第09話「勝利の秘訣」

 

 

 

 ドルファン侵攻計画はスタートした。

そのため軍団長たる戸田為政のやるべき仕事もはっきりした。

 

その1.武器弾薬食料の調達

その2.ドルファン侵攻の基幹計画

その3.外交工作

 

この3つである。

 

 

 まずその1である武器弾薬食料の調達である。

 

 「久しぶりだな、メネシス」

人里離れたちょっと大きめな一軒家。

その一軒家を訪れた戸田為政はその家の主に声をかけた。

するとメネシスは不機嫌そうな顔で言い放った。

「何だアンタか。何用だい?」

「注文していた例のブツを引き取りに来た」

「…ああ、あれね。裏の倉庫にしまってあるよ」

その言葉に為政は満足げに頷くと連れてきた部下たちに命令した。

「丁寧に運び出せ!! 壊すんじゃないぞ」

「「「「「了解」」」」」

一軒家の裏手へ駆け足で消えていく部下たち。

それを見たメネシスは為政に手を突きだした。

「?  何だこの手は?」

「金だよ金。約束通り金貨2000枚、耳をそろえて払って貰うよ」

「昔のよしみでタダにしてくれても良いのにな」

そう言いながら金貨の入った革袋を手渡す為政。

そして革袋を受け取ったメネシスは為政の目の前で袋を開けると金を数え始める。

「何でタダ作ってあげなきゃいけないんだよ、全く。

これは次の実験・開発の資金なんだからまけられないんだよ。あ〜ドルファン時代が懐かしい。

ちょっとしたのを作ってやるだけで資金援助してくれるスポンサーがいてくれたらな〜」

「ならスポンサーから降りるか?」

その言葉にメネシスは為政を睨み付けた。

「金持ちのくせにけちけちするんじゃないよ、全く。

それにしてもアンタは外国人排斥法のおかげでずいぶんとまあ出世したもんよ」

「色々と苦労しているんだよ、こっちだってな」

「そんな事は分かっているけどね。ところでアンタあの機械、何に使うんだい?

今更金属機械工場やるわけではないだろうし…」

「あれはだな「いいややっぱり」

自分で尋ねてきながら為政の言葉を遮るメネシス。

そして首を横に振りながら…金貨を数える手は休めずに言った。

「やはり聞かないでおくことにするよ。

アンタがその機械をどう使おうと私にゃあ関係無いし、知ったことじゃないしね。

それよりも…はい、2000枚丁度っと。確かに契約通り受け取ったからね。

もう用件はすんだんだろう、あたしゃ忙しいからさっさと帰んな」

「…それがスポンサーに言う言葉か?まあいい、また何か用事が出来たらその時は頼むぞ」

「はいはい、まいどあり〜」

メネシスの投げやりな言葉を背に為政は部下たちと共にメネシスのラボを後にしたのであった。

 

 

 「これが例のブツですかい?」

50歳中頃、その工房を取り仕切っている親方はメネシスに作らせた機械を目にしてそう言った。

そこで為政は頷く。

「そうだ。ところで出来映えはどうだ?」

「試してみなくちゃ分かるわけありませんよ、旦那。でも見た感じは良さそうですぜ」

「職人の技は職人のみぞ知るといったところか」

「あっしはメネシスって女知りませんから何とも言えんですがそんなところだと思いますぜ」

「親方、準備できましたぜ!」

その時親方の弟子の一人が鉄棒を一本持ってきた。

親方はそれを受け取ると機械にセットする。

「それでは出来映えを試してみますかい」

そう言って親方は機械に取り付けられたハンドルをごっつい手で、しかし繊細に操作する。

キュイーィン

金属音が暫く鳴り響き、やがてその音は止まった。

「うむむ〜」

「どうだ?上手くいったか?」

唸る親方に結果を早く聞きたい為政は急かす。

すると親方は感心したように言った。

「大した物です、この機械は。精度がちょっとだけ甘いが実用には十分耐えられる。

これさえあれば今までの十倍以上のペースで生産が可能ですぜ」

「そうか、よし」

為政は満足げに頷くと親方に頼んだ。

「それじゃあ例のブツ、生産を頼むぞ」

「あいよ、任せておきな」

 

こうしてまずその1である武器弾薬食料の調達、この中の武器弾薬についてはその調達にめどがったのであった。

 

 

 

 次にその2.ドルファン侵攻の基幹計画である。

がこれは極秘事項だ。

なんせこの計画がばれればドルファン侵攻計画が頓挫しかねない。

というわけでこの計画は為政の胸の内に秘められることとなった。

 

 

 

 最後にその3.外交工作である。

これはとてつもなく重要なことであり、ある意味ドルファン侵攻基幹計画よりも重要なことであった。

始めよければ全て良し。

ようは最終的に目的さえ達成すれば途中何度負けようと問題はない。

そして今回のドルファン侵攻はその領土を完全に制圧。

旧家による政治体制を完全に駆逐、新たな政治体制を構築することにある。

しかしその戦力が傭兵軍団イクサオンであれば他の隣国は驚異に感じることであろう。

実際にゲルタニア・ハンガリアが王政を打破し、共和国化した際には他国から干渉を受けているのだ。

であるから他国からの干渉、これを為政は排除する必要性があったのである。

 

 

 

 「ようこそおいでなさいました」

きちんとした礼服で為政は一人の男を出迎えた。

男の名前はダグラス・スレイマン。

スィーズランド駐在のゲルタニア大使という肩書きを持つ外交官である。

「お招きいただき光栄です」

さすがに外交官だけのことはある、緊張しているはずだがその素振りも見せずに為政に挨拶する。

しかしこの方が話は進みやすい、そこで為政は話を進めることにした。

「今日は大使殿にお会いでき、大変光栄であります。

大したおもてなしは出来ませんが存分に楽しんでいってください」

するとスレイマン大使はちょっとむっとした。

「大したもてなしも出来ないのでしたら招待していただきたくはないですな」

(しまった!)

故郷を出てすでに十数年、長いこと異国で過ごしてきた為政であるがやはり故郷のことは忘れられないらしい。

ついここ欧州では謙遜という言葉が美徳でないことを思い出した。

慌てて為政はスレイマン大使に謝罪した。

「失礼しました、大使。私の故郷ではこういう風に客をもてなしていたものですのでつい…」

すると大使は笑った。

「冗談ですよ、トダ殿。私はこれでもれっきとした外交官です、東洋の国の作法とて聞き及んでいますよ。

まあでもこれからは注意した方が良いですがね」

「そう言うことにします。妻がこの席にいればこんな失敗はしなかったんでしょうがね」

思ったよりも大使が気さくであったことに為政はほっとした。

そして宴が始まった。

 

 

 「そろそろ本題に入りませんか?」

宴が始まって一時間余り後。

それまで上機嫌で酒を飲み、料理を食べていたスレイマン大使が真剣なまなざしで為政にそう言った。

そこで為政もそれまでの接待ムードを一新、真剣な表情になった。

そして本題を話すことにした。

 

 「スレイマン大使、貴方に。いや貴方の国に二つばかり認めて欲しいことがあるのですよ」

「…それは何かね?それは私一人の権限でどうにかなるものなのか?」

「いいえ、たぶん無理だと思います」

為政は正直に首を横に振った。思わず無言になるスレイマン大使。しかし為政は続けた。

「私が、いや私たちがまず認めて欲しい事とはゲルタニアの通行許可ですよ」

「・・・それくらいならば私一人でも認められることだが・・・それにしても珍しいな。

過去に何度かキミの傭兵団は我々に無断で勝手に出入りしていたはずだが」

「今回は深い事情がありまして。これからいう二番目に認めて欲しいことに密接に絡んでいるのですよ」

「それは?」

「我々がドルファンを侵略しますのでその正当性を認めて欲しいことです」

「本気かね?」

正気沙汰とは思えない為政の言葉に思わず聞き返すスレイマン大使。

しかし為政は本気だった。

「冗談でこんなことを言ったりはしません。当然本気です」

「話を聞かせて貰おうか」

「はい」

為政はドルファン侵攻について、その概要をスレイマン大使に話した。

 

 

 

 

 「…成る程、話は分かった」

長い為政の話を聞いてスレイマン大使は頷いた。

「確かにこれは私一人では結論づけることは出来ない話だ。本国へ早々と伝えてみよう」

「ありがとうございます」

為政は素直に感謝の意を表す。

するとスレイマン大使は「待て待て」と為政を止めた。

「勘違いしては困るぞ。あくまでも私は本国に伝えるだけの話だからな」

「分かっています。まあそれと同時に貴国がこの申し入れを承諾してくださることも」

「そうかな?」

為政の言葉にスレイマン大使は首を傾げる。

そこで為政は尋ねた。

「大使は何か異論があるようですが?」

「ああ、その通りだ」

頷くスレイマン大使、そして続ける。

「何も貴殿の傭兵団がドルファンに侵攻する前に我々が侵攻したらどうかね?

何も君らがドルファンを押さえなくても同じ事だと思うが」

「確かにゲルタニアがドルファンに対して侵攻することは十分可能だと思います」

「うん、そうだろう」

「しかしそんなこをすれば間違いなくゲルタニアに対し、ヴァン=トルキアやプロキアが攻撃を仕掛けてくることは必至。

そのような選択をするとはとうてい思えませんがね」

「…成る程。君の傭兵団のような非国家組織でなければ南欧のミリタリーバランスを崩してしまうと言いたいのだな」

「はい。まして今こそ休戦状態にありますがプロキアとて貴国を虎視眈々と狙っているわけです。

そんな状況で大軍をドルファンに向けるのがいかに愚かしいことかは十分おわかりだと思いますが」

「…もしプロキアがドルファンに戦力を向けたらどうするかね?

元々彼の国は港を欲しがっている、その絶好のチャンスでは無いのか?」

「そうすれば今度はプロキアが貴国やヴァン=トルキア・ハンガリアに襲われるだけのことです」

「…君らとドルファン両方を無視するという手もあるがな」

「私どもがドルファンを制圧した暁には外国人排斥法は廃止します。

これだけでゲルタニアの難民問題はかなり解決するはずですが」

「もうその事は想定済みという訳か、大した人物だな君は。

それとも参謀が優秀なのかもしれないが……。

どっちにしても傭兵なんぞにしておくのがもったいない頭の持ち主だな、この計画を立てた人物は」

「お褒めいただき光栄です」

「まあ本国には伝えておこう。ところで最後に聞きたいことがある、この話は他には?」

その問いかけに為政は頸を横に振った。

「まだ他には何も話していません。ヴァン=トルキア・ハンガリアなどにはこの後話すつもりですが」

「我が国が一番最初かね。光栄だな」

「計画の要ですので」

「成る程、ありがたいことだな」

そしてスレイマン大使は大使館へと戻っていった。

 

 

 かくして外交工作も始まり、ドルファン侵攻計画はその第二段階を迎えたのであった。

 

 

 

 

あとがき

いつまで経っても戦争が始まらない「Condottiere2」お届けです。

始め予定では全12話ぐらいを予定していたんだけど・・・・。

こりゃあ全20話はいくかな?

戦略レベルから話を書くとやっぱり難しいわ、これ。

 

 

 

2002.03.18

2003.09.10改訂

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