第08話「侵攻計画」

 

 

 

 「良く集まってくれたな」

傭兵団イクサオン軍団長戸田為政は20人あまりの部下達の顔を見渡しながらそう言った。

ここには特殊部隊指揮官のライズを除く軍団の幹部たちが全員揃っている。

しかし部下たちの顔はみな一様に驚きを隠せないでいる。

無理もあるまい、先の戦よりまだ一ヶ月あまり。

これほど早く次の戦いの準備が始まろうとは思っていなかったのであろう。

しかしこの場にいるのは皆傭兵団の幹部である。

当然仕事の内容については把握していなくては仕事に支障をきたす。

だから為政は話を続けた。

「今回の相手はあのドルファンが相手だ。古くからいる奴は何かと恨みつもりもあるであろう相手だ。

準備万端整えて奴らに当たるわけなんだがとりあえずここまでで何か質問は?」

するとその場にいた幹部全員が一斉に手を挙げる。

こんな事態は初めてだ。

いつもなら一人二人が形式的に尋ねてくるだけだというのに……。

やはりあのドルファンが相手と言うこともあり熱が入っているのかもしれない。

そこで為政は一番最初に手を挙げた騎兵大隊大隊長のロイド・ベッカーを指名した。

するとベッカーはおそるおそる為政に尋ねた。

「軍団長…」

「何だ、ベッカー?」

「…その目の回りの青あざは何ですか?グイズノーの奴も一緒におそろいで…」

確かに軍議に出ている為政の右目の回りにはきれいな丸い青あざが出来ていた。

退屈そうにボケーとしているグイズノーも一緒だ。

「俺のこのあざは今回の仕事とは関係ないだろ。他に質問は?」

しかし今度は誰も手を上げない。

どうやら聞きたかったことは皆同じであったらしい。

思わず大きくため息をつく為政。

そして仕方がなさそうに口を開いた。

「…お前たち、そんなに俺とグイズノーのあざ、気になるのか?」

 コクン

グイズノーを除いた軍団の幹部たちが一斉に頷く。

「…あざが気になって仕事に集中できない用では困るから仕方がない、教えてやる。

だが何があろうと笑ったりするんじゃないぞ」

為政の言葉に頷く傭兵たち。

そこで為政は仕方がなく口を開いた。

「…このあざはグイズノーのバカ者がアホなことを俺に振るから女房に殴られたんだ」

「「「「「「……………」」」」」」

一瞬の沈黙の後、会議の席は爆笑に包まれた。

日頃堅物で通っている副軍団長オーシン・ハウザーまで腹を抱えて大爆笑中だ。

「…笑うなっていったのに」

思わず肩を落として落ち込む為政。

するとポンポンと肩を叩く者がいる。

そこで振り返った為政が目にしたのは沈痛な面もちのグイズノーの姿であった。

「気を落とすなよ、ユキマサ。笑われるのは仕方がないことなんだ。

俺だって当事者で無ければ大爆笑しているさ」

もっともらしいことを言うグイズノー。

しかし為政は知っていた。今回の一件に関して自分には何一つ非がないということを。

そして原因の全ては目の前にいるこの友人にして部下のグイズノーが元凶であるということを。

「全ての原因のお前が言うな〜!!!」

そう叫ぶや為政はグイズノーの頭を押さえ込むとこめかみをグリグリする。

「痛い! 痛い!! 痛い!!! 俺が悪かったから許してくれ〜!!!!」

 

 かくして重要なはずの会議は妙に騒がしく幕を開いた。

 

 

 

 「それでは気を取り直して進めるぞ」

咳払いをしてそう言う為政、すると列席者は皆頷く。

「まず今回の軍事上の目的はたった一つ、ドルファン全域の制圧にある。

これはただ都市や城塞を制圧するだけではない、補給路の完全確保・情報網の構築・住民との交流。

それらを完全にひっくるめて押さえることが必要だ。今までのようにただ敵を討つだけではいかんぞ」

すると一人の幹部が質問があるらしい、手を挙げる。

そこで為政は指名した。

「グストン、何か質問かね?」

すると第一歩兵大隊大隊長のグストン・カークスが質問を発した。

「それはつまり部下どもに略奪・暴行・殺戮を行うなということか?」

「ああ、その通りだ」

質問に頷く為政。しかしこの答えはグストンにとって納得のいく代物ではなかったようであった。

「…そんな事守られる訳ないだろ。団長だってそのことは分かっているはずだぞ」

「分かってはいるが今回はやってもらわねば困る。というわけで今回は徹底的に軍規を厳守させる」

「違反者は処分するということか」

「ああ、原則死罪でやる。その代わりと言っては何だが給料はいつもよりも弾むぞ。

なんせスポンサーがずいぶん出してくれたからな」

「…幾らだ?」

「いつもの三倍」

為政の言葉に一斉にどよめく幹部たち。

なんせ傭兵の給料は下っ端といえども一家全員を普通の生活レベルでならば5〜6ヶ月は優に養えるほどなのだ。

それが三倍…。誰も文句の付けようもない金額だ。

「成る程な、それならば部下たちも文句は言うまい。略奪よりもよほど割が良いからな」

納得するグストン。

「他に何かあるか?」

そう尋ねた為政であるが今度は誰も手を挙げない。

そこで為政は続けた。

「作戦開始予定は約半年後を予定している。

それまでは情報部・特殊任務部を中心に切り崩し・諜報戦を中心にしかける。

で当分暇になる本隊は新機材の導入、ならびに新機材への転換訓練を行って貰う。

細かいことはまだ煮詰めて折らずまだ大雑把であるが現在の侵攻計画はこうなっている。

詳しいことはこれからの会議に置いて決するがそれまで各自自分の担当に置いて全力で事に当たって貰いたい。

私からは以上だが何かあるか?」

為政の言葉に誰一人として手を挙げないが、しかしこれは無理もあるまい。

まだ詳しいことは何一つ決まっていらず、ただ方針が打ち出されたに過ぎないのだ。

これでは質問しようがない。

というわけで為政は短いもののこれで会議を閉めることにした。

「それでは本日の会議はこれで終了する。解散」

 

 こうして短いが、今後の軍団の未来を決する会議は終了した。

 

 

 

 「話は聞かせて貰ったぞ」

「長引くかと思っていたがずいぶん早く終わったな」

為政が会議室を出、隣室に入るとメッセニ予備役少将とマデューカス元少佐がそう言って出迎えた。

そこで為政は尋ねた。

「細かいことは全く手を付けていませんが計画の基幹はどうですか?」

「今すぐにでないのが好かんが仕方がないさ、勝つためだからな。

それより何かできることはないか?予備役とはいえ軍人の身、国のために精一杯尽くしたんだ」

そう言うマデューカス元少佐。

そこで為政は昔からのマデューカス元少佐の特技を思い出し、頼んでみることにした。

「実は一つやっていただきたいことがあるんですが……」

「それは何だね?出来ることなら何でもやるぞ」

「実は昔同様、補給・事務など後方任務を指揮して欲しいのです。

なんせ元少佐ほどの名人は私は未だかって見たことがないものですから」

「それならばお安いご用だ」

うんうんと頷くマデューカス元少佐。

するとその様子をうらやましそうに眺めていたメッセニ予備役少将が口を開いた。

「ワシにもなにか無いか?」

マデューカス元少佐のようなスペシャリストはいざ知らずメッセニ予備役少将が出来ることならば軍団内部にも多くいる。

すでにそこには確固たる組織が出来上がっているのだから今更入り込む予知は何処にもない。

しかしメッセニ予備役少将の申し出を無碍に断るのも……。

考え込む為政、そして一つだけ良い考えを思いついた。

「かなり危険が伴いますが構わないですかね?」

「当たり前だ。言うまでもない」

「それではドルファン内における切り崩しをお願いします」

「切り崩しだと?」

「ええ」

不思議そうな顔で尋ねるメッセニ予備役少将の言葉に為政は頷いた。

「…一体それは何だ?」

「単純に言えば反旧家の人間を味方に付けると言うことです。

ドルファンだって決して一枚岩なんかじゃない、不協和音は必ずあるはずだ。

そこをついて我々に協力してもらう、まあそう言うことになりますな」

「成る程、確かに重要かつ危険な任務だな。だが面白い、やろうじゃないか」

どうやらメッセンジャー役だけでは物足りなかったらしい、たいそう張り切るメッセニ予備役少将。

逆に張り切りすぎて為政はちょっと不安になった。

「とはいえはっきり言ってこういう工作は初体験だと思いますがいかがです?」

そう聞くと頷くメッセニ予備役少将。

「確かに近衛兵団に配属されて二十有余年、もっぱら軍務のみ勤めていたからな。

そう言う工作はどうやって行ったらいいのやら…?」

「…この手の工作が得意な奴と一緒にやってください。部下を貸し出しますので」

「私一人だけではむりだからな、残念だが仕方があるまい。そうしよう」

 

 何とかメッセニ予備役少将の仕事を見つけてほっと一安心の軍団長戸田為政であった。

 

 

 

 

 

 「そう、決まったのね」

夫である為政からドルファン侵攻計画がスタートしたことを聞き、プリシラは複雑な表情を見せた。

それはそうだろう。

かって王女として立場の時には他国からの侵略に対して抵抗するという教育を受けていたのだ。

それが今ではドルファンの為とはいえ逆の立場である。

複雑なのは無理もないであろう。

しかしそれでは困るので為政は妻に言った。

「まあ複雑な気持ちではあるだろうがそのへんの気持ちはしっかり整理しておいてくれ。

これは戦争なんだからな」

「わかっているわよ、それくらい…」

「なら良いがね。それよりも資金の準備は出来ているか?

出来ているならば早速例の一件、仕掛けて欲しいんだが」

「はいはい、わかりました。それにしても貴方って結構あくどかったのね。

こんなに用意周到にしかける戦争なんて始めて聞いたわ」

プリシラの言葉に為政は反論した。

「失礼な。夫に向かってあくどいは無いだろう、あくどいは」

「でもそうじゃない」

「…俺の故郷では前例があるんだ、前例が。ちゃんとした戦略なんだ、これも」

「確かに有効そうなのは認めるけどね」

「ちゃんと利益だって出せるはずだぞ」

「まあ半年以上先になってしまいますけどね」 

「…言うな」

思わずくさる為政、しかし商売人としての立場上プリシラは続けた。

「倉庫代もかかるし保管費だってかかるし……、通常よりもずっと利益が出ないんだから」

「その分安く買いたたけばいいだろう」

「仕入れで安く買いたたくのは当たり前よ。それを少しでも高く売って利益を上げるんだから」

思わず口ごもる為政。

いくら軍人の割に経済の仕組みを理解しているとはいえ所詮は軍人だ、本職の商売人とは太刀打ちできない。

「…義父さんの為、ドルファンの為なんだぞ」

仕方がなく最後の切り札を使う為政。

するとプリシラはさすがに口ごもった。

「うっ…それはそうだけど」

「本来ならばどぶに捨てるような金、それが全額回収して少しでも利益が上げられるんだ、文句は言わないでくれ」

「…わかったわよ、やれば良いんでしょう、やれば」

 

 

 

 こうしてドルファン侵攻計画はスタートしたのであった。

 

 

 

あとがき

ちっとも「みつめてナイト」らしからぬ二次創作「Condottiere2」第08話お届けです。

それにしてもちっともヒロインが出てきませんね。

分かり切っていたこととはいえ、ちと寂しい気もします。

でも出しようがないんですが。

はぁ〜、何か良いアイデア浮かばないかな?

 

 

 

2002.03.13

2003.09.10改訂

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