第三十九章.Sの暗躍

 

 

 秋も深まりつつあった10月のとある日のこと。

傭兵隊隊長戸田為政は王女プリシラに呼び出されたために、指定場所のキャラウェイ通りへと

向かった。

月に1.2回、為政は呼び出されてプリシラのお供を務めるのだ。

最初のころは面倒だと思っていたが今や偶にの息抜きとして結構楽しみにもしていたのであった。

 

 待ち合わせ場所に到着した為政は通りに置かれた大時計に目をやった。

すると待ち合わせ時間にはまだ10分ほどある。

為政は待ち合わせ場所すぐ近くのベンチに腰掛けるとプリシラがやって来るのを待った。

 

 約束の時間・・・・プリシラはまだやって来ない。

(多少送れることもあるさ。)

 

 約束の時間から10分後・・・・まだプリシラはやって来ない。

(珍しいな。いつも時間だけははしっかり守るのにな。)

 

 約束の時間から20分後・・・・まだまだプリシラはやって来ない。

(何か用事でも出来たのかな?出会った時に約束したときのように・・・・)

 

 約束から30分後・・・・・やっぱりプリシラはやって来ない。

(おかしいぞ。来られないなら使いを寄こすはずだ。)

 

 いつもなら時間通りにやって来るプリシラが今日に限ってやって来ないのである。

何か事件にでも巻き込まれたのかと思った為政はプリシラを捜しに行くことにした。

 

 為政はキャラウェイ通りをお城に向かって歩き始めた。

プリシラとすれ違ってしまっては面倒なことになるからである。

「おや?」

捜し初めてすぐに為政はプリシラを見付けた。

そこは約束の場所から歩いて5分ぐらいの時計屋の前であった。

プリシラは時計屋のショーウィンドウの中身に見とれていたのだ。

そこで為政はそっとプリシラの背後に立った。

「あら?」

プリシラはショーウィンドウに映った為政の姿に気付いたのであろう、振り返ると言った。

「どうして為政がここにいるの?」

そこで為政は目の前に並んでいる多くの時計を指さしながら言った。

「もう約束の時間はとっくに過ぎているよ。」

「あら、本当。ユキマサ、ごめんね。時計は見ていたけど時間は見ていなかったわ。」

プリシラの言葉に為政は苦笑した。

しかしプリシラらしいと言えばらしいいのかもしれない。

「それともう一つ謝らなければならないことがあるんだ。」

プリシラは申し訳なさそうに切り出した。

「実は今日、急な用事が出来ちゃって。すぐに帰らなければ行けなくなっちゃったのよ。」

「なんだ、そんなことか。公務なんだろう、仕方がないさ。」

「そう言ってくれると助かるわ。」

そう言うとプリシラはにっこり微笑んだ。

「ところでユキマサ。そんなことって言ったわよね。」

相変わらず微笑んではいるが目は何かマジだった。

「私とのデートって面白くないのかしらねー。」

(やばい!!)

為政は心の中でそう思った。

何でもないつもりで言った言葉ではあったがプリシラのご機嫌を損ねてしまったらしい。

為政は慌てて謝罪した。

「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。」

するとプリシラはくすっと笑った。

「分かっているわよ。でももう少し言葉を選んでよね。」

そう言うとプリシラは一通の封筒を渡した。

「これは・・・」

「お待ちかねの私の誕生パーティーの招待状よ。もし来なかったら・・・、分かるわね。」

「ギロチン送りというわけか・・・。分かった、必ず行くよ。」

「よろしい。それじゃあね、ユキマサ。」

そう言うとプリシラは元気良くお城へと走り去った。

 

 

 というわけで10月26日の王女誕生日。

為政は第一種軍服を着るとドルファン城へと向かった。

 

 為政が兵舎のドルファン城のほぼ中間、サウスドルファン駅前にさしかかったとき有る人物に

ばったり出会した。

その人物とはライズであった。

「よう、久しぶりだな、ライズ。」

為政がそう声を掛けるとライズも頷いた。

「そうね。確かに久しぶりだわ。」

そう言うとライズは黙ったまま為政をジッと見つめた。

「な、何だ?」

居心地悪くなった胃政はライズに尋ねてみた。

するとライズは口を開いた。

「もしかしてその格好・・・、あなたプリシラ王女の誕生パーティーに呼ばれているのかしら?」

「ああ、そうだ。」

為政はライズの問いかけに頷いた。

するとライズは驚くべき事を言ってきた。

「もしよければ私も一緒に連れていってくれないかしら。

私、前から参加してみたいと思っていたのだけれどつてが無くってどうしようもなかったのよ。」

為政は考え込んだ。

確かに招待状があれば基本的に同伴者OKである。

そして無下にライズの申し入れを断るのも悪い。

まあライズの性格ならあまり気にしないではあろうが。

「分かった、連れていこう。」

為政は決断を下すとライズに対ししてそう言った。

するとライズは嬉しそうに笑った。

「ありがとう。感謝するわ。」

「しかしその格好では拙いだろう。」

為政はライズの服装をじろじろ眺めながら言った。

決してみすぼらしいわけではない、普通の服である。

しかし王家主催のパーティーには不向きな格好であったからである。

「大丈夫。ここからなら学生寮まですぐですもの。礼服に着替えてくるから少し待っていて。」

そう言うとライズは走り去った。

 

 

 そしてそれから十数分後。

正装したライズが現れた。

「それじゃあ行くとするか。」

時間ももう余り残ってはいないので為政が催促するとライズは頷いた。

「ええ、行くとしましょう。」

そこで為政はライズと共に二人でドルファン城へと向かった。

 

 いつものごとく城の衛兵に招待状を示すと二人は城門を潜った。

秋の穏やかな日差しに包まれてお城が美しく輝いている。

為政は城の天辺を一瞥するとライズに声を掛けた。

「それじゃあ入るか。」

「分かったわ。」

二人はパーティー会場内へと入っていった。

 

 

 「ようこそ、私の誕生パーティーへ。」

会場に入った為政とライズの二人をプリシラが出迎えた。

きちんと正装した姿はどこからどう見ても王女様にしか見えない。

街を彷徨いている時はとてもそうは見えないのだが。

為政がそんなことを考えているとプリシラが声を掛けてきた。

「トダ殿。お連れの方の顔色がよくないようですが大丈夫ですか?」

そう言われた為政がライズに目をやると確かに顔色がよくない。

「大丈夫ですか?」

プリシラはライズの具合を気遣うように優しく尋ねた。

それに対してライズは顔色は相変わらずであったもののいつもの口調で答えた。

「恐れ入ります、王女様。

何分こういった席に参列するのは初めてなものですから緊張していまして。」

ライズの言葉にプリシラは

「まあ・・・。そんなに緊張なさらなくてよろしいのですよ。今日は無礼講なのですから。

是非楽しんでいってくださいね。」

そう言って微笑んだ。

「ありがとうございます、王女様。あ、そう言えばお飲物はいかがしますか?」

ライズはプリシラにそう言うとプリシラは嬉しそうに頷いた。

「いいですわね。私、ちょっと喉が乾いているんですの。」

「ではお飲物を取って参りますわね。」

ライズはそう言うとその場を離れた。

 

 ライズを笑顔で見送っていたプリシラはライズが見えなくなると踵を返して為政の元へと詰め寄った。

「で・・・トダ様。あの方とはどういう関係なのかしら?」

口調は極めて丁寧かつその顔は笑顔であったがその目は全く笑っていなかった。

「えーと、それはだな。」

為政がプリシラに説明しようとするとプリシラは為政の言葉を遮った。

「私の誕生パーティーに他の女の子を連れてくるなんて良い度胸じゃないの。

そんなに首と胴体、お別れしたいのかしらねー。」

「プ、プリシラ・・・・目がマジ・・・・。」

「しかるべき釈明を聞きたいものねー。」

「わ、分かった。話すから聞いてくれ。」

為政はプリシラに今までの経緯を話したのであった。

 

 「そう、それならいいけど・・・」

為政の説明を聞いたプリシラは溜息をつきながら言った。

「もし嘘を付いていたら・・・、分かるわね。」

プリシラは王女様とは思えない鋭い眼光で睨み付けた。

それに対して為政は

「は、はい!!」

とただ頷くだけしか出来なかったのであった。

 

 その時中座していたライズがお盆にグラスを三つ載せてやって来た。

そしてプリシラに対してぺこりとお辞儀した。

「中座していて申し訳有りません、王女様。」

それに対してプリシラは今までのすごい形相は何処へいったのやらにこやかな表情を浮かべて

答えた。

「いいんですよ。今日は私の誕生パーティーなんですもの。トダ殿、楽しいですわねぇ。」

「は、はい!実に楽しいですねー。」

為政はすかさずそう答えた。

それを聞いたライズは運んできたお盆を為政とプリシラの目の前に差し出した。

そこには通称三色ピュリエと呼ばれるお酒が並べて置いてあった。

「一応、3人分の飲み物を持って参りました。どうぞ。」

「まあ!三色ピュリエを持ってきて下さったのね。トダ殿、何をお飲みになります?」

そうは言われたものの為政にはどれが良い物なのだかさっぱり分からない。

為政はライズに気取られぬようにプリシラに尋ねた。

「どれが良いんだ?」

それを聞いたプリシラは考えることもなく即座に答えた。

「やっぱ赤よね。私の好物なんだけど・・・、今回はユキマサに譲ってあげるわ。」

そこで為政はプリシラお薦めの赤を選択することにした。

「では赤を。」

それを聞いたライズは一瞬顔色が変わったように為政には思えた。

(???)

怪訝に思った為政ではあったが気のせいだと思い、お盆に手を伸ばそうとした。

するとライズは赤ピュリエっを手に取り、為政に手渡そうとした。

そこで為政はライズからグラスを受け取ろうとした。

その瞬間

「ガシャーーン!!」

とガラスが割れた音が響いた。

為政がグラスを受け取る前にライズが手を離してしまったのだ。

そのため引力に引かれたガラスは床へと落ち、砕け散ってしまったのである。

「申し訳有りません!王女様の前で粗相をしてしまって・・・」

ライズは慌ててプリシラに謝った。

「いいんですよ。それより怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です。」

それを聞いたプリシラはにっこり微笑んだ。

「それでは新しいのを用意させましょう。」

そう言って近くを歩いていた給仕を呼び止め、

「飲み物を三つ、お願いね。」

と頼んだ。

「はい、かしこまりました。」

注文を受けた給仕はそのまま優雅に、しかし素早くその場を立ち去った。

  

 その後、為政はプリシラやライズと会話を楽しみながらお喋りしあった。

当然プリシラは為政とライズの二人と一緒にいたわけではなく、他の参列者たちとも話していたが。

まあプリシラには満足のいく誕生パーティーではあったらしい。

いつもよりも大分ご機嫌な様子のプリシラであった。


 かくしてパーティーは無事終了した。

誰にも気取られることなく終息した陰謀とともに・・・・。

 

 

あとがき

プリシラの誕生日とそれに絡むライズのお仕事のお話編です。

基本的にはゲームのままですが若干、改良してあります。

おもにライズにの不自然な行動を訂正したものなんですが。

何人かキャラを出してみようかとも思ったんですけどね。

なんだか上手くいきそうになかったので断念しました。

 

さて次回は第四十章「道化師」です。

それではお楽しみに!!

 

 

平成12年12月15日

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