第三十一章.傭兵たちの宴会

 

 

 サウスドルファン駅前にはちょっとした繁華街が存在する。

文化施設だけのみ充実しているここドルファン首都城塞内にあっては唯一、夜を楽しむことが

出来る大人の娯楽場なのであった。

様々なランクの酒場・カジノ・遊郭。

そういった子供は利用したら駄目だよの施設が多く建ち並んでいるのである。

 

 傭兵隊隊長戸田為政はそういった一軒の店の中へと入っていた。

その店は10段ほどの階段を下りた地下にある。

階段を下りた為政は正面のごっつい木製の扉を開けると店内へと入っていった。

中では上品なメロディーが流れている。

ここは傭兵隊の幹部たちがよく利用する酒場なのである。

店の人間が傭兵だからと蔑んだ視線を向けてこないし、なによりも良い酒をお手ごろ価格で出し

てくれるので人気があるのだった。

 

 店内に為政が入ると店の奥の方でグイズノーが手を振っているのが見えた。

その周囲には十数人の傭兵たちがたむろっている。

為政は他の客の間をくぐり抜けると仲間たちの元へと向かった。

 

 「遅いぞ。」

グイズノーはゲイリー准将と共に酒をばかすか飲みながらそう言った。

「悪かったな。マデューカス少佐に捕まって出るのが遅れたんだ。」

為政が事情を話すと傭兵たちは皆、一様に同情の感を表した。

「そいつはご愁傷様でした。」

グイズノーはそんな軽口をたたいている間に為政は傭兵たちを見渡した。

すると一人が欠けている。

「ギュンター爺さんはどこにいるんだ?」

為政の言葉に傭兵たちは一斉に笑った。

「何だ?」

するとグイズノーがカウンターを指さした。

そこでは数人の女の子と馬鹿話をして盛り上がっているギュンター爺さんがいた。

「よくやるよな、爺さんもさ。」

為政が呆れたように言うとグイズノーも頷きながら言った。

「全くだぜ。年寄りの冷や水とはまさにこのことだぜ。」

「でも一度も上手くいったことないようですけれどね。」

ゲイリー准尉も笑いながら話に加わった。

そのまま3人で話しているのもいいが立ったままではなんなので為政は空いていた席に座った。

するとグイズノーが酒がなみなみと注がれたグラスを手渡したので為政はそれを受け取った。

するとグイズノーが張り切って言った。

「これでみんな、そろったわけだ。よし、もう一回乾杯するぞ。おい、爺さんこっちに来い!」

その言葉に上は大尉から下は特務曹長まで、およそ24.5人の傭兵が集まった。

こういった場面では明るく陽気なグイズノーがどんどん仕切っていくのだ。

「それじゃあ為政よ。隊長として音頭をとってもらおうじゃないか。」

グイズノーに指名された為政は少しだけ文句を考えた後、大きな声で叫んだ。

「では乾杯だ。戦場の最低野郎どもと傭兵隊に!!」

傭兵たちは大声で「乾杯!!」と叫ぶと手にしたグラスの中身を飲み干した。

 

 それからおよそ1時間後。

酒をなめるようにちびちびと飲んでいた為政はあることに気付いた。

「ベッカー中尉はどうしたんだ?」

すると意外な答えが返ってきた。

「中尉でしたら禁酒中とかで帰りましたよ。」

とゲイリー准尉は言った。

それを聞いた為政は驚いた。

が他の連中も驚いたらしい。」

「酒乱のベッカーの通り名を持つ中尉が禁酒とは一体何があったんだ?」

グイズノーがそう呟いた。

「よく見るとガミル少尉とアスベル少尉もいませんな。」

とはロバート少尉の言葉である。

「あの二人はアルコールに弱いからな。とても傭兵には思えんよ。」

これはセイラム准尉の言葉だ。

「まあいいじゃないか。」

為政はその場を窘めた。

「傭兵がみなあの二人のようだったら評判も良かったことだろうよ。

そして俺が少佐にあれこれ言われることはなかったわけだ。」

「何を少佐に言われたんだ?」

グイズノーが聞いてきたので為政は答えた。

「傭兵どもの素行不良だよ。」

「そりゃあ無理な話だな。」

為政の言葉にセイラム准尉はすかさずそう答えた。

「まったくだぜ。本来、傭兵というのは社会不適合者の集まりなんだからな。」

とは賛同したグイズノーの言葉である。

「少佐の愚痴につき合わせられたというわけですな。」

とロバート少尉は為政に同情しながら言った。

「軍上層部から文句を言われたらしい。軍の方で傭兵を雇って傭兵隊に送り込んでくるんだから

もっと人選をしっかりやってくれれば良いのにってな具合でな。」

「監督責任だけ押しつけられて少佐も大変だよな。」

男たちの意見は奇しくも一致した。

 

 それから二時間余り後。

為政は手を叩きながら叫んだ。

「今日はもうお開きにするぞ。帰った、帰った。」

すでに数名帰宅していたがまだ十数人の傭兵たちがくだをまいていた。

しかし為政の一言で男たちは一斉に酒場を後にした。

 

 それからしばらくしてゲイリー准尉が居なくなっていることに為政は気付いた。

「おい、ゲイリーの奴をしらないか?」

すると酔っぱらったグイズノーが答えた。

「奴のことだから娼館にでもしけこんでいるだろ。」

その言葉に他の者たちも賛同の声を上げた。

「あいつは酒も賭博も女も何でもOKだからな。まさに素行不良NO1だぜ。」

デューム少尉は髭をしごきながらそう言った。

「だからと言うて奴が犯罪に走るとは思えんのう。」

そう言うとギュンター爺さんは笑った。

「そりゃあ確かにそうだ。奴のようなタイプは犯罪者にはなるまい。

あるとすりゃ児童淫行罪ぐらいか。クッククク。」

グストン准尉の言葉に皆は一斉に笑った。

「違いない。奴は女なら誰でもいいそうだからな。」

「最年少記録と最年長記録を知りたいものだぜ。」

とても女性には聞かせられない事を喋りながら男たちは帰宅の途についた。

 

 馬鹿話は兵舎の目の前に来たところでパッタリとおさまった。

部下たちの目の前で醜態をさらすわけにはいかないのだ。

なんせ部下たちは上官を尊敬して従っているのではない。

上官の実力でもって押さえつけているだけなのだ。

だからこそ時々、たがの外れた傭兵が暴発するのだから。

そんなわけでしゃんとした男たちは酒に酔って顔は真っ赤であったが、姿勢を正して兵舎へと

入っていった。

 

 為政は自室に戻るとベッドの上に倒れ込んだ。

部下の前では見せないが実は酒には弱いのだ。

それなら飲まなければいいのにとも思われるが酒は好きなので始末に悪い。

「おかえり、為政。」

為政の目の前に現れたピコは羽をパタパタさせながらそう言った。

「おう、ピコか。」

為政は朦朧とする中、そう言った。

「大丈夫?お酒が弱いのにこんなになるまで飲むんだから。」

「平気だ。それよりも頼みがある。」

為政はそう言った。

「ん?何かな?」

「戸締まりを頼む。」

 

 ピコが扉に鍵を掛けて戻ってくると為政はすでに眠りについた。

「もう!人に頼んで置いて先に寝るなんて。・・・お休み、為政。」

 

 

あとがき

久しぶりの傭兵隊のお話です。

よって新メンバーの名前がちらほらと出ていますが彼らの出番はほとんどありません。

戦争シーンを今の2.3倍に増やせば出番も増えると思うんですがね。

しかしそれは私の力では無理なので出番はありません。

 

さてこの話ですが実は酒場を出てから兵舎に着くまでにある話を入れようと計画していました。

しかし残念ながら話の流れを大幅に阻害することが判明、オミットした次第です。

 

次回は多分12月6日頃になる予定です。

明日は大学の授業があるからちょっと今の状態では更新出来そうにないので。

それでは次回をお楽しみに。

 

 

平成12年12月4日

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