第三十三章.幼女誘拐事件

 

 

 「為政、大変だよー!!」

傭兵隊隊長戸田為政が訓練所から帰ってくるとピコが慌てふためきながらそう叫んだ。

「何だ、ピコか。悪いが話は後にしておいてくれ。腹が減っているんでな。」

そう言うと為政は話も聞かずにさっさと部屋を出てしまった。

部屋の中では何やらピコが叫んでいるようではあったがドア越しのため聞き取れない。

腹の減っている為政はおいしいご飯を戴くべく食堂へと歩いていった。

 

 食堂に着くとそこはもうほとんど人はいなかった。

まあ為政が残業で帰宅するのが遅れていたからかも知れない。

為政はカウンターの前に立つとトレーに次々と食事を盛っていく。

そして盛りつけ終えると席に着き、素早く食べ始めた。

ペラペラと会話する相手もいないので食事の進むこと、進むこと。

十分ほどで食い終わった為政は食後のお茶をズズズーと啜った。

「はぁー、和むなー。」

「和むんじゃない!!!」

いきなり為政の後頭部をスパーンと叩かれた。

「な、何だ!?」

あわてて振り向くとそこには全身汗まみれ、息も絶え絶えのピコがいた。

「て、てめぇ!!」

そこまで叫んだところで為政は声を落とした。

食堂にはまだちらほらと人が残っているのだ。

「何するんだ、ピコ。」

為政が押し殺した声でピコを詰問するとピコは驚くべき事を話し始めた。

 

 「実はね、ロリィが誘拐されたらしいんだ。」

それを聞いた為政は驚愕した。

「何だとー!そういうことは早く言えー!!!」

「言おうとしたら為政、食堂へ行っちゃったんじゃないか。」

「ゴホン、ゴホン。」

為政はその場を誤魔化すべく咳払いをした。

当然の事ながらその額からは冷や汗がダラダラ流れている。

「まあ、そういうことは置いて置いてだ。」

「置いておかないでよ。」

ピコは文句を言ったが今はそういう状況ではない。

為政はピコに問いただした。

「一体、いつ誰に何処でどのように何のためにロリィは誘拐されたんだ?」

「そんなことは知らないよ。」

ピコは泣き言を言った。

「ちっ、役に立たない奴だな。」

「そんなこと言ったって私、公園で遊んでいたんだから知るわけないよ。

ロリィの事は捜索している人の話を聞いて知ったんだから。」

それを聞いた為政は決断した。

「よし、俺らも捜しに行くぞ。」

為政はピコとともに夜のドルファンの街へと繰り出した。

 

 為政は兵舎を飛び出すとドルファンの街の中心にある城へと向かった。

ここならば360度、どの方向にも満遍なく同じぐらいの早さで到着することが出来る。

するとその途中にあるサウスドルファン駅前で血相を変えているレズリーに出会した。

するとレズリーは為政にものすごい顔つきで詰め寄ってきた。

「ユキマサ!!ロリィを見かけなかったか!!!」

「見ていない!それよりもロリィが誘拐されたという話は本当か?」

為政が問いただすとレズリーは頷いた。

「ああ、本当だ。

学校を出て家に向かっている姿は目撃されているんだがまだ帰っていないんだ。」

その話を聞いた為政はふと冷静になって考えてみた。

学校が終わってからまだ家には帰っていない。

学校が終わって・・・、まだ数時間程度しか経っていない。

それなのになぜ誘拐と断定できるのだ?

ただ遊び歩いているだけではないのか。

為政はその疑問をレズリーにぶっけてみた。

するとレズリーは頷いた。

「確かにアンタの言うことはもっともな意見だ。しかしロリィにはそれは当てはまらないんだ。」

そしてレズリーは為政に話し始めた。ロリィの置かれていた状況を。

 

 「なるほど。そういう訳だったのか。」

為政はレズリーの説明を聞き、ロリィが置かれていた状況を理解し、頷いた。

ロリィがここ数年、変質者(いわゆるロリコンだ)につきまとわれていたということを。

「だとするとやばいんじゃないか?」

為政がそう言うとレズリーは頷いた。

「ああ、だからみんなで手分けして捜していたんだ。」

「よし、俺も手伝うよ。」

為政がそうあらためていうとレズリーは頷いた。

「ああ、よろしく頼むよ。」

こうしてロリィ捜索隊為政&レズリー班が結成された。

「それでどうするんだ?」

レズリーが尋ねてきたので為政は考え込んだ。

「うーん。闇雲に捜してもそう見つかるもんじゃない。ここは聞き込みから開始すべきだろう。」

そこで為政はレズリーと手分けをしてロリィ誘拐に関する情報を収集すべく聞き込みを開始した。

 

 「知らないな。」

「ちょっと見ていないね。」

「申し訳ないがちょっと分からないね。」

何十人と聞き込みを行ったが芳しい情報はなかなか得られない。

しかしそれでも僅かばかりではあるものの有益な情報も存在した。

それは

「そういえばいつもは見かけない怪しい馬車が夕方頃、走っていったよ。」

というある一人の露天商から得た情報であった。

やっとのことで手がかりらしい情報を得た為政はより詳しい情報を得ようとさらに尋ねた。

「その馬車はどこへ向かったんだ?」

すると露天商は曖昧な記憶を思い起こしながらなんとか証言してくれた。

「たしかカミツレ地区の方向に向かったと思うよ。」

その情報を得た為政はさっそくレズリーと合流、そのことを話した。

するとレズリーも同様の情報を入手していたという。

俄然、信憑性の増した情報のため二人はカミツレ地区へと向かった。

 

 「カミツレ地区と言っても広すぎるぜ。」

レズリーは絶望的な声を上げた。

実際の所、カミツレ地区とは殆ど人が住んでいない森林地区。

駅周辺および牧場ぐらいしか人は住んではいないのだ。

それでも捜索を諦めるわけにはいかない二人は再び聞き込みを開始した。

 

 「よう、ユキマサじゃないか。」

聞き込み再開してから五分ほど経った頃であろうか、カミツレ高原駅前で為政はジーンにばった

り出会した。

「よう、ジーンじゃないか。助かったよ。ちょっと聞きたいことがあるんだが構わないか?」

為政が尋ねるとジーンは快く承諾してくれたので為政は怪しい馬車について尋ねてみた。

すると

「ああ、見たぜ。」

となんともありがたい情報をもたらしてくれたのであった。

「どこへ向かったか分かるか?」

為政がさらに詳しく問いただすとジーンは馬車の行方について教えてくれた。

「遺跡群の中へと入っていったぜ。昼間ならともかく暗くなってだからな、変だと思ったんだ。」

ジーンから得た情報を元に為政とレズリーは遺跡群へと向かった。

 

 「ここか・・・。」

そこは遺跡群の一角にある地下墓所であった。

普段は鉄網錠で閉ざされているはずの入り口はワイヤーカッターかなにかで切り開かれ、内部

には簡単に入れるようになっている。

しかもその入り口には何人もの証言から浮かび上がってきた馬車が置かれている。

「よし、入るぞ。」

為政は狭くて暗い場所で戦うために小太刀を引き抜くとその刀身に泥を塗りたくった。

暗闇の中、光を受けて反射、居場所を突き止められないためである。

レズリーには鎧通しを渡すと二人は静かに地下墓所内へと潜入開始した。

 

 地下墓所内ではランプの光が見え、その前には一人の男が立っているのが見えた。

さらによく見渡すとロリィが縛られ、部屋?の片隅に転がされているのが目に付いた。

(やつはド素人だな。)

為政はそう思った。

あれでは犯人の姿はこちらかは丸見え、しかし為政たちは目に付きにくいのだ。

為政はハンドシグナルでレズリーにロリィを救出するよう指示。

為政は犯人を取り押さえるべく犯人に近づいていった。

犯人まであと一息というところまで近づいた為政は小太刀を音をたてないように床にそっと置いた。

ド素人である犯人を無闇に殺傷するわけにはいかないからである。

そして一息入れると一気に襲いかかった。

虚をつかれた犯人は全く抵抗する事もできない。

あっというまに犯人は為政の一撃を受けて昏倒してしまった。

「レズリー、ロリィは無事か?」

為政がロリィの安否を尋ねるとレズリーの返事が返ってきた。

「ああ、ただ気を失っているだけだ。」

 

 こうしてロリィを巻き込んだ誘拐事件は幕を閉じた。

このあと駆けつけた衛兵隊の取り調べによって犯人は不法滞在者で筋金入りの変質者であり、

過去に何度も前科を持つ常習犯であることが判明した。

ロリィは危機一髪のところだったわけだ。

犯人は即日裁判の結果死刑となり、牛裂きの刑によって身体は真っ二つに引き裂かれ、その

死体は野良犬の餌となったという。

まさにその犯した罪に相応しい幕切れであった。

 

 

あとがき

ロリィ誘拐編、いかがだったでしょうか。

正直言って書いていてすごく面白かったです。

ちょっと刑事物みたいでしたしね。

最初の構成とは若干異なってしまいましたが面白くなったからまあ良いか。

 

じつはいろいろ話が変わっていた物ですから。

犯人も初めは斬殺、次は逮捕されて国外追放、そして決定塙では死刑ですからね。

ご冥福をお祈りします。

 

 

平成12年12月7日

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