第三十五章.真相

 

 

 それは夏休みが明けたばかりの九月のとある日のことであった。

その日、傭兵隊隊長戸田為政はセーラの家庭教師を務めた後、とりあえず歓楽街へと向かって

いた。

友人たちと飲む約束をしていたからである。

とはいえまだ午後4時頃。

まだ友人たちは訓練所で訓練の真っ最中。

為政はぷらぷらと街中をうろついていた。

そして為政がとある曲がり角にさしかかったときそれは起こった。

 

 「きゃあー!」

為政は女の子と鉢合わせしてしまったのだ。

女の子はその場で尻餅をついてしまった。

「ごめん。大丈夫かい?」

為政はそう声を掛けると手をさしのべ、少女を引き起こした。

「君は・・・」

少女はプリシラの側につかえているメイドのプリムであったのである。

「貴方はプリシラ様の・・・」

どうやらプリムも為政のことを覚えていたらしい、そう言った。

 

 「そうか、今日はお休みだったのか。」

為政は隣を歩いているプリムにそう言った。

「ええ。三日に一度、夜勤のあとにお休みがもらえるんです。」

「なるほど。」

為政は頷いた。

「衛兵隊や看護婦と同じ休暇形態なんだな。」

「ええ、そうです。ですから城に勤めるのって大変なんですよ。」

その時、突然背後から元気な声が響いてきた。

「あれー!?プリムちゃんじゃない!!」

その声にプリムと為政が振り返るとそこにはキャロルがいた。

ついでにスーもいたが。

「あれー!?ユキマサもいるじゃない。どうしたのかな?」

それには一切答えずにプリムはぐんぐんとキャロルの方へと詰め寄って行った。

「キャロルさん!!私をプリムちゃんって呼ばないでください!!」

プリムはものすごい形相でそう言ったがキャロルは平然とした顔で言った。

「えー!?だってプリムちゃんはプリムちゃんだよー。」

「私はキャロルさんの先輩なんですよ!!」

プリムはムキになってそう言ったがキャロルは全然気にしていない。

「だって私の方が年上だよー。」

「それでも私の方が先輩なんです!!」

二人はどうでもいいことで論争を始めた。

 

  「久しぶりね、トダくん。」

二人を呆れた顔で見ていたスーが気を取り直したのか為政に送声を掛けてきた。

「やあ久しぶりだな。」

為政も同じくそう返した。

「ところでこの騒ぎは一体何なのかしら?」

それに対しては為政もよく分からなかった。

「さあ?職場の確執か何かじゃないのか?聞いている限りはそうしか聞こえないが。」

「私もそう思うわ。でもそこまでする事なのかしら?」

「多分、そこまですることではないと思う。」

プリムとキャロルの二人の論争を聞いているとはっきり言ってどうでも良くなってくる。

為政とスーは二人を強引に引き離した。

キャロルはどちらかといえばプリムをからかっていた口のなのですぐに片づいたがプリムの方は

やけにムキになっていた。

「まあまあ落ち着くんだ。」

為政が宥めてもなかなか収まらない。

そこで為政はスーに合図してキャロルとどこかへと行って貰ったのであった。

 

 「すいません、みっともないところをお見せしまして。」

落ち着きを取り戻したプリムは恥ずかしそうにそう言った。

「まあ良いんだけどね。」

落ち着いてくれれば何でもないことなので為政はそう言った。

「お城でいつもからかわれていたのでつい・・・。」

「なるほど。」

為政は頷いた。

キャロルならさもありなんと思ったのである。

「あの人が悪気があってやっているって訳ではないって分かってはいるんですけれど私にも先輩

という面子があるものですから。」

「うんうん、確かにそうだよな。」

為政は頷いた。

「そう言って嬉しいです。私だけ違うのかなって思っていたものですから。」

その時、辺りに鐘の音が五回鳴り響いた。

午後五時になったのだ。

「もうこんな時間なんですね。私帰ります。」

プリムがそう言ったので為政は言った。

「途中まで送るよ。」

「いいんですか?」

プリムがそう尋ねてきたので為政は頷いた。

「それではお願いします。」

そこで為政はプリムと一緒にお城方面へと歩き出した。

 

 「あっ!ちょっと待っていて下さいね。」

そう言うとプリムは為政の側から離れ、一軒の店先に立った。

そしてその店で何かを買っている。

戻ってきたプリムに為政は何を買ったのか尋ねてみた。

すると

「アイスクリームですよ。王女様に頼まれまして。」

「大変だね。」

為政がそう言うとプリムは頷き言った。

「全くです。あの女、いつかぶっ殺してやるんだから。」

「・・・・・」

「あ、冗談ですよ。」

プリムは慌ててフォローを入れた。

しかし為政は考え込んだ。

「どうしたんですか?」

プリムが心配そうに声を掛けてきたので為政は口を開いた。

「何故、君はあんなことをしたんだ?」

「・・・何のことですか?」

「幽霊騒動のことだ。」

しらを切るかと思ったがプリムはそうはしなかった。

「・・・なぜ分かったんですか?」

そこで為政は続けた。

「しらを切らないということは間違いないようだな。」

「ええ、私です。私が騒動を引き起こしたんです。」

「なぜだ?」

為政が尋ねるとプリムは説明し始めた。

「私の死んだ祖母もお城のメイドだったんです。」

為政が分かったと頷くとプリムは続けた。

「そしてデュノス様にお仕えしていたんです。

しかしデュノス様は旧家の人間たちによって国を追放されてしまいました。

祖母はその後、結婚。勤めを辞めました。

そしてつい数年前、祖母は亡くなりました。その時、一冊の本を書き上げたんです。」

そこまで言ったところでプリムは一呼吸おいた。

「タイトルは『ローズバンク手記』。

祖母が宮中で目撃したことを、ことの真相を明かすために書いた物でした。

しかし王家はそれを握りつぶしたのです。」

「だからあんなことをしたのか?」

為政がプリムに尋ねるとプリムは頷いた。

「はい。私にとってデュノス公などどうでも良いのです。

しかし祖母の書いた手記を握りつぶした王家が許せなかったんです。」

「そうか・・・」

為政はそう呟くと黙り込んだ。

 

 「どうするんですか、私を?」

しばらく黙り込んでいた二人ではあったがプリムは口を開いた。

「そうだな・・・」

為政は腕を組みながら考え込んだ。

「口止め料として貞操を戴くと言うことで・・・」

為政がそこまで言ったところでプリムは腕を前に組むと後ずさりした。

「な、な、何を・・・」

おいっきり怯えている。まあ無理もないが。

「冗談だ。」

為政がそう言うとプリムはホッと胸をなで下ろした。

「冗談は置いておくとしてだ、プリム。」

為政は真剣になってそう言った。

「この後、君はどうするつもりだ?」

「どうするつもりというのは?」

プリムは尋ね返してきた。

「今後も続けるつもりなのか、ということだ。」

それを聞いたプリムは首を横に振った。

「わかりません。自分でも何をしたいのかを。」

「そうか。」

為政は頷いた。

「君がこれ以上、何もしないというのならこの件は俺の胸の中にしまっておく。

しかし続けるというならば・・・、分かるな。」

プリムもコックリ頷いた。

「分かりました。貴方にこの命、握られたと思って断念します。」

プリムがそういったので為政は一安心した。

「そうしてくれると助かる。プリシラも君のことが気に入っているようだからな。」

それを聞いたプリムは微笑んだ。

 

 「何で私のことを報告しなかったんですか?」

再びお城に向かって歩き始めるとプリムは尋ねてきた。

そこで為政は言った。

「証拠がなかったからな。」

それを聞いたプリムは驚いた。

「ではなぜ私が犯人だと分かったんですか?」

そこで為政はなぜそう断言したのかを説明した。

「足音が全く同じだったんだよ。犯人の逃走時に発したのと君が着替えを持ってきたときがね。」

「しらを切り通していたら平気だったんですね。」

「そうだな。」

為政はニヤリと笑った。

 

 お城の前に到着した所でプリムは為政に言った。

「今日はありがとうございました、って言うべきなんですかね?」

「さあな。」

為政は曖昧に答えた。

自分が選んだことが正しかったのか、それは全てこれから次第なのだから。

プリムはその答えを聞くとほんの少しだけ微笑んだようであった。

そしてぺこりと頭を下げると小走りに城門を潜ってお城の中へと入っていった。

それを見送った為政は踵を返すと歩き始めた。

酒場で待っているであろう友人たちの元へと・・・・。

 

 

あとがき

本章はどちらかと言えば前章と前後二編というべき話です。

それゆえ極めて密接に結びついている訳なんですがこの話、実は今日一日で最初から

最後まで仕上げたんです。

初めはローズバンク手記など取り上げる予定もなく、本来は34章だったんです。

しかし話が行き詰まってしまい、オミット。

一章繰り上がって三十四章は「幽霊なんか怖くない!?」になったのでした。

そしてその時に今回の話を思いついたわけなのでした。

 

なおゲーム等とは話がだいぶ変わってしまっていますがそのままだとあんまりだし。

こういう風に極めて都合の良い話にさせてもらいました。

ちょっと文体が変わっているような気がしますが実は今「ONE〜輝く季節に」とか「Kanon」

のSSにはまっているもんで。

ちょっくら影響を受けています。

 

それでは次回をお楽しみに。


平成12年12月9日

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