第三十章.女の生き様

 

 

 春のうららかな日。

傭兵隊隊長戸田為政は休日を寝て過ごしていた。

春眠暁を覚えずというやつである。

しかしそんな為政をピコは好ましくないと思っていたようであった。

気持ちよく寝ていた為政の顔面にどかどかと多量の本が落っこちてきた。

「な、何だ!?」

慌てて飛び起きた為政の目の前にはパタパタと飛んでいるピコがいた。

その顔はおもいっきりわらっている。

「お前か、ピコ!」

為政が凄むとピコはしれっと受け流した。

「へへへへ、起きた?」

「・・・、人がせっかくいい気持ちになって寝ていたのに起こすとはどういうことだ?」

為政が尋ねるとピコは笑いながら言った。

「こんないい天気に室内にこもっているなんて不健康だよ。外へ出て春を楽しんできなよ。」

そんな気分にはなれない為政は再び布団に潜り込んだ。

するとピコは為政を起こそうとあれこれと叫いてくる。

しかし為政無視し続けた。

するとピコは諦めたらしく静かになった。

そこで為政は落ち着いて寝ることにした。

するとその時布団の上から多量の水が流れ込んできた!!

「うわっ!!冷たい!!!」

慌てて跳ね起きた為政ではあったが既に布団のみならずパジャマもびしょびしょであった。

「何するんだ!!」

為政は怒鳴りつけたがすでに後の祭りであった。

これでは布団を干さないと夜に困ってしまう。

もはやどうしようもなくなった為政はやもえず着替えた。

そして水が滴るほど濡れた布団を窓の外に干したのであった。

 

 「覚えていろよな、ピコ!!」

為政はピコにそう言がピコは相変わらず素知らぬ素振りである。

「じゃあ気をつけて散歩してきてね。」

ニヤニヤ笑いながらピコは言う。

このまま自室にいると何が起こるか知れないので為政は街へと繰り出すことにしたのであった。

 

 兵舎を出た為政は目的地も定めずに適当に歩き始めた。

そしてふと気づいた時にはシーエアー駅・サンディア岬駅前を撮りすぎてキャラウェイ通りに

入って行った。

まあ目的がない為政は適当に店をひやかし始めた。

するとスーが一人の男と言い争っているのを見付けた。

何やら剣呑な雰囲気を漂わせているので為政は黙ってスーの脇を通ろうとした。

するとスーは為政の顔を見た。

(気づいたのかな?)

為政がそう思っているとスーは男に何か言うと為政の元へと近づいてきた。

そしてそのまま為政の腕に抱きついた!

「お、おい・・・」

為政が驚いてそう言うとスーは唇に指を当てて、静かにするよう伝えてきた。

「ちょっとの間だけ私の話に合わせておいてちょうだい。」

その真剣そうな表情に為政は頷いた。

するとスーは為政を言い争っていた男の元へと連れていって言った。

「彼が今、私のつき合っている男よ。」

(な、何だと・・・・?)

スーのそのとんでもない一言に男はさらにスーと言い争いを始めたのであった。

 

 数十分後。

「ごめんね、トダ君。」

男となんとか決着をつけたスーは為政にそう謝った。

「それはいいが・・・、あの男は一体・・・?」

為政がそう尋ねるとスーは腹立しいように言った。

「あいつは私の昔の男よ。調子のいいことばかり言っていたけどろくでもない男だったわ。

ああ、昔の私はなんであんな奴とつき合っていたのかしら。まさに若さ故の過ちって奴よ。」

「大変だったんだな。」

為政がそう言うとスーは笑顔を見せた。

「それにしても助かったわ、トダ君。あいつしつこくって困っていたのよ。

トダ君が来てくれていなかったら面倒なことになっていたかも。」

「お役に立てて光栄だね。」

為政がそう言うとスーはうんうんと頷いた。

「本当に助かったわ。・・・、そうだ。今日はお礼にデートしてあげる。

どうせ彼女なんかいないんでしょ。」

為政は反発するまもなくスーに引きずられて国立公園内にて

デートする事になってしまったのであった。

 

 「私、今までに何十回もやってきたけれど全く効き目無かったのよね。」

トレンツの泉の前でスーはぼやいた。

此処トレンツの泉では願い事を心に思い浮かべながらコインを投げ込むと願いが叶うという伝説

があるためこのような話がわき上がってきたのである。

それにしても何十回とは大した回数である。

「それだけ願えば一回ぐらいはかなうよ。」

為政がそういうとスーは情けない声を出した。

「どうせなら一回でかなってほしかったわ。」

「当たるの八卦、当たらぬも八卦だよ。」

為政がそう励ますとスーは不思議そうな顔をした。

「八卦って何?」

使っていて何だが実は為政にもよくは分かっていなかった。

説明に困った為政はとりあえず大雑把なニュアンスを伝えた。

「ようは占いやお祈りの類は神様の気分次第ということかな。」

それを聞いたスーは確かにと頷いた。

「それはそうかも知れないけどねぇ・・・。」

とりあえずまだ一度もやったことがない為政は試しにやってみることにした。

「とりあえず健康でも祈ってみるか。」

為政は財布から銅貨を一枚取り出すと泉の中に投じ、願った。

するとその様子を見ていたスーもやる気になったらしい。

「私ももう一回やってみよう。今度は御利益があるように金貨を使ってっと・・・。」

そういうと何十回目だかは知らないが金貨を泉に放り込み、願った。

「今度こそ願いが叶うといいね。」

為政がそう声を掛けるとスーは心底そう思っているかのように力強く頷いた。

「本当にかなうと良いのだけれどね。」

 

 「審判の口・・・、うそを付いた人間が口の中に手を差し入れると噛みつかれてしまうという彫刻。

今まで私を騙してきた男どもを並べて片っ端からやらせてやったらさぞ愉快なことでしょうね。」

スーは審判の口の前に立ったまま、そう言った。

すでにここに来るのは二回目の為政はそんなことは無いと分かっていたし、そう言ったスーも

そんな伝説など信じてはいなかったであろう。

それでも話を合わせるのが礼儀というものである。

「それは確かに面白そうだね。」

為政はそう言った。

するとスーは笑顔のまま言った。

「そうでしょ!そう言えばトダ君、貴方もやってみたら?」

そこで為政は丁重に断った。

「生憎と嘘を付かないですむような環境では生きてこなかったんでね、やめとくよ。」

それを聞いたスーはうんうんと頷いた。

「そうね、私もさっき嘘をついたばかりだし止めておくわ。」

 

 その後、二人で国立公園内をうろういているとスーがある看板に気付いた。

看板には『フラワーガーデン開催中』とある。

それを見たスーは

「そっかー。今、フラワーガーデンやっているんだ。入りましょう。」

と言う。

しかし為政はいまいち乗り気ではなかった。

半年前のプリシラとの出来事が嫌な思い出として脳裏に浮かんでいたからである。

しかし為政の心中など考えもしないスーは為政の手をつかむと植物園内へとぐいぐいと引きずり込んだ。

さすがにここまで強硬手段をとられてしまっては為政としても諦めざるを得ず、スーと一緒に植物

園内へと入っていった。

 

 フラワーガーデン内にはいると目に付いたのは色とりどりの春の花花であった。

そのなかでもとくに目立つのがチューリップである。

春のチューリップ、秋のダリアはここフラワーガーデンの目玉なのだ。

「見てみて。すごくきれいな花よね。」

スーはチューリップを見てうっとりしたように言った。

そこで為政も相づちをうった。

「確かに。いつ見てもきれいだな。」

するとスーは怪訝な表情を浮かべた。

「あら?トダ君ここ初めてじゃないんだ。」

「二年もいれば首都城塞内ぐらい一通り見て回れるさ。」

為政がそう言うとスーも納得した。

「それもそうね。それじゃあ次の所へ行くわよ。」

そう言うとスーは再び為政の手を取ってグイグイとリードしていった。

 

 そして夕方。

「今日はなかなか楽しかったわよ、トダ君。70点といったところね。」

スーは今日のデートにそう評価した。

しかし70点とは・・・。

今日のデートのプランは全てスー本人が決めたというのに。

スーは続けた。

「もうちょっと精進することね。でないと女の子のはもてないわよ。じゃあね♪」

自分のことを棚に上げて為政にそう言うとスーは軽い足取りで去っていった。

その後ろ姿を見送った為政は国立公園を出ると軽く一杯を引っかけるべく酒場へと歩いていった。

 

 

あとがき

結構難産でしたがなんとか昨日に引き続いての更新です。

今回の話の中心は読めば分かりますがスーです。

でもゲームに比べるとそれなりにいい女にしたつもりなんですがどうでしょう?

ゲームのスーは結婚願望が異様に強い変人さんでしたから。

今回は人生経験をそれなりに積んだOLみたいにしてみました。

個人的には今までで一番好きです。

 

それでは次回をお楽しみに。

 

平成12年12月3日

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