第十七章.あこがれの舞台

 





 それは傭兵隊隊長戸田為政がドルファンに来てから一年余り経ったとある春の日の出来事であった。

 

 その日、為政はプリシラに呼び出されてお忍びの護衛を務めることとなり、待ち合わせ場所に指定された国立公園でプリシラを待っていた。

そこへ

「トダさんじゃないですか」

と声が掛かったのである。

そこで声のした方向に目をやると幾分上機嫌気味のソフィアがいた。

「ソフィアじゃないか、こんにちわ」

為政がすかさず挨拶するとソフィアも挨拶を返してきた。

「こんにちわ、トダさん。ところでどうしたんですか、こんな所に一人で?」

確かに為政の普段の行動範囲ではないし、一人でいるような場所ではない。

別にソフィアに知られても何ら問題はない(大いに問題あるかも)のであるが、為政はとっさに誤魔化してしまった。

「じ、実は友人と待ち合わせをしていてね」

「そうだったんですか。それじゃあお邪魔ですかね…」

ソフィアはそう寂しそうに言ったので為政は慌てて言った。

「邪魔だなんてとんでもない! それより何か用事があるようだけど」

その言葉を聞いたソフィアは思い出したかのように言った。

「そうでした。

実は私…来週の日曜日にシアターで行われる劇団『アガサ』の公開オーディションに参加することになったんです。

ですから…もしよろしかったら見ていただけたら嬉しいなと思いまして」

「そうだったのか、分かった。見に行くよ」

為政の返事を聞いたソフィアは嬉しそうな顔をした。

「本当ですか! 良かった…。

実はハンナやレズリー・ロリィちゃんなんかにも声を掛けたんですけど…みんな用事が有るとかで…。

一人だと不安だったんです」

「そこまで喜んでもらえるとこっちとしても嬉しいね」

「それではこれで失礼しますね。約束忘れないでくださいね♪」

ソフィアは一礼するとその場を立ち去ったのであった。

 

 「ユキマサ、お待たせ!」

ソフィアと別れて10分後、プリシラは約束の時間丁度に現れた。

城にいるときとは異なって活動的な服を着ている。

どうやらプリシラのお好みはこういった服であるらしい。

「やあ、プリシラ。今日はどこへ?」

為政が尋ねるとプリシラは胸を張った。

「ばっちり決めてあるわよ。侍女やメイドたちからしっかり聞き込んでいるんだから。さあ行くわよ!」

そう言うとプリシラは為政の腕を取り、ぐんぐんと進み出した。

 

 

 それから一週間後の4月14日。

為政はピコと共に公開オーディションの行われるシアターの前にいた。

本当は為政一人で来ようと思っていたのだがピコがどうしてもついてくると言い張った為、仕方が無く連れてきたのであった。

 

 そこには舞台に憧れる多くの人たちでいっぱいであった。

誰も彼もが皆、希望に満ちた瞳をしている。

そんな人たちの中にいるはずのソフィアを捜すべく為政は周囲を見渡した。

すると人混みの中に一人たたずむソフィアを見付けた。

それと同時にソフィアも為政に気付いたらしく為政の元に駆け寄ってきた。

「トダさん…、本当に来て下さったんですね…」

そう言うソフィアの顔は非常に嬉しそうであった。

「来ないと思っていたのかい? 俺が約束を破ってさ」

為政がそう言うとソフィアはちょっと頬を膨らませた。。

「意地悪言わないでください、トダさん。それにしても嬉しいです、来て下さって…

正直言うとさっきまで不安で仕方がなかったんです、一人だったから…。

でもトダさんが来て下さったから・・・」

「ちょっと待った! マイハニー」

その時、突然二人の会話に割り込んできた奴がいた。

ソフィアの婚約者ジョアン・エリータスである。

「こんな何処の馬の骨とも知れない東洋人なんかよりもボクという最高の応援者がいることを忘れていないかね、ソフィア」

「そ、それは・・・」

「ボクの手に掛かればどんなに厳しい審査でもあーら不思議、金の力で万事解決OKさ。

どうだね東洋人、貴様ごときには真似することさえできまい。

これこそ彼女にとってこの上のない応援だとは思わないかね?」

ジョアンはそうまくし立てたが為政はジョアンのあまりの馬鹿さ加減にあきれ果ててしまった。

「お前は心底救いようのない馬鹿野郎だな。そんなことをしてもソフィアが喜ぶわけないだろうが。

だいたいソフィアは自分の実力を認めて貰い、その上で舞台に立ちたいんだろうが。

金の力で得たからと言って 喜ぶわけないだろ」

為政がジョアンにそう言うとジョアンは猛烈に反発した。

「何だとー!! ボクのやり方が間違っているというのか!!!」

するとソフィアもジョアンを窘めた。

「そうよ、ジョアン。私、そんな方法でオーディションに受かったってちっとも嬉しくなんかないわ」

それを聞いたジョアンは世にも情けない声を上げた。

「ソ、ソフィアー」

そんなジョアンを無視したままソフィアは為政に力強く決意を語った。

「ありがとうございます、トダさん。

私…自分の力で頑張ってオーディションに受かってみせます!」

そしてソフィアはシアター内へと力強く歩いて入っていった。

そしてその後には為政と呆然としたジョアンが取り残された。

 

 「ねえ、為政。こいつどうする?」

為政以外の誰にも見ることも触ることも出来ないピコはジョアンの頭を足蹴にしながら言った。

そこで為政は周りの誰にも聞かれないように小声で囁いた。

「ここに居座られるとみんなの迷惑になるからな。一つ慰めてやるとするか」

そこで為政はジョアンに声を掛けた。

「おい、ジョアン」

すると真っ白な灰になっていたジョアンは復活した。

「なんだと、東洋人!! ボクをジョアンと気安く呼ぶな!!!」

「へいへい、分かったよ。それよりお前、もう少しソフィアの気持ちを考えたらどうだ?

あれじゃあ嫌われるだけだぞ。」

その言葉を聞いたジョアンは為政を怒鳴りつけた。

「このボクが嫌われるだと?

そんなこと言っても騙されないからな。ボクのやることに間違いはないんだ!!」

そのままジョアンはソフィアの後を追いかけてシアター内へと入っていった。

 

 「何なの、あいつ。頭おかしいんじゃないの?」

ピコはシアター内へと入っていくジョアンの様子を見てそう言った。

「ああ、俺もそう思う」

為政もピコのジョアン評に同意した。

他になんとも評価しがたい人間なのだからどうしようもない。

「ソフィア、可哀想…あんな奴と結婚しなきゃいけないなんて。私だったら死んでもイヤ!」

「…人には色々事情があるからな。それより俺らもそろそろ入場しよう。始まっちゃうぞ」

そこで為政とピコもシアター内へと入っていった。

 

 

 数時間後。

オーディションが終了したため、為政はピコとともにシアターの外へと出ていた。

既に辺りはうっすらと暗くなっており太陽がほんの少しだけ顔を覗かせているだけである。

そこへソフィアがやって来て一言

「エヘヘヘ・・・、落ちちゃいました」

と言った。

とは言えソフィアの顔は落胆の色を全く見せず、むしろ輝いて見えた。

「残念だったな、後少しだったろうに」

そうソフィアを慰めた為政ではあったが心の中ではやっぱり落ちたかと思っていた。

ソフィアの歌は確かに乗ずであり素晴らしいものであった。

しかし上位を占めた参加者たちの歌はそれをはるかに凌駕していたのだ。

「・・・ありがとうございます。

でも実力が全然足りなかったのは自分でもはっきり分かっていますから。

まだまだ努力が足りなかったみたいです。でも悔いはありません。

また一からやり直して、いつかきっとあの舞台に立とうと思います」

ソフィアは自らの心の中を力強くそう語った。

「君は…強いな。」

為政がそう洩らすとソフィアは首を横に振った。

「いいえ、私なんか……。

それより今日は見に来て下さってありがとうございました。それではまた・・・」

そう言うとソフィアは一人その場を立ち去ったのであった。

 

 「くそー、東洋人め!」

二人の様子を影からこっそり見ていたジョアンは憎々しげに呟いた。

「今度こそ上手くやってやる!」

そういう考えこそがソフィアの心がますます自分から離れていくとは思いもよらないジョアンなのであった。

 

 

 追記

後日、為政はソフィアが劇団『アガサ』の訓練生になれたことを本人から知らされたのであった。

 

 

あとがき

前回の予告通りゲームの二年目に突入です。

単純に換算すると一年間を17章か……。

このペースだと完結するのに51章もかかることに?

まあさすがにそんなには延びないとは思いますが40章は確実に越えそう。

章じゃなくて話にした方が良かったかな?

まあとにかく頑張って更新するつもりですが。

 

次回は第十八章「ダナン攻防戦」です。

お楽しみに!

 

平成12年11月18日


 

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