第三十四章.幽霊なんか怖くない!?

 

 

 それは七月末。

世間では夏休みが始まったばかりのとある日のことであった。

朝起きたばかりの為政に元に一通の手紙が届いていたのである。

兵舎の管理人ウエブスターさんから手紙を受け取ると為政は早速手紙を開封した。

するとそこには次のようなことが書かれていた。

 

『ユキマサ。

貴方はここ数日間の間にドルファン城内を騒がせている幽霊騒動を知っているかしら。

何でも人の噂によれば私の叔父にあたるデュノス公が幽霊となって城内を混乱させているのだ

とかいう無責任な噂が飛び交っている始末。

よって貴方にこの件についての調査を命じます。

なんせこの騒動で私の貴重な睡眠時間が割かれてしまうの。

よって私の美容と健康のため、早急に解決するように。

 

P・S

もし動かなかった場合には死刑台が活躍するわよ。

               〜プリシラ・ドルファン』

 

 王女様の直筆の手紙を読み終えた為政は起きあがると早速着替え始めた。

「あれ?もう行くの?」

ピコがそう尋ねてきたので為政は首を横に振った。

「城に行くんじゃない。ちょっと事情を調べてくるのさ。」

そう言うと為政は打刀を手に取った。

「それじゃあ行って来る。」

「行ってらっしゃいー♪」

ピコに見送られた為政は兵舎を出るとドルファン国立図書館へと向かった。

 

 ドルファン城の幽霊騒動

それはつい2.3日前から始まった現象である。

夜になると誰もいないはずの室内に白い人影のような物が現れるというのである。

今のところ実害は無いものの、城内では無責任な噂が飛び交い、混乱状態であるという。

 

 為政は国立図書館のここ2.3日の新聞を読んでここまでの状況を知ることが出来た。

とはいえ掲載されている新聞はタブロイト紙ばかり。

まともな新聞は一切報じていない。

しかしタブロイト紙の方には幽霊騒動解決者には賞金まででると報じている。

「デュノス公ねぇ・・・」

為政は幽霊と目されているデュノス公については全く知らなかったので調べてみる事にした。

 

 デュノス公。

現国王の兄で、幼少のころに顔面を大火傷。

以後王位継承権を失い30数年前に国を追われたという。

そして今ではその消息は不明、上層階級内では死亡したと見なされているという。

 

(こういった人間なら王家に恨みを抱いて幽霊になってもおかしくはないよな。)

為政は古い紳士録を読んでそう思った。

たかだか顔に火傷を負ったぐらいで王になれなかったとは。

しかも国まで追われてしまうとは。

これでは恨まない方がどうにかしているというものである。

 

 その後もずーっと調べてはいた為政ではあったがそれほどの手がかりを得ることは出来ず、

夕方になったためドルファン城へと向かった。

 

 「まあ、よく来てくれたわね。」

手紙通りやって来た為政をプリシラは歓迎してくれた。

「もしやってこなかったら貴方ギロチン送りだったわよ。」

笑顔でそう言うプリシラ、その目はマジであった。

(もし来なかったら本気でギロチン送りにするつもりだったな。)

為政がそんなことを考えているとプリシラは続けた。

「手紙にも書いておいたけど何で私が一度も会ったことがない叔父さんの霊だがに貴重な睡眠

時間を割かれなければいけないのよ。」

「幽霊に理屈なんか通らないよ。」

為政がそう言うとプリシラは頷いた。

「たしかにそうかも知れないわね。でももう我慢の限界なのよ。

私、幽霊に会って直談判させて貰うわ!!私の睡眠時間を守るためにね。」

相変わらず元気なプリシラだと為政が思っていたら意外にもしおらしい姿を為政に見せた。

「でもちょっと不安だし・・・、ユキマサ。私をしっかり守ってね。」

「おう、いいとも。」

為政は力強く頷いたのであった。

 

 為政とプリシラの二人は幽霊が現れるというプリシラの部屋の周囲を捜索し始めた。

しかし肝心の幽霊はなかなか姿を現さない。

「本当に幽霊なんかいるのかな?」

為政がぽっり呟くとプリシラは反論してきた。

「いるわよ!幽霊は間違いなく私の周りにいるの。」

「・・・・、何か本でも読んだ?」

為政が尋ねるとプリシラは頬を赤らめながら頷いた。

「『ドルファンの怪談』をちょっと・・・。」

「そう。」

為政は呆れた。

直談判やどうのこうのというのはどうでも良いことなのだろう。

ただ幽霊捜索ごっこがしたいだけなのだ。

そこで為政は話を合わせてあげることにした。

「ところでプリシラ・・・」

為政はいかにもな雰囲気の声でプリシラに尋ねた。

「何かしら?」

そう言うプリシラも雰囲気に酔っているらしい。のっている様子でそう言った。

「幽霊は・・・見たかい?」

するとプリシラはゆっくりと首を横に振った。

「いいえ。ただ侍女やメイド・近衛の者たちは見たって言っているわ。

何人も目撃者がいるんだし・・・・、間違いないと思うわ。」

「成る程。」

為政は頷いた。

たしかに何かが起こっているらしい。

その時ふいにプリシラが叫んだ。

「きゃー!!出たわ!!出たー!!あそこに何かがいるぅ。」

プリシラの言うとおり前方の薄暗い場所に何か白っぽいぼんやりしたモノが漂っている。

「はぅー。」

プリシラは某12号機のような声をあげると気を失って為政の胸に崩れ込んだ。

「お、おいプリシラ・・・」

為政はプリシラの頬を軽くピシャピシャと叩いてみたが気が付く様子はない。

為政は途方に暮れてしまった。

目標は目の前だというのに指揮官が居なくなってしまっては行動することが出来ない。

ましてや幽霊騒動解決、もしくはプリシラの保護。

どちらが優先順位が高いのかわからないのだ。

するとその時、パタパタと小さな足音が遠ざかっていくのが聞こえた。

迷った為政は目的を両立させるべく、プリシラをおんぶすると白いモノへと近づいていった。

 

 

 「・・・う、・・・う・・・ん・・・」

プリシラは小さく身じろぎをした。

「気が付いたか、プリシラ。」

為政がそう声を掛けるとプリシラはゆっくりと目を開き、体を起こした。

「ここは・・・私の部屋!?」

そう、プリシラは自分の部屋の大きなベッドの上で横になっていたのだ。

「へ?何でこんな所に私はいるの?」

どうやら記憶が混乱しているらしく状況を掴みかねているらしい。

そこで為政はプリシラが気絶した旨を伝えた。

「そっか。私、気絶しちゃったのね。ありがとう・・・、貴方がここまで運んでくれたのね。」

そう言うとプリシラは微笑んだ。

そして二人はお互いに見つめ合った。

しかし同時に二人は目をそらした。

こういう雰囲気は気まずくなるものなのである。

「あっ!そういえばさっきの幽霊は・・・?」

気まずくなった雰囲気を変えようとプリシラはさっきの出来事を持ち出した。

為政もこれ幸いとその話に合わせた。

「さっきのあれか・・・。単なる煙だったよ。」

「どういうことなの!?」

プリシラは為政が告げた事実に驚いたのか素っ頓狂な声をあげた。

そこで為政は気絶したプリシラを背負って見た事件の真相を話し始めた。

「あの薄暗い部屋には香炉があってそこからら出ていた煙に、細く絞られた光があたって

いたんだ。」

「じゃああれはイタズラなの!?」

「そうとしか考えられないな。誰もいない部屋では香炉も光も必要ないし。」

「誰がやったの?」

その時プリシラの部屋のドアがノックされたので二人は口を閉ざした。

「プリシラ様、お召し物のお持ちいたしました。」

どうやらプリシラの着替えを用意してきたらしい。

しかし今は話中。

プリシラはドアの向こうの人物に声を掛けた。

「ご苦労様、プリム。悪いけど今はお話中だから下がっていて。」

「承知いたしました。」

そう言うとドアの向こうのプリムは足音を小さくしていきながら去っていった。

 

 (・・・・・・・。)

「どうしたの?」

為政が黙り込んで考えていたのでプリシラはそう声を掛けてきた。

「いや、何でもない。」

為政は自分の持った考えを頭から追い払った。

為政には理由がわからなかったからだ。

「さっきの話の続きなんだけれど・・・、誰の仕業?」

プリシラが尋ねてきたので為政は自分の考えを述べた。

「手掛かりは全くなかった。これ以上俺一人で調べるのは無理だな。」

「そう・・・。」

プリシラは少し考え込み、そして言った。

「これ以上、一人では調べようもないというのなら仕方がない。後は近衛兵団の者に任せるわ。」

「その方が良いと思う。」

為政はプリシラの意見に賛同した。

「今回はどうもありがとう、ユキマサ。今日はどうもご苦労様でした。」

 

 為政はプリシラに見送られながらドルファン城を後にした。

 

 後日。

この事件の真相はドルファンタイムズなど主要な新聞にも掲載された。

が結局、犯人は捕らわれることはなく事件は迷宮入りとなったのであった。

 

 

あとがき

今日は真珠湾攻撃59周年ですね。

来年で60周年か。

月日が流れるのって本当に早いものですね。

それにしても今回のタイトル、少女向けティーンズ小説・マンガみたい。

 

 

平成12年12月8日

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