以上を一人で 討ちとっているんですってね。」

「何だ、そんなことか。」

二人はそのまま立ち話を始めた。

久しぶりと言うこともあり会話は良く弾む。

そんなこんなで話をしていると突然

「あれっ!?」

と声が掛けられた。

何事かと思って二人が声のした方向に視線をやるとそこには料理がたっぷり載ったお盆を

抱えたメイドがいた。

「スーに、それにユキマサじゃないの!」

それはお城のメイドに転職したキャロルであった。

「ふーん、二人はつき合っているの?」

キャロルが興味深そうに尋ねてくるとスーは即断即決で否定した。

「そんなわけないでしょ。偶然会っただけよ。」

「・・・確かにその通りだけどそんなに素早く否定しなくても・・・」

ヨヨヨと為政が泣き崩れているとキャロルが笑った。

「きゃははははー。いいなー、パーティーに出られて。

私なんかせっかくのクリスマスだっていうのにお仕事なんだよ。」

「大変なんだな。」

受け狙いでふざけていたのを止めた為政はキャロルにそう言った。

するとキャロルはうんうんと頷いた。

「本当に大変なんだよー、とっても忙しくてさ。

あっ、メイド頭が睨んでる。それじゃあねー。」

キャロルは元気良くバタバタとその場を立ち去った。

それを為政と一緒に見送ったスーも

「それじゃあ私もそろそろ行くわね。」

そう言い残して為政の前を立ち去った。

 

 スーもいなくなるのを見送った為政は再び食事を摂ろうと体の向きを変えた。

すると

「トダ君じゃない。」

「あらトダさん、今晩は。」

とクレアさんとテディーが声を掛けてきたのであった。

「今晩は。ところでずいぶん珍しい組み合わせですね。二人はお知り合いだったんですか?」

為政が尋ねるとクレアさんとテディーは顔を見合わせると笑い、そして言った。

「そうなんです。酒場でクレアさんとお話していたらトダさんの名前が出てきて・・・、驚きましたよ。」

テディーがそう言うとクレアさんは頬に手を当てながら言った。

「今日はテディーさんに誘われてパーティーに参加したのだけれど・・・。

数年ぶりね、こういう華やかな席に参加するのは。若返るわ。」

そこで為政はすかさず応えた。

「クレアさんはまだまだ若いですよ。」

為政の言葉にクレアさんはにっこり微笑んだ。

「あらら、こんなおばさんを捕まえて若いだなんて・・・。嬉しいけれどお世辞はいらないわよ。」

「お世辞のつもりではないんですが。」

為政がそう言えばテディーも

「そうですよ、クレアさん。まだまだ若くておきれいですよ。」

と言った。

それに対してクレアさんは

「あらら、ありがとうね。」

とピントのずれた返事を返してくれたのであった。

 

 「クレアさん、そろそろ帰りませんか?」

午後9時半をまわった頃、テディーはクレアさんにそう声を掛けた。

「あれ?もう帰るんですか?」

為政がクレアさんとテディーに声をかけると二人は頷いた。

「ええ。私、明日の朝から勤務があるものですから・・・」

「私も夫を亡くした身ですので夜遅くまでパーティーに参加しているというのは・・・」

どちらももっともな理由なので為政は二人に別れの挨拶を交わした。

「それなら仕方がないですよね。それではお気をつけて。」

「ええ。」

「さようなら。」

クレアさんとテディーの二人はまだまだ夜は長いというのにそれぞれ家へと帰っていった。

 

 

 それからおよそ一時間後。

一人でお酒を飲んでいた為政は良いを覚ますためににテラスへと出た。

外の空気は冷たいが、まったく澱んでおらず新鮮で爽やかな気持ちがする。

「ちょっと飲み過ぎたかな?」

為政はそう呟くと手すりに寄りかかり、空を眺めつつ大きく息を吐いた。

たちまち白い煙となり、そしてすぐに空気にとけ込んでしまう。

「こんな所にいたんだ、ユキマサ。」

「これはこれは王女様、ようこそおいでなさいました。」

為政は大げさなな態度でプリシラを出迎えた。

プリシラが固苦しいパーティーに飽きてここへ来たのを承知の上でである。

すると予想通りプリシラは頬を膨らませてむくれた。

「つまんないわよ、ユキマサ。」

そこで為政はいつも街でやっている態度に切り替えた。

「ちょっと酔ったもんだから酔い覚ましにね。」

するとすぐにプリシラの機嫌は戻ったらしい、気楽な口調で為政に話しかけてきた。

「でも寒くない?」

比較的温暖なドルファンとはいえ冬は冬。寒いには違いない。

ましてや今日は天気も良くないのだから。

「寒いには違いないが・・・、中で海千山千の連中とやり合うよりはよっぽど快適だな。」

するとプリシラは我が意を得たりと言った感じで頷いた。

「でしょ、でしょ。あら?なにかしら?」

突然頬に触れた何かにプリシラは反応して手のひらを差し出した。

すると次から次ぎへと白い物体が空から降ってくる。

その白い物体はほんの一瞬の後、手のひらからすーっと消えてしまう。

「ただの雪だな。」

故郷では珍しくも何ともない自然現象に為政が無感動にそう言うとプリシラは喜んだ。

「これが雪なのね!私生まれて初めてみたわ!」

「そんなに珍しい物でもないだろう。」

為政がそう言うとプリシラは首を横に振った。

「ドルファンは暖かいから雪は滅多に降らないのよ!!

確か前に降ったのは30年だか40年ぐらい前なんだから!!」

「性格には37年前でございます、プリシラ様。」

突然会話に飛び込んできたのは近衛兵団のメッセニ中佐である。

「驚かせないでよ、もう。」

プリシラはそう文句を言ったが中佐は全然気にしていなかった。

「そろそろ会場へお戻り下さい。お客様のお相手をしていただきませんと。」

それを聞いたプリシラはこれ以上このテラスに居続けることは断念した。

「分かったわよ、せっかく良い気持ちだったのに・・・。それじゃあね、ユキマサ♪」

そう言うとプリシラは会場へと戻っていった。

そしてメッセニ中佐は為政に対して何か言いたげであったが黙ったままプリシラの後を追って

会場へと戻っていった。

 

 

 一人残された為政はそろそろ兵舎に戻ることにした。

これ以上、ここに残っても見せ物になるだけであるし、過去の経験から今日の雪がかなり積もる

と分かっていたからである。

そこで為政は37年ぶりという雪の降りしきる中、一人で帰路に就いた。

 

 時はドルファン歴28年12月24日。

為政がドルファンにやって3年目の冬が訪れていた。

 

 

あとがき

今回のテーマはタイトル通りクリスマスネタ。

しかも37年目の贈り物の相手はゲームではないプリシラが相手です。

セーラでもメネシスでも良かったんですが。

セーラはD27年のクリスマスをやったのでドルファン城のパーティーを優先。

メネシスはそれほど好感度が上がってはいないもんですから断念しました。

 

あと予告通り今回でドルファン歴28年はお終い。

次回からはゲーム最後の年、ドルファン歴29年に突入です。

あと残り6章。

気合いを入れて更新を頑張っていきたいと思います。

 

次回は第四十二章「クラシスの花」です。

お楽しみに。

 

 

平成12年12月17日

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