第二十五章.修学旅行危機一髪

 

 

 それは飽きも深まりそろそろ冬にさしかかろうという11月の始めのことであった。

例のごとくマデューカス少佐に呼び出された傭兵隊隊長戸田為政は新しい任務を押しつけられ

るべく執務室へとやって来たのであった。

「今度は何です?」

不機嫌そうに為政は尋ねた、

毎回毎回妙な任務を押しつけられては不機嫌になるというものである。

そのことは少佐も気付いたらしく為政を取りなすように言った。

「実は海軍からの要請でな、今度行われる大演習の対抗部隊をやることになったんだ。」

「・・・・どこでやるんです?」

すでに決定事項であることに気付いた為政は無駄な反論はしなかった。

「エドワーズ島だ。

本当はビーチとかでやりたかったらしいいんだが機密保持に難点があるとかでな。

エドワーズ島なら今はオフシーズンで人目に付かないから。」

「確かにそうですな。」

マデューカス少佐の言葉に為政は頷いた。

「というわけで今月末に演習は行われる予定なのでエドワーズ島の地形を調査しておくように。

船の手配はしてあるから。」

「了解。」

命令を承諾すると為政は執務室を後にした。

 

 

 そんなやり取りから約二週間後。

為政を含む十人ほどの傭兵たちは一隻の軍艦の上にいた。

艦名は『リタリレクション』、ドルファン海軍の主力巡洋艦『イクリブリウム』級の七番艦である。

現在のところドルファン海軍でもっとも新しく、高性能なこの艦には大演習を指揮するコルセイド

提督、および海兵連隊連隊長のゴーダス大佐の同乗していた。

 

 ドルファン港を出発してから一時間後。

軍艦に乗るのは初めての為政は軍艦の構造に興味を持ち、艦員たちの邪魔をしないように

艦内を見学して回っていた。

そうこうしている内に為政は数十門の大砲が据え付けられている中甲板へとたどり着いた。

そこで据え付けられた大砲をじろじろと観察していると突然声を掛けられた。

「やあ大尉、大砲に興味を持ったかね?」

その声に慌てて振り向くとそこにはコルセイド提督ゴーダス大佐の二人がいた。

二人に気付いた為政は慌てて敬礼した。

しかし提督は笑いながら手を振った。

「大尉、わざわざ軍艦内では敬礼する必要はないぞ。狭いんだからな。」

「そうですか。」

そこで為政は手をゆっくりと下ろした。

「それで良い、大尉。それにしても今回は助かった、礼を言わせて貰うよ。」

ゴーダス大佐の言葉に為政は耳を疑った。

(今、何を言ったのだ?)

「はっ!?何がですか?」

為政がそう尋ねると大佐は為政の肩に手を置きつつ言った。

「今回の大演習のことだよ。傭兵隊が対抗部隊をやってくれると聞いてね、大変助かったんだ。」

騎士団からは親の仇でも見るかのように見られるのに海軍・海兵隊からの妙に好意的な視線に

為政は戸惑った。

「そう・・・ですか。」

「そうとも。今回の大演習は前々から計画されていたんだがね、騎士団が対抗部隊を出してくれ

なくってね。今回、傭兵隊がやってくれると聞いたときはそれはそれは嬉しかったものだよ。」

その言葉を聞いて為政は俄然やる気を出した。感謝されて気を悪くする者などいないからだ。

「精一杯頑張らせていただきます!」

為政は思わずそんなことまで口に出してしまった。

それを聞いた大佐は肩をバンバン叩きながら言った。

「よろしく頼むぞ、大尉。

それを見ていたコルセイド提督も実に嬉しそうであった。

 

 ドルファン首都城塞の目と鼻の先にあるエドワーズ島。

そのため、一行はあっという間に到着した。

航海中、色々と軍艦や大砲のことを教わった為政は海軍や海兵隊の面々と共に島に上陸を果た

したのであった。

 

 「何なんだこれは・・・」

斥候部隊の指揮官であるグイズノーは目の前の光景に呆然としたように言った。

島に上陸した傭兵たちの前に飛び込んできたのは多くのドルファン学園の生徒だったのだ。

「修学旅行・・・だそうだ。」

為政はポッツリ呟いた。

「こんなに人がいては機密保持もへったくりもないのでは?」

副隊長のハウザー中尉もそう言ったが仕事をしないわけにはいかないのだ。

「仕方がない、出来るだけ目立たないように調査することにしよう。

なーに、本番は一週間後だから大丈夫だ。」

為政の命令で傭兵隊は島の地形を把握するための調査を開始した。

 

「おや、ユキマサじゃないか。」

島の中央付近にあるホテルの周囲を調査していた為政はホテルの目の前でレズリーにばったり

出会した。

「いい年こいて修学旅行に混じりに来たのか?」

そんなレズリーの言葉に対して為政は冗談を言った。

「失礼な。俺はまだそんな年ではない。」

「・・・・・」

為政の言葉に固まってしまったレズリーに為政はもう一度言った。

「冗談だ。仕事で来ているんだよ。」

「ああ、びっくりしたよ。真面目なアンタでも冗談を言うことがあるんだな。」

「俺は別に真面目ではないんだが。」

「そうか?かなり真面目に見えるけどな。」

「・・・俺の周りが不真面目すぎるだけのことだろうよ。」

為政の言葉に考え込んだレズリーはやがて頷いた。

「確かにそうかも知れないな。ところでどんな仕事なんだ?」

「軍事機密だからな、言うことはできないな。」

為政はレズリーに一切話そうとはしなかった。

もっともそんなことでレズリーは気を悪くはしなかったが。

「ふーん、なら仕方がないよな。仕事頑張れよ。」

そう言うとレズリーはホテルの建物内へと入っていった。

「そろそろ港周りを調査するかな。」

ホテルの周囲にドルファン学園の生徒たちが集まってきたこともあり、為政は港へと向かった。

 

 「むっ!貴様は東洋人ではないか!!」

なぜこのような場所にいるのかは分からないが、港に着くとそこにはソフィアの婚約者ジョアン・

エリータスがいた。

「さては私の偉大にして崇高な作戦プロジェクトDを邪魔しに来たな!!」

ジョアンはそうは言ったものの為政には何のことだかさっぱりわからない。

そこでジョアンの自尊心をくすぐりつつ尋ねてみた。

「作戦?プロジェクトD?一体何のことなんだ?」

それを聞いたジョアンはわっははははと高笑いをあげた。

「東洋人!!どうやら愚かな君はプロジェクトDは知らないようだな。

いいだろう、貴様には特別にプロジェクトDの全貌を教えてやろうじゃないか!」

ジョアンは続けた。

「ボクが金で雇った連中がソフィアを襲い、それをボクがさっそうと現れてそいつらを叩きのめす。

そしてソフィアは危機を救ったボクに夢中という寸法さ。」

そのあまりに幼稚な発想に為政はあきれ果てた。

「お前な、子供でもやらん幼稚なことを自慢するなよ。」

それを聞いたジョアンは烈火のごとく怒り狂った。

「なんだとー!!貴様、ママの考えてくれた作戦にけちをつけるつもりか!!」

「ママねぇ・・・、プロジェクトDの話はもういいからソフィアを助けに行ってやったらどうだ?」

為政がそう言うとジョアンの顔は青ざめた。

「し、しまった・・・、どこでソフィアを襲うのか聞いていない・・・。急がねばソフィアが危ない!!」

ジョアンは矢のような勢いでその場を立ち去った。

(何という愚か者なんだ。)

為政はジョアンの考えのなさに呆れてしまった。

いくら金で雇ったとは言えならず者はならず者、所詮ウジ虫にも劣る存在なのだ。

ほっておくわけにもいかず為政もソフィアを捜すことにした。

 

 ソフィアを捜すべく為政は彼女が立ち寄りそうな場所をくまなく捜索して廻った。

すると湖の畔で水遊びをしているハンナに出会った。

「やあ、こんなところで何をしているの?」

エドワーズ島に為政がいるのを不思議に思ったのであろう、ハンナは尋ねてきた。

しかし今は時間がないのだ。

為政はハンナの質問には答えずにソフィアの行方について尋ねた。

「ハンナ、ソフィアを見なかったか?」

「ソフィア?ソフィアがどうかしたの?」

「時間がないんだ、頼む!」

為政の切迫した様子に気付いたのであろう。

「わかったよ。えーっと確かあっちの林の中に入っていったよ。」

「すまない。」

為政はハンナの示した林へと続く道を走って急いだ。

 

 為政は人気のない林の中を通る道を走りながらソフィアを捜した。

すると林の奥の方で何やら人影が見えたように思えた。

そこで為政はその人影らしき物の方へと急いだ。

 

 為政が人影に近づくとそこではサムとその他二名のチンピラがソフィアを追いつめているところ

であった。

「待て!!」

為政はそう叫ぶとソフィアとチンピラの間に割り込んだ。

「貴様は東洋人!!またオレらの邪魔をするつもりか!!!」

猫好きスキンヘッドのサムは叫んだ。

「当然だ。」

為政がそれに応じると

「今度は手加減せんぞ。行くぜ、ジャック・ビリー、ジェット○○○○○アタックだぁ!!」

そう叫ぶとサム・ジャック・ビリーのチンピラ三人組は一斉に襲いかかった。

 

 

 「グワッ!!」

チンピラ三人組のビリーが地面に吹っ飛ばされた。

すでにサム・ジャックの二人はリタイアしている。

「れ、練習したのに・・・・。」

ビリーは情けない声を上げた。

「く、くそー。俺たちでは奴に勝つことは出来ないのか・・・。」

とはジャック。

「どうした、もうお仕舞いか?」

為政がぐいとチンピラ三人組に近寄ると彼らは慌てて立ち上がった。

そして

「覚えていろよー!今度こそぎたんぎたんに熨してやるからなー!!」

お約束の捨て台詞を残すと為政に簡単にあしらわれた三人はその場を逃げ去った。

 

 「大丈夫かい、ソフィア。」

前にもこんな事を言ったっけと思いつつ為政はソフィアに声を掛けた。

するとソフィアは為政にひしと縋り付いてきた。

「ご、ごめんなさい。わ、私・・・」

ソフィアは肩を振るわせながらしゃくり上げ、泣いている。

為政は黙ったままソフィアの背中に手を伸ばした。

 

 数分後。

落ち着きを取り戻したソフィアは為政からそっと離れた。

「ありがとうございました。また助けていただいて。」

「気にすることないさ。それより少しは落ち着いたかい?」

為政がソフィアを気遣って尋ねるとソフィアは頷いた。

「ええ、もう平気です。それにしても恥ずかしいです。

トダさんにあんなみっともない姿を見られるなんて・・・。」

そう言ってソフィアは頬を赤らめた。

「まあ無理もないさ。それよりホテルまで送ろう。またあいつらが襲って来るかも知れないからね。」

多分ないだろうなと思いつつ為政がそう言うとソフィアは頷いた。

「お願いします。」

そこで為政はソフィアを修学旅行の宿であるホテルへと送っていった。

 

 「トダさん、今日は本当にありがとうございました。」

ホテルに着いたソフィアは為政にそうお礼をいうとホテル内へと入っていった。

「さて再開するか。」

為政はソフィアの件もかだつけると仕事を再開すべく、ホテルに背を向けた。

するとそこには息を切らして汗まみれのジョアンがいた。

「と、東洋人め・・・、よ、よくもプロジェクトDをじゃ、邪魔してくれたな・・・。」

為政はジョアンの言葉を聞いて呆れてしまった。

もう少しでソフィアを傷つけるところであったというのにこのざまである。

頭のネジが一本や二本何処ではなく、何十本のとんでいるらしい。

「こ、今度は邪魔するんじゃないぞ!」

言いたいことだけ言うとジョアンは為政の目の前から立ち去った。

(・・・奴の脳味噌は腐っているのか・・・?)

ジョアンの思考形態がさっぱり理解できない為政なのであった。

 

 

あとがき
  いやはや少女向けティーンズマンガのタイトルみたいな今回の章名でしたね。

そんでもって今日で10日連続更新の当作品。

そんなわけで明日はお休みさせてもらいますね。

なんせ連続してやっていると他のコンテンツに手が着けられないもので。

そんな訳で次の章は火曜日か水曜日には更新する予定。

  なおドルファン海軍の主力艦が巡洋艦なのはまだ戦艦というカテゴリーが存在していない時代

らしいこと、戦艦より巡洋艦の方が性能が良かった時代の方が長かったことによりものです。

なお命名基準は英国海軍に準じさせて貰いましたんで。

 

次回は第二十六章「テラ河の戦い」です。

今度で三回目の戦争。

こうご期待!!

 

 

平成12年11月26日

感想のメールはこちらから


第24章へ  第26章へ  「Condottiere」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る