第十八章.ダナン攻防戦

 



 ドルファン歴27年5月。

先の敗戦より約10ヶ月、ドルファンは再びダナン奪還を目指して軍を出撃させた。

その戦力はイリハ会戦で全滅し現在再編中の第二大隊を除く全騎士団七個大隊と傭兵隊、そして

それに付随する後方支援隊で合計一万人以上という大軍であった。

 

 それに対するヴァルファバラハリアンは占拠中の都市要塞ダナンに立てこもる一個大隊(イリハ

会戦の勝利により志望者が増加、現在は騎士団の大隊編成数と同じぐらい)、千人前後しか存在

していなかった。

これは本来の雇い主であったプロキア国軍が離反したヴァルファバラハリアンを討つべくスイーズ

ランドの傭兵団シンラギククルフォンを伴って進撃を開始、ヴァルファ本隊はこれを迎討つべく出撃

してしまったためであった。

 

 「これはまさにミーヒルビス参謀のおっしゃっていた通り圧倒的を通り越して絶望的な状況だな。」

ダナンの城壁の上で敵地に潜入中の特務工作員からの報告を読んだ大男は呟いた。

彼の名はバルドー・ボランキオ

ヴァルファバラハリアン八騎将の一員で『不動のボランキオ』の通り名を持つ歴戦の戦士である。

その名の通り彼は機動力を用いない防衛戦を得意としており、この度ダナン防衛の指揮官を任ぜ

られていたのであった。

(こちらの7倍から8倍の大軍か・・・。まず勝ち目は有るまい。)

そんな圧倒的な戦力差の前では彼の個人的手腕など為す術もないであろう。

そんなことを考えていると彼に対して声を掛けてきた者がいた。

「バルド・・・」

ボランキオがその声に振り返ってみるとそこには一人の女性がいた。

彼女の名はルシア・ライナノール

ボランキオと同じく八騎将の一人であり『氷炎のライナノール』の通り名を持つ剣の達人であった。

そんなライナノールを見たボランキオは彼女を睨み付け大声で怒鳴りつけた。

「ライナノール!!なぜ貴様がこんな所にいるのだ!本隊との合流命令が出ているはずだぞ!

まさか貴様、命令違反をするつもりではないだろうな。」

それを聞いたライナノールは叫んだ。

「バルドー!このままでは絶対に勝ち目なんかないわ。だから私の部隊も加勢する。

でないと貴方は犬死にするだけよ!!」

それにたいしてボランキオは冷淡に突っぱねただけであった。

「本隊に合流しろ、ライナノール!

今更一個大隊程度が合流したところで圧倒的不利なことには変わりはないのだ。

それこそ犬死にだぞ!!」

その言葉を聞いたライナノールは嘆願するかのような表情で言った。

「バルドー・・・、お願い・・・」

しかしボランキオの態度は変わらなかった。

ボランキオは傍らに置いてあった戦斧を手にすると叫んだ。

「くどいぞ、ライナノール!貴様、ミーヒルビス参謀の命令を無視するつもりか!!

もしそうならば例え貴様であっても俺は斬る!!!」

ボランキオの言葉を聞いたライナノールは絶望的な表情を浮かべた。

そして諦めたかのように言葉を絞り出した。

「わかったわ、バルドー・・・。本隊に合流する・・・。でもお願い!必ず生きて帰ってきて・・・。」

ライナノールはそう言い残すとかちゃかちゃと鎧の音を響かせながら立ち去った。

そのあとにはボランキオ一人が城壁の上にたたずむだけであった。

 

 ライナノール隊が本隊と合流すべくダナンを発したのはそれから一時間余り後のことであった。

 

 「エリオット!エリオットはいるか!!」

ライナノール隊の出撃を見届けたボランキオは彼の副官を呼びだした。

すると鎧の音を響かせながら30才前後の男が現れた。

彼こそがボランキオの副官アンドリュー・エリオットである。

「何事ですか?ボランキオさま。」

するとボランキオは『不動』の通り名に相応しからぬ行動を指示した。

「ダナンを出るぞ。敵を迎え撃つ。」

それを聞いたエリオットは驚きの表情を浮かべた。

「ダナンを出るというのですか?ここダナンで迎え撃つものだとばかり・・・」

するとボランキオはニヤリと笑い、そして部下であるエリオットに彼の考えを伝えた。

「ダナンは堅固な都市だが一個大隊で守るには大きすぎる都市だ。

ドルファンの連中も我々がダナンを落としたとき一戦も交えずに退却したぐらいだからな。

第一、籠城中に内部で反乱でも起こったら一溜まりもないからな。

それよりも一度に大軍を動かすことが出来ない地形の方が敵を迎え撃つには好都合だ。」

それを聞いた副官エリオットはボランキオの考えに賛同せざるを得なかった。

今回彼らが行うべき行為は敵を撃退する事ではなく、行動を遅滞することにあるのだから。

「それに・・・」

「それに何です?」

エリオットはボランキオの言葉を聞きとがめた。

「いや、よそう。これは最高機密だからな。それでは準備にかかれ!」

ボランキオはそれ以上何も言わず、出撃準備の命令を下した。

「ボランキオさま。一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

エリオットはボランキオの命令をすぐには実行しようとはせずに尋ねた。

「何だ?何か不満でもあるのか?」

エリオットはそれに対して首を横に振った。

「っそれではなぜライナノールさまの申し入れを受けなかったのですか?

そうすればダナンでも十分防衛可能になったのでは?」

それに対してボランキオは重々しげに言った。

「・・・もしそれが上手くいくと踏んだならミーヒルビス参謀が採用していたはずだ。

プロキアを撃退し、ダナンを確保市続けれるならそれに越したことはないからな。

しかしミーヒルビス参謀はそれを取らなかった。何故か?無理だと踏んだからだ。

ならば損害は少ない方がいいに決まっている。だから対プロキア戦に戦力を集中するのだ。」

その悲壮な考え方にエリオットはしばらく黙り込んだがやがて決意したかのような声をあげた。

「そうですね。分かりました、出発の準備に掛かります!」

「うむ、頼む。」

そしてエリオットはボランキオの前を駆け足で走り去った。

 

 

 そのようなやり取りから二日後。

ドルファン軍はダナンから5qほど離れた位置に構築されたヴァルファバラハリアン第四大隊

(ボランキオ隊)の陣地前にいた。

その陣地はヴァルファバラハリアンがダナンを占領してすぐに非常に狭い道を遮断する形で築い

た砦であり、ダナンへと向かうにはここを突破するしかなかった。

常時、一個中隊ほどが駐屯しているだけであったが、現在はダナン守備隊も合流し約一個大隊

ほどの戦力があるものと推測されていた。

 

 その陣地から2qほど離れたところにドルファン軍の陣地は存在した。

イリハ会戦時には油断しきっていた騎士団も今回ばかりは極めて厳重に包囲網を形成、夜襲など

ヴァルファの先制攻撃に備えていた。

その陣地の一角に傭兵隊は居り、現在は作戦会議中であった。

 

 「この地図を見てくれ。」

傭兵隊隊長戸田為政は地図を広げながら言った。

「どれどれ。」

士官たちが地図を覗き込むと為政は本作戦における軍の予定を説明し始めた。

「ヴァルファの連中はここから目と鼻の先、地図上で言えばこの地点で我々を待ちかまえている。

それに対して我々は計7個大隊の騎士団が波状攻撃を仕掛けることになっている。

工作隊による攻城砲・投石機による攻撃を含めてな。」

「傭兵隊はどこで何をしたらいいんです?」

小隊長の一人エルヴィン・デューム少尉が発言した。

おそらく傭兵隊のだれもが知りたがっていることであろう。

そこで為政は騎士団本部にて命じられた言葉を伝えた。

「我々は本来想定されていた任務である遊撃隊として本作戦に参加する。」

「つまり何をすればいいんじゃ?」

ギュンター爺さんは為政の言葉に満足せず、さらに尋ねてきた。

それに対して為政は嘆息をつきながら言った。

「ない。」

「ない!?」

その場に居合わせた傭兵隊幹部の誰もが素っ頓狂な声をあげた。

「ああ、我々は騎士団の邪魔をしない限り好き勝手にやれだとよ。

とはいえ攻め口は殆ど騎士団が担当している。ほとんど手はないな。」

それを聞いたやはり小隊長の一人であるロイヤー・ガミル少尉は皮肉げに言った。

「つまり手柄を立てるなということですか。」

「そのようだな。しかしこのままおめおめと引き下がってしまっては傭兵隊の面子にかかわる。」

「そうだ、そうだ!!」

「俺らを馬鹿にしてやがる!」

為政の言葉に賛同の声があがった。

「何かいい手でもあるのか?」

それまで黙りこくっていたグストン准尉がボソリと言った。

「ああ、一応な。グイズノー、頼む。」

為政に促されたグイズノーはいままで喋りたいのを我慢していたこともありペラペラと話始めた。

「へへへへ、待ってたぜ。よしみんな、この地点を見てくれ!」

説明を任されたグイズノーは地図の一点を指さした。

そこはすぐ側を流れる川であった。

この川と断崖絶壁がヴァルファのたてこもる砦を強固な物へとしていたのだ。

「川ではないか。こんな所で一体何をするつもりなんじゃ?」

ギュンター爺さんは合点がいかないらしく不思議そうに尋ねた。

「まだ説明中だぜ、よく聞いていろよな爺さん。この地点からこう行くと・・・」

「おお・・・」

グイズノーの説明を聞いた幹部たちは一斉にどよめいた。

「なるほど、奴らの背後に回り込める。」

そう、グイズノーが説明した作戦とは渡河によって敵の後背に回り込むというものであった。

こうすれば砦の敵を背後から突くことも、直接ダナンに侵攻することも可能なのであった。

「だが本当に渡河できるのか?」

グストン准尉は落ち着き払った様子でそう言った。

「ここからは私が答えます。」

そう言って立ち上がったのは工兵隊隊長ロバート・マーチン准尉であった。

「この地点の川幅はおよそ15m、ただしこの辺りにおいてはもっとも渡河に向いたポイントです。

他の場所ではもっと川幅があったり断崖絶壁でわたることが不可能なものですから。

とは言え川の推量は多く、このままでは渡河することは出来ません。」

ロバート准尉の言葉に傭兵たちはざわめいた。

「大丈夫なのか?」

傭兵たちの言葉にロバート准尉は力強く肯いた。

「ですからこの場所に架橋します、一晩のうちにね。」

「間に合うのか?」

ギュンター爺さんは心配そうだ。

しかし為政は部下たちに命令を下した。

「工兵隊の人手が足らないそうだ。

よって今回は精鋭を選抜、残りは全て工兵隊の手伝いをさせる。

ロバート准尉、さっそく始めてくれ。」

「はい!」

ロバート准尉は速やかに現場へと急行した。

「各小隊長は精鋭を選抜、そいつらをぐっすり休ませとけ!

残りは工兵隊の元へ送り込むんだ!ハウザー中尉、架橋作業の方、頼むぞ。以上、解散!」

為政の命令に沿って傭兵隊は活動を開始した。

 

 「どうだ?はかどっているか?」

為政は架橋作業の様子が気になったため、指揮を執っていたロバート准尉に尋ねた。

「・・・、ちょっと遅れ気味ですね。要求がかなり厳しいですから。」

「無理か?」

不安そうに為政が尋ねるとロバート准尉は首を横に振った。

「いいえ、少し遅れるかも知れませんが橋は間違いなく架けてみせますよ、工兵隊の面子に賭けて

ね。なんせ我々には新兵器があるんですから。」

「新兵器だと!?」

「ええ、ご覧になりますか?」

そう言うとロバート准尉は何やら機会の付いた鋸を手に取って為政に見せた。

「これは何だ?」

為政にはこの機会がどのように凄いのか皆目見当がつかなかった為、尋ねてみた。

「こいつは動力付きの鋸なんですよ。

人間が手でやるのと比べて10倍以上の作業効率があるんです。」

その言葉の意味を理解した為政は驚きの声をあげた。

「こいつは凄いな。それにしてもどうやって入手したんだ?」

するとロバート准尉は笑いながら言った。

「隊の予算で買ったんですよ。こいつはカミツレ地区に住む科学者の発明品でしてね。

・・・、隊長は知らなかったんですか?ちゃんと書類も提出したのに。」

「・・・、知るわけないだろ。

そう言う書類はマデューカス少佐が処理するから俺は一切ノータッチなんだ。

それにしても・・・、こいつが無かったら無理だったか?」

「そうですね。多分無理だったと思いますね。」

「そうか・・・、後はよろしく頼むぞ。

今や我々が活躍出来るか否かは君たち工兵隊の肩にかかっているんだからな。」

そう激励すると為政は体を休めるべく兵幕へと戻っていった。

 

 「後どれくらいなんだ?」

翌朝になってもまだ続いている架橋作業に号をにやした為政はロバート准尉に問いただした。

「三時間後には間違いなく。」

ロバート准尉はそう言ったものの既に予定時刻は過ぎている。

すでに騎士団の攻撃は始まったらしく喚声が響いているのだ。

「遅い!半分で仕上げろ!!」

「む、無理ですよ。せめて後二時間ください。」

「・・・、分かった。二時間だぞ。」

 

 そのころ砦の中では

「圧倒的な戦力差ですな、ボランキオ様。」

副官エリオットはボランキオに現状の戦況をそう語った。

それに対してボランキオも

「まったくだ、これほど圧倒的では呆れる他ないわい。」

と言い放った。

それほどの戦力差がドルファン軍とヴァルファバラハリアンの間には存在しているのだ。

「後どれくらい持ちこたえられるんでしょうね?」

「・・・、二三日は持ちこたえたいがまず無理だろうな。」

 

 ボランキオの言葉通りヴァルファバラハリアンはなんとかドルファン軍の攻勢を食い止めてはい

たものの、すでに多くの将兵が死傷しその戦力は確実に消耗しつつあった。

ドルファン側もヴァルファ側と殆ど同じだけの損害を被っていたが、数倍の戦力はその損害を補っ

て余りあるものであったのだ。

今やヴァルファバラハリアン第四大隊の命運は誰の目にも明らかな状況であり、その運命の訪れ

が早いか遅いかだけが争点なのであった。

 

 「よし、行くぞ!」

ロバート准尉ら工兵隊の活躍によって完成した橋を渡って傭兵隊は進撃を開始した。

疲れ切った工兵隊、およびそれを補佐した新兵たちを残して・・・。

 

 「何!?背後から敵だと?」

ボランキオは後方からの知らせを聞いて驚愕した。

まさか背後から襲われようとは想像だにしていなかったのである。

「はい、その数はおよそ500騎ほどだとか。」

実際の所、為政は率いていたのは200騎ほどであったが戦場で敵数を見謝るのはよくあること

なのだ。

ほんの少しだけ考え込んだボランキオではあったがすぐに決断を下した。

「エリオット!この場の指揮はお前に任せる。俺は背後の敵を迎え討つ。」

「わかりました。ところで手勢はいかほど?」

すでに正面の騎士団との交戦で予備兵力は底をつきかけていたのだ。

「・・・予備の残りを連れていく。後は頼む。」

そう言い残すとボランキオは僅かばかりの手勢を引き連れ背後に回り込んだ敵を迎え撃つべく

出撃した。

 

 「ところで隊長さんよ。」

傭兵隊を先導していたグイズノーが為政に尋ねてきた。

「うん?何だ。」

「敵の背後に回り込むのはいいけどさ、このままダナンへ向かった方が良いんじゃないか?」

「・・・たしかにその通り。そっちの方がずっと良いに決まっている。」

「じゃあなぜそうしないんだ?」

「騎士団本部での作戦会議においてだな、ペリシス卿がダナンに傷つけないよう要請したからさ。

兵が入城すれば略奪・暴行が起こるのは目に見えているからな。」

「なるほど、それでか。」

グイズノーは納得したかのように肯いた。

その時、傭兵隊の目の前に敵の姿が現れた。

数としては50騎ぐらいであろうか、かなりの少数部隊である。

 

 「止まれ!」

為政はそう命じて傭兵隊の進撃を止めさせた。

目の前にいる部隊がなかなかの強者揃いであることに気付いたからである。

「ユキマサ、どうする?」

グイズノーがそう尋ねてきたので為政は答えた。

「まともにやり合うと損害が多くなりそうだ。集団戦で一気にかたをつけるかそれとも・・・」

その時、一人の男が現れた。

その男は真紅の鎧を身に纏い、巨大な戦斧を手にしている。

そして大声で堂々と名乗りを上げた。

「我が名はバルドー・ボランキオ。『不動』の通り名を持つ八騎将の一人よ。

その旗印を見ると貴様らはドルファンに雇われた傭兵どもだな。

ネクセラリアを討った者がいるはずだ、出てこい!!」

 

 「どうするんだ、ユキマサよ。」

「御指名だからな、行くさ。」

グイズノーにそう言うと為政は野太刀を引き抜きながらボランキオの前に立ち、名乗った。

「俺はドルファン傭兵隊隊長の戸田為政だ!!その挑戦、受けてたつぞ!」

するとボランキオは戦斧を構えながら叫んだ。

「ふふふふふ。良く来たな、貴様に我が斧の威力存分に思い知らせてやるわ!!」

 

 為政は野太刀を晴眼に構えるとボランキオの様子を観察した。

得物は巨大な戦斧、強力な武器には違いないが重くて取り扱いは不自由なはずだ。

そして妙に変形していびつな鎧、見た目は迫力あるがバランスが酷く狂っているので重すぎて思う

ようには動けないであろう。

(なんでこいつはこんな際物を使っているんだ?)

そんなことを考えているとボランキオが斬撃を食らわせた。

その一撃は為政の予想に反して非常に鋭いものであった。

慌てて為政は後方に下がったため、その一撃をかわすことが出来たが後少し遅れていれば体が

真っ二つになっているところであった。

「よく避けたな。だがいつまで避けきれるかな。」

そう言うとボランキオは再び戦斧で斬りかかってきた。

今度は油断していなかった為政はその一撃をかわすとボランキオに反撃した。

為政の反撃は妙にごっついボランキオの肩甲を突き抜けた。

「ぐおおおおー!!」

ボランキオはそううめき声をあげた。

野太刀によって斬られた右肩からは心臓の拍動に合わせて血が吹き出てきており地面に血だまり

を作った。

「くそー!!殺してやるー!!」

ボランキオはそう叫ぶと左手のみでその巨大な戦斧を振り回した。

片手一本によって操られたのにも関わらずボランキオの一撃は鋭いものであった。

しかし左手一本で斬りつけたために右半身は隙だらけであった。

そんな絶好なチャンスを見逃すわけもない。

為政はそのままがら空きの右半身側の胴体に野太刀を斬りつけた。

すると真紅の鎧を切り裂きながらボランキオの胴体を断ち切った。

ボランキオはそのまま内蔵をまき散らしながら大地に崩れた。

「不動のボランキオはドルファン傭兵隊隊長戸田為政が討ち取ったぞー!!」

為政がそう叫ぶと傭兵隊は一斉に勝ち鬨をあげた。

「敵を掃討するぞー!!かかれー!」

騎馬隊隊長のベッカー中尉の号令によって傭兵隊は一斉にヴァルファの連中に襲いかかった。

 

 剣戟の音が響く中、まだうもめいているボランキオの元へ為政は近づいた。

味方は敵の5倍の戦力を要しているので、敵兵一人に対して五人がかりで戦えばいいのであっと

いう間にヴァルファの兵たちは殺されていく。

そのためわざわざ為政が相手にしなければならない奴など何処にもいないのだ。

為政がボランキオの側にしゃがみ込むとそこには思っても見なかったものを見ることとなった。

てっきり苦痛に苛まされていると思ったボランキオの表情が極めて穏やかなものだったからだ。

「・・・・・・・」

しかも何やら呟いている。

為政は何を言っているのか聞き取ろうと耳をすませた。すると・・・

「こ、これで・・・妻と子の元へ・・・い、行ける・・・」

その言葉を聞いた為政は腰に穿いていた鎧通しを引き抜いた。

そしてそのままボランキオの首筋に刃を当てると一気に切り裂いた。

その時、ヴァルファバラハリアンの最後の一人が地面に崩れた。

こうして「不動のボランキオ」は

その三十有余年の人生に幕を閉じたのであった。

 

 ボランキオの首を取った傭兵隊はそのままヴァルファの立てこもる砦を背後から襲った。

それまでの正面からの騎士団の攻勢はなんとか食い止めてたヴァルファバラハリアンではあった

が背後からの新たなる部隊の出現、および指揮官の戦死により士気はがた落ちになった。

結局、その日の内に砦は陥落。

砦内にいたヴァルファの兵士たちは戦死するか、騎士団に捕らわれ処刑されたのであった。

こうなってしまってはダナン奪還を阻止しうる勢力は存在しない。

翌日、ぴかぴかに輝く鎧を身に纏った騎士団が続々と入城。

ダナンは約14ヶ月ぶりにドルファンの手に戻ったのであった。

 

 

あとがき

二回目の戦争シーンです。

とりあえずダナン攻防戦とはタイトルが付いていますがダナンで戦ったわけではありません。

ダナンを巡る攻防戦といった所ですね。

いやはやとても疲れました。

A4のレポート用紙10枚分もあったもんですから。

手首が痛くなちゃいました、キーボードのたたきすぎでね。

 

さてヴァルファの処刑ですがこれは国際法に基づいて実行しています。

すなわち正規の軍人(傭兵やゲリラは含まない)以外は捕虜として扱わなくて良いという奴ですな。

もう一つは宣戦布告がない戦争状態では正規の軍人であっても捕虜にしなくて良いというもの。

両方当てはまるヴァルファにはこの運命しか無いはずなので遠慮なく処刑させてもらいました。

企画段階ではヴァルファの処刑を傭兵隊が任ぜられて新兵の度胸付けに殺させるという描写を考

えていたんですが。

長くなりすぎるので断念しました。

 

それでは次回予告の方を。

次回は第十九章.「氷炎の煌めき」です。

おたのしみに。

 

平成12年11月19日

 

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