それはパーシルの戦いが終結した10日余り後のことであった。
その出来事はいつものごとく訓練所で訓練していた傭兵隊隊長戸田為政の元に一人の軍人が
やって来たことから始まった。
「トダ大尉でしょうか。」
「ああ、そうだが。」
為政が声を掛けてきた人物に目をやるとそこにはきっちりと制服を着込んだ軍曹が立っていた。
軍曹と言っても見覚えのない顔であるから傭兵隊所属の人間ではないようだ。
「何か用か?」
為政が尋ねると軍曹は頷いた。
「マデューカス少佐がお呼びです。執務室まで同行を願います。」
それを聞いた為政は大きな溜息をついた。
「またかー。」
どうやら久しぶりに厄介事を押しつけられるらしい。
とはいえ正式な命令なのだから拒否することは出来ない。
為政は大人しく軍曹の後をついて行った。
「失礼します。」
ドアをノックした為政は執務室内へと入った。
するとそこにはいつものごとく机の前に座っているマデューカス少佐の姿があった。
「よく来たな、大尉。」
久しぶりの出番にうきうきしているのか少佐は上機嫌な様子でそう言った。
「今度はどんな厄介事を押しつけられるんです?」
それに対して為政は不機嫌な表情のまま言った。
「分かっているなら話は早い。今回の君の任務はロケットナイト捕縛である。」
「ロケットナイトですか?」
為政はマデューカス少佐の命令に為政は戸惑った。
そもそもロケットナイトそのものが為政にとっては初耳だったのだから。
「ロケットナイトとは主に一ヶ月ほど前からフェンネル地区に出現する謎の怪人だ。」
少佐がそう説明したので為政は理由を尋ねてみることにした。
「なぜそのロケットナイトという奴を捕まえるんですか?」
すると少佐は椅子をぐるっと回すと窓の方を見た。
「特にこれといった犯罪は犯していない。
ただ騎士や衛兵を見付けては勝負をふっかけてくるらしい。あえて罪状をのべるなら公務執行
妨害と言ったところか。」
「迷惑な奴ですね。」
為政がそう感想を洩らすと少佐は頷いた。
「まったくだ。
そして奴の人相なんだが派手な鎧を身につけ変なお面を被っているというので不明だ。」
「曖昧ですね。」
「まったくだよ。しかし何故かは知らないが奴ロケットナイトにやられた連中は誰もが頑として
口をつぐみ、奴について話そうとはしないんだ。」
「そいつは謎ですな。
・・・つまりそのロケットナイトをぶち倒し、捕まえろというのが命令なわけですな。」
「その通り。」
「・・・ところでこの件は私一人で?」
為政が尋ねると少佐は首を横に振った。
「いや、この件に関しては3.4人が一組になって常時3.4組をフェンネル地区を中心にパトロー
ルさせる。人員は君が好きなように選抜しろ。」
「了解しました。ところでこの件、なんで我々に?」
為政がそう言うと少佐は皮肉げな顔つきをして言った。
「騎士団も衛兵隊もこれ以上、奴に恥をかかされたくはないというところだろうよ。
ましてやこの間の戦いで騎士団は大打撃を受けて現在再編中だからな。
それに変な任務はいつものことだろ。」
「それもそうですな。それではさっそく明日から。」
「うむ。」
翌日。
為政はグイズノーとホーンの三人でフェンネル地区のパトロールに当たっていた。
このチームの担当エリアはセナリバー駅周辺および遊歩道・ゴンドラ乗り場・レッドゲートといった
一角である。
そのため訓練所近辺でもあるのであった。
「この三人で行動するのって久しぶりだよな。」
グイズノーは辺りを見渡しながらそう言った。
「そうだな。この頃は何だかんだで揃う事なんてなかったもんな。」
為政がそう言えばホーンもコックリ頷いた。
「それにしても爺さんだけ狡いよなー。」
グイズノーは不満げそうに言った。
ギュンター爺さんだけは今回のパトロールの編成から外れていたのだ。
「仕方がないだろ。昔はいざ知らず今の爺さんにできるのは弓ぐらいだろ。
街中で弓矢をぶっ放す訳にはいかないからな。」
「それはそうだけどな。」
グイズノーが渋々頷くとホーンもこくりと頷いた。
三人はそのまま担当地区をぐるり何度となく廻ってみた。
しかしロケットナイトは出てこない。
とりあえず休憩をとることにした三人はセナリバー駅前のベンチに腰掛けた。
すでに時間は午後三時過ぎ。
ドルファン学園の生徒たちが帰宅の途についているのが見える。
「本当にロケットナイトなんて出没するのかね?」
グイズノーが泣き言を洩らした。
「知るか。そういった情報はお前さんの得意とする分野だろうが。」
為政がそう言うとホーンも頷いた。
「確かに情報は聞いているけどさぁ、やっぱ少佐の言った程度の情報しか無いんだよ。
何でなんだろうな?」
グイズノーはしきりに首を傾げている。
その時、三人に声を掛けてきた少女たちがいた。
ソフィア・ハンナ・レズリー・ロリィの四人である。
「トダさん、こんにちわ。」
「こんにちわ、お兄ちゃん。この間はロリィを助けてくれてありがと♪」
「どういたしまして。何か困ったことが出来たら助けて上げるって言っただろう。」
そのまま為政たち(ホーンは除く)はソフィアたちとお喋りを始めた。
それから数分後。
「そう言えばトダさん、何でこんな所に居るんですか?」
とソフィアが尋ねてきたので為政は事情を話した。
「実はロケットナイトと名乗る奴を捕縛せよと命令を受けてね。」
為政がそう言うと少女たちは反応を示した。
「ボク、ロケットナイトって聞いたことがある!!」
「ロリィも!!」
「あたいも聞いたことはあるな。」
「私も聞いただけなら・・・。」
どうやらこの近辺ではかなり有名な奴らしい。
為政は詳しく尋ねてみた。
すると
「子供に人気があるんだって。」
「そうそう。ロリィも好きなんだよ。」
為政はハンナとロリィの言葉に面食らった。
子供に人気がある!?それは一体どういうことなのだ!?
「結構楽しい方らしいんです。」
困惑している為政にソフィアが説明を付け加えた。
しかしそれを聞いてもまだ疑問は残った。
しかしこれ以上ソフィアたちに聞いても無駄であろう。
またソフィアたちも用事があったらしい。
「お役に立てなくってすいません。」
そう言うと少女たちは各々家へと帰っていった。
「どう思う、ユキマサ。」
少女たちが帰っていった直後、グイズノーは為政に尋ねてきた。
それに対して為政は腕を組みつつ首をひねった。
「何だか余計わからなくなったような・・・」
「そうだよな。」
三人は困惑の色を隠せないでいた。
しかし任務は任務である。
「適当にパトロールするとしよう。その内、出会すだろうさ。」
三人は再びパトロールを再開した。
「結局みつからなかったな・・・。」
「ああ・・・」
担当地区をもう一回りしてきたものの三人はなんら以上を見付けることが出来なかったのだ。
「やっぱりロケットナイトをとっ捕まえないといけないよな。」
グイズノーが泣き言を洩らしたので為政は言った。
「当然だ。第一、今回の件に関して言えば絶対騎士団からの嫌がらせだ。」
それを聞いたホーンはうんうんと頷いている。
「何とかならならないものかね。」
グイズノーはそう呟くとどっかりと腰を下ろしてすぐ、素っ頓狂な声をあげた。
「あれ?」
「ん?どうしたんだ?」
為政が尋ねるとグイズノーは指をさした。
「あれ・・・そうじゃないか?」
グイズノーが指さした先には変な格好をした怪しい奴がいた。
いかにも張りぼて風のいい加減なデザインの鎧に赤いスカーフ・羽根飾りの付いたゴーグルに
背中に背負った黄色いタンクに剣。
どっから見てもまともではない。
もし彼?がロケットナイトならば、戦い敗れた者がその事について口を噤んでいるのが分かるよ
うな気がした。
はっきり言って無茶苦茶怪しい不審者に三人は職務質問すべくおそるおそる近づいて行った。
「やあ、君らは傭兵だね♪」
三人が声を掛けようとした瞬間、不審者は振り返るなりそう言った。
「あ、ああ。その通り。貴様は近頃街を騒がせているロケットナイトか。」
為政が動揺を隠しながらそう言うと不審者はパッとマントをひるがせて叫んだ。
「そうさ。I am Rocket Knight!!」
それを聞いたグイズノーが叫んだ。
「ふざけるな!!
貴様のせいでオレらがどんなに苦労したと思っているんだ。大人しく縛につけ!!」
それを聞いた不審者、いやロケットナイトはチッチッチと指を振りながら言った。
「そうはいかないよ。だってボクは強いんだからね。」
「貴様、刃向かうつもりか!」
為政がそう言うとロケットナイトは背中の剣を抜いた。
「さーて、誰から来るのかな?」
グイズノーは素早さに長けてはいるが力は今ひとつ。
ホーンは力には長けているが動作は素早くない。
そこで為政は打刀を抜くとロケットナイトと向かい合った。
(こいつ・・・、色物な奴だと思っていたが・・・・)
ロケットナイトと向かい合った為政は心の中でそう思った。
ふざけた外見とは裏腹にかなりの腕前の持ち主であるらしい。
先ほどから全く隙をみせないのである。
全く動けないでいる為政に対してロケットナイトは挑発した。
「かかってこないのかい?」
しかし為政はロケットナイトの言葉を聞き流した。
相手にしていては隙を作りかねないからである。
「それならボクから行くよ。」
そう言うとロケットナイトは剣を構えて姿勢を低くした。
そして次の瞬間、轟音と共にロケットナイトは突っ込んできた。
「ロケットアタッーク!!」
為政はその一撃を地面に転がることで辛うじてかわすことが出来た。
(な、何というスピードだ。)
為政は表情には出さなかったものの心の中では戦慄した。
いままでに戦ってきたヴァルファ八騎将の誰よりも強かったからだ。
そんな為政の内心を知ってか知らずかロケットナイトは為政を賞賛した。
「やるじゃないか、キミ。ボクの攻撃をかわしたのはキミが初めてだよ。
しかし子供たちのヒーローロケットナイトは決して負けはしないのさ。」
そう言うとロケットナイトは再び為政に斬りつけてきた。
その攻撃を為政はひたすら受け流し、かわし続けるしかできなかった。
攻撃そのものは単調なのだがその一撃が早く、そして重いものだったからである。
(このままでは体力が尽きてしまう・・・)
為政は考えた。そして閃いた。
「おい、掛かって来いよ。」
為政は微妙に位置をずらしながらそう挑発した。
するとロケットナイトはそれにのった。
「お好みとあらば行くとしよう。」
そう言うとロケットナイトは再び轟音と共に一気に襲いかかってきた。
為政はその一撃を完全にかわすのではなく、ロケットナイトの右肩に腰を充分下ろした状態で
受け止めた。
「しまったー!!このボクが負けるなんてー!!」
絶叫とともに軌道が逸れたロケットナイトは為政の背後の石垣に頭から突っ込んだ。
「やったのか・・・・?」
為政たち三人は石垣の下敷きになっているロケットナイトの側へと近づいた。
人の頭ほどの岩が辺りに散乱しており、衝突のすごさを物語っている。
「生きているのか・・・?」
グイズノーがそう言うとホーンは首を横にフルフルと振った。
「生きているとはとても思えないな。」
為政がそう言うとグイズノーは納得した表情を浮かべた。
「そうだよな。これで生きているわけないか。」
そしてアハハハと乾いた笑い声をあげた。
為政は溜息をつくとホーンに頼んだ。
「ホーン、この岩をどけてくれ。」
それを聞いたホーンは頷くと岩に手を伸ばした。
その時、小さな石がコロコロと地面に落ちた。
「????」
そして突然岩が飛び散った。
そしてその後には・・・ロケットナイトが堂々と立っていた。
鎧はあちこち色がはげ、剣は折れてマントはぼろぼろではあったが。
「な、な、何で生きているんだ・・・」
呆然としたように呟いた為政の肩にロケットナイトはポンと手を置くと言った。
「さすがだよ。このボクをうち負かすなんて・・・。
負けたこのボクにはもはやロケットナイトを名乗る資格なんてない。
今日からキミが新ロケットナイトだ!!」
「お、おい・・・」
為政の言葉を無視してロケットナイトは続けた。
「ボクはもっと精進して修行をつみ、いつかキミからロケットナイトの称号を奪い返す。
それまではロケットナイトの名前はキミの物だ!それではさらばだ!!!」
そう言い残すとロケットナイトは轟音と共に空の彼方へと消えた。
「お、おい・・・ユキマサ・・・」
「何だ・・・」
呆然としたグイズノーは同じく呆然とした為政に尋ねてきた。
「どうするんだ?あれ・・・」
「空を飛んで逃げた奴をどう追えと・・・?」
「そうだよな・・・・」
後にはただ呆然としている三人の傭兵が立ちすくんでいるだけであった。
あとがき
ちょっと気分転換にロケットナイトを出してみました。
かなり自分なりにアレンジしてみたんですがどうだったでしょう?
雰囲気ぶちこわしで笑えるキャラになったと思うんですが。
一種のヒーローキャラのような存在にしてみました。
なお次の出番は全くありません。
平成12年12月11日