第05話「時の流れ」

 

 

 

 

 「それはそうとそろそろ聞かせてもらえませんか?」

「ん?本題って何だ?」

「…貴様に伝えるべき事は伝えたはずだが?」

戸田為政の言葉に思わずきょとんとするメッセニ予備役少将とマデューカス元少佐はきょとんとした。

どうやら自分たちの家庭話で盛り上がりすぎてしまったようだ。

すっかり為政の質問の内容を忘れてしまっているようだ。

そこで為政はもう一度言った。

「ドルファンにいる知人達の消息を知りたいと先ほど言ったではないですか」

「「…おう」」

ポンと手を叩く二人。

どうやらすっかり忘れてしまっていたらしい。

すぐに満面の笑みを浮かべて言った。

「いや〜すまんすまん、つい話が盛り上がってしまって忘れていた」

「うむ、まさにその通り。やはり久しぶりの再会の場での会話は盛り上がるからな」

「…まあ教えてくだされば構わないんですけどね」

 

 ようやくかっての知人たちの消息を聞くことが出来ることとなった。

 

 

 

 「といっても全てを知っている訳じゃないぞ」

メッセニ予備役少将の言葉に為政は頷いた。

「それは言われなくても分かっていますよ。だから知っている範囲でおねがいします」

「うむ、わかった。それでは誰のから言えば良いんだ?」

 

 そこで為政はまず社会人達の消息を尋ねることにした。

 

 「それじゃあ最初に聞きますがキャロル・パレッキーってご存知ですか?」

為政の問いかけにメッセニ予備役少将、マデューカス元少佐は首を横に振った。

「あいにくだが知らないな。どんな人物だ?」

「城でメイドとして働いていた人物ですが」

しかそれでもメッセニ予備役少将には分からなかった。

「すまんがわからん。なんせ城勤めのメイドは多かったからな」

「…そうですか。城勤めだったので消息が一番掴みやすいかなと思って聞いたんですが。

それじゃでは少将、テディー・アデレードってご存知ありませんか?

国立病院に勤務していた看護婦なんですが」

するとメッセニ予備役少将は考え込み、そしてふと何かを思いだしたのであろう、ポンと手を打った。

「そういえば7.8年前に聞いたことがあるな。

たしか国費で西洋(アメリカ)に留学に行くという名簿の中に有ったと思うぞ」

「そうですか、一応医者になるという夢の第一歩には踏み出せたんですね」

為政の言葉にメッセニ予備役少将とマデューカス元少佐は?と言う顔をした。

そこで為政はテディーのことについて話した。

 

 「医者になるために看護婦を勤めながら勉強とはね。なかなか感心な人物ではないか」

「全くです。

旧家や騎士団の人間がそれくらいの気構えを見せていたらこんな事態にはならなかったでしょうにね」

しみじみという二人。

どうやらえらくテディーが気に入ってしまたらしい。

人間、頑張っている人が成功する姿を見るのは良いものですからだ。

しかしこれで打ち止めというわけではない。

だから為政は続けざま尋ねた。

「馬車の業者をやっていたジーン・ペトロモーラはどうですか?」

しかし今度は二人とも知らなかった。

まあこれは無理もあるまい。

いくらジーンが業者の中で知名度が高いと言っても所詮は平民である。

よっぽどのことがなければ世間に知られることはまず考えられなかったからだ。

「それではキャラウェイ通りのパン屋のスー・グラフトンは?」

スーのこともメッセニ予備役少将は分からなかった。

しかし今回はマデューカス元少佐が知っていた。

「ああ、あのパン屋の一人娘か。たしか今でも親の仕事を手伝っているはずだぞ」

「やっぱりまだ独身なんですか?」

「そうらしい。もう結構な年だよな?」

「そうですね。私よりも年上でしたから」

予想通りとはいえいまだに独身のままのスー。

結婚願望があんなに強かったのに…。

為政はスーの身の上を哀れに感じたのであった。

 

 

 

 「それでは次なんですけどドルファン学園の生徒だった子たちなんですけど分かりますか?」

するとメッセニ予備役少将は首を傾げた。

「う〜ん、自信ないいな。マデューカス少佐、どうかね?」

するとマデューカス元少佐は胸を張った。

「貴様が言っているのは訓練所やら兵舎に遊びに来ていた女の子達のことだろう?」

「はい、そうです」

「それならわかるぞ。街で会った時は挨拶ぐらいは交わしたからな」

「それではお願いします」

「おう、任せろ」

そしてマデューカス少佐は語り始めた。

 

 「う〜ん、まずはそうだな…。

まず最初は学園の生徒ではなかったがあのザクロイド財閥の令嬢から話そう。

彼女は学校を卒業後、旧家ほどではないがかなりの地位にある貴族と結婚している。

確か子供が二三人いたはずだが……、まあ今回の件に関しては敵方の人間と言うことになるな」

「そうなんですか。そいつは残念ですな」

 

 

 「で次は…そう、あの元気の良かった子だ」

「ハンナ…ハンナ・ショースキーですか?」

為政の言葉に頷くマデューカス元少佐。

「そう、そのハンナだ。彼女は学園を卒業後しばらく陸上の選手として活躍していたな」

「ハンナはスポーツが得意でしたからね」

「うむ、そうらしいな。しかし数年前に結婚と同時に引退、今は何処で何をしているやら?」

「…誰と結婚したんです?」

「よくは知らんよ。まあ平民の人間だったのは間違いないな」

 

 

 「三番目があの大人びた子、え〜っと何て言ったけ?」

「レズリー・ロピカーナですか?」

「おう、そうだそうだ。そのレズリーなんだが今はドルファンタイムズの挿絵師として働いていたな」

「新聞の挿絵師ですか。あんなに絵がうまかったのに画家にはなれなかったのか」

為政がそうつぶやくとマデューカスは笑った。

「芸術家の道はそんなに甘い者ではないからな。絵がうまいだけでは無理だよ。人の心をうたなくてはな」

「少佐は芸術の方にもお詳しいようで」

「騎士のたしなみだよ」

そういうマデューカスの背後ではメッセニが

「……ワシはどうせ無骨者だよ……」

といじけていたりしたが。

 

 

 「それで今度はコールウェル商会の一人娘だ」

「ロリィですか?」

「ああ。そのロリィだが学園を卒業後、婿養子をとっていたな」

「へ〜、あのロリィが結婚ですか」

為政は感心したように言った。

あの子供子供していたロリィが結婚していたとは……。

年齢から考えればちっともおかしくないことではあったがロリィのイメージとはそぐわなかったからだ。

「もっともコールウェル商会は政争に巻き込まれてつぶれたんでな。

今はもうドルファンには居ないと聞いているがね」

 

 

 「で最後にロベリンゲ家の娘だが……」

「ソフィアのことですね」

マデューカス元少佐の口が妙に重いのが気になった為政では会ったがそのまま聞くことにした。

「そう、そのソフィアだが…彼女は学園卒業後にエリータス家の三男のバカ息子と結婚した」

「親父の借金でがん縛り状況ではありましたが婚約者ということになっていましたからね」

「まあそういうことだ。で一年後ぐらいに死んでいる」

「死んだ!?」

思わず聞き返す為政。

だがマデューカス元少佐の言葉は変らなかった。

「ああ。なんでも大層な難産だったそうでな、母子共にダメだったらしい」

「そうでしたか…」

「でバカ息子はすっかりダメになったらしい。なんでもべた惚れ状態だったそうだからな。

10年近く経った今でも忘れられず、仕事にも出ずに家にこもりっきり、酒と薬に入り浸っているそうだ」

「確かにあの男にはそう言う点がありそうでしたからね」

「母親が死んだ今ではエリータス一族の邪魔者扱いらしい。

とくに長男と次男が無能な三男坊をゴミ扱いしているそうだ」

「…哀れな奴ですね。全てを失って……」

「まあ我々旧家打倒を目指す人間には無能な人材の方が都合がいいんだがな。

しかしあそこまで惨めだとな、そういう気も無くなるよ」

 

 

 

 「10年という月日はやはり長いんですね」

知人たちの現在の状況を聞いた為政は思わずため息をつく。

するとメッセニ予備役少将は頷いた。

「それはそうさ。この十年間、ドルファンでは色々なことがあった。

しかしそれは貴様とて同じ事だろう?」

「…まあ確かにそうです。とても一言では言い表すことは出来ません」

「みんなそう言う人生を歩んでいるのさ。志半ばで路傍に倒れる者も、そして夢を達成する者も」

「…ダテに歳は取っていませんね、少将」

「ちゃかすな」

 

 

 

 

 それから数時間の時が流れた。

 

 

 「それでは少将、我々はそろそろ」

「うむ、そうだな。もう帰るか」

マデューカス元少佐の言葉に頷くメッセニ予備役少将。

すでに窓から差し込んでいる光は赤く染まっている。

すでに夕方、あと少しで陽も沈むことであろう。

であるから帰り支度を始める二人。

「よろしければ馬車でも用意させますか?」

しかし二人は首を横に振った。

「老いても枯れても軍人のつもり、馬車などには乗れんよ」

「同感です、少将」

二人がそう言うのであればそれ以上勧めるのは失礼だ。

そこで為政は二人を玄関まで見送った。

 

 

 「それではお二方とも気を付けてお帰りください。今日は楽しかったです」

為政の言葉に笑う二人。

「こっちこそ貴様はともかくとしてプリシラ様と話すことが出来て楽しかったよ」

「同感だな。十年ぶりのプリシラ様、相も変わらずお元気で良かったよ」

「…お二方とも酷い言い分ですな」」

 

 

 そして一斉に笑う中年親父三人なのであった。

 

 

 

あとがき

ごめんなさい!!!

いきなりなんですが二重の意味で謝らせていただきます。

 

 まずは半年近く更新しなかったこと。

仕事が忙しくて暇が無く、更新はもっぱら「機動警察Kanon」でしたので。

今は無職の身なので暇はあります。

出来るだけ早急にこの作品、完結させたいと思います。

 

 次にソフィアを殺してしまったこと。

始めは普通にジョアンと結婚しているという設定を考えてはいたんですけど。

この作品のラストがあまりにも過酷かなと思いまして。

ジョアンも格好良く書きたかったので変わるきっかけと言うことでこうしてしまいました。

とりあえず今回名前だけ出てきたキャラですが出番は無いのが多いと思ってください。

まああの中で何人かは出てくる予定なんですがね。

 

 

2002.03.06

2003.09.09改訂

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